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第2章 少年期前編
第24話 魔導騎士
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一人になった俺はしばらく風呂に浸かってアリスが飛び去った空を眺める。
あんな話の後では気持ちが落ち着かず、ゆっくり温泉を満喫とはいかなかった。
ぼんやり考えるジノの事。
そして魔族とは、そして長年続く戦争の発端とは何なのか。
考えたところで答えなど出るはずもなく、想像だけが膨らんでは消えていく。
俺は悶々とした気持ちのまま露天風呂を後にして村の宿屋へと戻る。
身体の疲れを癒しに行ったのに、思わぬ出会いで逆に疲れたくらいだ。
宿屋の部屋に戻ると、イビキをかいているザドがベッドの上で大の字になっている。
もう朝だというのに……。
それを放置して宿の朝食を頂き、旅路の支度をする。
それが終わっても寝ているザドを転がして起こし、早よ支度せい!と叱りつけ準備を急がせる。
魔将との遭遇は俺の胸の内にしまって置く事にした。
魔将が近くにいたなんて話があれば、皆少なからず動揺するだろうから。
とは言え、まだ絶対に襲われないとも限らない。
警戒だけは怠らないように生体感知と魔力感知はいつでも察知できるように感度を高めておいた。
そんなこんなで俺達はコッツマルズ村から帰路に着く。
村長は再度、門の前で俺達に深く頭を下げていた。
物資の不足は相当に厳しい物だったのだろう。
帰りの道中、ヴェルド峡谷にて警戒心を高めていた俺の生体感知が敏感に反応する。
人型なるものが三つ接近してくるのを感じたのだ。
ザドとリゼットさんに進行を止めるよう促し、その接近してくる存在に対して身構える。
そしてその人影は空から舞い降りてきた。
それは純白のマントに白銀の鎧を身に纏った者達だった。
翻るマントには紋章が縫われており、それが王国騎士団のものである事を示す。
だが、際騎士団は空を飛べない。
たった一つの部隊を除けば。
ライトゴールドの髪をオールバックにし、もみあげから顎まで髭を少し生やした若者が先頭に立って近づいてくる。
顔立ちは彫りが深く、青い瞳が印象的だ。
そして若いのになんだか貫禄がある。
「お前達、コッツマルズ村からの帰路なのか?」
その若者は年上のザドやリゼットを尻目に上から目線で話しかけてくる。
その態度にザドは舌打ちし、リゼットも眉間に皺を寄せる。
「あぁ、そうだよ。
それで?魔導騎士様方が三人も揃って何の用だい?」
リゼットは腕を組んで問い返す。
「質問しているのはこちらだ。
ゴーレムがこのヴェルド峡谷の道を塞いでいると情報が入り、討伐要請が出ているのだ。
お前達行商人は特殊なゴーレムを見なかったのか?」
そう聞いてきたのは赤毛のショートヘアをした若い女性だった。
赤い着衣を鎧の下に着込み、白銀の鎧と純白のマントは同じである。
非常にキツい顔付きの女性で、吊り上がった切れ長の瞳でこちらを睨みながら問いただしてくる。
「ゴーレムは僕らで壊滅させました。
それが、何か?」
俺がそう答えると、赤毛の女性はこちらを一瞥しフンッ、と鼻で笑う。
「子連れで行商とは正気を疑う。
それにゴーレムを壊滅させた、だと?
冗談だとしても笑えない。
ここには上位のゴーレムの目撃情報がある。
だからわざわざ我々が赴いたのだ。
特殊なゴーレムは見たのか、見てないのかを聞いてるんだ」
俺の話をまともに取り合わず、上から目線の赤毛の女性。
あー、なるほど。
ザドが前に言ってたなぁ、魔導騎士はいけ好かない連中だって。
納得だわ。
だが、今にもブチ切れそうなのはこちらのサリアさんだった。
拳を握りしめ、一歩前に踏み込む。
その目は怒りに燃え上がっている。
落ち着いてくれ、サリアさん。
そこで冷静なリゼットさんがそれに答える。
「上位のゴーレムならギガントゴーレムを発見し、破壊した。
それから既に一日経っている」
その言葉に魔導騎士達は顔を見合わせる。
「ギガントゴーレムを?君達がか?」
髭の若者が聞き返してくる。
リゼットさんより早くザドが答える。
「あったりめぇよ。
シン坊の強さはてめぇら魔導騎士なんて目じゃねぇんだからよっ!」
アホ、ここで煽るような事言うな。
そして俺を巻き込むな。
「シン坊が誰だか知らんが、上位のゴーレムは魔法の殆どが遮断され、耐久力もかなり高い。
お前達程度でどうにかなる訳がないだろう。
勘違いに付き合ってる暇はないんだ。
そこらのゴーレムを倒した武勇伝など興味もない」
苛立たしげに髭の若者は言う。
「この子が倒したのは事実よ。
いつもチンタラと動きが鈍いお前ら魔導騎士より、よっぽどこの子のが頼りになる」
サリアさんまで煽りにかかる。
やめてくれー、俺を巻き込まいでー。
三人の魔導騎士の視線が俺に集中する。
すると、一人黙っていた男から魔力がこちらに流れ込む。
本日二度目のステータス鑑定である。
「……っ!?
このステータスは一体!?」
最後の一人は茶髪のボブヘアの眼鏡男。
俺のステータスを確認して目を見開いている。
その姿に他の二人が訝しげに眼鏡男を見る。
「そんなにステータスが高いのか?」
髭の若者が尋ねると、眼鏡男は頷く。
「……既に、魔力やスキルだけなら魔導騎士団の最上位クラスだ」
それを聞いた二人の魔導騎士も驚愕する。
「こんな子供が?
品位もなさそうだし、貴族の子って訳じゃなさそうだが……。
平民では魔法を学ぶ機会すらないだろうに」
この髭面、いちいちカンに触る事を言いやがる。
「けれど、このステータスなら上位のゴーレムと渡り合えるのも頷ける」
眼鏡男が眼鏡を指で持ち上げながらそう言った。
赤毛の女性は未だに釈然としない顔をしていた。
髭の若者は俺を品定めするように俺を見て、次いでザドやリゼットさん達を見回した後、口を開く。
「どうやら、この子が一役買ったのは間違いないようだ。
だとすれば、我々は無駄足だったようだな。
一応報告の義務がある。
キミ、名前は?」
「シン・オルディールです」
「え、オルディール?」
黙っていた赤毛の女性が声を上げ、俺をジッと見つめてくる。
「……いえ、何でもないわ」
そう言って首を振る赤毛の女性。
なんだろ?
「ともかく、事情はわかった。
もう少し付近を探索し、異常な魔物がいなければ我々は帰還する。
情報提供には感謝するよ」
髭の若者はそう言って空高く飛び上がった。
次いで赤毛の女性と眼鏡男もその後を追う。
魔導騎士達が去っていくと、ザドが舌打ちする。
「チッ、魔導騎士ってなぁホントにいけ好かない連中だぜ」
「あんたに同意するのは癪だけど、その通りだね」
リゼットも渋い顔をしたままそう言った。
「……あれが魔導騎士、なんですね」
俺はボソッと呟く。
「あぁ、シン坊は魔導騎士を目指してたんだよな?
言っただろう?ロクでもねぇってな」
ザドはそう言って俺を憐れんだように見てくる。
ザドのくせにそんな目で俺を見るな。
「たしかに、少しショックですけどね。
でも、魔導騎士は彼等だけじゃないでしょうから」
俺は自分に言い聞かせるようにそう言った。
皆はその言葉に対して何も言わなかった。
その後の帰路は順調に進んだ。
たまに魔物の群れに襲われる事もあったが、俺とリゼットさん達によって襲ってくる魔物は全て跳ね除ける。
そしてあれよあれよという間に水の都へと辿り着いたのであった。
「いやー、着いた着いた!
なかなか大変だったが、今回は大儲けだったぜ!」
水の都の門で一息つくザド。
「ザドさん、別に大変な思いとかしてないでしょ」
俺は溜息をついて突っ込みを入れる。
「んなことねーよ!
割と身内から手痛い目にあったわ!」
ほとんど自業自得じゃん、それ。
「坊や、今回の行商は世話になったね。
心ばかりのお礼だよ、受け取りな」
そう言ってリゼットさんが布袋を投げ渡してきた。
それをキャッチすると、中からジャラッと音が鳴る。
ズシッとした重さもある事から、中にはそこそこ入ってるのがわかる。
「護衛のお代はザドさんからもらってるので大丈夫ですよ?」
そう言ったが、リゼットさんは笑いながら俺に言う。
「どうせザドの野郎はシケた額しか払ってないんだろ?
また護衛を頼みたいから、その縁を作る為の代金と思っとくれ。
また近々声をかけるさ」
リゼットさんはそう言って護衛団の皆と共に街の奥へと進んでいった。
サリアさんとセリーヌさんは去り際に手を振ってきたので、俺も振り返した。
「人気者だな、シン坊。
そんじゃあ、また次回の行商も頼むぜ?」
「はいはい。
ただ、今日はゆっくり休ませてもらいますよ」
俺はそう言ってザドに背を向け、宿へと向かった。
後ろから、また頼むぞー!と声が聞こえてきたので、片手を振って一応返事の合図はしておいた。
ネラの宿屋に着くと、受付にはおばさんが座って待機していた。
「無事、帰りました」
俺がそう伝えると、軽く微笑むおばさん。
「少し遠くに行ってきたようだね。
無事に帰還出来て何よりさ。
あの娘も心配していたよ?」
ティナさんの事かな?
そうか、心配させてしまったのは申し訳ない。
「そうですか。
心配をおかけしました。
また配膳の時に声をかけておきますね」
そう言って俺は部屋に戻る。
部屋に入るとすぐにベッドで横になった。
あー、ようやく一息つける。
なんだかここがマイホームになってんな。
落ち着くわ。
しばらくベッドの上でゴロゴロしてると、ふと思い出す。
そういや、リゼットさんからいくら貰ったんだろ?
俺は布袋の中身を机にあけると、中から硬貨が沢山出てきた。
数えてみると、金貨が七枚に銀貨が五○枚も入っていた。
大金である。
一回行商しただけで、こんなに稼げるなんて!
当面はザドさんやリゼットさんの護衛をして生活費を稼ぐか。
そう決めた俺はまだ日中だが、再度ベッドに倒れ込み、目を閉じる。
俺も疲れが溜まっていたのか、直ぐに眠りについた。
コンコン、っとノックの音で俺は目を覚まさす。
身体を起こして扉を開けると料理を運んで来たティナが立っていた。
「すみません、また寝てました。
もう夕食の時間なんですね」
俺が目をこすりながらそう言うと、ティナはクスクス笑って夕食を差し出してきた。
「疲れも溜まっていたかもしれないですね。
でも、無事に戻ったようで何よりです。
行商の護衛は大変だったでしよう?」
「多少は大変な目にも逢いましたが、問題になるほどではありません」
「ふふふ、それは何よりです」
なんか笑われた。
子供が自信満々に言うのがおかしかったのかな?
なんか恥ずかしいぞ。
とりあえず夕ご飯を受け取る。
殻がついたままの茹でた海老と貝の入ったスープ。
そしてトマトのソースを混ぜたパスタ。
上には肉団子がゴロゴロしてる。
ほぉ、ここでもパスタ食えるのか。
「あ、そうだ。ティナさん、手紙ってこの宿から出せるんですか?」
唐突だが、聞いてみることにした。
「あら、お手紙書くの?
誰に宛てて書くのかしら?」
「あー、父親宛です」
俺は恥ずかしそうに頭を掻く。
なんか親離れ出来ない子供みたいだな。
しかし、その俺の言葉に目を潤ませるティナさん。
「……そうだよね。
こんな小さいのに、一人でこんな大きな街にいるんじゃ不安になるよね」
うんうん、と頷くティナ。
えーっと、別にそんなセンチメンタルな手紙書く訳じゃ無いんだけどね。
「でも、手紙を書くとなると紙がいるわね。
安い紙じゃ届くまでにボロボロになってしまうわ。
羊皮紙が一番良いけれど、少し高いのよね」
「お金ならある程度持ってます。
何処で羊皮紙は買えますか?」
当然のように金の心配はない、と言い張る俺にティナは驚く。
「そうなの?
それじゃ、明日一緒に買い物しますか?
私も買い出しがあるので。
その時に伝書鳩の小屋に寄りましょう」
おぉ、それは有難い!
「是非、お願いします。
まだこの街は出歩いていないので、案内してくれると助かります」
俺がそう言うとティナは微笑んで頷いた。
「それじゃあ明日のお昼前に出掛けましょうか。
朝は私も少し忙しいけれど、昼になったら時間が作れますから」
「わかりました。
よろしくお願いします」
俺はペコリと頭を下げる。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ティナも軽く一礼した後、ではごゆっくり、と一言言って去って行く。
その後、部屋でゆっくり夕食を頂いた。
パスタは絶品だった。
こんな世界でもパスタが食べれるなんて。
幸せである。
夜八時。
また俺は夜中の街を彷徨く事にする。
というのも、リゼットさんやザド探しでえる。
明日は護衛はお休み、と伝えなきゃね。
もっとも、今日ようやく行商から帰ってきた所だし、流石に明日また出発って事は無いだろうけれど、念のためにね。
俺は宿を後にして、以前にザドとリゼットさんがいた酒場へと向かうのだった。
あんな話の後では気持ちが落ち着かず、ゆっくり温泉を満喫とはいかなかった。
ぼんやり考えるジノの事。
そして魔族とは、そして長年続く戦争の発端とは何なのか。
考えたところで答えなど出るはずもなく、想像だけが膨らんでは消えていく。
俺は悶々とした気持ちのまま露天風呂を後にして村の宿屋へと戻る。
身体の疲れを癒しに行ったのに、思わぬ出会いで逆に疲れたくらいだ。
宿屋の部屋に戻ると、イビキをかいているザドがベッドの上で大の字になっている。
もう朝だというのに……。
それを放置して宿の朝食を頂き、旅路の支度をする。
それが終わっても寝ているザドを転がして起こし、早よ支度せい!と叱りつけ準備を急がせる。
魔将との遭遇は俺の胸の内にしまって置く事にした。
魔将が近くにいたなんて話があれば、皆少なからず動揺するだろうから。
とは言え、まだ絶対に襲われないとも限らない。
警戒だけは怠らないように生体感知と魔力感知はいつでも察知できるように感度を高めておいた。
そんなこんなで俺達はコッツマルズ村から帰路に着く。
村長は再度、門の前で俺達に深く頭を下げていた。
物資の不足は相当に厳しい物だったのだろう。
帰りの道中、ヴェルド峡谷にて警戒心を高めていた俺の生体感知が敏感に反応する。
人型なるものが三つ接近してくるのを感じたのだ。
ザドとリゼットさんに進行を止めるよう促し、その接近してくる存在に対して身構える。
そしてその人影は空から舞い降りてきた。
それは純白のマントに白銀の鎧を身に纏った者達だった。
翻るマントには紋章が縫われており、それが王国騎士団のものである事を示す。
だが、際騎士団は空を飛べない。
たった一つの部隊を除けば。
ライトゴールドの髪をオールバックにし、もみあげから顎まで髭を少し生やした若者が先頭に立って近づいてくる。
顔立ちは彫りが深く、青い瞳が印象的だ。
そして若いのになんだか貫禄がある。
「お前達、コッツマルズ村からの帰路なのか?」
その若者は年上のザドやリゼットを尻目に上から目線で話しかけてくる。
その態度にザドは舌打ちし、リゼットも眉間に皺を寄せる。
「あぁ、そうだよ。
それで?魔導騎士様方が三人も揃って何の用だい?」
リゼットは腕を組んで問い返す。
「質問しているのはこちらだ。
ゴーレムがこのヴェルド峡谷の道を塞いでいると情報が入り、討伐要請が出ているのだ。
お前達行商人は特殊なゴーレムを見なかったのか?」
そう聞いてきたのは赤毛のショートヘアをした若い女性だった。
赤い着衣を鎧の下に着込み、白銀の鎧と純白のマントは同じである。
非常にキツい顔付きの女性で、吊り上がった切れ長の瞳でこちらを睨みながら問いただしてくる。
「ゴーレムは僕らで壊滅させました。
それが、何か?」
俺がそう答えると、赤毛の女性はこちらを一瞥しフンッ、と鼻で笑う。
「子連れで行商とは正気を疑う。
それにゴーレムを壊滅させた、だと?
冗談だとしても笑えない。
ここには上位のゴーレムの目撃情報がある。
だからわざわざ我々が赴いたのだ。
特殊なゴーレムは見たのか、見てないのかを聞いてるんだ」
俺の話をまともに取り合わず、上から目線の赤毛の女性。
あー、なるほど。
ザドが前に言ってたなぁ、魔導騎士はいけ好かない連中だって。
納得だわ。
だが、今にもブチ切れそうなのはこちらのサリアさんだった。
拳を握りしめ、一歩前に踏み込む。
その目は怒りに燃え上がっている。
落ち着いてくれ、サリアさん。
そこで冷静なリゼットさんがそれに答える。
「上位のゴーレムならギガントゴーレムを発見し、破壊した。
それから既に一日経っている」
その言葉に魔導騎士達は顔を見合わせる。
「ギガントゴーレムを?君達がか?」
髭の若者が聞き返してくる。
リゼットさんより早くザドが答える。
「あったりめぇよ。
シン坊の強さはてめぇら魔導騎士なんて目じゃねぇんだからよっ!」
アホ、ここで煽るような事言うな。
そして俺を巻き込むな。
「シン坊が誰だか知らんが、上位のゴーレムは魔法の殆どが遮断され、耐久力もかなり高い。
お前達程度でどうにかなる訳がないだろう。
勘違いに付き合ってる暇はないんだ。
そこらのゴーレムを倒した武勇伝など興味もない」
苛立たしげに髭の若者は言う。
「この子が倒したのは事実よ。
いつもチンタラと動きが鈍いお前ら魔導騎士より、よっぽどこの子のが頼りになる」
サリアさんまで煽りにかかる。
やめてくれー、俺を巻き込まいでー。
三人の魔導騎士の視線が俺に集中する。
すると、一人黙っていた男から魔力がこちらに流れ込む。
本日二度目のステータス鑑定である。
「……っ!?
このステータスは一体!?」
最後の一人は茶髪のボブヘアの眼鏡男。
俺のステータスを確認して目を見開いている。
その姿に他の二人が訝しげに眼鏡男を見る。
「そんなにステータスが高いのか?」
髭の若者が尋ねると、眼鏡男は頷く。
「……既に、魔力やスキルだけなら魔導騎士団の最上位クラスだ」
それを聞いた二人の魔導騎士も驚愕する。
「こんな子供が?
品位もなさそうだし、貴族の子って訳じゃなさそうだが……。
平民では魔法を学ぶ機会すらないだろうに」
この髭面、いちいちカンに触る事を言いやがる。
「けれど、このステータスなら上位のゴーレムと渡り合えるのも頷ける」
眼鏡男が眼鏡を指で持ち上げながらそう言った。
赤毛の女性は未だに釈然としない顔をしていた。
髭の若者は俺を品定めするように俺を見て、次いでザドやリゼットさん達を見回した後、口を開く。
「どうやら、この子が一役買ったのは間違いないようだ。
だとすれば、我々は無駄足だったようだな。
一応報告の義務がある。
キミ、名前は?」
「シン・オルディールです」
「え、オルディール?」
黙っていた赤毛の女性が声を上げ、俺をジッと見つめてくる。
「……いえ、何でもないわ」
そう言って首を振る赤毛の女性。
なんだろ?
「ともかく、事情はわかった。
もう少し付近を探索し、異常な魔物がいなければ我々は帰還する。
情報提供には感謝するよ」
髭の若者はそう言って空高く飛び上がった。
次いで赤毛の女性と眼鏡男もその後を追う。
魔導騎士達が去っていくと、ザドが舌打ちする。
「チッ、魔導騎士ってなぁホントにいけ好かない連中だぜ」
「あんたに同意するのは癪だけど、その通りだね」
リゼットも渋い顔をしたままそう言った。
「……あれが魔導騎士、なんですね」
俺はボソッと呟く。
「あぁ、シン坊は魔導騎士を目指してたんだよな?
言っただろう?ロクでもねぇってな」
ザドはそう言って俺を憐れんだように見てくる。
ザドのくせにそんな目で俺を見るな。
「たしかに、少しショックですけどね。
でも、魔導騎士は彼等だけじゃないでしょうから」
俺は自分に言い聞かせるようにそう言った。
皆はその言葉に対して何も言わなかった。
その後の帰路は順調に進んだ。
たまに魔物の群れに襲われる事もあったが、俺とリゼットさん達によって襲ってくる魔物は全て跳ね除ける。
そしてあれよあれよという間に水の都へと辿り着いたのであった。
「いやー、着いた着いた!
なかなか大変だったが、今回は大儲けだったぜ!」
水の都の門で一息つくザド。
「ザドさん、別に大変な思いとかしてないでしょ」
俺は溜息をついて突っ込みを入れる。
「んなことねーよ!
割と身内から手痛い目にあったわ!」
ほとんど自業自得じゃん、それ。
「坊や、今回の行商は世話になったね。
心ばかりのお礼だよ、受け取りな」
そう言ってリゼットさんが布袋を投げ渡してきた。
それをキャッチすると、中からジャラッと音が鳴る。
ズシッとした重さもある事から、中にはそこそこ入ってるのがわかる。
「護衛のお代はザドさんからもらってるので大丈夫ですよ?」
そう言ったが、リゼットさんは笑いながら俺に言う。
「どうせザドの野郎はシケた額しか払ってないんだろ?
また護衛を頼みたいから、その縁を作る為の代金と思っとくれ。
また近々声をかけるさ」
リゼットさんはそう言って護衛団の皆と共に街の奥へと進んでいった。
サリアさんとセリーヌさんは去り際に手を振ってきたので、俺も振り返した。
「人気者だな、シン坊。
そんじゃあ、また次回の行商も頼むぜ?」
「はいはい。
ただ、今日はゆっくり休ませてもらいますよ」
俺はそう言ってザドに背を向け、宿へと向かった。
後ろから、また頼むぞー!と声が聞こえてきたので、片手を振って一応返事の合図はしておいた。
ネラの宿屋に着くと、受付にはおばさんが座って待機していた。
「無事、帰りました」
俺がそう伝えると、軽く微笑むおばさん。
「少し遠くに行ってきたようだね。
無事に帰還出来て何よりさ。
あの娘も心配していたよ?」
ティナさんの事かな?
そうか、心配させてしまったのは申し訳ない。
「そうですか。
心配をおかけしました。
また配膳の時に声をかけておきますね」
そう言って俺は部屋に戻る。
部屋に入るとすぐにベッドで横になった。
あー、ようやく一息つける。
なんだかここがマイホームになってんな。
落ち着くわ。
しばらくベッドの上でゴロゴロしてると、ふと思い出す。
そういや、リゼットさんからいくら貰ったんだろ?
俺は布袋の中身を机にあけると、中から硬貨が沢山出てきた。
数えてみると、金貨が七枚に銀貨が五○枚も入っていた。
大金である。
一回行商しただけで、こんなに稼げるなんて!
当面はザドさんやリゼットさんの護衛をして生活費を稼ぐか。
そう決めた俺はまだ日中だが、再度ベッドに倒れ込み、目を閉じる。
俺も疲れが溜まっていたのか、直ぐに眠りについた。
コンコン、っとノックの音で俺は目を覚まさす。
身体を起こして扉を開けると料理を運んで来たティナが立っていた。
「すみません、また寝てました。
もう夕食の時間なんですね」
俺が目をこすりながらそう言うと、ティナはクスクス笑って夕食を差し出してきた。
「疲れも溜まっていたかもしれないですね。
でも、無事に戻ったようで何よりです。
行商の護衛は大変だったでしよう?」
「多少は大変な目にも逢いましたが、問題になるほどではありません」
「ふふふ、それは何よりです」
なんか笑われた。
子供が自信満々に言うのがおかしかったのかな?
なんか恥ずかしいぞ。
とりあえず夕ご飯を受け取る。
殻がついたままの茹でた海老と貝の入ったスープ。
そしてトマトのソースを混ぜたパスタ。
上には肉団子がゴロゴロしてる。
ほぉ、ここでもパスタ食えるのか。
「あ、そうだ。ティナさん、手紙ってこの宿から出せるんですか?」
唐突だが、聞いてみることにした。
「あら、お手紙書くの?
誰に宛てて書くのかしら?」
「あー、父親宛です」
俺は恥ずかしそうに頭を掻く。
なんか親離れ出来ない子供みたいだな。
しかし、その俺の言葉に目を潤ませるティナさん。
「……そうだよね。
こんな小さいのに、一人でこんな大きな街にいるんじゃ不安になるよね」
うんうん、と頷くティナ。
えーっと、別にそんなセンチメンタルな手紙書く訳じゃ無いんだけどね。
「でも、手紙を書くとなると紙がいるわね。
安い紙じゃ届くまでにボロボロになってしまうわ。
羊皮紙が一番良いけれど、少し高いのよね」
「お金ならある程度持ってます。
何処で羊皮紙は買えますか?」
当然のように金の心配はない、と言い張る俺にティナは驚く。
「そうなの?
それじゃ、明日一緒に買い物しますか?
私も買い出しがあるので。
その時に伝書鳩の小屋に寄りましょう」
おぉ、それは有難い!
「是非、お願いします。
まだこの街は出歩いていないので、案内してくれると助かります」
俺がそう言うとティナは微笑んで頷いた。
「それじゃあ明日のお昼前に出掛けましょうか。
朝は私も少し忙しいけれど、昼になったら時間が作れますから」
「わかりました。
よろしくお願いします」
俺はペコリと頭を下げる。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ティナも軽く一礼した後、ではごゆっくり、と一言言って去って行く。
その後、部屋でゆっくり夕食を頂いた。
パスタは絶品だった。
こんな世界でもパスタが食べれるなんて。
幸せである。
夜八時。
また俺は夜中の街を彷徨く事にする。
というのも、リゼットさんやザド探しでえる。
明日は護衛はお休み、と伝えなきゃね。
もっとも、今日ようやく行商から帰ってきた所だし、流石に明日また出発って事は無いだろうけれど、念のためにね。
俺は宿を後にして、以前にザドとリゼットさんがいた酒場へと向かうのだった。
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彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。
敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。
この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。
「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」
無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。
正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
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ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
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なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
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バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
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