悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた

nionea

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わりと周りも悪役とは思ってないみたい

45.まぁ、もう、皆さんお気付きでしょうが

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 登城三日目。
 やっぱりヤマビコ式挨拶で迎えられた。
(あ、これ、こういうものなのね…なの、かしら? いや、もしかして私の機嫌を損ねないようにとかそういうアレかな…やらなくていいよって、こっちから言った方が良いかな)
 理官の多くは家を継ぐ事のない貴族子弟だ。役所に勤めていれば生活に困りはしないが、できれば貴族らしく裕福に暮らしたい、そういう人間にとってファランは、この上ない結婚相手であった。
 貴族子弟でない理官であっても、一応貴族にあたるので、婿入りという形でならマーヴェラス家に入れる。ちなみに、正当な手順に則ると、全親族の承認を得る事が必要になるが、ことファランの場合、本人が了承すれば、それ即ち結婚の成立になるのだ。出来る事なら貴族になりたい平民の理官にも、この上ない結婚相手という訳だ。
 つまり、とにかく声をかけたい、という行動がヤマビコ式挨拶となって表れている。
(止めろっていうのは簡単だけど。それだと、不興をかった、みたいな勘違いされるかなぁ?)
 ファラン本人には微塵もその思いは届いていないが。
(まぁ週二回の事だし…いいか、別に。機械的っていうより、ちゃんと心を込めて挨拶してくれてるみたいだし。我が家だって帰ったら近くに居た人総出で挨拶してくれるもんね。だぶんこういうものなんだよね)
 局長室へ足を踏み入れる。
「では。私は前室に控えますので、鍵を、かけてくださいね?」
「はぁい」
 笑顔で念を押され、ファランは局長室に入ってすぐ鍵をかけた。
(遠くないとか思ってたけど、多分もう私はクライフさんに頭が上がらないな…)
 身の回りに頭の上がらない相手が多過ぎるのは、恵まれている証拠だ。そう思いながら制服に着替える。あとは、持ってきた茶葉の小瓶を三つ並べて、にんまりと笑って頷いた。
「よし!」
 いったん表に出て、鍵を開け、顔を出して着替え終わったので何かあれば入ってきてね、とクライフに声をかける。
「承りました」
 笑顔の返答に頷いて、再び作業空間に戻った。
 後は楽しいデータ分析祭りの開催である。
(やったんどー!)
 こうしてせっせとデータ分析祭りを開催し、昼休みになればマーヴェラス家の料理人が腕を振るった弁当を食べ、午後も再びデータ分析祭りに没頭したファランは、この日も一切部屋から出る事なく過ごした。前室にすら出ていない。
 そのため、気付かなかった。
 クライフが、アルフレッドのように、せっせと用事を作っては局長室を訪れる局員をさばいていた事を。
(あーあ、今日も今日とて誰も来ないからすっかり作業が進んだわ)
 熱中するあまり固まった肩を回しながら、ファランは扉の鍵をかけようと立ち上がる。
(あ、そういえば、結局会議ってどっちになったのかしら)
 訊いておこう、と扉を開けた。
「クライフさん、ぶか…レンデルさん?」
 部会って結局何日かしら、と言いかけた口を止めて、ファランはクライフと会話をしていたらしいケイトを見つめた。
(ついに局長室に来訪者が!)
 テンションが上がって、ぱっと笑顔になったファランだったが、ケイトの用事は既に済んでいた。
「どうぞ、ご要件を、私はこれで失礼いたしますので」
 一礼の後、笑顔で局長室前室を去っていく。
(ああ~お客様じゃなかった)
「いかがなさいました?」
 しょんぼりと肩を落としたが、クライフに話しかけられて、当初の目的を思い出す。
「あ、部会って、結局いつになったのかなって」
「それでしたら。丁度今レンデルさんが伝えに来てくださいました。月末だそうです」
「じゃあ、えっと、一週間後ね」
「はい」
(そうか…会議の日を伝えに来てくれただけかぁ)
 持ち込んだティーセットは、最大十二人まで対応可能なのだが、使う日は、夢のまた夢かもしれない。
 窓の向こうから、時報の鐘の音が聞こえた。
「もう終業ね」
(結局今日も、ただただひきこもってたな)
「そうですね」
「仕度してきます」
「解りました。お待ちしております」
 扉を閉めようと振り向いたところで、クライフが見ている事に気付いた。
「ちゃんと鍵はかけます」
「ふっ…すみませんっ、お願いします」
 そんな顔で見なくてもちゃんと学びましたよ、という思いを込めた不満顔のつもりだったが。
(笑われた…)
 前世でも今世でも既に成人済みだというのに幼稚な真似をしてしまった、と顔が赤くなる。慌てて扉を閉め、鍵をかけた。
「なによ…もう」
(笑う事ないじゃない。ちょっとふくれっ面したくらい。元のファランの方がよっぽど丸か………あ、クライフさん元の私知らないか。いや、でも別に笑う事ないじゃない。いや、謝ってはくれたけども。だって、あんな、子供心配するみたいな目で見るから、ちょっとムッとしたっていうか、だから、しょうがないっていうか、笑う事、や、まぁ、うん、謝ってくれたけど…子供っぽかったのは、私だけれども、だって子供扱いされたからっていうか、なんていうか…)
 せっせと着替えて、鍵を開け、扉の影からそーっと様子を伺う。
「?」
 どうしました、と書かれた微笑みで、クライフが見ている。
(………ここでブチブチ言ったら本当に子供の証。全然気にされてないやつだこれは)
「では。帰りましょうか」
 気分を変えるため、ぐっと背筋を伸ばして歩き出した。
「はい」
 クライフは、どことなく見守る親のような眼差しだ。
(何故かしら、歳下なのはそうなんだけど…なんか、すごく見守られてる気分…はっ! アルフレッドとかカトレアと同じ感じ!)
 確かに半人前の新米領主で、新人局長で、クライフには教えを乞うている立場だけれども、という悔しい思いで一度はジッと見つめてみたが。何の邪気も感じられない慈愛の眼差しを返されて、すごすごと視線を逸らす事になる。
(やっぱり、クライフさん、睫毛金色だわ…)
 関係ない事を考えて、気分を変えないと、恥ずかしさで赤くなった頬が冷める気がしなかった。
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