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第5章 ショッピングモールにて
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翌日の朝。僕は約束の時間より早く、夢の台駅へと来ていた。昨日、寝るまでに何度も時計を確認してしまったので、早めに起きてしまっていたのだ。時刻はまだ9時20分。待ち合わせの時刻まであと40分もある。しばらく待っていると、平沢が現れた。
「よぉ!早いな!お前が一番乗りだよ。」
彼はそう言って笑った。どうやら、他のみんなはまだ来てないようだった。平沢は僕に話しかけてくる。
「そういえば、長嶋は桜井さんと仲いいのか?」
「まあ、それなりには話したりしてるよ。」
「へぇ……。なんか意外だな。」
「何が?」
「いや、普通はあんまり話さないもんかなって思ってたからさ……。」
「どうして?」
「いや……まあいいや。」
平沢は歯切れの悪い返事をすると、黙ってしまった。僕はこれ以上聞いても無駄だと思い、質問をやめることにした。それから、僕達は何も話すことなく、黙々と待っていた。
10分ぐらいして、平沢が誘ったであろうメンバーたち5、6人が到着した。その中には中野の姿もあった。
「おはよう!」
平沢はそう言うと、みんなの方へ歩いて行った。僕も彼に続いた。すると、平沢は他の人たちに聞こえないように小さな声で僕に言った。
「なぁ……。」
「どうした?」
「桜井さんはどうだった?」
「えっ?」
「いや、今日来るって聞いたからさ、何人か女子も誘っておいたんだよ。」
「さすが平沢!まあ、時間に遅れては来ないんじゃない?」
「そうだよな。」
平沢はそう言うと、他のメンバーたちの輪に入っていった。その後も何人か合流してきたが、桜井さんの姿はなかった。僕も桜井さんが来るのを楽しみにしながら、平沢たちに混じって話し始めた。
9時55分ごろになって、桜井さんが夢の台駅に到着した。
「ごめん!待った?」
桜井さんはそう言うと、走ってこちらへ向かってきた。僕は平沢が彼女に話しかける前に口を開いた。
「全然!まだ時間前だし、気にしないで!」
「そう……良かった……。」
桜井さんはホッとした表情を浮かべると、僕の隣に立った。僕は平沢の方を見る。彼は桜井さんをまじまじと見つめていた。その視線に気づいた桜井さんは、少し恥ずかしそうにしている。すると、平沢が桜井さんに声をかけた。
「あの……桜井さん。」
「はい……。」
「俺、平沢大河って言います。やっぱり……めっちゃ可愛いですね!」
「えっ…?あ、ありがとう…」
桜井さんは戸惑いながらも笑顔で答えてくれた。すると、そのやりとりを見ていた周りのメンバーが笑いながら口々に話し出す。
「おい!いきなりナンパかよ!」
「やるねぇ~」
平沢は周りから冷やかされると、慌てて弁解した。
「いやいや、違うって!」
僕はその様子を見て、思わず笑みがこぼれる。すると、桜井さんは僕の方を見て言った。
「なんだか、楽しい一日になりそう!」
「うん!」
僕は笑顔で返した。
「よし、みんな揃ったことだし、行こう!」
「レッツゴー!」
ちょうど改札をくぐると、鳴海行きの急行電車が接近してきていたところだった。僕たちはすぐに電車に乗り込んだ。
僕たちが向かっているのは、鳴海国際空港の手前、りんくう鳴浜にある大きなショッピングモールだ。最近できたばかりで、とても人気があるらしい。僕も行ってみたかったのだが、なかなか機会がなく、ずっと行けていなかった。今回は平沢の誘いに乗って良かったと思っている。
夢の台を出発した急行電車は、北区の中心駅、北区役所前に止まると、川之江、堀田区役所前と停車し、乗り換え駅の堀田に止まる。目的地である、りんくう鳴浜駅は、堀田で空港線に乗り換えが必要だ。
僕達はしばらく談笑していたが、電車のアナウンスを聞くと、乗り換え駅の堀田が近いことを知り、降りる準備を始めた。
「まもなく堀田、堀田です。空港線は、お乗り換えです。鳴野台、りんくう鳴浜、鳴海国際空港方面へは、一つ上の階、3階の5番線、6番線へお越しください。本日も鳴海鉄道をご利用いただきまして、ありがとうございました。」
「着いたみたいだな。」
「意外と早かったな!」
平沢はそう言うと、立ち上がり、ドアの方へと向かおうとした。すると、平沢の隣に座っていた女子生徒が声をかけた。
「平沢君、一緒に降りよう?」
「えっ?ああ……。」
平沢はそう言うと、僕の方をチラッと見たが、すぐに視線をそらすと、その女の子と一緒に電車を降りた。僕はその様子を黙って見ていたが、桜井さんが話しかけてきたことで我に帰った。
「どうしたの?」
「いや……なんでもない……。」
僕はそう言うと、荷物を持って立ち上がった。桜井さんは不思議そうな顔をしていた。僕達はそのまま3階のホームに上がり、空港線の快速電車を待った。
「平沢君のこと、気になってるの?」
桜井さんはそう尋ねると、いたずらっぽく笑った。僕は慌てて否定する。
「いやいやいやいや、違うから!別にあいつのことなんか全然気にならないし!」
「そうかな?」
「そうだよ!それよりさ……」
「まもなく、5番乗り場に、快速、鳴海国際空港第3ターミナル行きが到着します。」
僕は話題を変えようとしたが、ちょうどその時、僕達が乗る予定の快速電車が到着してしまった。桜井さんはクスクス笑いながら言う。
「続きは後で聞かせてもらうね。」
「……」
僕は諦めて快速電車に乗った。
快速電車は混んでいた。土曜日の朝だというのに、いかにもアウトレットに行くのであろう客がいるのがわかる。僕達は車両の真ん中あたりで並んで座った。車内には香水の香りが立ち込めている。桜井さんの方に目を向けてみると、彼女は少し苦しそうにしていた。僕は心配になり、声をかける。
「大丈夫?」
「うん……ちょっと酔っちゃって……。」
桜井さんはそう言うと、窓の外を見つめた。僕は自分のバッグの中に酔い止めがあったことを思い出し、彼女に渡すことにした。
「これ、よかったら使って。」
「えっ?でも……悪いから……。」
桜井さんは遠慮がちに言ったが、僕は気にせず続ける。
「いいから、いいから!」
「本当に……良いの……?」
彼女は申し訳なさそうに尋ねた。僕は笑顔で答えた。
「うん。」
「ありがと……!」
桜井さんはそう言って微笑むと、僕の差し出した薬を飲んだ。しばらくすると、桜井さんの顔色が少しずつ良くなっていった。
「……もう大丈夫……ありがとう……。」
桜井さんは小さな声で呟くと、僕を見てニコッと笑った。僕は彼女の顔を見ると、なんだか恥ずかしくなり、目線を逸らしてしまった。それから僕達は一言も話さず、ただ流れる景色を眺めていた。
快速電車は堀田を出ると、途中数駅に止まり、15分ほどでりんくう鳴浜に到着した。僕達は電車から降りると、目の前に広がる光景に驚いた。
僕は目の前に広がる光景に圧倒されていた。そこには大きなショッピングモールがある。その大きさは東京や大阪にあるショッピングモールにも引けを取らないほどの大きさだった。僕達がしばらく立ち止まって見ていると、平沢が言った。
「すげぇな……。こんな大きいショッピングモール初めて見たぜ……。」
「ほんとだな……。」
僕達が感心して、ショッピングモールを見ていると、桜井さんが僕達に呼びかけた。
「とりあえず中入ろー!」
僕達がショッピングモールの中に入ると、まず目に入ったのがたくさんの洋服屋だった。
「うっひゃ~!服いっぱいあるなぁ……。」
平沢はそう言うと、目を輝かせている。すると、桜井さんが平沢に声をかける。
「ねえ!これとか似合うんじゃない?」
「えっ!?あ、いや……。」
平沢は照れくさそうに答えた。
「じゃあ、俺、これ買ってくるわ。」
平沢はそう言うと、店内の洋服売り場へ歩いて行った。
「じゃあ、私たちも見てくるから、ちょっと待ってて!」
桜井さんもそう言うと、平沢の後を追って行った。僕と中野は2人でその場に取り残されてしまった。中野が僕に話しかけてくる。
「桜井さんと平沢くんって仲良いのかな?」
「どうだろうな……?」
僕がそう言うと、中野は僕に聞いてきた。
「桜井さんって、長嶋くんから見てどんな感じ?」
「え?どう思うか?」
「うん。」
「なんか、不思議な子だよね。可愛いし、優しいんだけど、少し不思議なんだよな。」
「不思議?」
「うん……。なんか、こう……上手く言えないけど、存在感がないっていうか……。」
「あ、それ分かるかも……。」
「だろ?」
「うん……。」
「どうした?」
「いや……何でもないよ……。」
僕がそう聞くと、彼は言葉を濁して返事をしてきた。僕は少し違和感を感じたが、あまり気にしないことにした。すると、桜井さんが僕達の方に向かってきた。
「ごめん!遅くなっちゃった!」
「大丈夫だよ。」
「そう?良かった……。」
桜井さんはそう言うと、僕の隣に立った。すると、桜井さんは僕に話しかけてきた。
「ねぇ、このあとどこ行く?」
「そうだな……。」
僕は考えるふりをして答えた。本当はどこに行こうかなんて決めていない。僕が悩んでいると、桜井さんが口を開いた。
「ねぇ!フードコート行かない?きっとお昼時は混むだろうし、」
「いいね!」
僕はそう言うと、桜井さんと一緒に歩き出した。
5分ほど歩くと、フードコートに到着した。平沢も後からやってきた。彼は両手に大きな袋を持っている。
「待たせて悪い!」
彼は申し訳なさそうに謝ると、席に着いた。僕達は大きなテーブルを10人で囲むように座った。
「いやいや、全然!」
僕は笑顔で答える。桜井さんは少し心配そうにして言った。
「平沢くん……荷物多いね……持とうか……?」
「いや、これは自分で持つ!」
彼は力強く答えた。桜井さんは少し驚いた様子だったが、笑顔で答えた。
「そっか……。」
平沢は少し気恥ずかしくなったのか、話題を変えた。
「えっと……俺達、何食べる?」
「俺、ラーメン食べたい!」
「俺もそれ!」
「俺はカレー!」
平沢に続いて、他の男子たちが次々に自分の食べたいものを口にした。桜井さんはみんなの意見を聞いている。すると、平沢が桜井さんの方に視線を向けて言った。
「桜井さんは?何が食べたい?」
「私は……おうどんとかにしようかな!」
桜井さんは笑顔で言った。
「よし、みんな決まったみたいだし、注文しに行くか!」
僕達はそれぞれ好きなメニューを頼むことにした。僕はオムライス、平沢は大盛りのラーメン、桜井さんはうどんを頼んでいた。
僕達はしばらくの間、談笑しながら食事をした。昼食を終えると、僕らはショッピングモール内をゆっくりと見て回った。色んなお店があり、どれも魅力的だった。雑貨屋さんでアクセサリーを見たり、服屋で洋服を見て回ったりした。一通り見終わると、今度はグループで分かれて行きたい店を回る時間にしようという話になり、女子の数人と、中野と男子の数人、僕と桜井さんと平沢で回ることになった。
桜井さんはワンピースを試着したりして楽しんでいて、平沢は雑貨屋を主に回っていたが、僕は特に欲しいものもなく、正直疲れてきていた。しかし、せっかく来たのだからと思い直し、再び店内を回ることにした。桜井さんはそんな僕の様子を察したのか、僕に声をかける。
「疲れちゃった?」
「うん……まあね……。」
僕は苦笑を浮かべると、桜井さんはニコッと笑ってこう言った。
「平沢くん、雑貨屋さん見てるみたいだし、休憩しよっか!」
僕達は近くにあるベンチで休むことにした。しばらく休んでいると、突然桜井さんが僕の名前を呼んだ。
「ねぇ、長嶋君。」
「ん?」
「私の夢の話、覚えてる?」
「ああ、昨日の。」
「私ね、夢の中でいつも誰かと話してるの。」
「どんな夢?」
「それがね……思い出せないの……。」
彼女はそう言いながら悲しげな表情をした。
「夢って、起きたら忘れるものじゃない?」
「そうなんだけどね……時々、何か大切なことを夢で見ているような気がするの。」
「大切なこと?」
「そう……とても大切な……。」
彼女はそう言って俯いた。僕がなんとなく彼女の頭を撫でようとすると、桜井さんは僕が伸ばした手を優しく握って、僕の瞳をじっと見つめた。僕はドキッとして思わず手を引っ込める。桜井さんはクスッと笑うと、僕の手を握ったまま続けた。
「私ね、夢の中の大切な人に会いたいの。」
桜井さんはそう言って僕の手を強く握りしめた。僕はそんな彼女に対して何も言えなかった。すると、遠くの方で平沢の姿が見えた。彼はこちらに近づいてくると、桜井さんの手を振りほどいて立ち上がらせた。
「桜井さん、似合いそうなバッグ見つけたんだ。行こうぜ!」
「えっ?あっ!ちょ、ちょっと!」
桜井さんは戸惑っていたが、平沢はそんな彼女を強引に引っ張っていった。
僕は二人を見送ると、一人でショッピングモール内を歩いていた。すると、どこからか声をかけられた。
「あれれー?長嶋じゃん!」
声の主の方を振り返ると、そこには見知った顔があった。小学校時代の同級生の田中だ。彼は僕の前まで来るとニヤリとした顔で言った。
「久しぶりだな!」
「ああ……そうだな……。」
僕はぎこちない返事をする。田中とは小学校の頃、東京で同じ学校だった。田中も転勤が多かったので、一緒にいた期間は短かったが、いつも僕をからかってくる、嫌いなタイプの奴だった。僕が黙っていると、田中は続けて言う。
「お前、今何やってんの?」
「普通に中学行ってるよ。」
「へぇ……。まさかこんなところで会うとはな。」
田中は興味無さげにそう言った。僕はこれ以上会話が続くのが嫌だったので、適当に別れを告げようとした。
「じゃあ、俺帰るから。」
「おい!待てよ!」
僕は帰ろうとしたが、呼び止められてしまった。僕は仕方なく振り返る。
「……なんだよ?」
「久しぶりに会ったんだからさ、どっかに遊びに行かねえ?」
田中は馴れ馴れしくそう言うと、下卑な笑いを浮かべた。僕は嫌悪感を覚えながらも、どう断ろうか考えていた時、後ろの方で声が聞こえた。
「ねえ!長嶋君!」
声の主は桜井さんだった。桜井さんは駆け足で僕達のところまでやって来ると、息を整えながら言う。
「今から東のステージでライブがあるんだって!みんな待ってるよ?」
「えっ?いや……」
僕は言葉に詰まる。すると、桜井さんは僕と田中の間に割って入った。
「ほら!行くよ!」桜井さんはそう言うと、僕の腕を掴んで歩き出した。僕は困惑しながらも、桜井さんに引かれるように歩き出す。僕達が去ろうとすると、田中が声をかけてきた。
「待ってくれ!」
僕は無視しようとしたが、桜井さんに促され、渋々振り返る。
「……なに?」
「いや……なんでもない……。」
田中はそう答えると、そのまま黙ってしまった。桜井さんは満足そうに微笑むと、僕を連れてステージに向かった。僕が連れていかれたのは、ショッピングモールの東側にある特設会場のような場所だった。中に入ると、すでにみんなは観覧席に座っていた。僕が席に着くと同時に、司会者らしき人がマイクを持って出てきた。
「さあさあ!皆さんお待ちかね!本日のライブは『スターダスト・ドリーム』のみなさんです!」
観客は歓声を上げた。僕はよくわからないままに周りの人達と一緒に拍手をしていた。
「では早速、一曲目お願いします!曲名は、『恋の花占い』!」
曲が始まると、僕達は歌に合わせて体を揺らし始めた。桜井さんの歌声はとても透き通っていて綺麗で、僕は聴き入っていた。ふと、桜井さんの横顔を見ると、彼女は楽しそうに歌っている。
「恋ってなんだろう♪」
桜井さんはそう歌いながら僕を見た。僕は驚いて目を逸らす。僕は動揺していたが、桜井さんは気にせず続ける。
「あなたは私が好き?それとも……」
「えっと…そ、その…」
僕はドキドキしながら桜井さんを見つめていた。桜井さんはそんな僕を見て、悪戯っぽく笑うと、最後にこう言った。
「……夢と現実は繋がってる。」
その瞬間、急に頭がくらくらしてきて、不意に聞いたことのある声がした。僕は驚いて、その方向を見る。そこにいたのは、あの夢の彼女だった。
「よぉ!早いな!お前が一番乗りだよ。」
彼はそう言って笑った。どうやら、他のみんなはまだ来てないようだった。平沢は僕に話しかけてくる。
「そういえば、長嶋は桜井さんと仲いいのか?」
「まあ、それなりには話したりしてるよ。」
「へぇ……。なんか意外だな。」
「何が?」
「いや、普通はあんまり話さないもんかなって思ってたからさ……。」
「どうして?」
「いや……まあいいや。」
平沢は歯切れの悪い返事をすると、黙ってしまった。僕はこれ以上聞いても無駄だと思い、質問をやめることにした。それから、僕達は何も話すことなく、黙々と待っていた。
10分ぐらいして、平沢が誘ったであろうメンバーたち5、6人が到着した。その中には中野の姿もあった。
「おはよう!」
平沢はそう言うと、みんなの方へ歩いて行った。僕も彼に続いた。すると、平沢は他の人たちに聞こえないように小さな声で僕に言った。
「なぁ……。」
「どうした?」
「桜井さんはどうだった?」
「えっ?」
「いや、今日来るって聞いたからさ、何人か女子も誘っておいたんだよ。」
「さすが平沢!まあ、時間に遅れては来ないんじゃない?」
「そうだよな。」
平沢はそう言うと、他のメンバーたちの輪に入っていった。その後も何人か合流してきたが、桜井さんの姿はなかった。僕も桜井さんが来るのを楽しみにしながら、平沢たちに混じって話し始めた。
9時55分ごろになって、桜井さんが夢の台駅に到着した。
「ごめん!待った?」
桜井さんはそう言うと、走ってこちらへ向かってきた。僕は平沢が彼女に話しかける前に口を開いた。
「全然!まだ時間前だし、気にしないで!」
「そう……良かった……。」
桜井さんはホッとした表情を浮かべると、僕の隣に立った。僕は平沢の方を見る。彼は桜井さんをまじまじと見つめていた。その視線に気づいた桜井さんは、少し恥ずかしそうにしている。すると、平沢が桜井さんに声をかけた。
「あの……桜井さん。」
「はい……。」
「俺、平沢大河って言います。やっぱり……めっちゃ可愛いですね!」
「えっ…?あ、ありがとう…」
桜井さんは戸惑いながらも笑顔で答えてくれた。すると、そのやりとりを見ていた周りのメンバーが笑いながら口々に話し出す。
「おい!いきなりナンパかよ!」
「やるねぇ~」
平沢は周りから冷やかされると、慌てて弁解した。
「いやいや、違うって!」
僕はその様子を見て、思わず笑みがこぼれる。すると、桜井さんは僕の方を見て言った。
「なんだか、楽しい一日になりそう!」
「うん!」
僕は笑顔で返した。
「よし、みんな揃ったことだし、行こう!」
「レッツゴー!」
ちょうど改札をくぐると、鳴海行きの急行電車が接近してきていたところだった。僕たちはすぐに電車に乗り込んだ。
僕たちが向かっているのは、鳴海国際空港の手前、りんくう鳴浜にある大きなショッピングモールだ。最近できたばかりで、とても人気があるらしい。僕も行ってみたかったのだが、なかなか機会がなく、ずっと行けていなかった。今回は平沢の誘いに乗って良かったと思っている。
夢の台を出発した急行電車は、北区の中心駅、北区役所前に止まると、川之江、堀田区役所前と停車し、乗り換え駅の堀田に止まる。目的地である、りんくう鳴浜駅は、堀田で空港線に乗り換えが必要だ。
僕達はしばらく談笑していたが、電車のアナウンスを聞くと、乗り換え駅の堀田が近いことを知り、降りる準備を始めた。
「まもなく堀田、堀田です。空港線は、お乗り換えです。鳴野台、りんくう鳴浜、鳴海国際空港方面へは、一つ上の階、3階の5番線、6番線へお越しください。本日も鳴海鉄道をご利用いただきまして、ありがとうございました。」
「着いたみたいだな。」
「意外と早かったな!」
平沢はそう言うと、立ち上がり、ドアの方へと向かおうとした。すると、平沢の隣に座っていた女子生徒が声をかけた。
「平沢君、一緒に降りよう?」
「えっ?ああ……。」
平沢はそう言うと、僕の方をチラッと見たが、すぐに視線をそらすと、その女の子と一緒に電車を降りた。僕はその様子を黙って見ていたが、桜井さんが話しかけてきたことで我に帰った。
「どうしたの?」
「いや……なんでもない……。」
僕はそう言うと、荷物を持って立ち上がった。桜井さんは不思議そうな顔をしていた。僕達はそのまま3階のホームに上がり、空港線の快速電車を待った。
「平沢君のこと、気になってるの?」
桜井さんはそう尋ねると、いたずらっぽく笑った。僕は慌てて否定する。
「いやいやいやいや、違うから!別にあいつのことなんか全然気にならないし!」
「そうかな?」
「そうだよ!それよりさ……」
「まもなく、5番乗り場に、快速、鳴海国際空港第3ターミナル行きが到着します。」
僕は話題を変えようとしたが、ちょうどその時、僕達が乗る予定の快速電車が到着してしまった。桜井さんはクスクス笑いながら言う。
「続きは後で聞かせてもらうね。」
「……」
僕は諦めて快速電車に乗った。
快速電車は混んでいた。土曜日の朝だというのに、いかにもアウトレットに行くのであろう客がいるのがわかる。僕達は車両の真ん中あたりで並んで座った。車内には香水の香りが立ち込めている。桜井さんの方に目を向けてみると、彼女は少し苦しそうにしていた。僕は心配になり、声をかける。
「大丈夫?」
「うん……ちょっと酔っちゃって……。」
桜井さんはそう言うと、窓の外を見つめた。僕は自分のバッグの中に酔い止めがあったことを思い出し、彼女に渡すことにした。
「これ、よかったら使って。」
「えっ?でも……悪いから……。」
桜井さんは遠慮がちに言ったが、僕は気にせず続ける。
「いいから、いいから!」
「本当に……良いの……?」
彼女は申し訳なさそうに尋ねた。僕は笑顔で答えた。
「うん。」
「ありがと……!」
桜井さんはそう言って微笑むと、僕の差し出した薬を飲んだ。しばらくすると、桜井さんの顔色が少しずつ良くなっていった。
「……もう大丈夫……ありがとう……。」
桜井さんは小さな声で呟くと、僕を見てニコッと笑った。僕は彼女の顔を見ると、なんだか恥ずかしくなり、目線を逸らしてしまった。それから僕達は一言も話さず、ただ流れる景色を眺めていた。
快速電車は堀田を出ると、途中数駅に止まり、15分ほどでりんくう鳴浜に到着した。僕達は電車から降りると、目の前に広がる光景に驚いた。
僕は目の前に広がる光景に圧倒されていた。そこには大きなショッピングモールがある。その大きさは東京や大阪にあるショッピングモールにも引けを取らないほどの大きさだった。僕達がしばらく立ち止まって見ていると、平沢が言った。
「すげぇな……。こんな大きいショッピングモール初めて見たぜ……。」
「ほんとだな……。」
僕達が感心して、ショッピングモールを見ていると、桜井さんが僕達に呼びかけた。
「とりあえず中入ろー!」
僕達がショッピングモールの中に入ると、まず目に入ったのがたくさんの洋服屋だった。
「うっひゃ~!服いっぱいあるなぁ……。」
平沢はそう言うと、目を輝かせている。すると、桜井さんが平沢に声をかける。
「ねえ!これとか似合うんじゃない?」
「えっ!?あ、いや……。」
平沢は照れくさそうに答えた。
「じゃあ、俺、これ買ってくるわ。」
平沢はそう言うと、店内の洋服売り場へ歩いて行った。
「じゃあ、私たちも見てくるから、ちょっと待ってて!」
桜井さんもそう言うと、平沢の後を追って行った。僕と中野は2人でその場に取り残されてしまった。中野が僕に話しかけてくる。
「桜井さんと平沢くんって仲良いのかな?」
「どうだろうな……?」
僕がそう言うと、中野は僕に聞いてきた。
「桜井さんって、長嶋くんから見てどんな感じ?」
「え?どう思うか?」
「うん。」
「なんか、不思議な子だよね。可愛いし、優しいんだけど、少し不思議なんだよな。」
「不思議?」
「うん……。なんか、こう……上手く言えないけど、存在感がないっていうか……。」
「あ、それ分かるかも……。」
「だろ?」
「うん……。」
「どうした?」
「いや……何でもないよ……。」
僕がそう聞くと、彼は言葉を濁して返事をしてきた。僕は少し違和感を感じたが、あまり気にしないことにした。すると、桜井さんが僕達の方に向かってきた。
「ごめん!遅くなっちゃった!」
「大丈夫だよ。」
「そう?良かった……。」
桜井さんはそう言うと、僕の隣に立った。すると、桜井さんは僕に話しかけてきた。
「ねぇ、このあとどこ行く?」
「そうだな……。」
僕は考えるふりをして答えた。本当はどこに行こうかなんて決めていない。僕が悩んでいると、桜井さんが口を開いた。
「ねぇ!フードコート行かない?きっとお昼時は混むだろうし、」
「いいね!」
僕はそう言うと、桜井さんと一緒に歩き出した。
5分ほど歩くと、フードコートに到着した。平沢も後からやってきた。彼は両手に大きな袋を持っている。
「待たせて悪い!」
彼は申し訳なさそうに謝ると、席に着いた。僕達は大きなテーブルを10人で囲むように座った。
「いやいや、全然!」
僕は笑顔で答える。桜井さんは少し心配そうにして言った。
「平沢くん……荷物多いね……持とうか……?」
「いや、これは自分で持つ!」
彼は力強く答えた。桜井さんは少し驚いた様子だったが、笑顔で答えた。
「そっか……。」
平沢は少し気恥ずかしくなったのか、話題を変えた。
「えっと……俺達、何食べる?」
「俺、ラーメン食べたい!」
「俺もそれ!」
「俺はカレー!」
平沢に続いて、他の男子たちが次々に自分の食べたいものを口にした。桜井さんはみんなの意見を聞いている。すると、平沢が桜井さんの方に視線を向けて言った。
「桜井さんは?何が食べたい?」
「私は……おうどんとかにしようかな!」
桜井さんは笑顔で言った。
「よし、みんな決まったみたいだし、注文しに行くか!」
僕達はそれぞれ好きなメニューを頼むことにした。僕はオムライス、平沢は大盛りのラーメン、桜井さんはうどんを頼んでいた。
僕達はしばらくの間、談笑しながら食事をした。昼食を終えると、僕らはショッピングモール内をゆっくりと見て回った。色んなお店があり、どれも魅力的だった。雑貨屋さんでアクセサリーを見たり、服屋で洋服を見て回ったりした。一通り見終わると、今度はグループで分かれて行きたい店を回る時間にしようという話になり、女子の数人と、中野と男子の数人、僕と桜井さんと平沢で回ることになった。
桜井さんはワンピースを試着したりして楽しんでいて、平沢は雑貨屋を主に回っていたが、僕は特に欲しいものもなく、正直疲れてきていた。しかし、せっかく来たのだからと思い直し、再び店内を回ることにした。桜井さんはそんな僕の様子を察したのか、僕に声をかける。
「疲れちゃった?」
「うん……まあね……。」
僕は苦笑を浮かべると、桜井さんはニコッと笑ってこう言った。
「平沢くん、雑貨屋さん見てるみたいだし、休憩しよっか!」
僕達は近くにあるベンチで休むことにした。しばらく休んでいると、突然桜井さんが僕の名前を呼んだ。
「ねぇ、長嶋君。」
「ん?」
「私の夢の話、覚えてる?」
「ああ、昨日の。」
「私ね、夢の中でいつも誰かと話してるの。」
「どんな夢?」
「それがね……思い出せないの……。」
彼女はそう言いながら悲しげな表情をした。
「夢って、起きたら忘れるものじゃない?」
「そうなんだけどね……時々、何か大切なことを夢で見ているような気がするの。」
「大切なこと?」
「そう……とても大切な……。」
彼女はそう言って俯いた。僕がなんとなく彼女の頭を撫でようとすると、桜井さんは僕が伸ばした手を優しく握って、僕の瞳をじっと見つめた。僕はドキッとして思わず手を引っ込める。桜井さんはクスッと笑うと、僕の手を握ったまま続けた。
「私ね、夢の中の大切な人に会いたいの。」
桜井さんはそう言って僕の手を強く握りしめた。僕はそんな彼女に対して何も言えなかった。すると、遠くの方で平沢の姿が見えた。彼はこちらに近づいてくると、桜井さんの手を振りほどいて立ち上がらせた。
「桜井さん、似合いそうなバッグ見つけたんだ。行こうぜ!」
「えっ?あっ!ちょ、ちょっと!」
桜井さんは戸惑っていたが、平沢はそんな彼女を強引に引っ張っていった。
僕は二人を見送ると、一人でショッピングモール内を歩いていた。すると、どこからか声をかけられた。
「あれれー?長嶋じゃん!」
声の主の方を振り返ると、そこには見知った顔があった。小学校時代の同級生の田中だ。彼は僕の前まで来るとニヤリとした顔で言った。
「久しぶりだな!」
「ああ……そうだな……。」
僕はぎこちない返事をする。田中とは小学校の頃、東京で同じ学校だった。田中も転勤が多かったので、一緒にいた期間は短かったが、いつも僕をからかってくる、嫌いなタイプの奴だった。僕が黙っていると、田中は続けて言う。
「お前、今何やってんの?」
「普通に中学行ってるよ。」
「へぇ……。まさかこんなところで会うとはな。」
田中は興味無さげにそう言った。僕はこれ以上会話が続くのが嫌だったので、適当に別れを告げようとした。
「じゃあ、俺帰るから。」
「おい!待てよ!」
僕は帰ろうとしたが、呼び止められてしまった。僕は仕方なく振り返る。
「……なんだよ?」
「久しぶりに会ったんだからさ、どっかに遊びに行かねえ?」
田中は馴れ馴れしくそう言うと、下卑な笑いを浮かべた。僕は嫌悪感を覚えながらも、どう断ろうか考えていた時、後ろの方で声が聞こえた。
「ねえ!長嶋君!」
声の主は桜井さんだった。桜井さんは駆け足で僕達のところまでやって来ると、息を整えながら言う。
「今から東のステージでライブがあるんだって!みんな待ってるよ?」
「えっ?いや……」
僕は言葉に詰まる。すると、桜井さんは僕と田中の間に割って入った。
「ほら!行くよ!」桜井さんはそう言うと、僕の腕を掴んで歩き出した。僕は困惑しながらも、桜井さんに引かれるように歩き出す。僕達が去ろうとすると、田中が声をかけてきた。
「待ってくれ!」
僕は無視しようとしたが、桜井さんに促され、渋々振り返る。
「……なに?」
「いや……なんでもない……。」
田中はそう答えると、そのまま黙ってしまった。桜井さんは満足そうに微笑むと、僕を連れてステージに向かった。僕が連れていかれたのは、ショッピングモールの東側にある特設会場のような場所だった。中に入ると、すでにみんなは観覧席に座っていた。僕が席に着くと同時に、司会者らしき人がマイクを持って出てきた。
「さあさあ!皆さんお待ちかね!本日のライブは『スターダスト・ドリーム』のみなさんです!」
観客は歓声を上げた。僕はよくわからないままに周りの人達と一緒に拍手をしていた。
「では早速、一曲目お願いします!曲名は、『恋の花占い』!」
曲が始まると、僕達は歌に合わせて体を揺らし始めた。桜井さんの歌声はとても透き通っていて綺麗で、僕は聴き入っていた。ふと、桜井さんの横顔を見ると、彼女は楽しそうに歌っている。
「恋ってなんだろう♪」
桜井さんはそう歌いながら僕を見た。僕は驚いて目を逸らす。僕は動揺していたが、桜井さんは気にせず続ける。
「あなたは私が好き?それとも……」
「えっと…そ、その…」
僕はドキドキしながら桜井さんを見つめていた。桜井さんはそんな僕を見て、悪戯っぽく笑うと、最後にこう言った。
「……夢と現実は繋がってる。」
その瞬間、急に頭がくらくらしてきて、不意に聞いたことのある声がした。僕は驚いて、その方向を見る。そこにいたのは、あの夢の彼女だった。
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