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#20.教育係
しおりを挟む「少しも気が晴れないわ」
「それは困りました。仇を廃人にしても、なお物足りないと?」
貴水千鶴の言葉を受けて、そう応えた男は、全く困った顔などしていなかった。それどころか、むしろ涼しげな、そしてどこか満足そうな表情を浮かべていた。
男の名前は、謝名堂司。三十二歳。2m、100㎏の巨躯を仕立ての良い英国製のダークスーツで固めている。
貴水グループにおける彼の仕事は多岐に亘るが、現在は主に千鶴の教育係を務めていた。曾祖父の代から貴水家に仕える生え抜きである。貴水章三の懐刀であった父・謝名堂誠の引退に伴い、赴任先のアメリカから呼び戻された。
「これから、どうしたらいい? 謝名堂先生」
「そのくらい、ご自分でお考えなさい」
突き放した言い方ながらも、その目には自分が仕える若い主への称賛の念が込められていた。
謝名堂司は、この若き主、貴水千鶴に大いなる頼もしさと底知れぬ可能性を見い出していた。聖母のような深い慈愛と、どこまでも非情に徹することのできる激しい修羅の心。それは、貴水家の血筋の者が代々受け継ぐ覇者の性だった。
陽に当たる部分が大きければ大きいほど、影もまた同様に大きい。その強大な光と闇を、千鶴は矛盾なく併せ持つことのできる計り知れない器の人物であることを謝名堂は見抜いていたのだ。
「考えてもわからないから訊いてるの!」
「新たな目標を見つければよろしいでしょう」
「どんな?」
「それこそ、ご自分で見つけなさい」
つづく
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