若い聖女が現れたから私はお役御免！？それならこっちから婚約破棄します！ ～今更私の力に気づいて戻ってきてと言ってももう遅いです～

現れたトモダチ

「む……る……？」
『そう！やっとムルの事を思い出してくれたんだね、ルカ』
ムルと呼ばれた精霊は、嬉しそうに私の周りを飛び回る。
そして、お友達をこんな目に合わせてしまってごめんなさい、と謝る
それに私は、わざとやった訳では無いのでしょう？と問いかければ、ムルは悲しそうな表情で頷いた。
そして、私は眠っている沙羅とフィリスの方に視線を向ける。
『それでね、あのね！』
「ごめんなさい、ムルの事を確かに思い出したけれど、思い出せたのは名前
だけなの……ごめんなさい」
私の言葉にムルは驚いた様な表情を浮かべ、それホント？と何回も私に問いかけてくる。
それに私は嘘なんてつかないと、しっかりムルの目を見ながら答えた。
すると、ムルは嬉しそうな表情を浮かべながらそっか……と寂し気に微笑む。
そして、ゆっくりと沙羅とフィリスの方へ近づいていく。
『二人もごめんね、今元気にしてあげるから……』
「ムル……」
ムルが目を閉じ、力を集中させると、森の木々がざわめき揺れ始める。
すると、二人の体が淡く輝きだし、その光が二人を包み込み
そして、暫くすると二人がゆっくりと目を開けた。
「あれ……私……って！そうだ！ルカ、フィリス大丈夫？！」
「はい、私は大丈夫ですが…………」
『おはよう二人共、ムルのせいでごめんね？』
「むる…………ってえぇ！？ムル！？」
沙羅はムルの姿を見つけると、この場から飛び上がる勢いで驚きの声を上げた。
フィリスも最初は驚いた表情をしていたが、すぐに冷静さを取り戻してムルを見つめる。
そして、何かを確信したかのように小さく頷いた。
「ルカを呼んでいた人はムルの事だったのですね」
「えぇ……でも、ムルの名前は思い出せるのに、それ以外の事を何も思い出せないの
沢山遊んで、助けてもらった筈なのにその思い出が何一つ思い出せない……」
私の言葉に、ムルが悲し気な表情を浮かべる。
そして、何も思い出せないの？と私に問いかけた。
私はそれに静かに頷く事しか出来ない。
するとムルは、ふわりと宙に浮き私の瞳を見つめて来た。
その真剣な眼差しに思わず息を吞む。
『じゃあルカがムルの事ちゃんと思い出すまで沢山遊ぼう！』
「え？沢山遊ぶって……」
『そのままの意味だよ！そうすれば何か思い出すかもでしょ？』
ムルは、いいアイデアだ～なんて言いながら、嬉しそうにふわふわ飛び回る。
確かに、ムルの言う通り一緒に過ごしていれば、何か思い出す為のヒントが得られる
かもしれない。
「そうね、それは凄く楽しそう。ねぇ？二人も一緒に遊びましょう？」
「え、でも今日の勉強は…………」
「今日くらいは……いいでしょ？」
そう言って笑いかければ、沙羅は仕方ないなと笑いながら答えてくれた。
そして、私達は湖のほとりで遊んだり、森を探索したりして遊びつくした。
日が暮れ始めて来た頃、そろそろ帰りましょう？と私が声をかけると、ムルは寂しそうな表情を浮かべながら私の服の裾を掴んだ。
そして、私をじっと見つめる。
「もちろんムルも一緒にね？」
『ルカ……！！』
ムルは嬉しそうに私に抱き着いてきた。
そんなムルの頭を優しく撫でながら、私達は帰路についたのだった。