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第3章 少年期中編
第48話 前夜のジーナス
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ジャンカルロは屋敷の一室にて報告を聞き、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
対面のソファに座るのは燃えるような赤髪をショートバックサイドに刈り上げた屈強な男。
頬には痛々しい切り傷の痕が残っているが、逆にそれが歴戦の戦士の証にも見える。
その男は傭兵団長、フレデリック・ウォード。
フレデリックもまた、苦々しげに顔を歪めていた。
「つまり……傭兵団の精鋭の殆どが瀕死の状態にある、と?」
確認をするようにジャンカルロが尋ねる。
「その通りだ。
全ての責任は私にある……。
たかが盗賊と侮っていた。
ギルバートの奴が手引きしている事を想定し、より慎重に事を運ぶべきだった。
本当にすまない……」
「とは言え……砦の盗賊は陥落したのだろう?」
「だが、ギルバートの姿は確認出来ていない。
恐らく、あれらのアジトの場所を漏洩させたのも奴の目論見だったのだ。
我々は誘き出された。
これは私の勘だが、最終的な狙いはここ、ジーナスではないかと私は考えている」
そう言ってフレデリックは机に人差し指をトンっと置く。
その言葉にジャンカルロは大いに驚く。
「馬鹿なっ!
盗賊がこの大都市のジーナスを狙うだって?
ここはそんな簡単に攻め落とせるものではない。
軍隊ならまだしも、たかが徒党を組んだ盗賊如きが一つの都市を落とそうなど……。
万が一、ここを占領出来たとしても、王国が黙っていない。
魔導騎士がすぐに駆け付けてくる。
それがわからぬほど馬鹿ではないだろう?」
ジャンカルロは同意を求めるように、違うか!?とフレデリックに詰め寄る。
しかしフレデリックの顔付きは険しいまま。
「ジャン……。
普通の相手ならば、それらを想定してジーナスを攻めようなどとは思わない。
だがな、相手はギルバートだ。
奴はまさに狂人。
つまり、盗賊の犠牲などどうでも良いのだ。
いや、ひょっとすると自分の命すらあまり関心はないかもしれん……。
昔から命知らずの戦い方で、自分の犠牲など恐れない」
それを聞いて青ざめるジャンカルロ。
そんな二人が話し合う部屋がノックされ、執事が顔を出す。
「リゼット様がお見えになりました。
早急にジャンカルロ公爵との面談をしたいと……。
如何なさいますか?」
「リゼットが?
何か大事な話なのだろう。
フレデリックも同席している事を伝えて通せ」
「畏まりました」
執事は一礼して下がる。
程なくしてリゼットが部屋の扉を開いてきた。
「ジャン、緊急の案件だ。
フレデリックも、昨日は大変だったな」
リゼットは開口一番ジャンカルロに鋭く告げて、次いでフレデリックにも一言挨拶をする。
「大変だったのはお互い様だ。
そちらの神官の娘には世話になっている。
お陰で多くの部下が救われた。
迷惑をかけて済まなかったな」
そう言って頭を下げるフレデリック。
「構わないさ。
困った時はお互い様だ。
それより、私の護衛団の者がある噂を耳にしてな。
明日の晩、このジーナスに盗賊共が攻めてくると」
その言葉を聞いたジャンカルロとフレデリックは目を大きくして顔を見合わせる。
「今、我々もその話をしていたのだ。
連中はやはりここを攻めてくるのか?」
そう尋ね返すのはジャンカルロ。
怯えているのか、声が僅かに震えていた。
「恐らくな。
しかも、攻め込んでくるだけではなく、何かこの街で何か仕掛けをしてる可能性もあるらしい」
「ギルバートが関与して攻めてくるのなら、十分有り得るな。
奴は大仕事の時だけは用意周到に準備をしてくる」
フレデリックは拳を握りしめてそう言った。
「二人とも、ジーナスを救ってくれないか?
今は頼りになるのは君達くらいなものだ……」
助けを乞うかのように言うジャンカルロ。
「無論だ。
この街を守る為に私はここに来たのだ。
だが、今は情報が全く足りない。
闇雲に動いてもいたずらに街の民間人を怯えさせてしまうだけ。
不審人物や、不審な行動、そういったものを最近見かけてないかの聞き取りが必要だ。
こちらでも衛兵や警備団の者達に聞いて回っていくとしよう。
更に今夜の警備はより強固にする事だな」
リゼットの言葉に頷くフレデリック。
「我々傭兵団だけでは街全体を守るには人手が足りんだろう。
私はジーナスに立ち寄っている冒険者にも協力を仰ごう」
「私は……一先ず、街の安全確認をするよ。
特にこの街の生命線でもある水路などの設備に不具合がないかを調べさせるとする。
あとはまた何かあれば教えて欲しい。
必要な物資があれば可能な限りは用意しよう」
力強い眼差しで言い放つジャンカルロ。
それを聞いて頷く二人。
二人並んでジーナスの街の夜道を歩いているのはガウェンとサリア。
こちらはシンと別れ、リゼットへと報告を終え、街で不審な動きが無いかを探っていた。
普段はふざけ合っている二人だが、今日はいつになく険しい顔つきで街の様子を眺めながら歩く。
「何かの仕掛けってねぇ……。
確か、シンくんは爆炎石で吹っ飛ばされそうになったとか言ってたっけ。
そういうの、建物の中に埋め込んだらヤバイんじゃない?」
サリアがゾッとした顔つきで言うが、ガウェンは首を横に振る。
「そんな危険物はそうそう街中に持ち込めるか。
ここの門番はそこまでザルじゃないだろ。
危険なのは、もっと魔術的なモンだとヤバイかもな。
例えば……シンみたいな極大魔法を街中でぶっ放す的な」
「あんな魔法使える人、そうそういないでしょ……。
ましてやそんな優秀な人間が盗賊なんてやる?」
「それもそうか」
そんな会話をしながら目線だけは周囲を走らせる。
ジーナスの夜道は表通りは街灯もあり人もチラホラ出歩いている。
裏通りも少しは探索するが、広い街全てをくまなく探索するのは流石に難しい……。
そんな二人の元に、足早に駆け寄ってくる青年がいた。
ラントである。
「ガウェンさん、サリアさんっ!」
「どうした、何か見つけたか?」
ガウェンが声を掛けると肩で息をしながら続けるラント。
「ハァ……ハァ……時計台に登らせてもらって、街全体を見てたんです。
そしたら、貧民街のとある荷馬車から鉄仮面をつけた連中が修道院に入っていくのを見まして……。
遠くの建物から窓越しに中を見てたら、居たんですっ。
ギルバートがっ」
その報告にサリアとガウェンは目を丸くする。
「アイツ、まだこの街に居たのか。
考えてみれば、別にアイツは傭兵団を追放されただけで街から追放された訳じゃないんだよな」
「でも、貧民街の修道院で何をやっているのかも気になるわね……」
「とりあえず、リゼットさんに伝えて——ッ!」
ラントが言い終える前に、目線の先にある裏路地へと注目する。
その暗い裏路地からは鉄仮面をつけた男が一人、また一人と近付いてくる。
「……ラント……お前尾けられていただろ」
ガウェンが盾と大剣を構えてラントに言うと、ラントが冷や汗をかきながら弓矢を構える。
「ちゅ、注意してたんですけどね……。
バレてたみたいです」
「あんたの事だから偵察して逃げる時に派手に転けたりして注目を浴びたんじゃないの?」
サリアがガントレットを握りしめて問い詰めると、ラントはうっ、と呻く。
「図星なのっ!?ほんと大事な所でドジなんだから!」
そう言い合ってる間に前後からそれぞれ四人、合計八人の男に取り囲まれる。
それぞれ手には短剣や剣鉈を持って近付いてくる。
誰もが同じ鉄仮面をつけてるのが不気味でもある。
その内の一人が短剣を振りかぶり、駆け出してきた。
その男を皮切りに一斉に襲いかかってくる男達。
まず最初の一人の攻撃が届くより先にラントの矢が男の胸を射抜き倒れ込む。
次に襲いかかってくる二人の剣鉈の一振りをガウェンが盾で受けて即座に弾き返す。
その勢いは凄まじく、大きく二人の体勢は崩され握りしめてた得物も手から離れる。
その隙を逃さずラントが即座に矢を二射続けて放ち、心臓を射抜いていく。
続けて反対側から近付いてくる二人の男の攻撃を素早く躱すサリアはその鉄拳を鉄仮面に叩き込む。
その威力に鉄仮面は大きく凹ませ、首の骨がへし折れる音が響く。
間違いなく顔面が陥没しているであろう一撃だ。
続けてやってくる男の短剣の一突きも腕を絡め取てへし折り、膝蹴りを鳩尾に叩き込む。
くの字になる男の無防備な顔面にサリアの肘打ちが打ち抜きまたも首の骨をへし折る。
そこにもう一人男が追い討ちをかけてくるが即座にラントが矢で射抜き、よろめいたその身体にサリアのアッパーカットが鋭く振り抜かれる。
顎を砕き、人の身体が大きく浮き上がり、地面に叩きつけられる。
反対側から迫る最後の二人のうち一人はガウェンの兜割りが叩き込まれ脳天がかち割る。
そしてその攻撃の隙を狙った一人の一振りをガウェンはシールドバッシュで壁まで叩きつける。
「残るはお前だけだな。
お前からは話しを聞かせてもらおうか」
ガウェンがメキメキと壁に押し付けてながら冷たく言い放つ。
「ウグ——ッ!
ク……クク……バカが……。
残るは俺だけだと?」
「何?」
ガウェンの疑問の声に反応するように、足首が掴まれる。
ふと見れば掴んできたのはラントの矢を心臓に受けた男だった。
「そんなっ!
確かに急所に当たってるはずなのに!」
一番驚いていたのはラントである。
弓使いとしては一流のラントがこの距離で急所を外す事はまず有り得ない。
ガウェンは盾を押し付けたまま大剣を足を掴んでいる男の胴体に突き刺すが、足を握る力が弱まらない。
それにはガウェンも驚く。
「ガウェンッ!」
サリアは叫ぶような声を上げて駆け出し、もう一人の矢を胸に受けた男が立ち上がった所に飛び蹴りを放ち吹っ飛ばす。
次いで立ち上がるのはサリアが肘打ちで確かに首をへし折った男。
あらぬ方向に首が曲がっているのに悠然と立ち上がったのだ。
「コイツら……何なのよっ!」
次々と立ち上がる男達。
ガウェンは思い切り盾で男を壁に叩きつけた後、掴んでいる手を切断し迫り来る他の男を斜めに両断する。
それでもまだ動いてくる男の姿に流石のガウェンもたじろぐ。
その光景を怯えた顔で見ていたラントであったが、ふと気付く。
立ち上がってこない男も二人いる。
一人はサリアが顔面崩壊させた男。
もう一人はガウェンが頭をかち割った男。
そして致命傷からも立ち上がるコイツらの特徴……。
そしてどうして鉄仮面をつけているのか。
その理由……。
思い当たるのは一つ。
「お二人ともっ!
頭を狙って下さいっ!!」
ラントはそう鋭く言い放つと、短剣を振りかぶった首のひしゃげた男へと矢を放つ。
その矢は鉄仮面の僅かな隙間、目の穴を抜けて頭を貫く。
その瞬間、糸が切れた人形のように崩れ落ちる。
「食屍鬼化していますっ!」
その言葉で全てを理解する二人。
どちらも正確に頭部を破壊し、七体の動かなくなった屍を築き上げる。
残った一人の胸ぐらを掴み、ガウェンが問い詰める。
「お前ら一体自分の身体に何をしやがった!?」
鉄仮面に覆われて表情こそ分からないが、篭った笑い声を上げる男。
「何をしたのかって?
自分の命を捨てたのさッ!
そのまま死ぬか、生ける屍となるかしか道は無かったッ!
だが、お陰で怖いものなんか俺達には無くなった。
殺したけりゃ殺せッ!
俺達にも、お前らにも、未来なんかありやしねぇ!!
どうせ未来が無ぇのならやりたい事をやりたいようにやるってもんだろうがッ!!」
そう叫ぶように喚き散らし、また笑い出す男。
「……なんにせよ、てめぇらが知ってる事を洗いざらい喋ってもらう。
拷問が効くとも思えないがな」
そう言って男を地面に叩きつけて組み伏せるガウェン。
「どうしましょう……コイツ……」
ラントは困ったような顔をしてガウェンに尋ねる。
「どうもこうも無い。
ふん縛ってリゼットさん等の所に連れて行って情報を聞き出さないと。
ギルバートの事も含めてな」
「……それにしても、食屍鬼になってるなんて厄介な奴らだわ。
頭が弱点だから、鉄仮面で頭を覆ってるのね……。
それを知らないそこらの自衛団や衛兵は返り討ちに遭ってしまうかも、ね」
転がった屍を眺めながらサリアが囁くように呟いた。
そんな彼等を赤く染まったほぼ満月の光が照らしていた。
対面のソファに座るのは燃えるような赤髪をショートバックサイドに刈り上げた屈強な男。
頬には痛々しい切り傷の痕が残っているが、逆にそれが歴戦の戦士の証にも見える。
その男は傭兵団長、フレデリック・ウォード。
フレデリックもまた、苦々しげに顔を歪めていた。
「つまり……傭兵団の精鋭の殆どが瀕死の状態にある、と?」
確認をするようにジャンカルロが尋ねる。
「その通りだ。
全ての責任は私にある……。
たかが盗賊と侮っていた。
ギルバートの奴が手引きしている事を想定し、より慎重に事を運ぶべきだった。
本当にすまない……」
「とは言え……砦の盗賊は陥落したのだろう?」
「だが、ギルバートの姿は確認出来ていない。
恐らく、あれらのアジトの場所を漏洩させたのも奴の目論見だったのだ。
我々は誘き出された。
これは私の勘だが、最終的な狙いはここ、ジーナスではないかと私は考えている」
そう言ってフレデリックは机に人差し指をトンっと置く。
その言葉にジャンカルロは大いに驚く。
「馬鹿なっ!
盗賊がこの大都市のジーナスを狙うだって?
ここはそんな簡単に攻め落とせるものではない。
軍隊ならまだしも、たかが徒党を組んだ盗賊如きが一つの都市を落とそうなど……。
万が一、ここを占領出来たとしても、王国が黙っていない。
魔導騎士がすぐに駆け付けてくる。
それがわからぬほど馬鹿ではないだろう?」
ジャンカルロは同意を求めるように、違うか!?とフレデリックに詰め寄る。
しかしフレデリックの顔付きは険しいまま。
「ジャン……。
普通の相手ならば、それらを想定してジーナスを攻めようなどとは思わない。
だがな、相手はギルバートだ。
奴はまさに狂人。
つまり、盗賊の犠牲などどうでも良いのだ。
いや、ひょっとすると自分の命すらあまり関心はないかもしれん……。
昔から命知らずの戦い方で、自分の犠牲など恐れない」
それを聞いて青ざめるジャンカルロ。
そんな二人が話し合う部屋がノックされ、執事が顔を出す。
「リゼット様がお見えになりました。
早急にジャンカルロ公爵との面談をしたいと……。
如何なさいますか?」
「リゼットが?
何か大事な話なのだろう。
フレデリックも同席している事を伝えて通せ」
「畏まりました」
執事は一礼して下がる。
程なくしてリゼットが部屋の扉を開いてきた。
「ジャン、緊急の案件だ。
フレデリックも、昨日は大変だったな」
リゼットは開口一番ジャンカルロに鋭く告げて、次いでフレデリックにも一言挨拶をする。
「大変だったのはお互い様だ。
そちらの神官の娘には世話になっている。
お陰で多くの部下が救われた。
迷惑をかけて済まなかったな」
そう言って頭を下げるフレデリック。
「構わないさ。
困った時はお互い様だ。
それより、私の護衛団の者がある噂を耳にしてな。
明日の晩、このジーナスに盗賊共が攻めてくると」
その言葉を聞いたジャンカルロとフレデリックは目を大きくして顔を見合わせる。
「今、我々もその話をしていたのだ。
連中はやはりここを攻めてくるのか?」
そう尋ね返すのはジャンカルロ。
怯えているのか、声が僅かに震えていた。
「恐らくな。
しかも、攻め込んでくるだけではなく、何かこの街で何か仕掛けをしてる可能性もあるらしい」
「ギルバートが関与して攻めてくるのなら、十分有り得るな。
奴は大仕事の時だけは用意周到に準備をしてくる」
フレデリックは拳を握りしめてそう言った。
「二人とも、ジーナスを救ってくれないか?
今は頼りになるのは君達くらいなものだ……」
助けを乞うかのように言うジャンカルロ。
「無論だ。
この街を守る為に私はここに来たのだ。
だが、今は情報が全く足りない。
闇雲に動いてもいたずらに街の民間人を怯えさせてしまうだけ。
不審人物や、不審な行動、そういったものを最近見かけてないかの聞き取りが必要だ。
こちらでも衛兵や警備団の者達に聞いて回っていくとしよう。
更に今夜の警備はより強固にする事だな」
リゼットの言葉に頷くフレデリック。
「我々傭兵団だけでは街全体を守るには人手が足りんだろう。
私はジーナスに立ち寄っている冒険者にも協力を仰ごう」
「私は……一先ず、街の安全確認をするよ。
特にこの街の生命線でもある水路などの設備に不具合がないかを調べさせるとする。
あとはまた何かあれば教えて欲しい。
必要な物資があれば可能な限りは用意しよう」
力強い眼差しで言い放つジャンカルロ。
それを聞いて頷く二人。
二人並んでジーナスの街の夜道を歩いているのはガウェンとサリア。
こちらはシンと別れ、リゼットへと報告を終え、街で不審な動きが無いかを探っていた。
普段はふざけ合っている二人だが、今日はいつになく険しい顔つきで街の様子を眺めながら歩く。
「何かの仕掛けってねぇ……。
確か、シンくんは爆炎石で吹っ飛ばされそうになったとか言ってたっけ。
そういうの、建物の中に埋め込んだらヤバイんじゃない?」
サリアがゾッとした顔つきで言うが、ガウェンは首を横に振る。
「そんな危険物はそうそう街中に持ち込めるか。
ここの門番はそこまでザルじゃないだろ。
危険なのは、もっと魔術的なモンだとヤバイかもな。
例えば……シンみたいな極大魔法を街中でぶっ放す的な」
「あんな魔法使える人、そうそういないでしょ……。
ましてやそんな優秀な人間が盗賊なんてやる?」
「それもそうか」
そんな会話をしながら目線だけは周囲を走らせる。
ジーナスの夜道は表通りは街灯もあり人もチラホラ出歩いている。
裏通りも少しは探索するが、広い街全てをくまなく探索するのは流石に難しい……。
そんな二人の元に、足早に駆け寄ってくる青年がいた。
ラントである。
「ガウェンさん、サリアさんっ!」
「どうした、何か見つけたか?」
ガウェンが声を掛けると肩で息をしながら続けるラント。
「ハァ……ハァ……時計台に登らせてもらって、街全体を見てたんです。
そしたら、貧民街のとある荷馬車から鉄仮面をつけた連中が修道院に入っていくのを見まして……。
遠くの建物から窓越しに中を見てたら、居たんですっ。
ギルバートがっ」
その報告にサリアとガウェンは目を丸くする。
「アイツ、まだこの街に居たのか。
考えてみれば、別にアイツは傭兵団を追放されただけで街から追放された訳じゃないんだよな」
「でも、貧民街の修道院で何をやっているのかも気になるわね……」
「とりあえず、リゼットさんに伝えて——ッ!」
ラントが言い終える前に、目線の先にある裏路地へと注目する。
その暗い裏路地からは鉄仮面をつけた男が一人、また一人と近付いてくる。
「……ラント……お前尾けられていただろ」
ガウェンが盾と大剣を構えてラントに言うと、ラントが冷や汗をかきながら弓矢を構える。
「ちゅ、注意してたんですけどね……。
バレてたみたいです」
「あんたの事だから偵察して逃げる時に派手に転けたりして注目を浴びたんじゃないの?」
サリアがガントレットを握りしめて問い詰めると、ラントはうっ、と呻く。
「図星なのっ!?ほんと大事な所でドジなんだから!」
そう言い合ってる間に前後からそれぞれ四人、合計八人の男に取り囲まれる。
それぞれ手には短剣や剣鉈を持って近付いてくる。
誰もが同じ鉄仮面をつけてるのが不気味でもある。
その内の一人が短剣を振りかぶり、駆け出してきた。
その男を皮切りに一斉に襲いかかってくる男達。
まず最初の一人の攻撃が届くより先にラントの矢が男の胸を射抜き倒れ込む。
次に襲いかかってくる二人の剣鉈の一振りをガウェンが盾で受けて即座に弾き返す。
その勢いは凄まじく、大きく二人の体勢は崩され握りしめてた得物も手から離れる。
その隙を逃さずラントが即座に矢を二射続けて放ち、心臓を射抜いていく。
続けて反対側から近付いてくる二人の男の攻撃を素早く躱すサリアはその鉄拳を鉄仮面に叩き込む。
その威力に鉄仮面は大きく凹ませ、首の骨がへし折れる音が響く。
間違いなく顔面が陥没しているであろう一撃だ。
続けてやってくる男の短剣の一突きも腕を絡め取てへし折り、膝蹴りを鳩尾に叩き込む。
くの字になる男の無防備な顔面にサリアの肘打ちが打ち抜きまたも首の骨をへし折る。
そこにもう一人男が追い討ちをかけてくるが即座にラントが矢で射抜き、よろめいたその身体にサリアのアッパーカットが鋭く振り抜かれる。
顎を砕き、人の身体が大きく浮き上がり、地面に叩きつけられる。
反対側から迫る最後の二人のうち一人はガウェンの兜割りが叩き込まれ脳天がかち割る。
そしてその攻撃の隙を狙った一人の一振りをガウェンはシールドバッシュで壁まで叩きつける。
「残るはお前だけだな。
お前からは話しを聞かせてもらおうか」
ガウェンがメキメキと壁に押し付けてながら冷たく言い放つ。
「ウグ——ッ!
ク……クク……バカが……。
残るは俺だけだと?」
「何?」
ガウェンの疑問の声に反応するように、足首が掴まれる。
ふと見れば掴んできたのはラントの矢を心臓に受けた男だった。
「そんなっ!
確かに急所に当たってるはずなのに!」
一番驚いていたのはラントである。
弓使いとしては一流のラントがこの距離で急所を外す事はまず有り得ない。
ガウェンは盾を押し付けたまま大剣を足を掴んでいる男の胴体に突き刺すが、足を握る力が弱まらない。
それにはガウェンも驚く。
「ガウェンッ!」
サリアは叫ぶような声を上げて駆け出し、もう一人の矢を胸に受けた男が立ち上がった所に飛び蹴りを放ち吹っ飛ばす。
次いで立ち上がるのはサリアが肘打ちで確かに首をへし折った男。
あらぬ方向に首が曲がっているのに悠然と立ち上がったのだ。
「コイツら……何なのよっ!」
次々と立ち上がる男達。
ガウェンは思い切り盾で男を壁に叩きつけた後、掴んでいる手を切断し迫り来る他の男を斜めに両断する。
それでもまだ動いてくる男の姿に流石のガウェンもたじろぐ。
その光景を怯えた顔で見ていたラントであったが、ふと気付く。
立ち上がってこない男も二人いる。
一人はサリアが顔面崩壊させた男。
もう一人はガウェンが頭をかち割った男。
そして致命傷からも立ち上がるコイツらの特徴……。
そしてどうして鉄仮面をつけているのか。
その理由……。
思い当たるのは一つ。
「お二人ともっ!
頭を狙って下さいっ!!」
ラントはそう鋭く言い放つと、短剣を振りかぶった首のひしゃげた男へと矢を放つ。
その矢は鉄仮面の僅かな隙間、目の穴を抜けて頭を貫く。
その瞬間、糸が切れた人形のように崩れ落ちる。
「食屍鬼化していますっ!」
その言葉で全てを理解する二人。
どちらも正確に頭部を破壊し、七体の動かなくなった屍を築き上げる。
残った一人の胸ぐらを掴み、ガウェンが問い詰める。
「お前ら一体自分の身体に何をしやがった!?」
鉄仮面に覆われて表情こそ分からないが、篭った笑い声を上げる男。
「何をしたのかって?
自分の命を捨てたのさッ!
そのまま死ぬか、生ける屍となるかしか道は無かったッ!
だが、お陰で怖いものなんか俺達には無くなった。
殺したけりゃ殺せッ!
俺達にも、お前らにも、未来なんかありやしねぇ!!
どうせ未来が無ぇのならやりたい事をやりたいようにやるってもんだろうがッ!!」
そう叫ぶように喚き散らし、また笑い出す男。
「……なんにせよ、てめぇらが知ってる事を洗いざらい喋ってもらう。
拷問が効くとも思えないがな」
そう言って男を地面に叩きつけて組み伏せるガウェン。
「どうしましょう……コイツ……」
ラントは困ったような顔をしてガウェンに尋ねる。
「どうもこうも無い。
ふん縛ってリゼットさん等の所に連れて行って情報を聞き出さないと。
ギルバートの事も含めてな」
「……それにしても、食屍鬼になってるなんて厄介な奴らだわ。
頭が弱点だから、鉄仮面で頭を覆ってるのね……。
それを知らないそこらの自衛団や衛兵は返り討ちに遭ってしまうかも、ね」
転がった屍を眺めながらサリアが囁くように呟いた。
そんな彼等を赤く染まったほぼ満月の光が照らしていた。
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捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~
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物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。
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村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
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そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
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