悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた

nionea

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アップを終えたからって、いきなり最高速度は出ないよ

56.一歩ずつ

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「今日は、何かあるのですか?」
 登城前にしては楽しそうな様子のファランに、ミモザが声をかけた。
 ファランは、よくぞ聞いてくれました、と言わんばかりの笑顔で応じる。
「今日は部会があるのよ」
「部会?」
「そう、月に一度の重要な会議なのよ」
「然様でございますか」
 では大変な日なのではないだろうか、と首を傾げるミモザに、笑顔を返して、ファランは意気揚々とマーヴェラス家を後にした。
(ようやく、私に仕事らしい仕事が!)
 そうした訳で朝からワクワクしながら登城し山野局に入ったファランは、ドレス姿で初めて足を踏み入れた会議室で、上座という名の一人外れた席に着席する。
(まぁ、席は仕方ない。私は一応重役だし)
 斜め後ろに置かれた椅子にはクライフが座っているので、何かあれば相談もできる。そもそも、全体の報告を聞く事が主目的なので、今までの勉強で何とかなっているはずではあるが。
(さぁ、どんと来い!)
 会議は、つつがなく開始され、既に半分の部門から報告を聞いた。
 年度始めの部会という事もあり、全体的に昨年度の実績報告だ。
 部屋に入った時は九部門しかないのに二十人近い人が居て、ファランは面食らったが、基本的に部門長と報告担当者という形であった。全体に報告担当者が若者なのは、場数を踏ませるためなのかな、とぼんやり思っている。
(本当に報告をひたすら聞いているだけなんだけど…これでいいのかな? 理解はできてるし、そもそも資料がちゃんとまとまってるから質問したい事も出てこないし、口を挟む余地ゼロなんだけど。重役会議なんて出席した事ないから解んないな。何かコメントするべきなのか、否か………言うにしてもここまで無言通しちゃったから最後にまとめて言った方が良いか)
 視線を提出資料と担当者の間で行き来させながら、大人しく報告を聞いていたファランは、最後の部門の資料になって、初めて声を上げてしまう。
「え?」
 水を打ったように、しんと室内が静まり返った。
(え?)
 そんなに大きな声を上げたつもりのなかったファランは、むしろその沈黙に驚く。
(まずい、これは、どうしよう。全然大した事じゃないのに物凄く注目されている!)
 今ファランが見たのは、農業部門がまとめた作付け種別の収穫高推移だ。その中で大豆が減っていたので、思わず声を上げてしまったのだ。何せ、ファランは大豆を様付けして呼びたいほどお世話になっているので。
(馬鹿なの? 私馬鹿なの? 何で声出しちゃったかなぁもう)
 報告をしていた担当者が、心持ち青褪めた顔をしている。
「あの、何か不備がございましたか?」
 担当者の横に居た部門長が質問を投げかけた。
 ファランは、慌てて笑みを浮かべ、否定する。
「いいえ。違います。ごめんなさい、少し意外に思って声が出てしまっただけで、資料や報告については何の不足も感じておりませんので。どうぞ、続けてください」
 再び報告は再開されたが、心持ち気まずい雰囲気が流れ続けた。
(やってしまったぁ…次回以降もずっとこんな感じになったらどうしよう)
 その後会議は終わりを迎え、ファランは会議室を後にする。片付けにざわつく室内を背に感じつつ、局長室へ戻ると、扉が閉まってすぐクライフを振り向いた。
「クライフさん!」
「はい」
 少し驚いたように目を見開く彼に詰め寄る。
「私が怒っていなかったと部門長と担当者の方にお伝えいただけませんか!」
 あの空気は全然誤魔化せていなかった。そう感じたファランは、フォローを頼むため、真剣である。
 クライフは、じっとその目を見返して、手元に持ってきていた資料を示した。
「意外との事でしたが、何をご覧になってそう思われたのですか」
「それは、作付けの事なのです」
「作付け?」
「大豆の収穫高が大幅に減っていて、グローリア領では、むしろ大豆は推奨しているので、それを意外に思ってしまって」
 思わず声が漏れたのだ。
(そう、ただ考えてみればグローリア領での大豆推奨策はお祖母様の存在あっての事で、本来この国ではあまり有用な食材ではないから、連作に難のある大豆の収穫高が落ちるのはおかしな事ではないのよ。当然のように料理に豆腐が存在していて、ダイエット中にお世話になりまくったから忘れていたけど)
 ミキの記憶をもとに豆腐を生み出す、というチートな事はしていない。マーヴェラス家にはトーリシア出身の祖母がもたらしたものがいくつかあり、豆腐もその一つだったのだ。豆腐を多用してアレンジ料理を提案しはしたが、そのものは元々あった。
 だから、忘れていた。マーヴェラス家の台所事情は、決して全貴族共通のそれではないのだと。
(大豆栽培もトーリシアから農業学者が一緒に来て広めたんだよね。結構大変だったってそういえば書いてあったよ領史まとめに)
 クライフが資料を確認して頷いている。
「なるほど。解りました。お伝えしておきます」
「良かった! お願いします!」
 自分が言えば逆効果を生み出すかもしれないので、身近な人間から伝えてもらえれば事実として伝わるだろう、と信じている。
(この方法でも圧力と受け止められたらもう我慢して気の重い部会を受け入れよう。私の行いが悪かったのだから)
 内心で懺悔のポーズをとりつつ、ファランは局長室へ向かいかけた。
「あの、グローリア領では、大豆はどのように利用するのですか?」
 が、クライフから問いかけられ、足を止める。
「ご覧になりますか?」
「え?」
「ちょうど、お昼ですし」
 珍しくきょとんとした顔で首を傾げるクライフを、ファランは笑顔で局長室へ招き入れた。
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