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第1章 少女の夢
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夢と聞いて、あなたは何を思うだろうか。楽しい?それとも、怖い?僕は、不思議だな、と思う。例えば夢に、見た記憶のない景色や、人が現れたことはないだろうか。それは、幼い頃の記憶かもしれないし、あるいは未来の夢かもしれない。でも、僕の知っている夢は、もっともっと、壮大なものだった。
僕は、昔よく同じ夢を見ていた。正しく言うと、夢で同じ人物を見ていた、というところだろうか。夢の内容は、時によって異なる。空を飛んでいる夢、芸能人に会う夢、はたまた地震の夢…。時折、いや、けっこうな頻度で彼女は姿を表すのだ。会ったことも、見たこともないのだが、夢の中にだけ現れる。ある時は毎日。しばらくすると突然現れなくなり、忘れた頃にまた姿を表す。そんなことを繰り返していた。しかし、ある時から、彼女は僕の夢に現れなくなった。6歳ぐらいだっただろうか。夢は見ているのに、彼女は現れないのだ。いつしか、彼女は僕の記憶から薄れていった。
僕は今年の春、中学2年生になった。小学校、中学校と親の転勤があり、転校の多かった僕は、中学生にして初めて、自分の持ち家というものを持った。
「鳴海って、けっこう都会じゃん。」
前に住んでいた東京よりは見劣りする場所もあるが、海もあり、山もあり、自然に恵まれた大きな街であることは間違いない。これからどんな生活が始まるのだろうか。僕は楽しみで仕方がなかった。
「悠人、今日からはここが俺たちの家だぞ。」
「ここが、僕の家…。」
僕は父親と二人暮らしをしている。母親は僕がまだ幼い頃、病気で亡くなった。東京では狭いアパートに住んでいたが、少しでも広い家がいいだろうという父の提案で、中心部の鳴海から少し離れた「夢の台」という新興住宅地の一軒家に住むことを選んだ。二人で暮らすには少し大きすぎるほどの家だ。
これから僕が通う、夢の台第三中学校は、家から歩いて10分くらいの所にある。どこもかしこもきれいに整備された道路ばかりで、道に迷いそうだ。
「この桜の木のある曲がり角で左に曲がるんだ。」
チリリーン……
「……ん?」
ふいにどこからともなく風鈴のような音が聞こえてきた。
チリリーン……
この音は一体何の音なのだろうか? あたりを見渡してみても、特に変わった様子はない。
チリリーン……
また聞こえる。でも、やはり周りを見て
「うわぁ!」
僕は思わず声をあげてしまった。目の前にいたのは、黒くて長い髪に、透き通るような白い肌の真っ白なワンピースを着た女の子だった。その子はこちらを向いて微笑んでいた。年齢はおそらく、中学生、いや、高校生ぐらいだろうか。とてもかわいい子だと思った。そして、なぜかその子を見た瞬間、僕の胸の奥がチクリとした。
「君は?」
そう尋ねると、その子は笑顔のまま口を開いた。
「私はね……。」
あれっ、続きが聞き取れない。もう一度聞こうとすると、急に視界がぼやけてきてしまい、うまく見えない。だんだん意識も遠のいて…
「おい!大丈夫か!?」
「えっ……」
気づくと僕は、家のソファーに横になっていた。
「ごめん……。ちょっと寝てたみたい。」
「もうすぐ晩飯の時間だから、早く着替えろよ。」
父親は、それだけ言うと台所に戻って行った
「うん……。分かった。ありがとう。」
さっきの出来事は何だったんだろう。きっと疲れているに違いない。今日は早めに寝よう。僕は部屋に戻り、制服を脱いだ。
「いただきます。」
今日のメニューはカレーライスだ。父親の作る料理はどれも美味しい。特に
「うまい!!やっぱりお父さんの作ったご飯が一番だよ。」
「ははは、ありがとな。ところで、学校の雰囲気はどうだ?楽しめそうか?」
「うん、まあ普通かな。」
「そうか。」
さっきの出来事が気になって仕方ない。あれはなんだったんだろうか。白いワンピースのあの女の子も、どこかで見たことあるような気がする。あのことで頭がいっぱいなので、とりあえず普通、とでも言っておいた。
「よし、食べ終わったら食器洗っとくから、お前は先に風呂入っちゃいな。」
「はーい。」
僕はお言葉に甘えて、一番風呂を頂いた。湯船に浸かっていると、つい考え事をしてしまう。あの子は誰なのか、なぜ僕の夢に出てくるのか、そもそも本当にいるのかどうかすら分からない。僕は不思議な気分のまま、一日を終えた。
僕は、昔よく同じ夢を見ていた。正しく言うと、夢で同じ人物を見ていた、というところだろうか。夢の内容は、時によって異なる。空を飛んでいる夢、芸能人に会う夢、はたまた地震の夢…。時折、いや、けっこうな頻度で彼女は姿を表すのだ。会ったことも、見たこともないのだが、夢の中にだけ現れる。ある時は毎日。しばらくすると突然現れなくなり、忘れた頃にまた姿を表す。そんなことを繰り返していた。しかし、ある時から、彼女は僕の夢に現れなくなった。6歳ぐらいだっただろうか。夢は見ているのに、彼女は現れないのだ。いつしか、彼女は僕の記憶から薄れていった。
僕は今年の春、中学2年生になった。小学校、中学校と親の転勤があり、転校の多かった僕は、中学生にして初めて、自分の持ち家というものを持った。
「鳴海って、けっこう都会じゃん。」
前に住んでいた東京よりは見劣りする場所もあるが、海もあり、山もあり、自然に恵まれた大きな街であることは間違いない。これからどんな生活が始まるのだろうか。僕は楽しみで仕方がなかった。
「悠人、今日からはここが俺たちの家だぞ。」
「ここが、僕の家…。」
僕は父親と二人暮らしをしている。母親は僕がまだ幼い頃、病気で亡くなった。東京では狭いアパートに住んでいたが、少しでも広い家がいいだろうという父の提案で、中心部の鳴海から少し離れた「夢の台」という新興住宅地の一軒家に住むことを選んだ。二人で暮らすには少し大きすぎるほどの家だ。
これから僕が通う、夢の台第三中学校は、家から歩いて10分くらいの所にある。どこもかしこもきれいに整備された道路ばかりで、道に迷いそうだ。
「この桜の木のある曲がり角で左に曲がるんだ。」
チリリーン……
「……ん?」
ふいにどこからともなく風鈴のような音が聞こえてきた。
チリリーン……
この音は一体何の音なのだろうか? あたりを見渡してみても、特に変わった様子はない。
チリリーン……
また聞こえる。でも、やはり周りを見て
「うわぁ!」
僕は思わず声をあげてしまった。目の前にいたのは、黒くて長い髪に、透き通るような白い肌の真っ白なワンピースを着た女の子だった。その子はこちらを向いて微笑んでいた。年齢はおそらく、中学生、いや、高校生ぐらいだろうか。とてもかわいい子だと思った。そして、なぜかその子を見た瞬間、僕の胸の奥がチクリとした。
「君は?」
そう尋ねると、その子は笑顔のまま口を開いた。
「私はね……。」
あれっ、続きが聞き取れない。もう一度聞こうとすると、急に視界がぼやけてきてしまい、うまく見えない。だんだん意識も遠のいて…
「おい!大丈夫か!?」
「えっ……」
気づくと僕は、家のソファーに横になっていた。
「ごめん……。ちょっと寝てたみたい。」
「もうすぐ晩飯の時間だから、早く着替えろよ。」
父親は、それだけ言うと台所に戻って行った
「うん……。分かった。ありがとう。」
さっきの出来事は何だったんだろう。きっと疲れているに違いない。今日は早めに寝よう。僕は部屋に戻り、制服を脱いだ。
「いただきます。」
今日のメニューはカレーライスだ。父親の作る料理はどれも美味しい。特に
「うまい!!やっぱりお父さんの作ったご飯が一番だよ。」
「ははは、ありがとな。ところで、学校の雰囲気はどうだ?楽しめそうか?」
「うん、まあ普通かな。」
「そうか。」
さっきの出来事が気になって仕方ない。あれはなんだったんだろうか。白いワンピースのあの女の子も、どこかで見たことあるような気がする。あのことで頭がいっぱいなので、とりあえず普通、とでも言っておいた。
「よし、食べ終わったら食器洗っとくから、お前は先に風呂入っちゃいな。」
「はーい。」
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