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第3章 少年期中編
第35話 盗賊の砦
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俺は家を飛び出した後、ジーナスの門を抜け、大きく跳躍する。
風を纏い、一気に上空へと飛び上がる。
そして宙に浮いたまま懐中時計を開き、方角を確認する。
西は……あっちか。
そこから一気に急加速する。
目指すはアルディス山脈のふもと。
そこの谷に砦はあるという話。
俺は速度をどんどん上げていく。
とにかく早く決着をつけ、家に帰ろう。
アネッサのあの様子じゃブラッドムーンの晩は一人でいるつもりだろう。
まだアネッサは納得していなかったはずだ。
空も飛ばずに遠くに行くのなら、明日にはきっとジーナスを発つはず。
アネッサがいなくなる前に、家に帰らなくては。
食事も摂らず、休む事もせず、マナ変換のみで身体を満たして俺は進む。
空中を高速で移動し、半日とかからずアルディス山脈が見えてきた。
俺は速度を緩め、山のふもとを眺める。
山と山の間になっている谷を目を凝らして眺めていると、山と繋がっている石造りの砦を見つけた。
すぐさま俺は上空から接近し、生体感知の感度を高める。
砦の周りに生体四。
中から二十八。
更に、あの山と繋がっている奥からも生体を感じ取った。
つまり、洞窟がある?
砦を壊すだけじゃ済まない訳か。
俺は自分の気配を極限まで薄くせる。
そしてゆっくり降下し、砦の屋上に足をつけ、物陰に身を隠す。
砦の屋上には一人のバンダナを巻いた男が欠伸をしながら周辺を見回している。
間の抜けた見張りである。
俺はソッと背後から近付き、口を押さえて雷撃を食らわせる。
白目を向いて倒れる盗賊。
俺はそいつを音を立てないよう床に寝かせて扉から屋内に入って行く。
扉を開くとすぐに階段があった。
そして静かに階段を降りて行くと、広めの部屋にベッドがいくつか並べて置いてあった。
その上で横たわっているのは手枷をつけられた三人の女性の姿。
俺は慌てて近寄り、息を確かめる。
かなり弱っているが、まだ生きている。
しかし全身アザだらけで、服も乱暴に破かれている。
それは酷い姿だった。
その女性の視線がゆっくり動き、俺を見ると小さく悲鳴を上げる。
「助けに来ました。
もう、大丈夫ですから……」
俺は声を抑えてそう話しかけ、その背中を優しく撫でて、ヒールをかける。
そして唇に人差し指をあて、声を出さないように、と合図する。
女性は震えながら頷いた。
他二人の女性も気を失っていたが、息はある。
全員にヒールをかけ、応急処置はしておく。
俺は腹わたが煮えくり返る思いだった。
一度目を閉じて一呼吸おき、目を開く。
その瞳には怒りの炎を宿していた。
あぁ、俺は間違ってたな、と思う。
そしてゆっくり立ち上がり、降りてきた階段を上って屋上に出る。
そこには意識を失った盗賊の男がいる。
俺は片手に魔素を集め、風刃の刀、嵐丸を構築する。
その刀を振り上げ、その首を容赦なく一閃した。
肉と骨を切り裂く嫌な感覚が手に伝わってくる。
しかし、殺しに対する罪悪感は無かった。
返り血が服と頬についたが、それも気にしない。
あるのは奴等に対する純粋な怒り。
コイツら全員、一人たりとも逃してなるものか。
その命をもって、やった事の代償を払ってもらう。
もう片手にも嵐丸を構築し、両手にそれぞれ握り締める。
屋上から下を眺めれば、外からの入り口と思わしき扉の前に、門番役のような二人の盗賊がいた。
その真上から俺は飛び降りて、勢いそのままに二本の刀で二人の男の頭を真上から貫かせる。
脳天から顎まで鋭い刃が突き抜けた。
声も出せずに絶命する二人の盗賊。
そしてもう一人、丁度外を巡回していた盗賊がこちらへと向かってきていたので、アイシクルジャベリンを構築し、投げ放つ。
真っ直ぐ心臓を貫いて、その身体を凍らせた。
これで外の奴らは全滅。
次は中だ。
俺は堂々と入り口から入ると、そこそこ大きめの広間に出た。
いくつかテーブルがあり、そこを盗賊達が囲んでいた。
テーブルの上には金貨や銀貨、そして銅貨が散らばり、食い散らかした食べ物や飲み物が散乱していた。
気配遮断をしている俺には誰も気づかない。
しかし、数は八つ。
俺は嵐丸を再度二つ構築する。
まず一番近いテーブルに座る男二人の首を一度に刎ねあげる。
その向かいに座っていた男がその光景に目を見開く。
声を上げる前にその喉に刃を突き刺し、声を潰す。
即座に引き抜き、俺は地を駆けて隣のテーブルにいる三人に向かう。
こちらも隣のテーブルの異変に驚き立ち上がる所だったが、既に俺は彼等の目の前にいる。
まずは一人、股間から頭まで切り上げて両断し、そのまま隣の男を振り下ろした刃が頭をかち割った。
その男を蹴り飛ばし、奥の男にぶつけてよろめいた所を俺も飛び掛かり、倒れ込む男の眉間に刃を突き刺した。
この部屋は残り二人。
ここまで暴れたら流石に残りの二人は俺を視認するが、既に六人惨殺されている事に驚き思考がついていっていない様子。
俺は無表情で二本の刀を投げ飛ばし、二人の男の頭が貫いた。
雑魚だ。
反応も遅いし動きも悪い。
やはりこんな奴らが村を簡単に襲い続けれる訳はない。
何か、裏がある。
俺は頬にベットリと着いた返り血を袖で拭い、奥へと歩き出す。
砦の中に少しは罠でもあるかと警戒していたが、何もなかった。
代わりに何の力もないような盗賊と十数人遭遇し、出会った端から瞬殺していく。
一人も容赦なく、躊躇もなく、その命を散らしていく。
そして更に奥へと進むと、洞窟へと繋がる扉の前に来た。
奥からは生体反応がある。
俺はゆっくりとその扉を開く。
中を覗き込むが、奥は暗くて見えない。
しかし、何かはいる。
俺は一歩づつ慎重に中へと踏み入り奥へ進む。
すると、声がした。
「どうやら、ようやく討伐隊のお出まし、といった所か」
洞窟の奥から声がした。
次の瞬間、風切り音が近付き咄嗟に身を躱す。
頬を何かが掠め、ツーっと血が流れる。
「今のを避けるか。
単独で突入するあたり、なかなか腕が立つ奴がきたようだ」
奥の暗闇から声がする。
俺は目には頼らず、生体感知にて相手の位置を特定する。
そいつは前方百メートルほど先にいるようだ。
生体反応は一つ。
敵が一人ならば、人質の村人もいない。
それなら魔法で巻き込む事もあるまい。
俺は両手に魔法陣を展開し、炎を作り出す。
そこから放たれるのは地を走る火炎の波。
フレイムウェイブである。
真っすぐに正面の敵へと走り出し、その炎が洞窟の中を照らし出す。
その瞬間、俺は目を見開いた。
なんと天井の至る所に爆岩石が埋め込まれていたからだ。
爆岩石は所謂ダイナマイトと同じような火薬の鉱石。
俺は慌てて火炎魔法を解除し、地を走る炎を止める。
幸い地面から天井までの距離があった為、引火はしなかった。
しかし俺は安堵する間もなく身体昇華にて自身を強化させ、魔法を展開させる。
前方を見れば残った炎が奥にいる敵を照らし出していた。
そこには木の椅子に足を組んで腰掛けている男が一人。
真っ黒なローブを纏い、片手に巻物を広げ、もう片手には爆岩石を握っていた。
フードを深くかぶっており、顔を確認する事ができない。
「集団で来ることを期待したが、な。
しかしたった一人でここまで辿り着く精鋭なら、ここで潰しておくべきだろう」
そう言って広げられた巻物が紫の炎と共に燃え始め、男の姿が掻き消える。
アイツ、スクロールを使ってテレポートしたのかっ!
そして燃えながらスクロールがヒラヒラ舞い落ち、同時に爆岩石も男の手の支えを失い地面に落ちる。
その瞬間、爆岩石が眩い光を放ち、爆音を響かせて爆発する。
その爆発は天井の爆岩石にも衝撃が伝わり連鎖して爆発していく。
即座に展開していた雷魔法を身に纏い、そのまま身体を紫雷に変えて雷速で後退する。
俺は入ってきた扉をぶち破り、そのまま砦の中へと突っ込んでいく。
洞窟からは爆風と熱風が噴き出し、その衝撃で砦が大きく揺れる。
ただの石作りの砦は強い衝撃に耐えられず、亀裂が入りだし壁や天井が崩れだす。
俺は息をつく間もなく風を纏い、上層にいる女性たちのもとへと向かう。
もうこの砦は今にも崩れ落ちそうであった。
女性達のいる部屋へと辿り着くと、彼女たちは一つのベッドに身を寄せて目を瞑っていた。
不幸中の幸いなのか、気を失った二人も目を覚ましている。
とは言え、ここから全員を背負って外に運ぶ事は出来ない。
他の方法を即座に思案し、念の為生体反応で周囲に誰もいないかを確認しながら俺は彼女達の目の前に立つ。
彼女達は絶望した瞳で俺を見る。
そんな彼女達の服を俺は掴み、声を張り上げる。
「僕を掴んで絶対に離さないで下さい!いいですね!?」
彼女達は頷いたか、それを確認する前に目を閉じ魔力を込める。
その直後、俺のローブをしっかりと握ってくれる感触が伝わった。
それと同時に、俺の足元に魔法陣が展開し、魔力が一気に開放される。
俺を中心とし、暴風が吹き荒れ周囲のものを一気に吹き飛ばす。
風属性の極大魔法、エアリアルロア。
球体の暴風は瞬く間に広がり、触れる物全てを弾き飛ばし、粉砕する。
これは瞬間的ではあるが、あらゆる遠距離攻撃を吹き飛ばせる力を持つ暴風の盾。
そこにシンの強靭な魔力が加わり、みるみる球体の暴風は膨張していき、砦全てを吹き飛ばした。
その光景に驚愕の表情を浮かべる三人の女性。
宙に浮く俺達四人を残して、辺り一面が更地と化した。
彼女達を落とさないよう俺も短い腕で抱きかかえながら、ゆっくりと降下していく。
「き、君は……一体……」
地に足をつけると、枯れた声でそう口にしたのは最初に声をかけた女性だった。
「……僕はジーナスより派遣された魔導士です。
助けが遅くなり、申し訳ありませんでした……」
俺は深々と頭を下げた。
しかし、彼女達は俺を責める事もなく、一人、また一人と優しく抱きしめてきた。
その反応に、俺は泣き出しそうで、頭をあげる事が出来なかった。
命を助ける事が出来た。
けれど、彼女達は一生消えない傷を背負った事だろう。
そして、命を救えなかった村人も大勢いた事だろう。
その現実が、その悔しさが、俺の心に突き刺さった。
そして、あの砦を指揮していたであろう男は取り逃がした。
俺は悔しさに手を握りしめる。
彼女達をそこに置き去りには出来ない為、そこから一番近くの村まで送り届ける事にした。
三人引き渡すまでに時間がみるみる過ぎていき、終わった頃には日付も変わり深夜になっていた。
空を見上げれば真紅の月がまた昨日より一回り大きく見えた。
今夜もアネッサがうなされているかと思うと、胸が締め付けられる思いもあった。
俺は休む事なく、送り届けた村を後にする。
無言で立ち去る俺に、砦で俺が最初に声をかけた女性は深く頭を下げていた。
風を纏い、一気に上空へと飛び上がる。
そして宙に浮いたまま懐中時計を開き、方角を確認する。
西は……あっちか。
そこから一気に急加速する。
目指すはアルディス山脈のふもと。
そこの谷に砦はあるという話。
俺は速度をどんどん上げていく。
とにかく早く決着をつけ、家に帰ろう。
アネッサのあの様子じゃブラッドムーンの晩は一人でいるつもりだろう。
まだアネッサは納得していなかったはずだ。
空も飛ばずに遠くに行くのなら、明日にはきっとジーナスを発つはず。
アネッサがいなくなる前に、家に帰らなくては。
食事も摂らず、休む事もせず、マナ変換のみで身体を満たして俺は進む。
空中を高速で移動し、半日とかからずアルディス山脈が見えてきた。
俺は速度を緩め、山のふもとを眺める。
山と山の間になっている谷を目を凝らして眺めていると、山と繋がっている石造りの砦を見つけた。
すぐさま俺は上空から接近し、生体感知の感度を高める。
砦の周りに生体四。
中から二十八。
更に、あの山と繋がっている奥からも生体を感じ取った。
つまり、洞窟がある?
砦を壊すだけじゃ済まない訳か。
俺は自分の気配を極限まで薄くせる。
そしてゆっくり降下し、砦の屋上に足をつけ、物陰に身を隠す。
砦の屋上には一人のバンダナを巻いた男が欠伸をしながら周辺を見回している。
間の抜けた見張りである。
俺はソッと背後から近付き、口を押さえて雷撃を食らわせる。
白目を向いて倒れる盗賊。
俺はそいつを音を立てないよう床に寝かせて扉から屋内に入って行く。
扉を開くとすぐに階段があった。
そして静かに階段を降りて行くと、広めの部屋にベッドがいくつか並べて置いてあった。
その上で横たわっているのは手枷をつけられた三人の女性の姿。
俺は慌てて近寄り、息を確かめる。
かなり弱っているが、まだ生きている。
しかし全身アザだらけで、服も乱暴に破かれている。
それは酷い姿だった。
その女性の視線がゆっくり動き、俺を見ると小さく悲鳴を上げる。
「助けに来ました。
もう、大丈夫ですから……」
俺は声を抑えてそう話しかけ、その背中を優しく撫でて、ヒールをかける。
そして唇に人差し指をあて、声を出さないように、と合図する。
女性は震えながら頷いた。
他二人の女性も気を失っていたが、息はある。
全員にヒールをかけ、応急処置はしておく。
俺は腹わたが煮えくり返る思いだった。
一度目を閉じて一呼吸おき、目を開く。
その瞳には怒りの炎を宿していた。
あぁ、俺は間違ってたな、と思う。
そしてゆっくり立ち上がり、降りてきた階段を上って屋上に出る。
そこには意識を失った盗賊の男がいる。
俺は片手に魔素を集め、風刃の刀、嵐丸を構築する。
その刀を振り上げ、その首を容赦なく一閃した。
肉と骨を切り裂く嫌な感覚が手に伝わってくる。
しかし、殺しに対する罪悪感は無かった。
返り血が服と頬についたが、それも気にしない。
あるのは奴等に対する純粋な怒り。
コイツら全員、一人たりとも逃してなるものか。
その命をもって、やった事の代償を払ってもらう。
もう片手にも嵐丸を構築し、両手にそれぞれ握り締める。
屋上から下を眺めれば、外からの入り口と思わしき扉の前に、門番役のような二人の盗賊がいた。
その真上から俺は飛び降りて、勢いそのままに二本の刀で二人の男の頭を真上から貫かせる。
脳天から顎まで鋭い刃が突き抜けた。
声も出せずに絶命する二人の盗賊。
そしてもう一人、丁度外を巡回していた盗賊がこちらへと向かってきていたので、アイシクルジャベリンを構築し、投げ放つ。
真っ直ぐ心臓を貫いて、その身体を凍らせた。
これで外の奴らは全滅。
次は中だ。
俺は堂々と入り口から入ると、そこそこ大きめの広間に出た。
いくつかテーブルがあり、そこを盗賊達が囲んでいた。
テーブルの上には金貨や銀貨、そして銅貨が散らばり、食い散らかした食べ物や飲み物が散乱していた。
気配遮断をしている俺には誰も気づかない。
しかし、数は八つ。
俺は嵐丸を再度二つ構築する。
まず一番近いテーブルに座る男二人の首を一度に刎ねあげる。
その向かいに座っていた男がその光景に目を見開く。
声を上げる前にその喉に刃を突き刺し、声を潰す。
即座に引き抜き、俺は地を駆けて隣のテーブルにいる三人に向かう。
こちらも隣のテーブルの異変に驚き立ち上がる所だったが、既に俺は彼等の目の前にいる。
まずは一人、股間から頭まで切り上げて両断し、そのまま隣の男を振り下ろした刃が頭をかち割った。
その男を蹴り飛ばし、奥の男にぶつけてよろめいた所を俺も飛び掛かり、倒れ込む男の眉間に刃を突き刺した。
この部屋は残り二人。
ここまで暴れたら流石に残りの二人は俺を視認するが、既に六人惨殺されている事に驚き思考がついていっていない様子。
俺は無表情で二本の刀を投げ飛ばし、二人の男の頭が貫いた。
雑魚だ。
反応も遅いし動きも悪い。
やはりこんな奴らが村を簡単に襲い続けれる訳はない。
何か、裏がある。
俺は頬にベットリと着いた返り血を袖で拭い、奥へと歩き出す。
砦の中に少しは罠でもあるかと警戒していたが、何もなかった。
代わりに何の力もないような盗賊と十数人遭遇し、出会った端から瞬殺していく。
一人も容赦なく、躊躇もなく、その命を散らしていく。
そして更に奥へと進むと、洞窟へと繋がる扉の前に来た。
奥からは生体反応がある。
俺はゆっくりとその扉を開く。
中を覗き込むが、奥は暗くて見えない。
しかし、何かはいる。
俺は一歩づつ慎重に中へと踏み入り奥へ進む。
すると、声がした。
「どうやら、ようやく討伐隊のお出まし、といった所か」
洞窟の奥から声がした。
次の瞬間、風切り音が近付き咄嗟に身を躱す。
頬を何かが掠め、ツーっと血が流れる。
「今のを避けるか。
単独で突入するあたり、なかなか腕が立つ奴がきたようだ」
奥の暗闇から声がする。
俺は目には頼らず、生体感知にて相手の位置を特定する。
そいつは前方百メートルほど先にいるようだ。
生体反応は一つ。
敵が一人ならば、人質の村人もいない。
それなら魔法で巻き込む事もあるまい。
俺は両手に魔法陣を展開し、炎を作り出す。
そこから放たれるのは地を走る火炎の波。
フレイムウェイブである。
真っすぐに正面の敵へと走り出し、その炎が洞窟の中を照らし出す。
その瞬間、俺は目を見開いた。
なんと天井の至る所に爆岩石が埋め込まれていたからだ。
爆岩石は所謂ダイナマイトと同じような火薬の鉱石。
俺は慌てて火炎魔法を解除し、地を走る炎を止める。
幸い地面から天井までの距離があった為、引火はしなかった。
しかし俺は安堵する間もなく身体昇華にて自身を強化させ、魔法を展開させる。
前方を見れば残った炎が奥にいる敵を照らし出していた。
そこには木の椅子に足を組んで腰掛けている男が一人。
真っ黒なローブを纏い、片手に巻物を広げ、もう片手には爆岩石を握っていた。
フードを深くかぶっており、顔を確認する事ができない。
「集団で来ることを期待したが、な。
しかしたった一人でここまで辿り着く精鋭なら、ここで潰しておくべきだろう」
そう言って広げられた巻物が紫の炎と共に燃え始め、男の姿が掻き消える。
アイツ、スクロールを使ってテレポートしたのかっ!
そして燃えながらスクロールがヒラヒラ舞い落ち、同時に爆岩石も男の手の支えを失い地面に落ちる。
その瞬間、爆岩石が眩い光を放ち、爆音を響かせて爆発する。
その爆発は天井の爆岩石にも衝撃が伝わり連鎖して爆発していく。
即座に展開していた雷魔法を身に纏い、そのまま身体を紫雷に変えて雷速で後退する。
俺は入ってきた扉をぶち破り、そのまま砦の中へと突っ込んでいく。
洞窟からは爆風と熱風が噴き出し、その衝撃で砦が大きく揺れる。
ただの石作りの砦は強い衝撃に耐えられず、亀裂が入りだし壁や天井が崩れだす。
俺は息をつく間もなく風を纏い、上層にいる女性たちのもとへと向かう。
もうこの砦は今にも崩れ落ちそうであった。
女性達のいる部屋へと辿り着くと、彼女たちは一つのベッドに身を寄せて目を瞑っていた。
不幸中の幸いなのか、気を失った二人も目を覚ましている。
とは言え、ここから全員を背負って外に運ぶ事は出来ない。
他の方法を即座に思案し、念の為生体反応で周囲に誰もいないかを確認しながら俺は彼女達の目の前に立つ。
彼女達は絶望した瞳で俺を見る。
そんな彼女達の服を俺は掴み、声を張り上げる。
「僕を掴んで絶対に離さないで下さい!いいですね!?」
彼女達は頷いたか、それを確認する前に目を閉じ魔力を込める。
その直後、俺のローブをしっかりと握ってくれる感触が伝わった。
それと同時に、俺の足元に魔法陣が展開し、魔力が一気に開放される。
俺を中心とし、暴風が吹き荒れ周囲のものを一気に吹き飛ばす。
風属性の極大魔法、エアリアルロア。
球体の暴風は瞬く間に広がり、触れる物全てを弾き飛ばし、粉砕する。
これは瞬間的ではあるが、あらゆる遠距離攻撃を吹き飛ばせる力を持つ暴風の盾。
そこにシンの強靭な魔力が加わり、みるみる球体の暴風は膨張していき、砦全てを吹き飛ばした。
その光景に驚愕の表情を浮かべる三人の女性。
宙に浮く俺達四人を残して、辺り一面が更地と化した。
彼女達を落とさないよう俺も短い腕で抱きかかえながら、ゆっくりと降下していく。
「き、君は……一体……」
地に足をつけると、枯れた声でそう口にしたのは最初に声をかけた女性だった。
「……僕はジーナスより派遣された魔導士です。
助けが遅くなり、申し訳ありませんでした……」
俺は深々と頭を下げた。
しかし、彼女達は俺を責める事もなく、一人、また一人と優しく抱きしめてきた。
その反応に、俺は泣き出しそうで、頭をあげる事が出来なかった。
命を助ける事が出来た。
けれど、彼女達は一生消えない傷を背負った事だろう。
そして、命を救えなかった村人も大勢いた事だろう。
その現実が、その悔しさが、俺の心に突き刺さった。
そして、あの砦を指揮していたであろう男は取り逃がした。
俺は悔しさに手を握りしめる。
彼女達をそこに置き去りには出来ない為、そこから一番近くの村まで送り届ける事にした。
三人引き渡すまでに時間がみるみる過ぎていき、終わった頃には日付も変わり深夜になっていた。
空を見上げれば真紅の月がまた昨日より一回り大きく見えた。
今夜もアネッサがうなされているかと思うと、胸が締め付けられる思いもあった。
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