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#11.「ひとりの人間として愛している」
しおりを挟む「そうか。待ってろ」
青樹はもう一度、口移しでタケルに水を飲ませた。
そして、またしてもタケルは同じことをした。
青樹は拒まなかった。彼もまた、タケルを抱き寄せた。
息が続く限りの長い口づけは、互いの想いを雄弁に伝え合った。
最も懼れていた罰は下りなかったとタケルは心から安堵し、ずっと秘めて来た想いを打ち明けた。
「僕はあなたを、ひとりの人間として愛している」
「本気なのか?」
茫然としたように青樹が訊き返した。
「初めて逢った時から、ずっと。兄さん以外の人を好きになったこともない」
初めての出逢い以来、タケルにとって青樹こそが全世界だった。
小さな頃から、いつも青樹の背中を追いかけていた。追いついて、その背中に抱きついて安寧を得た。
そして、その度に青樹は向き直り、温かい笑みを浮かべて抱きしめてくれるのだった。そのしなやかな腕で。その深い懐に。
しかし、いつの頃からか、抱擁だけでは満たされなくなってしまった。
「それが本当なら、ロケットの写真の女子は何だ? ……今はそのロケット自体持ってないみたいだが」
青樹が真顔でそう尋ねた。
「ロケット……?」
はっとしてタケルは首に手をやった。だが、そこに指に触れるものはなかった。
「兄さん、中を見たの?」
「すまん。見た。おまえが風呂に入ってる間にな。見慣れない物だったし、悪いとは思ったが、どうしても気になって」
視線を逸らしながら青樹は指先で鼻を掻いていた。兄弟といえどもプライバシーは尊重すべきとする戒めよりは、好奇心には勝てなかったと言いたげだった。
「僕に直接訊いても良かったのに……。あれは同じクラスの女の子から貰ったんだ。クリスマスプレゼントとして」
「イニシャル入りのプラチナの特注品が、ただのクリスマスプレゼントのはずがないだろう」
「え?」
「ましてや写真まで入っていたとなると、かなりの思い入れがあるはずだ。しかも、おまえはそれをいつも身に着けていた。だから……俺はてっきり、おまえも写真の女子を好きなのだとばかり思っていた。それで、兄として、弟の恋愛を静かに見守らなければならないと自分に強く言い聞かせて、俺は……自分の本当の気持ちを抑えた。いつかは、こんな日が来ると覚悟していたはずだ、と」
「兄さんの本当の気持ち、って?」
青樹の本当の気持ちこそ、タケルは何よりも知りたかった。
「俺の気持ちなんて、今はどうでもいい。それより」
青樹は語気を強めて続けた。
「ロケットをくれた女子の想いは、どうなるんだ? おまえは、どうするんだ?」
「貴水さんの想い……」
タケルはプレゼントを受け取った場面を思い返した。
『……すごく、応援してるから』
『すっ、素敵な、恋人ができるように、応援してる』
はにかみながらそう言った貴水千鶴の顔が浮かんだ。
表情豊かな可愛らしい顔が、そう言えばいつにも増して紅潮していた。
今にして思う。あれは彼女なりの告白だったのかと。だとしたら、自分はあまりにも鈍感だった。
「僕は、無神経だった」
「そう思うのなら、男としてけじめをつけろ。俺たちのことは、その後だ」
「そうだね」
タケルは、冬休み前に交換したばかりの携帯電話の番号に発信した。
そして、貴水千鶴は初恋の終わりを知ることになったのだった。
つづく
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