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アップを終えたからって、いきなり最高速度は出ないよ
57.歩くように
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「こちらが、マーヴェラス家秘伝の大豆料理です!」
言いながら、漆塗りの重箱、ただし一段だけを披露する。豆腐ハンバーグ田楽、白和え、油揚げと大豆の入った煮物、きな粉の練り菓子、そして玄米。彩りとしては少々切ないものがあるが、これでもかと大豆のオンパレードだ。ちなみに、いつもここまで大豆尽くしという訳ではない。今日はタイミングが良かっただけである。
「………」
驚かれるか、美味しそうですね、というような感想を期待していたのだが、クライフはファランの顔と料理を見て、困惑している。
(あ! もしかして、ぱっと見だと煮物しか大豆が使われてないように見えるからかな)
内容物について説明をしようと口を開きかけたが、クライフの困惑は違う所にあった。
「秘伝の料理を見せていただいて良ろしかったのですか?」
「…え?」
そういえば、重箱の蓋を開けながら言ったなぁそんな事、と考えてからファランは笑ってしまった。
「ごめんなさい。秘伝だなんて言ってしまったのですが、それほどではないんです。料理長がレシピは弟子にしか伝えないものだと言っていたので、つい。大豆の利用方法そのものは秘密でもなんでもありませんから」
「然様でしたか」
「もしよかったら、召し上がりませんか?」
「ですが、グローリア侯のご昼食では?」
「知っていただきたいですし。私にはお菓子もございますので。あ、食べ過ぎると怒られますので、侍女には内緒ですよ!」
慌てて付け足せば、再び微笑ましそうにされた。
(やっぱり、クライフさん見守りモードが装備されてる)
前世も一人っ子のファランは、少しだけ兄という存在がいたらこうかもしれないと妄想して、カトレアとクライフを並べ、美人姉兄だとにやついた。辛うじて、内心だけで。
「あ、料理の説明もしますけど、あと大豆の利用法でしたね」
グローリア領での大豆の利用法は、大きく三つだ。搾油。飼料。食用。そして、搾油と飼料は表裏一体であり、他領でもやられている。つまり、重要なのは、大豆の食用利用だ。
グローリア領、ひいてはトーリシアで異常発達している大豆の食用利用。
(まぁ、元日本人としては、まだまだありますよって話だけど)
大豆、豆乳、おから、豆腐、味噌、これらが主にグローリア領で食べられている大豆の形態だ。
ファランとしては、あと、もやし、枝豆、醤油辺りを狙っている。更に、納豆、あるいは、テンペも何とかできないかと考えてはいるのだが、菌ばかりはよく解らないのでまだ試していない。
(もしかしたらトーリシアに行けばテンペは作れるかもしれないんだけどね)
大豆の発酵食品が祖母存命中にはあったらしいのだが、一度絶えてしまってからは復活できていない。おそらく気候風土の問題で、菌が絶滅してしまったのではないかと考えている。その食品の記憶をアルフレッドが持っていたのだが、話を聞く限り臭くないとのことなので、ファランはテンペと判断したのだ。
「豆の状態であれば長く保存できますし、調理法によってはお肉の代替品にもなります。食材、調味料、飲料にも変わりますし、美味しいですよ」
領内での利用法を説明してから、昼食が大豆をどう使っているか話すと、クライフは感心して溜息を吐いた。
「確かに…美味ですね。これほど多用できるとは」
ちなみに、トーリシアとの国交があるためかこの国では箸を使える人間が多い。が、ファランは持ち込んだフォークを渡している。なんとなく、マイ箸を他人に使わせるのは抵抗があった。
「まぁ、必ずしもこの国の気候風土に合っているとは言い難いので、他領であまり作られていない事も納得はできるのですが」
グローリア領でも大豆作りが定着するまでには二十年近くかかっているし、広まるのにはそこから更に十五年以上をかけている。そして、前提条件として、大豆作りの専門家とも言うべきトーリシア出身の農業技術指導者が居た事も外せない。
「大変なご苦労があったのですね」
「祖父の代での事ですが。安定した収穫を得るまでが随分大変だったと、書き残されておりました」
当初想定されていた連作障害をクリアしても、何故か育成や味に不良が続き、土壌改良に想定外の時間と出費がかかった、とまだ若かりし祖父の肉筆で書かれていた。しかも、初めに定着したのはごく一部で、そこから領内に広めるのには方法も資金もかなり長期にわたって必要だったらしく。
『妻の喜ぶ顔が見たいが無理かもしれない』
などと走り書きもされていた。
(考えてみれば自分の奥さんが豆腐と味噌好きだから大豆農法を領内に定着させるって、物凄い私欲に走った行動だよね…いや、まぁ、私も大いに助かったし、領民の受け入れとしても好評だって聞くから良いのかもしれないけど)
ちなみに、領民の好評は、肉に代わるたんぱく源として領内に食文化が根付いたため、だと思われる。数字等で検証されている事ではなないのだが、資料と周囲への聞き取りの結果、そうだろうと判断した。
「領内には当時の技術指導者から薫陶を受けた人員がいまして。いまでも各地を回って品質検査や農法研究をしているので、品種改良も進んでいて。味も向上しているんですが、育て難さも改善されていて、ここ数年は作付け面積に変化はないのですが、収穫高は上がっているんです」
大豆紹介に興が乗ってきたファランは、持ち込んでいるグローリア領の資料を持って来て、更に大豆の素晴らしさをクライフに説明した。振り返るとやり過ぎだったと反省する思いだが、感心しながら耳を傾けてもらえると、つい止まらなくなったのだ。
言いながら、漆塗りの重箱、ただし一段だけを披露する。豆腐ハンバーグ田楽、白和え、油揚げと大豆の入った煮物、きな粉の練り菓子、そして玄米。彩りとしては少々切ないものがあるが、これでもかと大豆のオンパレードだ。ちなみに、いつもここまで大豆尽くしという訳ではない。今日はタイミングが良かっただけである。
「………」
驚かれるか、美味しそうですね、というような感想を期待していたのだが、クライフはファランの顔と料理を見て、困惑している。
(あ! もしかして、ぱっと見だと煮物しか大豆が使われてないように見えるからかな)
内容物について説明をしようと口を開きかけたが、クライフの困惑は違う所にあった。
「秘伝の料理を見せていただいて良ろしかったのですか?」
「…え?」
そういえば、重箱の蓋を開けながら言ったなぁそんな事、と考えてからファランは笑ってしまった。
「ごめんなさい。秘伝だなんて言ってしまったのですが、それほどではないんです。料理長がレシピは弟子にしか伝えないものだと言っていたので、つい。大豆の利用方法そのものは秘密でもなんでもありませんから」
「然様でしたか」
「もしよかったら、召し上がりませんか?」
「ですが、グローリア侯のご昼食では?」
「知っていただきたいですし。私にはお菓子もございますので。あ、食べ過ぎると怒られますので、侍女には内緒ですよ!」
慌てて付け足せば、再び微笑ましそうにされた。
(やっぱり、クライフさん見守りモードが装備されてる)
前世も一人っ子のファランは、少しだけ兄という存在がいたらこうかもしれないと妄想して、カトレアとクライフを並べ、美人姉兄だとにやついた。辛うじて、内心だけで。
「あ、料理の説明もしますけど、あと大豆の利用法でしたね」
グローリア領での大豆の利用法は、大きく三つだ。搾油。飼料。食用。そして、搾油と飼料は表裏一体であり、他領でもやられている。つまり、重要なのは、大豆の食用利用だ。
グローリア領、ひいてはトーリシアで異常発達している大豆の食用利用。
(まぁ、元日本人としては、まだまだありますよって話だけど)
大豆、豆乳、おから、豆腐、味噌、これらが主にグローリア領で食べられている大豆の形態だ。
ファランとしては、あと、もやし、枝豆、醤油辺りを狙っている。更に、納豆、あるいは、テンペも何とかできないかと考えてはいるのだが、菌ばかりはよく解らないのでまだ試していない。
(もしかしたらトーリシアに行けばテンペは作れるかもしれないんだけどね)
大豆の発酵食品が祖母存命中にはあったらしいのだが、一度絶えてしまってからは復活できていない。おそらく気候風土の問題で、菌が絶滅してしまったのではないかと考えている。その食品の記憶をアルフレッドが持っていたのだが、話を聞く限り臭くないとのことなので、ファランはテンペと判断したのだ。
「豆の状態であれば長く保存できますし、調理法によってはお肉の代替品にもなります。食材、調味料、飲料にも変わりますし、美味しいですよ」
領内での利用法を説明してから、昼食が大豆をどう使っているか話すと、クライフは感心して溜息を吐いた。
「確かに…美味ですね。これほど多用できるとは」
ちなみに、トーリシアとの国交があるためかこの国では箸を使える人間が多い。が、ファランは持ち込んだフォークを渡している。なんとなく、マイ箸を他人に使わせるのは抵抗があった。
「まぁ、必ずしもこの国の気候風土に合っているとは言い難いので、他領であまり作られていない事も納得はできるのですが」
グローリア領でも大豆作りが定着するまでには二十年近くかかっているし、広まるのにはそこから更に十五年以上をかけている。そして、前提条件として、大豆作りの専門家とも言うべきトーリシア出身の農業技術指導者が居た事も外せない。
「大変なご苦労があったのですね」
「祖父の代での事ですが。安定した収穫を得るまでが随分大変だったと、書き残されておりました」
当初想定されていた連作障害をクリアしても、何故か育成や味に不良が続き、土壌改良に想定外の時間と出費がかかった、とまだ若かりし祖父の肉筆で書かれていた。しかも、初めに定着したのはごく一部で、そこから領内に広めるのには方法も資金もかなり長期にわたって必要だったらしく。
『妻の喜ぶ顔が見たいが無理かもしれない』
などと走り書きもされていた。
(考えてみれば自分の奥さんが豆腐と味噌好きだから大豆農法を領内に定着させるって、物凄い私欲に走った行動だよね…いや、まぁ、私も大いに助かったし、領民の受け入れとしても好評だって聞くから良いのかもしれないけど)
ちなみに、領民の好評は、肉に代わるたんぱく源として領内に食文化が根付いたため、だと思われる。数字等で検証されている事ではなないのだが、資料と周囲への聞き取りの結果、そうだろうと判断した。
「領内には当時の技術指導者から薫陶を受けた人員がいまして。いまでも各地を回って品質検査や農法研究をしているので、品種改良も進んでいて。味も向上しているんですが、育て難さも改善されていて、ここ数年は作付け面積に変化はないのですが、収穫高は上がっているんです」
大豆紹介に興が乗ってきたファランは、持ち込んでいるグローリア領の資料を持って来て、更に大豆の素晴らしさをクライフに説明した。振り返るとやり過ぎだったと反省する思いだが、感心しながら耳を傾けてもらえると、つい止まらなくなったのだ。
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