悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた

nionea

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徐々にやっていきましょう

64.周りが

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「あの、本当に困るんです! 俺、まだ見習いで、ご主人様に取り次ぎなんて出来ないですから!」
「どなたでも良いんです! お取次ぎ下さる方に、お伝えください! グローリア侯爵閣下に、お願いしたい事があるのです!」
「そんな事言われても…」
 そっと、勝手口を開けて耳を澄ませば、痴情の縺れとは全く思えない会話が聞こえて来た。
(んん? 私への嘆願?)
 爪先立って扉の上の方にある覗き窓から、様子を確認する。
 女性は、メイズの足に縋り付いて懇願していた。
 卵を入れた籠を抱えて、女性を強引に振り切れないメイズは、必死に声を上げている。
 怒鳴ったり、叫んだり、というほどでもないのは、貴族屋敷に仕える者として教育された賜物だろうか。
(十四歳の少年の態度に感心している場合じゃない。あの人は私に用があるらしいし…)
 とはいえ、裏門から入り込んだと思われる誰かも解らない女性の前に颯爽と登場するほど、ファランの警戒心は薄くない。
 どうしたものかと思っていると、ちょいちょいとファランの肩をつついたニーアが、つついた指で自分を示してニコッと笑った。
「何事ですか?」
「ニーアさん!」
 勝手口から颯爽と登場したニーアは、メイズの足に縋っていた女性をちらっと一瞥する。
「厨房へ運ぶ途中でしょう? 急ぎなさい」
「はい!」
 ニーアの登場によって、メイズは自由の身となった。
「あ、あの…」
「まず。どうやってここまで入って来たのか、お伺いしましょうか」
 女性は、暗に不法侵入しただろう、と問いかけるニーアの言葉に、ぎゅっと自身のスカートの裾を握りしめる。
「卵売りの身分を騙って入り込んだ事は謝罪します。ですが、どうしても、グローリア侯爵閣下に、お願いしたい事があり…」
「嘆願が有れば身分を詐称しても良い、などという法はございません。寧ろ、聞いてもらいたいと望むなら正しく手順を踏むべきでは?」
「私は、平民です…手順を踏んでいては、間に合わなくなってしまう」
「間に合わない?」
「お願いです! グローリア侯爵閣下にお取次ぎ下さい! イカス様の! イカス様の処刑を思いとどまっていただきたいのです!」
「は?」
(は?)
 女性の言葉に、ニーアの言葉とファランの内心がシンクロした。
(あの人は何を言ってるの?)
 ツッコミどころは多かった、だが、女性とイカスの関係が、何より気になる。
 ファランは、勝手口の扉をノックして、ニーアの気を引いた。女性と幼女を視線で牽制しつつ扉へ近付いた彼女へ、とりあえず落ち着いて話せるよう室内へ案内するよう告げる。
「私は、カトレアと後から行くから、とにかく落ち着かせておいて」
「会うんですかぁ?」
「ええ、気になるし」
「………クライフさんも連れてきてください、男の人が居る方が牽制になりますぅ」
「解ったわ」
 その場をニーアに任せ、ファランはとりあえずダンス練習をしていた部屋に向かう。ちょうど、誰も居ない室内に首を捻るミモザの姿があった。
「あ、ご主人様」
「カトレアはどこかしら?」
「仕立室に居ります。三十分ほどで見立て終わると言ってました」
「そう。緊急の用が出来てしまったから、呼んで来てくれる? できれば、クライフさんも一緒に」
「え! 畏まりました! すぐに!」
 ミモザは精一杯の速足で仕立て室へ向かった。
(あ…下の応接室前に来てもらった方が良かったかな。でも、扉の前で話し合うのも変だし、いいか)
 カトレアとクライフを待っていたのだが、先にニーアがやって来た。
「ひとまずぅ、応接室に案内しましたぁ。落ち着かせるのは、フィエラの方が適任だと思ったのでぇ、置いてきましたぁ」
「ありがとう」
 フィエラというのは、新しく入った侍女の一人で、歳は既に不惑を越えているのだが、本人が、ブランクと先に居た侍女達のスキルが高い事を理由にはっきり後輩扱いしてくれと言っているため、ニーアは先輩面をいかんなく発揮している。
 間もなく、カトレアとクライフもやって来た。クライフは茶髪のまま、どころか、眼鏡も復活していた。
(あれ? 金髪の見立てをしてたのでは?)
 疑問は湧いたが、そんな事を深掘りしている場合ではないので、ひとまず室内に入って先ほどの女性が言っていた事を話す。
 クライフが、まず自分が一人で事情を聴いてきましょうかと手を上げてくれた。
 ファランとてお願いしますと言ってしまいたいところではあるのだが、叔父の事を丸投げするのは憚られる。なので、同席を依頼した。勉強会の際など、クライフが法令にも詳しい事は解っているのだ。そうした面から冷静に助言を賜りたいという訳である。
 こうして、カトレアとクライフを引き連れて、ファランは応接室へ向かった。
 フィエラが良い仕事をしてくれたようで、女性はすっかり落ち着いている。
 ファランが入室すると、目の前に置かれたお菓子の匂いを嗅ぐ事に夢中になっていた幼女を促して、頭を下げた。
「楽になさって」
 声をかけて対面の席に座る。
「どうぞ」
 女性がすっかり畏まっているので、お菓子をじっと見つめながらも手を出す事を我慢する幼女に向けて、そっと菓子器を押し出した。
 幼女は、笑顔でお菓子を手に取る。
 女性はそれを制止しようとするが、ファランは手を振って、注意を逸らした。
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