悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた

nionea

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アップを終えたからって、いきなり最高速度は出ないよ

60.いきたい

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(私は大豆をこの国全土に広めてみせるわ!)
 謎のテンションで練り上げ、
(あ、駄目だこれ、何考えてこんな数字出したんだ…これもあり得ないでしょどんな人が買うのよ…)
 睡眠を挟んだ冷静な自分と、
「このようにされてはいかがですか?」
 クライフという客観的な視点からの指摘を受けて改善された事業計画、正確には、事業以外にも多くを含んでいるので、大豆をスイーツから普及しよう計画だろうか。
 それはかなりまとまった。
 上手くいけば、右肩下がりになってしまったマーヴェラス家の財産も再び右肩上がりになるだろう。
 ただし、この計画の成否は、ひとえにファランの今後の活動にかかっている。
(ベンチャー企業の社長さんテレビで見てた時すごいなって関心はしてたけど。まさか自分が同じような事する日が来るとは)
 今、ファランは、王家主催の舞踏会に出るための準備をしている。
 この舞踏会は毎年催されているものだ。迎夏祭、という夏の始まりと、送秋祭、という秋の終わりの二回開催されるそれは、特に招待状も発行されない全貴族が出席可能という開かれた舞踏会である。特に、迎夏祭は国外の賓客もほとんど出席しない内向きの会であり、王侯貴族の大切な交流の場だ。
(…結婚相手探しの方がまだ気楽だったかもしれない)
 未婚の男女にとっては相手探しの場である事は言うまでもない事実である。しかしながら、今回のファランにとっては単純にそういう場ではない。
(くっ…胃だか心臓だかが痛い気がする)
 ファランはこれから、迎夏祭で大豆スイーツの広告塔を努めねばならないのだ。
(予定外出費ゼロで大いに広く周知ができる場なんだから、しっかりしないと。ううぅうぅあぁああぁ歯がムズムズする。もうどうしよう。どうしよう。緊張するぅうう…)
 緊張で丸くなる背を、カトレアの手がそっと押した。
「とても良くお似合いでいらっしゃいますよ」
 精一杯綺麗に見えるように、あーでもないこーでもないとカトレアを筆頭とした侍女達と議論と仕立て直しをしながら三ヶ月かけて用意したドレスに、こちらも試行錯誤を繰り返したアクセサリーは、全く問題無い。化粧も、ファランの地肌の白さを活かして、ケバくなく、といって地味で埋没してしまう事もないように、研究を重ねた。
「うん」
 はっきり言って、鏡に映る姿は、ファラン史上最高に輝いている、と自信を持って言える。
(残るは、立ち居振る舞い…)
 礼や挨拶をする、歩く、立つ、座る、全ての動作を見られているものとして気合を込めて約五時間を乗り切らねばならない。更に、最大の難敵、それは、ダンスという存在だ。
(ラテン系の激しいダンスではないけど、なんか、ただくるくる回ってれば良いってものでも無いんだよね)
 前世テレビで見た競技ダンスのような激しさは一切無い。ゆったりとした三拍子の音楽に合わせて踊る円舞が主だ。貴族必須技能であるため、勿論ファランとて、ダンスを習っていた。が、残念ながら、習ってから十年ほど彼女はそのダンスを誰かと人前で踊った事がないのである。
 人前での初披露が、人生初の事業を賭けた大舞台となってしまった訳だ。
(クライフさんが付き合ってくれる事にはなったけど…)
 記憶の中で人前で踊った事がなかったものだから、ダンスというものがある事をすっかり忘れていた。そのため、あと五日で古い記憶を手繰り寄せて完璧に仕上げなくてはならなくなったのだ。
(ええい! 弱気になるな! 堂々と! 私は広告塔なんだぞ!)
 気合いを込めて再び鏡を見る。
 ベッドの天蓋に描かれた誰おまww状態の自画像も、ちょっと美化したのかな、くらいに見える仕上がりだ。
(いける! これはかなり上等な仕上がりだ! そうだ、やるんだ! カメリアさんも手伝ってくれるんだから!)
 自分で自分が綺麗になったなどという噂を流すのは、胡散臭い事この上ない。そのため、計画には出所がファランではない噂が必要だった。この、普通の貴族なら当たり前に行える風評活動がファランにとっては中々の難問だったのだが。幸いな事に、誕生日パーティ以降交流が生まれたカメリアが、この役を担ってくれる事になった。
(友達全員に広めるって言ってたけど。ファランに声をかけてくれるほどの良い子だもん。きっと友達も多いよね)
 それに、蹄鉄鑑賞会で一緒になったアルティナとマリアーナにも根回しはしている。カメリアに頼むほど気楽には言えず、新しく事業を始めようかと思っている、といった遠回しなものだったが、マリアーナからは具体的な助力も得られた。
(後は、舞踏会で広く人目に付いた上で、大豆を摂るようになってから調子が良いの、というような話を流す!)
 最後の駄目押しに気合を込めてから、アクセサリーを外し、ドレスも着替えて、ダンス練習のためにクライフが来てくれるのを待つ。
「お嬢様。クライフさんがいらっしゃいましたぁ」
 ニーアの声に緊張でじっとしていられず、うろうろしていた足を止める。
「解ったわ」
 ドレスも靴も本番用を汚したり壊したりしないよう着替えたが、なるべく形の似たものを着ている。これでちゃんと踊れれば、舞踏会でもなんとかなるだろう。それに、最悪本番は同伴のクライフと踊るだけで済むかもしれない。
 開いた扉から覗き込むと、クライフは椅子にはかけず、立って窓から外を見ていた。
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