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第3章 影太くん前世にも出会う
若気の至り
しおりを挟む部屋の壁がぐにゃりと歪んで渦のような黒い空間から、白い大きなイタチ姿のコロモとコロモの頭に跨がったミョウが現れる。ぶかぶかの白衣姿のちびミョウだった。コロモの巨体で室内がギュウギュウになる。
「ようやく入れましたよ。スゥちゃんがなかなか覚醒しなくて焦りました。しかし影太君がスゥちゃんに挿入していたら危険だったかもしれませんねぇ。すでに何度も行なわれていたのかもしれませんが、先程の影太君は夢の効果もあってか、本格的に融合をはじめていましたので」
俺が……融合?
「夢の中でめをさますのって、むずかしーんだもん。えーたにギュッてさわれるし、このまま見てたいなって、おもっちゃった♡」
スゥがギュウギュウと俺を抱き締めていて、そういえばスゥにギュッとされているなと、そこでやっと気付く。嬉しくなって俺もスゥを抱き締め返した。くすぐったい羞恥心はあるのに、顔が熱くならない。ムズムズするいつもの感覚がないのが変な気分だ。スゥの体も柔らかくてツルッとしてて、お餅みたいな感触だった。
「影太君は《器》から離れた場所にいますので、そのような感触の情報で精一杯なのでしょう」
頭の中がぼんやり鈍くて、ミョウの話がなかなか入ってこない。この状態が普通じゃないことだけはわかる。
「えっと………ここはスゥの中なんですか?」
「はい、スゥちゃんの領域内です。影太君は意識を拡散させることで、スゥちゃんの精神領域に逃げ込んでいたようなのです。スゥちゃんの《魂》に隠れているのをやっと見つけました」
精神領域……? スゥの《魂》に……俺が隠れてたの?
「えーたのサイズ、すごくちっちゃいんだって。だからこの前おきたときに、ミョウがシルシをつけたの。それでもボクの中のどこにいるのかわからないから、ボクの夢にえーたをさそいこんだの。ここはえーたといっしょにつくった夢の中だよ♡」
スゥが俺のチンコをいじりながら笑顔で教えてくれる。そういえば俺たちは裸だった。いじられてるけど刺激をあまり感じないので、反応はしてない。ミョウがいるのにやめてよっていつもなら思うのに、今はスゥが無性に可愛くて、俺のチンコが握られててもどうでもいいと思ってしまう。
「その体はスゥちゃんと影太君が、お互いの情報で作り出している思念体です。スゥちゃんの領域内ですから、スゥちゃんは感覚などが現実に近いのでしょう。先ほどの『サイズ』というのはスゥちゃんの領域内でのお話です。スゥちゃんの《魂》は影太君の人格情報と並べてみますと、月とスッポン。天体と小さな生物ほどのスケールの差があります。今回の捜索作業は影太君がスゥちゃんの中にいるとわかったのは早かったのですが、そこからが厄介でしたねぇ。なんせ《魂》の領域です」
俺は自分の《器》に戻らないで、スゥの中に逃げていたの? 自分の意思で? 確かにここは心地がいいけど……
スゥを抱き寄せて頬を擦りつけた。スゥはくすぐったいとクスクス笑って喜んでいる。たまらん……♡
「影太君はスゥちゃんの《魂》と融合を試みていたようです」
「《魂》と融合? アチェの人格とじゃなく……スゥの《魂》と?」
スゥがまた俺をギュッと抱き締めて、再びキスをくれた。ギュッとできることが嬉しくて、やめられないみたいだ。そんなスゥが可愛いくて、ミョウの話がちっとも頭に入ってこない。複雑なことが考えられなくて、イチャイチャし続けてしまう。
「肉体での繋がりよりも、精神を繋げたいと考えたのでしょう。しかしスゥちゃんの《魂》は影太君には大きすぎます。大海に小さな角砂糖を投げ込むようなものです。影太君がスゥちゃんに溶け込むというのは自殺に等しい行為。それでもまだ影太君は、《器》を捨ててスゥちゃんの《魂》との融合を望みますか?」
俺に抱きつくスゥを見てぼんやり考える。不安げに見上げるスゥをそっと抱き寄せて目をつむった。アチェではなく、スゥとの融合……
大海に角砂糖を一粒溶かすみたいに、俺はスゥの《魂》に融合したら、薄く広がって消えちゃうのかな。でも、スゥに溶け込めたら俺は……
うっとり考えていた俺を、スゥが両手で押し離した。
「ボクはそんなのヤだよ?」
え……
きっぱりと拒否されてショックだった。俺と融合するの、スゥは嫌なの……? 俺の望むことを何でもしてくれるって言ったのに、受け入れてもらえないの?
「ごめんね、えーた。でもボク、えーたとは《器》でくっついてたい。だって、えーたにさわりたいもん。えーたとおしゃべりしてたい。だからボクの中にえーたをとかすなんてイヤ! そんなユーゴウ、ぜったいにイヤ!」
眉を寄せたスゥは、涙で瞳を揺らして睨んでいた。俺も泣きたくなる。だって、《器》はアチェが使えばいいと思う。もともとすべてがアチェのものだったし……
「俺の存在理由って精神的にスゥを愛すことだと思う。だから《魂》に融合して、スゥの最期まで《魂》の内側から愛せたらなって……」
そうだ。俺はきっとそう思ったんだ。肉体を繋げるのが苦手なら、精神に繋がればいいかなって……
「ソンザイリユーなんて、そんなのないもん!! えーたがかってにきめてるだけでしょ?! アチェもボクも、そんなのおねがいしてない!!」
金色の瞳に睨まれて、たじろいだ。何で……?
スゥの目は『逃げるな』と言っているようだった。でも、何から逃げているのかわからない。消えるに等しいと言っても融合だし。三人の関係をうまく続けるための、ひとつの選択だと思う。それに、心地いい場所に溶けたいと願うことの何が間違いなんだろう。俺がスゥに溶けても《器》にはアチェが残る。スゥは寂しくないよね? スゥに寄り添う《器》はちゃんとあるのに、何で拒否するの?
「えーたのバカッ!! さみしーにきまってるでしょ?! ユーゴウってふたりでするものじゃないの?! ボクにとけてキモチイの、えーただけだもん! そんなのムリヤリのエッチとおなじだもん! 今だってえーたがボクの中にいるっていわれても、きづけなかったのに……。えーたがきえたらボク、しあわせになれないのッ!!」
泣きながら怒鳴るスゥの言葉に、ぼんやりしていた俺の意識が目を覚ました。
「影太君はもう少し自分に自信を持ってください。貴方はアチェの方が《器》に相応しいと思っている。しかしそんなことはありません。アチェと貴方の存在を比べているのは影太君だけです。アチェはアチェで、影太君は影太君だと私は思います。お二人ともスゥちゃんには必要な人格です。そして誰も影太君がスゥちゃんに溶け込むことを望んでいません。影太君を突き動かすその使命感は、存在意義に対する不安からきていませんか? しかし貴方の存在はとても愛されていますよ? 少なくともご両親や私やマレ、元吉君、アチェも貴方が大好きなんです。溶けて消えてしまっていい存在ではない」
ミョウを乗せたコロモが体を揺すった。
「はい、コロモもですね。しかし人格と《魂》の融合は、そう簡単にできることなのでしょうかねぇ。私には影太君が望んでいることが、融合なのか消滅なのかわかりません。自暴自棄になってはいませんか? 時間はたっぷりあるというのに、なぜ今なんでしょうか。《器》に戻ってもう一度考えてみてください。たくさんの人を悲しませても、それは今しなければならないことなんですか?」
確実に融合できたわけじゃなかったのか……。自暴自棄……。そうするとこれは俺の………現実逃避?
《器》に戻れなくなった時から、俺の逃避ははじまっていたの? エッチが怖かったり、自分に自信がもてなくて、スゥの中に逃げ込んでいたの……? スゥの中で、ぬくぬく甘えていたということですか……?
「あまえていーんだよ、えーた♡ ボク、えーたにいっぱいあまえられたい。えーた、ボクとかくれんぼするの好きだったでしょ? どこにかくれててもボク、えーたを見つけてあげるね♡」
涙があふれてきて、スゥの肩に顔を埋めた。
スゥにいっぱい心配させて、探させて、俺はこんな方法で満たされようとしたの? アチェの存在がスゥの心を奪うことが嫌で、寂しくて、いじけていたの……?
周囲を散々困らせたことを思うと、恥ずかしくなった。戻ったら、謝らなきゃ……
「えーたはセノビしないで、ボクにもっといっぱいワガママいってね♡ ボク、えーたよりずっとお兄ちゃんだもん。だから、いっしょにあやまってあげる♡」
そう言ってスゥが、涙を唇で吸ってくれた。スゥの笑顔に胸の奥が温かくなる。逃げ込んだ先のスゥが一緒に謝るとか、よけいに恥ずかしいからやめて。
「ねぇ、ボクここでえーたとエッチしたい♡」
「え」
スゥが俺のチンコをムニムニといじった。ちょ……え……?
「スゥちゃんは影太君を連れ戻すために夢に来たんですよねぇ……。まぁでも、最後のひと押しに肉欲で攻めるのもいいかもしれません。アチェも準備が整ったそうですし」
終わったらここのドアを通って戻ってくださいと言って、ミョウは再び黒い渦からコロモと一緒に去ってしまった。とても事務的でした。
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