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 息を切らして僕のお家がある建物の転移板へ向かう。
 講習所からここまでの転移板はないから、自分の足で行くしかない。
 僕のお家があるこの白い円柱状の集合住宅も古代遺跡だ。

 ここは大陸で一番大きな都市、中立都市の特別区。
 都市の政策に参加したいろんな種族のツガイが、自分たちの子供を担保に暮らしている。
 僕の名前がナンバーネームなのはそのせいなんだ。
 都市が管理するための番号がそのまま名前として登録されていて、親がつけた名前は愛称になる。
 講習所に通う子供たちはみんな、都市政策の被験者だった。


「お母さん、白珠しらたまちゃん来てる?」

 帰ってすぐに台所にいたお母さんに聞いてみる。
 走って帰ったから息が荒い。
 ハァハァ肩を上下させてお母さんを見上げた。

「部屋で待っててくれてるわよ、こんなに遅くまで。良かったわねジューチ。
 ちゃんとキレイにしなさいよ? 真っ黒じゃないの」

 球蹴りで砂っぽくなった体を指摘されたけど、服の埃を手で払うだけにした。
 そのまま急いで走り出したところをお父さんに捕まって、殺菌効果のある光の柱で体を洗浄された。
 玄関の天井に嵌めてある石にそういう効果があって、通過すると殺菌を、一定時間そこに立ってると洗浄をしてくれるんだ。
 僕は水浴びが苦手だし、これで十分だよ。

 織物工場で働いてるお父さんがもう帰ってるから、白珠ちゃんは相当長い時間ひとりで僕を待ってるんだ。

「お父さん、もういいでしょ? はやく行かせてよ」
「夕食を用意していると伝えろ」

 お父さんはそう言って、ガージンの実を渡してくれた。
 前に白珠ちゃんが美味しいと気に入ってたやつだ。
 お母さんにもっとほしいと頼んだら、高いからダメって怒られたやつだ。

「やったぁ! ……お夕食の前に食べていいの?」
「日が暮れるまで待っていた子だぞ」

 これで白珠ちゃんのご機嫌を取れ、ということだった。
 つまり、白珠ちゃんは怒ってるの?

 ちょっと怖くなったけど、急いで僕の部屋に向かった。


 白珠ちゃんが僕のお家に欠かさず来るのには、一応理由がある。
 白珠ちゃんがお家の人とお引っ越しのご挨拶に来た日から、僕は白珠ちゃんに講習所で習った事を教えている。
 僕が宿題をしているのを面白そうに見ていたから、習った事を教えるようになって、それが今もずっと続いていた。
 年が足りないのか、白珠ちゃんはまだ講習所に通ってない。
 だから僕が教えてあげてるんだ。


 自分の部屋の前に立って耳をそばだてる。
 何も聞こえないから、そ~っとドアをちょこっとだけ開けて、隙間から中を覗いた。
 窓の横の机の椅子、いつもの定位置に白珠ちゃんの姿はない。

 そっと部屋に入る。
 この建物の中は天井が淡く光ってて、室内はいつも明るいんだ。
 クンクンと鼻がその場所に僕を導く。

 部屋の奥の石壁にあいた横穴が僕の寝台で、白珠ちゃんはとばりの向こうで眠っていた。
 僕の寝間着を握りしめてしゃぶっている。
 う……かわいい。

「白珠ちゃん、遅くなってごめんね」

 そっと肩を揺すって声をかけたけど、深く寝入ってるみたい。
 すぅすぅ寝息をたてている。
 何度か声をかけたけど、まったく起きる気配がない。

 そこで僕は、ずっと気になってることを確かめたくなった。
 お腹の『おヘソ』だ。

 この『おヘソ』というもの、ナンバーネームの子供にはないけど、お父さんとお母さんにはあったんだ。
 普段は体毛で隠れてて見えないからわからなかった。
 触らせてもらったら、小さな突起だった。
 白珠ちゃんのとはちょっと違うみたい。
 いつも服の上から触ってる白珠ちゃんの『おヘソ』は窪んでいるから、それがどんなものなのか見てみたかった。
 白珠ちゃんには体毛がないし、ちゃんと形が見えると思って。

 でも、勝手に見るのはいけないと思う。
 見せてって聞けば、見せてもらえるかもしれないけど、種族によっては恥ずかしい部位かもしれないし、聞くこと自体が変態かもしれないし……


 勝手に見るのは変態かも。


 その可能性に気付いたとき、僕はすでに白珠ちゃんの上着を捲っていた。


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