若い聖女が現れたから私はお役御免！？それならこっちから婚約破棄します！ ～今更私の力に気づいて戻ってきてと言ってももう遅いです～

現れた精霊

どうして私はまたこの場所に来ているのだろう。
湖を見つめながら物思いにふける。
あれから、時間がある度に私は一人で裏の森へと向かい、湖をしばらく
眺めてから家に帰る。という事を何度も繰り返していた。
もちろん、エミリアやルークには内緒だ、二人にに言えば心配をかけてしまうだろう。
「今日も何もなかった……か」
はぁ、と大きめの溜息を吐き立ち上がると湖に背を向ける。
そして、家に帰ろうと歩き出そうとした瞬間……私は何かに引っ張られるかのようにその場に座り込んでしまった。
「いたっ、一体何が……」
キョロキョロと辺りを見回すが、何かがいる気配は感じない。
その代わりに、そよそよと優しい風が頬を撫でてくる。
そして、その風に乗って夢で聞いた声と同じ声が私の耳に届いた。
声の主を探すように私は視線を動かすが、やはり何も見当たらない。
でも、確かに声は聞こえている。
「ねぇ！あなた私の夢に出てきた子でしょう？お願い姿を見せて」
私のその問いに答えるように、風が優しく私の頬を撫でる。
そして、その風は湖の方へと流れて行き……湖の水面がキラキラと輝き始めた。
私はその光景に目を奪われていると、湖から光が溢れ出し辺りを包み込んだ。
あまりの眩しさに思わず目を閉じてしまう。
暫くして光が収まり目を開けるとそこには、小さな妖精の様な生き物の姿があった。
「あなた……は……」
その瞬間、私の意識は途切れ気が付いた時には。自室のベッドの上にいた。
あれ？私いつの間にベッドで……と、働かない頭で考えているとコンコンと扉をノックする音が聞こえてくる。
そして、扉が開かれお兄様が部屋に入って来た。
「お兄様……？あの、私……」
「町の中でルカが倒れてるって連絡が入ったから、急いで帰って来たんだよ。
体調はもう平気？どこか痛いとか無い？」
お兄様はそう言って私の傍に近寄り、心配そうに私の顔を覗き込んできた。
そんなお兄様に私は小さく頷く。
「少し貧血を起こしただけで……今は平気です」
私の言葉に、お兄様は安堵の息を零すと私の頭を優しく撫でてくれる。
その優しい手つきに、思わず頬が緩んでしまう。
「まだ顔色が良くないし……もう少し休みなさい」
「はい、ありがとうございます」
「うん、何かあったら俺を呼ぶんだよ」
そう言ってお兄様は部屋から出て行った。
お兄様に、本当の事は言えない……だからこれでいいんだ。
でも、森で見たあの子……知っている気がするのに何も思い出せない
それが、とても悔しくて悲しいと思ってしまう。
私は一体あの子とどこで会ったのだろうか？ 思い出そうとする度に、頭痛がひどくなっていく、まるでそれ以上は思い出して欲しくないと言われているかのように。
「一体何が邪魔をしているの……？」
胸元をぎゅっと握りしめ、窓の外を眺める。
窓の外はもう夕日が沈み、空は暗くなっていた。
また明日あの森へ行こう、そうしたら何か分かるかもしれないから。
それに、明日は沙羅達と約束をしていた日、あの二人がいれば何か変わるかも
しれない……
そんな事を思いながら深い眠りに落ちていったのだった。
明日こそ思い出せると信じて。