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第3章 少年期中編
第28話 奴隷商
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商業地区にて家具を見ていくこと三時間、なんとか生活に必要となりそうな物は揃える事が出来た。
木造のテーブルに椅子、タンス、本棚、食器棚。
お皿やカップ、ナイフとフォークにスプーンも。
そしてこの世界における冷蔵庫、氷冷庫を一つ。
原理は氷冷石を入れる事で、長期間中のものを冷やす事が出来る、というモノだ。
お肉や魚などの生物を保存するには必需品と言える。
それからいくつかの衣服。
それはサリアさんが特に気合いを入れて選んでいた。
あれもこれも似合うー、と俺は着せ替え人形のようになっていた。
リゼットさんが止めてくれなければ時間がいくらあっても足りなかった……。
大きい荷物は明日荷馬車で運んでくれるそうだ。
ともかく、家具や雑貨の買い出しはひと段落。
時間は昼の十二時を回ったところ。
飲食街にて買ったケートベルスト、所謂ホットドックをそれぞれ手に持って、噴水のある広場のベンチで俺達は食事をとった。
しかしこのホットドック、パンが硬ぇ。
これでもかというくらい青野菜や豆も詰め込まれ、長いソーセージが挟まれ独特の風味のあるソースがふんだんにかかっている。
食べにくい上に汚れるが、味はいいし腹も膨れる。
「坊や、ちなみに家で護衛の請負をするにあたって、一人でその事業をまわすのかい?」
隣のリゼットさんが聞いてくる。
「んー、そうですね。
一人でもなんとか頑張ってやってみますよ」
俺は気楽に答えるが、リゼットさんの顔は気難しい顔つきである。
「今までは明確な護衛の順番が無いままやっていたんだろう?
でも、請負をして護衛をする、という事はきっちり日付を気にしながら護衛につかなければならない。
一週間後、とか、四日後、とかバラバラだろう。
それを全て把握し、こなしつつ、家の家事を全てこなすのかい?」
う……。
そうだよな、家を持ったって事はそれをきちんと管理しなきゃだし。
洗濯や掃除、御飯だって自分で用意するんだよな。
今までは宿のティナさんがやってくれてたけど、これからはそうはいかない。
「……ヤバイですね……」
リゼットさんは呆れ顔になる。
「考え深いのやら、計画性がないのやら。わからない子だね」
それを聞いてサリアさんが片手を上げて飛び上がる。
口周りにソースをつけたまま。
「わたしがシンくんのお世話をしましょう!」
俺とリゼットさんは唖然としてサリアさんを見る。
まず、口についたソース拭けよ。
「サリア、お前は掃除も料理も苦手だろう」
リゼットがすかさず呆れ顔で突っ込みを入れる。
うっ!と呻くサリアさん。
「い、いえ、シンくんの為に特訓します!」
「いや、サリアさんはリゼットさんの護衛団の一人なんですから、護衛してて下さいよ」
俺もジト目でサリアさんに言う。
頭を抱えるサリアさん。
「ご、護衛団を辞めてシンくんの家政婦になろうかな!?」
「いや、辞めなくていいです。
ちゃんと護衛して下さい」
「シンくぅん……」
縋り付いて俺を揺するサリアさん。
えーい、揺するな。
「坊や、奴隷を雇うのも考えてみていいんじゃないか?」
リゼットさんが提案してくる。
えー、奴隷?
奴隷とか凄く鬼畜なイメージがする……。
俺はそんな鬼畜ドS野郎じゃないんだけど。
「随分しかめっ面しているが、坊やは奴隷の扱いのイメージが大分悪いのか?
ノエルを見てみろ。
アイツも奴隷だったのを私が雇ったんだぞ」
え、マジか!?
ノエル君奴隷だったの!?
どんな人生歩んでるんだろ……。
今度聞いたら教えてくれるかな。
「そうなんですか。
たしかに、ノエル君は僕のイメージする奴隷とはかなり違います」
それを聞いて頷くサリアさん。
「奴隷も様々だし、主人となる者も様々だ。
とても酷い扱いの奴隷もいれば、貴族の使用人や、要人の護衛を務める奴隷もいる」
へぇ、それは知らなかったな。
「良ければ私の知り合いの奴隷商を紹介するが、どうする?」
「ダメですっ!!」
俺が答えるより先にサリアさんが割って入る。
「そ、それってつまりシンくんの身の周りの世話をする召使い的な人な訳でしょ!?
ダメーッ!絶対ダメよっ!」
「うるさい」
リゼットさんがサリアさんにゲンコツを食らわす。
頭を押さえて涙目になりながらも、俺に縋り付くサリアさん。
「シンくぅん、私が使用人になるからぁ!」
「いや、サリアさんは結構です」
俺がスッパリ切り捨てるとサリアさんは唖然とする。
「場所と名前は……ここに書いてある。
そこに行くといい」
リゼットさんは俺に紙切れを渡すと、サリアさんの首根っこを引っ掴む。
「私達がいたら邪魔になるだろう。
ここでお暇するよ」
それを聞いて、えええっ!と声を上げるサリアさん。
「今日はお世話になりました。
本当に助かりました」
俺は深々と頭を下げる。
「構わないさ。
それじゃあまた。
もろもろ片がついたら、酒場で一杯やろうじゃないか」
そう言ってズルズルとサリアさんを引き摺って去っていくリゼットさん。
サリアさんは悲鳴を上げながら俺の名前を叫んでいた。
恥ずかしい……勘弁してくれ……。
さて、奴隷商、か。
あまりいい響きではないけれど、確かに使用人は魅力的だ。
俺一人では護衛しながら家を綺麗にし続けるのは無理だろう。
掃除苦手だし、嫌いだし……。
話だけでも、聞いてみるかな。
俺はリゼットさんの渡された紙を頼りに歩き出す。
奴隷市場。
そこは今までは立ち寄ったことの無い場所だった。
大通りこそ人も多く、商業地区と変わらないが、細い路地に入れば陰湿な空気を感じる場所に続いている。
想像していたような檻に人が入ってたり、鎖で繋がれてるような人はあまり見かけなかった。
ゼロじゃない、ってのは悲しい所。
こういう世界もある、という事なのだろう。
着いたお店はまるで宿屋のような大きな建物だった。
しかも、割と良い見栄えの建物だ。
看板には“銀の翼”と書かれている。
ここで間違いないな。
俺はその扉をゆっくり開いて中に入った。
「いらっしゃい。
あら?なんとも可愛らしいお客様ね」
そう声をかけて出迎えてくれたのは麗しい女性だった。
黒髪をストレートロングに伸ばし、深緑のドレスを身に纏っている。
歳は三十代って所か?
でも、その身だしなみと肌艶の良さからかなり若く見える。
優しげな目でこちらを見て、艶やかな唇が微笑んでいる。
あれー、入った店を間違えたか?
「え……っと、奴隷商人の、エレノアさん、はここにいますか?」
おずおずと聞いてみる。
「エレノアは私よ。誰かの紹介かしら?」
小首を傾げて尋ねてくるエレノア。
「リゼットさんから、奴隷を雇いたいならここが良いと」
「リゼットの紹介ね。
んーっと……ん?
って事はもしかして君が噂のシン・オルディール君?」
俺を指差して笑いかけてきたので、俺は頷く。
「そうなの!
へぇー、どんな子なのかと思ったら。
あなたの話はリゼットから良く聞いてるわ。
とっても強くて聡明な子だって。
リゼットがあそこまで人を褒めるのはとても珍しいから、凄く興味があったの」
そう言って、こちらへどうぞ、とテーブルのあるソファに促してきた。
俺はそのソファに腰掛けると、エレノアは対面のソファに腰掛ける。
「奴隷商なんてやってる私とは縁が無いと思っていたけれど、意外なものね。
奴隷を買いに来たの?」
「え、ええ……まだ、どうするか決めかねてますけど、話だけでも聞いてみたいと思いまして」
素直にそう答えるとエレノアは満足気に頷く。
「好感が持てるわね。
奴隷買う人って勘違いしてる輩がとても多いのよ。
まるで人を道具や玩具のように扱う連中が、ね。
そういう奴らは大体決まって偉そうにして、奴隷を買う事に躍起になってる。
あなたのように、落ち着いて商談が出来る人じゃなければ私の奴隷は売らないわ」
なるほど。
流石はリゼットさんの紹介。
なかなかできた人のようだ。
でもね、とエレノアは続ける。
「まだあなたとは会ったばかり。
リゼットから話は聞いてるけど、私はあなたの人柄を知りたい。
よく分からない人にはやっぱりうちの奴隷は売れないの。
だから、いくつか質問をさせてもらうわ。
構わないかしら?」
「はい、どうぞ」
俺が短く答えると微笑んで頷く。
「まず、あなたの歳は?」
「十歳です」
「ホントにまだ子供ね。
出身は?」
「産まれた場所はラムリカ村です。
けれど、もうそこは地図にも載ってません。
魔物によって壊滅したので」
それを聞いてエレノアは申し訳なさそうな顔をする。
「ごめんなさいね、辛い事を聞いてしまったかしら……」
「いえいえ。
赤ん坊の頃の話で、その村の事も、両親の事も覚えてません。
拾ってくれたエルフが僕の親代わりとしてエルフの里で育ててくれました」
「エルフに、ね。
その後、どうしたの?」
「僕の親代わりのエルフが以前魔導騎士をやっていたそうで、それに憧れて今もその夢を追っている最中です。
今はまだ子供なので、自分の生活基盤をしっかり作る事から始めてる所ですね」
「それで、商人達の護衛をしながら生活している、と。
なるほどね。
“運び屋”の人生はそういうものだったのね」
茶化すように笑うエレノア。
「その二つ名、恥ずかしいのでやめてもらっていいですか?」
俺は苦笑いしながら言う。
「あら、そう?
私は格好いいと思うわ。
それじゃあ、次に何故奴隷を買おうと思ったのかしら?」
「商人達が僕の泊まっていた宿に押し掛けてくるようになったので、宿を出て家を持つ事にしたんです。
そこで護衛を請け負うつもりなんですが、一人で家事などもこなし切れる程器用ではないので、奴隷という使用人の手を借りたいと思った次第です」
それを聞いて、うんうん、と頷くエレノア。
「なるほど、ね。
どんな奴隷が欲しいのかしら?」
「まずは、読み書きが出来る事と、ある程度教養がある事が最低条件です。
護衛依頼には金勘定も関係するので、計算は出来る人であって欲しい。
あとは、家事が得意である事も重要です。
特に掃除や洗濯ですね。
料理は僕も好きなので、協力しながら出来ますが、その二つは僕は苦手でして……」
「行商の護衛は長い間家をあける事もあるものね。
時間的にも、確かに家事は難しいかもしれないわ。
商人達も奴隷の使用人を持つ者は少なくないもの」
へぇ、そうなのか。
ザドは……多分いないだろうなぁ。
「最後に、これは絶対必要でもないのですが、欲を言えば、という条件です。
戦闘能力が高いと助かります。
護衛は自分一人でも問題ないですが、補助が一人いたらより安全に皆さんを守れますから。
もしそういう人ならば、護衛にも付き添ってもらえる、というだけです」
エレノアは目を閉じて、今言った条件を吟味し、目を開く。
「今言った条件に当てはまるのが、ここにも一人だけ、いるわね。
少し、待っててもらえる?」
俺が頷くと、エレノアは立ち上がって広間から階段を登っていった。
うーん、どうしよ。
勢い任せでここまで来たけど、雇っても大丈夫なのかな?
てか、お金はもう半分無くなってるけど、奴隷っていくらだろ。
そんな事を考えていると、降りてくる足音が二つになる。
そして、エレノアの後ろに付いてくる人が俺の目に映り、近付いてくる。
ショートヘアのライトブラウンの髪はウェーブがかかり、歩く度に僅かに揺れている。
その髪から飛び出してるのは二つの灰色の獣耳。
薄茶のワンピースの服から伸びてるのは、雪のように白く、張りのある肌の細長い手足。
そして後ろには灰色の毛をした太く長い尻尾を揺らしていた。
一目で、人族ではなく獣人族である事がわかる。
そして特徴的なのはその瞳。
左目は鮮やかな天色の瞳で、右目は輝く金色の瞳をしているオッドアイである。
歳の頃はまだ高校生くらいか?
まだ若い。
顔付きはとても整っており、つぶらな瞳でこちらをジッと見つめている。
その容姿に、その瞳に、俺も目が奪われる。
「お待たせ。
この娘の名前はアネッサ・エルフィン。
獣人族の中でも特に希少な狼人族よ」
エレノアはそう言って紹介する。
「アネッサ、こちらの方はシン・オルディール。
見た目以上にしっかりしている子よ。
ご挨拶を」
エレノアが促すと、アネッサは一礼する。
「狼人族のアネッサです。
え、と……シン様」
俺も立ち上がり、一礼する。
「はじめまして。
シン・オルディールです」
俺が手を差し出すと、一瞬戸惑ったような動きをするが、ソッと手を差し出して俺の手を軽く握った。
冷たくて、柔らかい。
「アネッサは二ヶ月前に外で保護したの。
とても聡明で、礼儀正しいわ。
読み書きも計算も出来るし、一通りの家事もこなせる。
獣人族だけあって、身体能力には文句の付け所はないはずよ」
エレノアはアネッサの頭を優しく撫でながらそう言った。
「ステータスを確認しても?」
俺が尋ねると目を見開いて驚くエレノア。
「出来るの?
凄い子ね、本当に。
どうぞ、見ても構わないわ」
許可されたので、ステータス鑑定を試みる。
すると、アネッサがピクッと反応した。
わかるのか。
名称:アネッサ・エルフィン
性別:女
種族:狼人族
身体能力
レベル:65
体力:9840
マナ:200
魔力:130
筋力:6420
耐久:3960
俊敏:7320
特性
・幻獣の憑代 ・格闘術特化 ・剣術特化 ・爪術特化 ・聴覚、嗅覚精良
スキル
・生体感知lv.6 ・魔力感知lv.5 ・気配遮断lv.7 ・剣術lv.9 ・格闘術lv.MAX ・爪牙術lv.MAX 状態異常耐性lv.9
・獣化 ・本能覚醒 ・思考速度高速化 ・高速自然治癒 ・瞬動 ・虚空瞬動 ・遠視 ・暗視 ・広域視野 ・多重補足 ・致命の一撃 ・対話術
【特性:幻獣の憑代】
その身に幻獣の力を宿す者。
「すごい……」
思わず声が出る。
マジかよ。
魔法や身体強化抜きなら俺とタメ張る強さじゃないのか?
バケモノと俺も呼ばれてるが、この娘もまた同等だ。
だが……。
「幻獣の憑代、とは何ですか?」
鑑定の説明ではまだわからなかった。
すると、アネッサは俯き、エレノアも眉間にしわを寄せて難しい顔をする。
「それが、この娘の最大の欠点よ。
彼女は身体に怪物を飼っている。
いえ……潜んでいる、と言った方が良いかしら」
エレノアは俺の対面に座り、アネッサもまたその隣に座る。
俺も腰を下ろした。
「少し、話が長くなるけれど、いいかしら?
彼女を受け入れるかどうかは、その後決めて。
アネッサも、彼を主人と認めるかは、自分で見定めなさい」
エレノアは俺とアネッサを交互に見て、そう言った。
木造のテーブルに椅子、タンス、本棚、食器棚。
お皿やカップ、ナイフとフォークにスプーンも。
そしてこの世界における冷蔵庫、氷冷庫を一つ。
原理は氷冷石を入れる事で、長期間中のものを冷やす事が出来る、というモノだ。
お肉や魚などの生物を保存するには必需品と言える。
それからいくつかの衣服。
それはサリアさんが特に気合いを入れて選んでいた。
あれもこれも似合うー、と俺は着せ替え人形のようになっていた。
リゼットさんが止めてくれなければ時間がいくらあっても足りなかった……。
大きい荷物は明日荷馬車で運んでくれるそうだ。
ともかく、家具や雑貨の買い出しはひと段落。
時間は昼の十二時を回ったところ。
飲食街にて買ったケートベルスト、所謂ホットドックをそれぞれ手に持って、噴水のある広場のベンチで俺達は食事をとった。
しかしこのホットドック、パンが硬ぇ。
これでもかというくらい青野菜や豆も詰め込まれ、長いソーセージが挟まれ独特の風味のあるソースがふんだんにかかっている。
食べにくい上に汚れるが、味はいいし腹も膨れる。
「坊や、ちなみに家で護衛の請負をするにあたって、一人でその事業をまわすのかい?」
隣のリゼットさんが聞いてくる。
「んー、そうですね。
一人でもなんとか頑張ってやってみますよ」
俺は気楽に答えるが、リゼットさんの顔は気難しい顔つきである。
「今までは明確な護衛の順番が無いままやっていたんだろう?
でも、請負をして護衛をする、という事はきっちり日付を気にしながら護衛につかなければならない。
一週間後、とか、四日後、とかバラバラだろう。
それを全て把握し、こなしつつ、家の家事を全てこなすのかい?」
う……。
そうだよな、家を持ったって事はそれをきちんと管理しなきゃだし。
洗濯や掃除、御飯だって自分で用意するんだよな。
今までは宿のティナさんがやってくれてたけど、これからはそうはいかない。
「……ヤバイですね……」
リゼットさんは呆れ顔になる。
「考え深いのやら、計画性がないのやら。わからない子だね」
それを聞いてサリアさんが片手を上げて飛び上がる。
口周りにソースをつけたまま。
「わたしがシンくんのお世話をしましょう!」
俺とリゼットさんは唖然としてサリアさんを見る。
まず、口についたソース拭けよ。
「サリア、お前は掃除も料理も苦手だろう」
リゼットがすかさず呆れ顔で突っ込みを入れる。
うっ!と呻くサリアさん。
「い、いえ、シンくんの為に特訓します!」
「いや、サリアさんはリゼットさんの護衛団の一人なんですから、護衛してて下さいよ」
俺もジト目でサリアさんに言う。
頭を抱えるサリアさん。
「ご、護衛団を辞めてシンくんの家政婦になろうかな!?」
「いや、辞めなくていいです。
ちゃんと護衛して下さい」
「シンくぅん……」
縋り付いて俺を揺するサリアさん。
えーい、揺するな。
「坊や、奴隷を雇うのも考えてみていいんじゃないか?」
リゼットさんが提案してくる。
えー、奴隷?
奴隷とか凄く鬼畜なイメージがする……。
俺はそんな鬼畜ドS野郎じゃないんだけど。
「随分しかめっ面しているが、坊やは奴隷の扱いのイメージが大分悪いのか?
ノエルを見てみろ。
アイツも奴隷だったのを私が雇ったんだぞ」
え、マジか!?
ノエル君奴隷だったの!?
どんな人生歩んでるんだろ……。
今度聞いたら教えてくれるかな。
「そうなんですか。
たしかに、ノエル君は僕のイメージする奴隷とはかなり違います」
それを聞いて頷くサリアさん。
「奴隷も様々だし、主人となる者も様々だ。
とても酷い扱いの奴隷もいれば、貴族の使用人や、要人の護衛を務める奴隷もいる」
へぇ、それは知らなかったな。
「良ければ私の知り合いの奴隷商を紹介するが、どうする?」
「ダメですっ!!」
俺が答えるより先にサリアさんが割って入る。
「そ、それってつまりシンくんの身の周りの世話をする召使い的な人な訳でしょ!?
ダメーッ!絶対ダメよっ!」
「うるさい」
リゼットさんがサリアさんにゲンコツを食らわす。
頭を押さえて涙目になりながらも、俺に縋り付くサリアさん。
「シンくぅん、私が使用人になるからぁ!」
「いや、サリアさんは結構です」
俺がスッパリ切り捨てるとサリアさんは唖然とする。
「場所と名前は……ここに書いてある。
そこに行くといい」
リゼットさんは俺に紙切れを渡すと、サリアさんの首根っこを引っ掴む。
「私達がいたら邪魔になるだろう。
ここでお暇するよ」
それを聞いて、えええっ!と声を上げるサリアさん。
「今日はお世話になりました。
本当に助かりました」
俺は深々と頭を下げる。
「構わないさ。
それじゃあまた。
もろもろ片がついたら、酒場で一杯やろうじゃないか」
そう言ってズルズルとサリアさんを引き摺って去っていくリゼットさん。
サリアさんは悲鳴を上げながら俺の名前を叫んでいた。
恥ずかしい……勘弁してくれ……。
さて、奴隷商、か。
あまりいい響きではないけれど、確かに使用人は魅力的だ。
俺一人では護衛しながら家を綺麗にし続けるのは無理だろう。
掃除苦手だし、嫌いだし……。
話だけでも、聞いてみるかな。
俺はリゼットさんの渡された紙を頼りに歩き出す。
奴隷市場。
そこは今までは立ち寄ったことの無い場所だった。
大通りこそ人も多く、商業地区と変わらないが、細い路地に入れば陰湿な空気を感じる場所に続いている。
想像していたような檻に人が入ってたり、鎖で繋がれてるような人はあまり見かけなかった。
ゼロじゃない、ってのは悲しい所。
こういう世界もある、という事なのだろう。
着いたお店はまるで宿屋のような大きな建物だった。
しかも、割と良い見栄えの建物だ。
看板には“銀の翼”と書かれている。
ここで間違いないな。
俺はその扉をゆっくり開いて中に入った。
「いらっしゃい。
あら?なんとも可愛らしいお客様ね」
そう声をかけて出迎えてくれたのは麗しい女性だった。
黒髪をストレートロングに伸ばし、深緑のドレスを身に纏っている。
歳は三十代って所か?
でも、その身だしなみと肌艶の良さからかなり若く見える。
優しげな目でこちらを見て、艶やかな唇が微笑んでいる。
あれー、入った店を間違えたか?
「え……っと、奴隷商人の、エレノアさん、はここにいますか?」
おずおずと聞いてみる。
「エレノアは私よ。誰かの紹介かしら?」
小首を傾げて尋ねてくるエレノア。
「リゼットさんから、奴隷を雇いたいならここが良いと」
「リゼットの紹介ね。
んーっと……ん?
って事はもしかして君が噂のシン・オルディール君?」
俺を指差して笑いかけてきたので、俺は頷く。
「そうなの!
へぇー、どんな子なのかと思ったら。
あなたの話はリゼットから良く聞いてるわ。
とっても強くて聡明な子だって。
リゼットがあそこまで人を褒めるのはとても珍しいから、凄く興味があったの」
そう言って、こちらへどうぞ、とテーブルのあるソファに促してきた。
俺はそのソファに腰掛けると、エレノアは対面のソファに腰掛ける。
「奴隷商なんてやってる私とは縁が無いと思っていたけれど、意外なものね。
奴隷を買いに来たの?」
「え、ええ……まだ、どうするか決めかねてますけど、話だけでも聞いてみたいと思いまして」
素直にそう答えるとエレノアは満足気に頷く。
「好感が持てるわね。
奴隷買う人って勘違いしてる輩がとても多いのよ。
まるで人を道具や玩具のように扱う連中が、ね。
そういう奴らは大体決まって偉そうにして、奴隷を買う事に躍起になってる。
あなたのように、落ち着いて商談が出来る人じゃなければ私の奴隷は売らないわ」
なるほど。
流石はリゼットさんの紹介。
なかなかできた人のようだ。
でもね、とエレノアは続ける。
「まだあなたとは会ったばかり。
リゼットから話は聞いてるけど、私はあなたの人柄を知りたい。
よく分からない人にはやっぱりうちの奴隷は売れないの。
だから、いくつか質問をさせてもらうわ。
構わないかしら?」
「はい、どうぞ」
俺が短く答えると微笑んで頷く。
「まず、あなたの歳は?」
「十歳です」
「ホントにまだ子供ね。
出身は?」
「産まれた場所はラムリカ村です。
けれど、もうそこは地図にも載ってません。
魔物によって壊滅したので」
それを聞いてエレノアは申し訳なさそうな顔をする。
「ごめんなさいね、辛い事を聞いてしまったかしら……」
「いえいえ。
赤ん坊の頃の話で、その村の事も、両親の事も覚えてません。
拾ってくれたエルフが僕の親代わりとしてエルフの里で育ててくれました」
「エルフに、ね。
その後、どうしたの?」
「僕の親代わりのエルフが以前魔導騎士をやっていたそうで、それに憧れて今もその夢を追っている最中です。
今はまだ子供なので、自分の生活基盤をしっかり作る事から始めてる所ですね」
「それで、商人達の護衛をしながら生活している、と。
なるほどね。
“運び屋”の人生はそういうものだったのね」
茶化すように笑うエレノア。
「その二つ名、恥ずかしいのでやめてもらっていいですか?」
俺は苦笑いしながら言う。
「あら、そう?
私は格好いいと思うわ。
それじゃあ、次に何故奴隷を買おうと思ったのかしら?」
「商人達が僕の泊まっていた宿に押し掛けてくるようになったので、宿を出て家を持つ事にしたんです。
そこで護衛を請け負うつもりなんですが、一人で家事などもこなし切れる程器用ではないので、奴隷という使用人の手を借りたいと思った次第です」
それを聞いて、うんうん、と頷くエレノア。
「なるほど、ね。
どんな奴隷が欲しいのかしら?」
「まずは、読み書きが出来る事と、ある程度教養がある事が最低条件です。
護衛依頼には金勘定も関係するので、計算は出来る人であって欲しい。
あとは、家事が得意である事も重要です。
特に掃除や洗濯ですね。
料理は僕も好きなので、協力しながら出来ますが、その二つは僕は苦手でして……」
「行商の護衛は長い間家をあける事もあるものね。
時間的にも、確かに家事は難しいかもしれないわ。
商人達も奴隷の使用人を持つ者は少なくないもの」
へぇ、そうなのか。
ザドは……多分いないだろうなぁ。
「最後に、これは絶対必要でもないのですが、欲を言えば、という条件です。
戦闘能力が高いと助かります。
護衛は自分一人でも問題ないですが、補助が一人いたらより安全に皆さんを守れますから。
もしそういう人ならば、護衛にも付き添ってもらえる、というだけです」
エレノアは目を閉じて、今言った条件を吟味し、目を開く。
「今言った条件に当てはまるのが、ここにも一人だけ、いるわね。
少し、待っててもらえる?」
俺が頷くと、エレノアは立ち上がって広間から階段を登っていった。
うーん、どうしよ。
勢い任せでここまで来たけど、雇っても大丈夫なのかな?
てか、お金はもう半分無くなってるけど、奴隷っていくらだろ。
そんな事を考えていると、降りてくる足音が二つになる。
そして、エレノアの後ろに付いてくる人が俺の目に映り、近付いてくる。
ショートヘアのライトブラウンの髪はウェーブがかかり、歩く度に僅かに揺れている。
その髪から飛び出してるのは二つの灰色の獣耳。
薄茶のワンピースの服から伸びてるのは、雪のように白く、張りのある肌の細長い手足。
そして後ろには灰色の毛をした太く長い尻尾を揺らしていた。
一目で、人族ではなく獣人族である事がわかる。
そして特徴的なのはその瞳。
左目は鮮やかな天色の瞳で、右目は輝く金色の瞳をしているオッドアイである。
歳の頃はまだ高校生くらいか?
まだ若い。
顔付きはとても整っており、つぶらな瞳でこちらをジッと見つめている。
その容姿に、その瞳に、俺も目が奪われる。
「お待たせ。
この娘の名前はアネッサ・エルフィン。
獣人族の中でも特に希少な狼人族よ」
エレノアはそう言って紹介する。
「アネッサ、こちらの方はシン・オルディール。
見た目以上にしっかりしている子よ。
ご挨拶を」
エレノアが促すと、アネッサは一礼する。
「狼人族のアネッサです。
え、と……シン様」
俺も立ち上がり、一礼する。
「はじめまして。
シン・オルディールです」
俺が手を差し出すと、一瞬戸惑ったような動きをするが、ソッと手を差し出して俺の手を軽く握った。
冷たくて、柔らかい。
「アネッサは二ヶ月前に外で保護したの。
とても聡明で、礼儀正しいわ。
読み書きも計算も出来るし、一通りの家事もこなせる。
獣人族だけあって、身体能力には文句の付け所はないはずよ」
エレノアはアネッサの頭を優しく撫でながらそう言った。
「ステータスを確認しても?」
俺が尋ねると目を見開いて驚くエレノア。
「出来るの?
凄い子ね、本当に。
どうぞ、見ても構わないわ」
許可されたので、ステータス鑑定を試みる。
すると、アネッサがピクッと反応した。
わかるのか。
名称:アネッサ・エルフィン
性別:女
種族:狼人族
身体能力
レベル:65
体力:9840
マナ:200
魔力:130
筋力:6420
耐久:3960
俊敏:7320
特性
・幻獣の憑代 ・格闘術特化 ・剣術特化 ・爪術特化 ・聴覚、嗅覚精良
スキル
・生体感知lv.6 ・魔力感知lv.5 ・気配遮断lv.7 ・剣術lv.9 ・格闘術lv.MAX ・爪牙術lv.MAX 状態異常耐性lv.9
・獣化 ・本能覚醒 ・思考速度高速化 ・高速自然治癒 ・瞬動 ・虚空瞬動 ・遠視 ・暗視 ・広域視野 ・多重補足 ・致命の一撃 ・対話術
【特性:幻獣の憑代】
その身に幻獣の力を宿す者。
「すごい……」
思わず声が出る。
マジかよ。
魔法や身体強化抜きなら俺とタメ張る強さじゃないのか?
バケモノと俺も呼ばれてるが、この娘もまた同等だ。
だが……。
「幻獣の憑代、とは何ですか?」
鑑定の説明ではまだわからなかった。
すると、アネッサは俯き、エレノアも眉間にしわを寄せて難しい顔をする。
「それが、この娘の最大の欠点よ。
彼女は身体に怪物を飼っている。
いえ……潜んでいる、と言った方が良いかしら」
エレノアは俺の対面に座り、アネッサもまたその隣に座る。
俺も腰を下ろした。
「少し、話が長くなるけれど、いいかしら?
彼女を受け入れるかどうかは、その後決めて。
アネッサも、彼を主人と認めるかは、自分で見定めなさい」
エレノアは俺とアネッサを交互に見て、そう言った。
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