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14章 エミリエンヌ嬢を捜索せよ
6 恥ずかしい……
しおりを挟むレネたちは来客用の部屋に案内され、夕食の後にアンドレイの部屋へと呼ばれていた。
「えっ……じゃあ、バルトロメイは団長さんの実の息子なんだ!?」
「初めて出会った時から、団長にそっくりな奴だなって思ってたんだよ。こっから先は、ごちゃごちゃしててどこから話していいかわかんないから、かいつまんで話すよ」
リンブルク伯爵と先代のバルチーク伯爵は親友同士だったと聞いていた。
だからバルトロメイの護衛対象だったレオポルトともアンドレイは面識があるだろうが、その名前を出したら自分が拉致監禁されていたことまで喋らなければならないので、やめておく。
それにバルチーク伯爵家の醜聞を広めてはいけない。
「こいつがリーパに入団してきて、養子のオレと実の息子でまた色々あって……」
「後継者問題みたいなものか?」
簡潔なデニスの言葉に、それが言いたかったのだとレネは頷く。
「そうです。決闘騒ぎになってオレが勝ったから、これ以上ゴタゴタしないためにけじめをつけた感じです」
二人の問題はもっと違う要素が絡んでいたが、表面上はさっきデニスが言ったように、後継問題という言葉一つで片付く。
「——おい、違うだろ」
とつぜん異を唱えたバルトロメイに、一斉に視線が集中した。
嫌な予感しかせず、レネは焦りまくった。
その顔を見て、事情を知っているヴィートだけがニヤニヤ笑っていたことまでは気付かない。
(いらんこと言うなよ、言うなよっ!!)
「レネに全てを捧げたいと思ったから、剣を捧げた。それ以外の理由はない。デニスさん、騎士が剣を捧げるとはそういうことでしょう?」
どこか挑戦的な表情で、バルトロメイがデニスを見た。
どうもさっきから、デニスとバルトロメイが互いを意識しあっているような気がして仕方ない。
それもなんというか……あまり友好的ではない方向で。
「俺は、ずっと命を狙われていたアンドレイをこの命に代えても守りたいという純粋な気持ちしか持ったことがないからな……君の動機には違うものが混じっているので、全てを理解しかねる」
年長者でもあり、騎士経験も長いデニスが含みのある言い方をする。
この二人も型通りではない主従関係で、デニスは主であるアンドレイの前だろうが優雅に足を組んで座っていた。
プラチナブロンドに褐色の肌、それに淡い空色の瞳という派手な組み合わせは、そこにいだけでも存在感がある。
デニスは、バルトロメイが剣を捧げた動機に不純なところでもあると言いたげだ。
見方を変えれば、レネが主として相応しくないと言われている様にもとれる。
アンドレイとデニスは貴族階級の生まれだ。
レネは本物の主従をまえに、平民である自分が騎士を従えているのがおこがましく感じる。
この豪華絢爛な屋敷に来て、貴族とは何たるかを見せつけられ、ずっと気後れしていた状態だったので尚更だ。
「レネ、胸を張れ。なぜお前が恥じる? 俺はお前さえいれば全て完結させられる。二心を持つ者とは違う」
「二心?」
レネは思わず声に出す。
「あれ? それってもしかしてデニスのこと言ってる?」
「おいアンドレイ……あの男の言葉なんか真に受けるな」
主の発言に、今度はデニスが焦りだす。
「デニスの主として君に伝えておく。デニスが持っているもう一つの心は僕の意思でもある。主が認めているのだからそれは二心とは言わないんだよ」
挑発的な表情を浮かべるバルトロメイは、普通の人物だったら誰もが畏縮するほど威圧感がある。
しかしそれをものともせず、アンドレイはバルトロメイを牽制する。
それも飼い犬同士の喧嘩を仲裁するような飼い主の目をして。
身体に流れる血がそうさせるのか、あんなに子どもっぽかったアンドレイが大人びた顔を見せる。
もしかしたら、これが上に立つ者としての品格なのかもしれない。
その姿は、父であるリンブルク伯爵を彷彿とさせる。
そもそもどうして、バルトロメイとデニスは険悪な雰囲気になっているのだろうか。
二心についてなにか言い合っているようだが、レネにはなんのことだかさっぱりわからない。
「——なんかさ、蚊帳の外で黙って聞いてたけど、皆レネが大好きだってことでいい?」
今まで面白そうに様子を窺っていたヴィートが白い歯をみせにかっと笑い、皆を見回した。
もうみんなそこら辺にしとけよと、尻尾を振って仲間の喧嘩をやめさせる犬みたいだとレネは思った。
「まあ難しいことは抜きにして、それで間違いないよ」
釣られるようにアンドレイも笑顔になりヴィートの意見に同意する。
「実は俺もそうなんだ。だから一緒にいるし、剣は捧げてないけどレネのためになら命を捧げてもいい」
「勝手に命なんか捧げるなっ!」
そんな重い荷物を預けられても、レネは責任を持てない。
まだ幼い妹もいるというのになにを言っているのだろうか。
「レネの周りってなんか過激だね……」
アンドレイが目を丸くしてレネを見ていた。
「命を捧げてもいい」なんて普通は言わないので驚くのは当たり前だ。
レネだって驚いている。
「俺たち先鋭部隊なんだぜ? なっ」
「こっぱずかしいこと言うんじゃねえ」
ヴィートに背中をバンバンと叩かれて、バルトロメイが耳を赤くして俯いた。
レネはそれを見ながら、なにを今更この男は照れているのかと呆れる。
自分だって充分恥ずかしい言葉を連発していたというのに。
(オレが一番恥ずかしいだろうがっ!)
しかし、恥ずかしがってばかりではいけない。
さっきアンドレイは、デニスの主としてカッコイイ言葉を決めていた。
ここはバルトロメイの主として、そしてヴィートの命を預かる者(?)として、自分もなにか補足してやらなければいけない場面ではなかろうか。
「アンドレイたちは、平民であるオレが騎士を持つことを疑問に持つかもしれないけど、これは必然のことなんだ。ヴィートもそう。オレたち三人は切っても切り離せない関係なんだ」
これはレネの隠しようもない本心だ。
ヴィートは自分が拾ってきて、バルトロメイは自分が奪ってきた存在だ。
別に三騎士だからというわけではない。
レネの言葉に、自分たちの気持ちを代弁してくれたとばかりにバルトロメイとヴィートが頷く。
「わざわざあの辺鄙な島に渡るのも、深い事情がありそうだな」
デニスが探るような目をレネに向けてくる。
「ええ。どうしてもあの島に行かなければいけない事情があるんです」
二人を自分たちの騒動に巻き込みたくないので、レネは深い理由までは話さない。
改めて思うが、まさかこんな形でアンドレイたちと再会するとは想像してもいなかった。
恥ずかしい話だが、ルカにグリシーヌ公爵家を訪ねろと言われ、その場では名前を覚えておくこともできずに、バルトロメイに記憶させていた。
どこかで聞いたことのある名前だとは思っていたが、アンドレイの祖父母の家ということをすっかり忘れていたくらいだ。
「う~~~ん、それなら公爵に直接話した方が早そうだけど、ちょっとうちも色々あってね……」
急にアンドレイが難しい顔になる。
「グリシーヌの街でも噂になってたけれど、まさか公爵のお加減が悪いとか?」
レネが気を遣って訊けなかったことを、ヴィートはズバズバと切りこんでいく。
「いやいや、そんなことじゃないけど、とにかくバタバタしてるから、明日せめて祖母にでも会えるように話しておくよ」
「ありがとう」
公爵になにかあったわけではないようなので、レネは胸を撫で下ろす。
「この屋敷のことは全て公爵夫人が取り仕切っていらっしゃる。会っておいて損はないぞ」
デニスが主人の言葉を補足する。
なるほど、公爵は夫人の尻に敷かれているのか。
好印象を与えて上手いこといけば、公爵に取り次いでくれるかもしれない。
(そーいえば……前に貴婦人から気に入られるにはどうしたらいいかってロランドが説明してたよな……)
以前、人質に取られた団員と依頼主の救出に向かった時、あの男にしては珍しくいいことを言っていたので、心のノートに記録していた。
レネは心のノートをパラパラと捲り、もう一度ロランドの言葉を確認する。
(え~~と、女と気軽に喋ったり、笑いかけてはいけない。チャラチャラした男は嫌われる。逆に子どもや年寄り、動物には優しくしたら好感度がグッと上がる……か……)
これが原因で事態がこじれるとは……この時はまだレネは想像もしていなかった。
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