4 / 113
第1章 誕生から幼少期
第4話 魔導の道へ歩み出す者
しおりを挟む
「ジノ、フレイムの魔法が全然ジノみたいに使えないんだけど。
なんで竃の火の代わりみたいな事が出来るんだ?
しかもそれを維持してるし」
俺は手の平を地面に向けて火の魔法を放つと、地面が大きく燃え上がる。
フレイムという火属性の魔法だ。
これは普通のフレイムの魔法の姿。
しかし、毎日のように台所でジノが扱うフレイムはモノが違う。
地球の竃で扱う火を作り出し、その火力のまま維持しているのだ。
俺はそれがフレイムの魔法だとわかった時はこんなの簡単だろう、と思ったが、全く同じように出来ない。
そもそも、火力を抑えるのが難しい。
抑えすぎたら魔法は発動せず、半端な魔力を使うだけではライターの火のようなモノが一瞬出るだけで終わる。
火力の調節がまず出来ない。
おまけにその火力を維持させるなどとても出来る気がしなかった。
「お前の“魔力操作”のスキルがまだ未熟だからな。
とは言えまだその年齢にも関わらず既にレベルが3を超えてる。
その時点で未熟と言うのも違うかもしれんが。
ともかく、練習するなら風魔法にしておけ。
火は火事になったら面倒だ。
風魔法を身体に纏わせて動いてみせろ。
このようにな」
ジノが両手を少し広げると、ジノの身体から魔力が溢れ出す。
風がジノの周りを流れ始め、その身体に集まってくる。
そしてフワリ、とその身体が浮き上がった。
「“飛翔”の魔法だ。
魔力を増幅させる杖も持たずにやるのは高度な魔法使いしか出来ん芸当だが、お前なら出来るようになる。
これが出来るまで練習してみろ。
飛べるようになれば自然と魔力操作のスキルも上達するだろう」
「わかった」
俺は強く頷いて、風魔法を身体に纏わせる。
風魔法を身に纏わせる術式の根本は“矢避け“に近いが、そこに推進力を与えて自分の身体を浮かせるとなると、複雑な術式が必要になる。
頭の中では思考がフル回転。
魔力を感じ、どのように風魔法を動かせば良いのかを考えながら魔力を放出させるがうまくいかない。
いつの間にか俺の周りには旋風が巻き起こっていた。
「攻撃魔法に切り替わりつつあるな。
うまく制御しないと怪我するぞ」
ジノが苦笑いしながら言ってくる。
簡単に言ってくれるよなぁ、いつも。
集中しろ、集中……。
風が少しづつ俺の身体に集まり出すのを感じた。
お?これいけんじゃね?
そう思った瞬間、俺の真下で爆風が巻き起こり、身体が舞い上がる。
アアァァァアッ!と声を上げて吹き飛ぶ俺。
ジノが直ぐ様飛び上がり、俺をキャッチした。
「集中力が途切れた証拠だ。
練習がまだまだ必要だな」
ジノが俺を抱き抱えて笑いながらそう言った。
「ビビった。これめっちゃ難しいわ。
でも面白いな。
この世界は練習した分必ず結果に繋がるからやり甲斐があるわ」
俺も笑い返してジノに言う。
この世界にはスキルというモノがある。
様々なスキルが存在するが、大抵のスキルは鍛錬を積む事でスキルレベルが上達していく。
スキルのレベルが上がる度に確実な成果として明らかな効果が現れる。
魔法ならば、始まりは単一の弱い魔法を放てるようになり、スキルの上達に伴い強く、数多くの魔法を扱えるようになる。
剣技ならばただ剣を振るという基本動作から始まり、スキルの上達に伴って神業のような剣戟が可能になり、一振りの威力も上昇する。人によっては斬撃を飛ばす事も出来るらしい。
とは言え、スキルも万能ではない。
つまり、誰も彼もがどのスキルも手に入れられる訳ではないという事だ。
そして、上達の速度もまた人それぞれだ。
その辺りは特性というものが関係するらしい。
特性のあるスキルはすぐに身に付き、上達も早い。
特性の無いスキルは上達も遅く、場合によってはスキルの発現すらしない。
ジンが俺にどんな特性があるのか鑑定眼で調べた所、魔法に関する適性はすこぶる高いとの事がわかった。
逆に格闘技や剣技といった一般戦闘技術における適性は見られなかったそうだ。
だから、俺は魔法をひたすら鍛え上げる事にしたのだ。
ついでにその他のスキルも手に入れられるモノはとにかく掻い摘み、ジンの持ってる鑑定眼のスキルも手に入れた。
特性が無いので上達は遅いが、只管鑑定を続ける事でいずれ高いレベルになるだろう。
俺のステータスを確認するのはそれまでのお楽しみだ。
ジン曰く、子供とは思えないステータスにマナと魔力だけなっているらしいから。
そんな訳で俺は日々スキルの上達の為に邁進している。
既に火、水、風、土、光属性の魔法は扱えるようになった。
治癒魔法も初歩魔法ならば扱える。
魔法の鍛錬にはマナがかなり必要になるのだが、未だにマナ切れを起こした事がない。
不思議に思った俺がジノに尋ねると、自然マナ回復のスキルをいつの間にか会得していたらしい。
ジノ曰く、マナポーションを毎日飲ませたせいか?と頭をひねっていた。
ともかく、これのお陰でマナポーション要らずの身体になり、よっぽどの高威力魔法を連発しない限りマナ切れにはならないのだ。
高威力魔法は余波も大きく、里の人たちが驚いてしまうので、使用は控えている。
使えない訳ではない。
そんな俺は“飛翔”の練習に風を纏いながら、ジノのいる家屋から里まで歩く。
時間にして歩いて十分ほど。
往復の時間は歩きながら魔法の練習に費やす。
三歳にして、ジノはもう俺を一人で里へと向かう事を許可したのだ。
リリアとミーシャは一人できた俺を初めて見た時、ジノに凄い剣幕で怒りに行ったものだ。
それでもジノは付き添わないのは、一人で少しづつ色々と出来るようになってもらいたいからとの事だ。
三歳児に何を求めてる、と叱りつけるミーシャ。
しかし、当の本人である俺は勿論あまり気にしていない。
そこまで遠くは無いし、本当に危なかったら光魔法の“フラッシュ”を打ち上げろ、とジノから言われている。
五秒で来るそうだ。
試してみたいが、何も無いのにやったら流石のジノでも怒るかもしれない。
そうこうしてるうちに里へと着いた。
最初に俺に気づいたのは狩りに向かう途中のミーシャだった。
肩に長い弓を背負っている。
「シンじゃない。
あんた、また一人で来たの?
森には猪も出るから危ないのに」
そう言って俺に近付いてくる。
「こんにちは、ミーシャさん。
大丈夫だよ、猪なら前に一人でやっつけたから」
それを聞いてミーシャが顔を引きつらせた。
それは二週間ほど前の事だ。
一人で里へと向かう途中で猪に出くわしたのだ。
直ぐ様俺はファイアボールを放ったが、一発目は狙いが外れてしまった。
いきなりの遭遇に頭は冷静で無かったようで、術式の座標の指定が正確ではなかったのだ。
慌てて第二射を放とうと構えたと同時に猪は走り出し、突進してきた。
瞬時に火の魔法から土の魔法に切り替えて、俺の目の前に厚い土壁のアースウォールを作り出す。
その土壁に猪は勢い良く頭からぶつかってその場に倒れ込み、気絶した。
するとジノが上空から降りてきて、ふむ、と一声上げる。
「初めての戦闘にしては上出来だな。
火の魔法から土の魔法に瞬時に切り替えたのも賞賛出来る。
だが、一発目を外したのは問題だな。
危険な魔物相手ならその一瞬の隙が命取りになるぞ」
そう言って俺の頭に手を置いた。
どうやらジノは俺をずっと見守っていたようだった。
そんな事もあり、既に俺は猪狩りに成功している。
「どんな教育してんだか、あの馬鹿は。
とにかく危険は危険なんだから一人で彷徨くのは禁止。
帰りは私が送って行くから、一人で帰っちゃダメよ?
しばらく里にはいるんでしょ?」
ミーシャがそう尋ねてきたので俺は頷く。
「それじゃお昼過ぎには私も里に帰ってくるから、それまでは里にいなさい。
またあとでね」
ミーシャはそう言って大きく跳躍し、太い木の枝に飛び乗ると、跳躍を繰り返して木々を渡っていった。
本当に身軽な人だ。
今度狩りとかサバイバル技術とか教えてもらおう。
俺はそう思いながら里にある一つの家屋に向かい、その扉をノックする。
扉を開けて出てきたのはオールバックの髪型の男のエルフだった。
この人はリリアさんの旦那のルーカス。
かなりのイケメンである。
「シンじゃないか。
またジノは君を一人で里へと来させたのか?
同い歳の子供を持つ身としては考えられん」
ルーカスさんは呆れた顔をしてそう言った。
「こんにちは、ルーカスさん。
ジノはなんだかんだ見守ってくれてますから大丈夫です。
危なかったらすぐに駆けつけてくれますよ」
「君のその信頼はどこから来るんだろうな。
まぁいいか。それで、リアナに用があるのかな?」
リアナとはリリアさんとルーカスさんの娘である。
俺と同じ歳の女の子だ。
「あー、リリアさんに用がありまして。
治癒魔法を教えてもらいに来ました」
俺はルーカスさんにそう答える。
ルーカスさんは意外そうな顔をして、また呆れ顔に戻る。
「君は本当に魔法の勉強ばかりしているね。
うちの娘は魔法の勉強など大嫌いなのだが。
その違いなのか、娘と君が話してるのを見ても同年代とは思えないよ」
そう言って嘆くルーカスさん。
そんな会話に割り込んで来た小さな影。
リアナである。
「シンくん!遊びに来たの?」
リアナはお下げの髪型がよく似合う女の子だ。
「ゴメンね、リアナ、遊びに来たんじゃないんだ。
魔法の勉強をしにきたんだ」
俺は頭を掻きながらそう言うとリアナは頬を膨らませ、不満顔になる。
「そんなの何にも面白くない。
ほら、こっちの庭にブランコがあるから。
パパが作ってくれたの。
一緒に来て!」
俺は手を引かれ強引に連れて行かれる。
お、俺は勉強したいのにぃ、と思ったが、子供の遊びも付き合う事にする。
リアナは同年代のエルフで唯一俺と仲良くしてくれる存在だからだ。
他の子はあまり俺とは関わろうとしない。
大人ですら、リリアやルーカス、ミーシャを除けば俺と積極的に関わる人はいない。
ジノに理由を尋ねると、恐らく俺が人族だから、との事だ。
どうやらエルフからすると人族はあまりよく思われていないらしい。
そんな訳で、俺にとって子供の友達と言える存在はリアナ一人。
そんなリアナの誘いは断り辛かった。
生前の地球では人との関わりを避けていたから、そういう事はなるべくは止めよう、と思っている。
人付き合いは大事だ。
大人になると余計にそう思う。
リアナがブランコに乗り、俺がそれを押す役だった。
これ、俺は疲れるだけで何も楽しくないんですけど!?
「シンくんっ!もっと強く、高く押してみて!」
お姫様からの命令である。
了解、と俺は答えて力を強める。
もうこれは鍛錬なのだ、と思う事にした。
「リアナ。シンくんにも乗せてあげなさい。
ゴメンね、シンくん。
せっかく遊びに来てくれたのに」
いつの間にか庭に来ていたリリアさんが謝ってくる。
俺は苦笑いしながら首を横に振り、全然気にしてないから大丈夫です、と答えた。
というより、遊びに来た訳ではないんです。
しばらくブランコ遊びをした後で、リリアさんがクッキーを焼いて持ってきてくれた。
それはもう絶品だった。
「リリアさん、今度作り方を教えてもらえませんか?」
俺はリリアさんに頼み込む。
リリアさんは微笑んで頷いた。
それを見たリアナが手を上げる。
「あたしも!あたしも一緒にやるのー」
と、アピールしてくる。
リリアさんはリアナの頭を優しく撫でて、皆で作りましょうね、と言った。
治癒魔法を鍛えてもらうのはもう少し後だな、と思いつつ、俺はクッキーをかじる。
やっぱ美味いわ、これ。
そして俺は狩りから帰ってきたミーシャさんと共に帰宅した。
家に着くとガミガミとミーシャがジノにがなり立てていたが、ジノは平然とした顔で一言、「世話になったな」とだけ言った。
ミーシャは疲れた顔をして肩を落とし、こりゃダメだ、とボヤいていた。
なんで竃の火の代わりみたいな事が出来るんだ?
しかもそれを維持してるし」
俺は手の平を地面に向けて火の魔法を放つと、地面が大きく燃え上がる。
フレイムという火属性の魔法だ。
これは普通のフレイムの魔法の姿。
しかし、毎日のように台所でジノが扱うフレイムはモノが違う。
地球の竃で扱う火を作り出し、その火力のまま維持しているのだ。
俺はそれがフレイムの魔法だとわかった時はこんなの簡単だろう、と思ったが、全く同じように出来ない。
そもそも、火力を抑えるのが難しい。
抑えすぎたら魔法は発動せず、半端な魔力を使うだけではライターの火のようなモノが一瞬出るだけで終わる。
火力の調節がまず出来ない。
おまけにその火力を維持させるなどとても出来る気がしなかった。
「お前の“魔力操作”のスキルがまだ未熟だからな。
とは言えまだその年齢にも関わらず既にレベルが3を超えてる。
その時点で未熟と言うのも違うかもしれんが。
ともかく、練習するなら風魔法にしておけ。
火は火事になったら面倒だ。
風魔法を身体に纏わせて動いてみせろ。
このようにな」
ジノが両手を少し広げると、ジノの身体から魔力が溢れ出す。
風がジノの周りを流れ始め、その身体に集まってくる。
そしてフワリ、とその身体が浮き上がった。
「“飛翔”の魔法だ。
魔力を増幅させる杖も持たずにやるのは高度な魔法使いしか出来ん芸当だが、お前なら出来るようになる。
これが出来るまで練習してみろ。
飛べるようになれば自然と魔力操作のスキルも上達するだろう」
「わかった」
俺は強く頷いて、風魔法を身体に纏わせる。
風魔法を身に纏わせる術式の根本は“矢避け“に近いが、そこに推進力を与えて自分の身体を浮かせるとなると、複雑な術式が必要になる。
頭の中では思考がフル回転。
魔力を感じ、どのように風魔法を動かせば良いのかを考えながら魔力を放出させるがうまくいかない。
いつの間にか俺の周りには旋風が巻き起こっていた。
「攻撃魔法に切り替わりつつあるな。
うまく制御しないと怪我するぞ」
ジノが苦笑いしながら言ってくる。
簡単に言ってくれるよなぁ、いつも。
集中しろ、集中……。
風が少しづつ俺の身体に集まり出すのを感じた。
お?これいけんじゃね?
そう思った瞬間、俺の真下で爆風が巻き起こり、身体が舞い上がる。
アアァァァアッ!と声を上げて吹き飛ぶ俺。
ジノが直ぐ様飛び上がり、俺をキャッチした。
「集中力が途切れた証拠だ。
練習がまだまだ必要だな」
ジノが俺を抱き抱えて笑いながらそう言った。
「ビビった。これめっちゃ難しいわ。
でも面白いな。
この世界は練習した分必ず結果に繋がるからやり甲斐があるわ」
俺も笑い返してジノに言う。
この世界にはスキルというモノがある。
様々なスキルが存在するが、大抵のスキルは鍛錬を積む事でスキルレベルが上達していく。
スキルのレベルが上がる度に確実な成果として明らかな効果が現れる。
魔法ならば、始まりは単一の弱い魔法を放てるようになり、スキルの上達に伴い強く、数多くの魔法を扱えるようになる。
剣技ならばただ剣を振るという基本動作から始まり、スキルの上達に伴って神業のような剣戟が可能になり、一振りの威力も上昇する。人によっては斬撃を飛ばす事も出来るらしい。
とは言え、スキルも万能ではない。
つまり、誰も彼もがどのスキルも手に入れられる訳ではないという事だ。
そして、上達の速度もまた人それぞれだ。
その辺りは特性というものが関係するらしい。
特性のあるスキルはすぐに身に付き、上達も早い。
特性の無いスキルは上達も遅く、場合によってはスキルの発現すらしない。
ジンが俺にどんな特性があるのか鑑定眼で調べた所、魔法に関する適性はすこぶる高いとの事がわかった。
逆に格闘技や剣技といった一般戦闘技術における適性は見られなかったそうだ。
だから、俺は魔法をひたすら鍛え上げる事にしたのだ。
ついでにその他のスキルも手に入れられるモノはとにかく掻い摘み、ジンの持ってる鑑定眼のスキルも手に入れた。
特性が無いので上達は遅いが、只管鑑定を続ける事でいずれ高いレベルになるだろう。
俺のステータスを確認するのはそれまでのお楽しみだ。
ジン曰く、子供とは思えないステータスにマナと魔力だけなっているらしいから。
そんな訳で俺は日々スキルの上達の為に邁進している。
既に火、水、風、土、光属性の魔法は扱えるようになった。
治癒魔法も初歩魔法ならば扱える。
魔法の鍛錬にはマナがかなり必要になるのだが、未だにマナ切れを起こした事がない。
不思議に思った俺がジノに尋ねると、自然マナ回復のスキルをいつの間にか会得していたらしい。
ジノ曰く、マナポーションを毎日飲ませたせいか?と頭をひねっていた。
ともかく、これのお陰でマナポーション要らずの身体になり、よっぽどの高威力魔法を連発しない限りマナ切れにはならないのだ。
高威力魔法は余波も大きく、里の人たちが驚いてしまうので、使用は控えている。
使えない訳ではない。
そんな俺は“飛翔”の練習に風を纏いながら、ジノのいる家屋から里まで歩く。
時間にして歩いて十分ほど。
往復の時間は歩きながら魔法の練習に費やす。
三歳にして、ジノはもう俺を一人で里へと向かう事を許可したのだ。
リリアとミーシャは一人できた俺を初めて見た時、ジノに凄い剣幕で怒りに行ったものだ。
それでもジノは付き添わないのは、一人で少しづつ色々と出来るようになってもらいたいからとの事だ。
三歳児に何を求めてる、と叱りつけるミーシャ。
しかし、当の本人である俺は勿論あまり気にしていない。
そこまで遠くは無いし、本当に危なかったら光魔法の“フラッシュ”を打ち上げろ、とジノから言われている。
五秒で来るそうだ。
試してみたいが、何も無いのにやったら流石のジノでも怒るかもしれない。
そうこうしてるうちに里へと着いた。
最初に俺に気づいたのは狩りに向かう途中のミーシャだった。
肩に長い弓を背負っている。
「シンじゃない。
あんた、また一人で来たの?
森には猪も出るから危ないのに」
そう言って俺に近付いてくる。
「こんにちは、ミーシャさん。
大丈夫だよ、猪なら前に一人でやっつけたから」
それを聞いてミーシャが顔を引きつらせた。
それは二週間ほど前の事だ。
一人で里へと向かう途中で猪に出くわしたのだ。
直ぐ様俺はファイアボールを放ったが、一発目は狙いが外れてしまった。
いきなりの遭遇に頭は冷静で無かったようで、術式の座標の指定が正確ではなかったのだ。
慌てて第二射を放とうと構えたと同時に猪は走り出し、突進してきた。
瞬時に火の魔法から土の魔法に切り替えて、俺の目の前に厚い土壁のアースウォールを作り出す。
その土壁に猪は勢い良く頭からぶつかってその場に倒れ込み、気絶した。
するとジノが上空から降りてきて、ふむ、と一声上げる。
「初めての戦闘にしては上出来だな。
火の魔法から土の魔法に瞬時に切り替えたのも賞賛出来る。
だが、一発目を外したのは問題だな。
危険な魔物相手ならその一瞬の隙が命取りになるぞ」
そう言って俺の頭に手を置いた。
どうやらジノは俺をずっと見守っていたようだった。
そんな事もあり、既に俺は猪狩りに成功している。
「どんな教育してんだか、あの馬鹿は。
とにかく危険は危険なんだから一人で彷徨くのは禁止。
帰りは私が送って行くから、一人で帰っちゃダメよ?
しばらく里にはいるんでしょ?」
ミーシャがそう尋ねてきたので俺は頷く。
「それじゃお昼過ぎには私も里に帰ってくるから、それまでは里にいなさい。
またあとでね」
ミーシャはそう言って大きく跳躍し、太い木の枝に飛び乗ると、跳躍を繰り返して木々を渡っていった。
本当に身軽な人だ。
今度狩りとかサバイバル技術とか教えてもらおう。
俺はそう思いながら里にある一つの家屋に向かい、その扉をノックする。
扉を開けて出てきたのはオールバックの髪型の男のエルフだった。
この人はリリアさんの旦那のルーカス。
かなりのイケメンである。
「シンじゃないか。
またジノは君を一人で里へと来させたのか?
同い歳の子供を持つ身としては考えられん」
ルーカスさんは呆れた顔をしてそう言った。
「こんにちは、ルーカスさん。
ジノはなんだかんだ見守ってくれてますから大丈夫です。
危なかったらすぐに駆けつけてくれますよ」
「君のその信頼はどこから来るんだろうな。
まぁいいか。それで、リアナに用があるのかな?」
リアナとはリリアさんとルーカスさんの娘である。
俺と同じ歳の女の子だ。
「あー、リリアさんに用がありまして。
治癒魔法を教えてもらいに来ました」
俺はルーカスさんにそう答える。
ルーカスさんは意外そうな顔をして、また呆れ顔に戻る。
「君は本当に魔法の勉強ばかりしているね。
うちの娘は魔法の勉強など大嫌いなのだが。
その違いなのか、娘と君が話してるのを見ても同年代とは思えないよ」
そう言って嘆くルーカスさん。
そんな会話に割り込んで来た小さな影。
リアナである。
「シンくん!遊びに来たの?」
リアナはお下げの髪型がよく似合う女の子だ。
「ゴメンね、リアナ、遊びに来たんじゃないんだ。
魔法の勉強をしにきたんだ」
俺は頭を掻きながらそう言うとリアナは頬を膨らませ、不満顔になる。
「そんなの何にも面白くない。
ほら、こっちの庭にブランコがあるから。
パパが作ってくれたの。
一緒に来て!」
俺は手を引かれ強引に連れて行かれる。
お、俺は勉強したいのにぃ、と思ったが、子供の遊びも付き合う事にする。
リアナは同年代のエルフで唯一俺と仲良くしてくれる存在だからだ。
他の子はあまり俺とは関わろうとしない。
大人ですら、リリアやルーカス、ミーシャを除けば俺と積極的に関わる人はいない。
ジノに理由を尋ねると、恐らく俺が人族だから、との事だ。
どうやらエルフからすると人族はあまりよく思われていないらしい。
そんな訳で、俺にとって子供の友達と言える存在はリアナ一人。
そんなリアナの誘いは断り辛かった。
生前の地球では人との関わりを避けていたから、そういう事はなるべくは止めよう、と思っている。
人付き合いは大事だ。
大人になると余計にそう思う。
リアナがブランコに乗り、俺がそれを押す役だった。
これ、俺は疲れるだけで何も楽しくないんですけど!?
「シンくんっ!もっと強く、高く押してみて!」
お姫様からの命令である。
了解、と俺は答えて力を強める。
もうこれは鍛錬なのだ、と思う事にした。
「リアナ。シンくんにも乗せてあげなさい。
ゴメンね、シンくん。
せっかく遊びに来てくれたのに」
いつの間にか庭に来ていたリリアさんが謝ってくる。
俺は苦笑いしながら首を横に振り、全然気にしてないから大丈夫です、と答えた。
というより、遊びに来た訳ではないんです。
しばらくブランコ遊びをした後で、リリアさんがクッキーを焼いて持ってきてくれた。
それはもう絶品だった。
「リリアさん、今度作り方を教えてもらえませんか?」
俺はリリアさんに頼み込む。
リリアさんは微笑んで頷いた。
それを見たリアナが手を上げる。
「あたしも!あたしも一緒にやるのー」
と、アピールしてくる。
リリアさんはリアナの頭を優しく撫でて、皆で作りましょうね、と言った。
治癒魔法を鍛えてもらうのはもう少し後だな、と思いつつ、俺はクッキーをかじる。
やっぱ美味いわ、これ。
そして俺は狩りから帰ってきたミーシャさんと共に帰宅した。
家に着くとガミガミとミーシャがジノにがなり立てていたが、ジノは平然とした顔で一言、「世話になったな」とだけ言った。
ミーシャは疲れた顔をして肩を落とし、こりゃダメだ、とボヤいていた。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~
ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。
彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。
敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。
この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。
「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」
無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。
正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる