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第4章 少年期後編
第59話 王達の会合
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王都ヴァラジオンの宮殿——。
その巨大な一室に装飾の施された長テーブルを険しい顔つきをした者達が囲んでいた。
一際強い存在感を放つ者が幾人かテーブルを囲んでいた。
その佇まいやその身なりからは気品すら感じさせる。
「ルナマリア様率いる夜の眷属達だけではもはや魔王軍を止めることは不可能です。
それほどまでに大規模な進軍が確認されております。
全魔導騎士団、魔導師団、聖騎士団を招集し、その進軍を食い止めねばなりません」
強面の銀の鎧を身に付けた壮年の男、ギーゼル・ゴルボーン将軍が前のめりでその場にいる全員に告げる。
「その当のルナマリアが来ておらんな」
モジャモジャと生やした髭を触りながら尋ねる背の低い老年に見える男。
その頭には金と銀で出来た王冠が輝いていた。
「魔王軍を止めるので必死なのでしょう。
何より彼の王女は三度の飯より戦好きの狂人。
ヴァラジオンに来る間もないのでは?」
眼鏡をかけた王国の大臣が忌々しげにそう言う。
「彼女は長年魔族と戦い続けているのだ。
それに元魔族側とは言え身分は王妃。
その物言いはあまりに失礼だろう」
清々しい顔でそう鋭く言い放つのはプラチナブロンドの髪を短く切り揃え、整えた髭をした長耳のエルフの男。
金のサークレットを被り、輝くエメラルドの宝石が額の上で輝いていた。
「我等人族は奴等に多く殺されたのだ。
その事を我々は絶対に忘れたりはしない。
いつあの吸血鬼共が魔族側へと戻るともわからない。
国王、何故彼女を信頼しているのか私には理解しかねますっ」
大臣が荒げるような声を向ける先に座るのは人族の王。
そして、多種族をも統べる王国の王でもある。
短めの茶髪に王冠を被り、口周りに髭を生やした厳しい顔付きの男。
その人物こそ、王国と連合国の王ザハルド・ヴァラギウス国王である。
閉じた目を開くと鋭い眼光が大臣へと向けられる。
「ルナへの侮辱は許さん。
彼奴は我と共に戦地を駆けた仲。
夜の眷属達は我々人族の多くの命を奪ったのは事実。
しかし、その責任を感じているからこそ王女である彼奴が矢面に立ち、魔族と長年戦い続けているのだ。
彼等が死力を尽くして魔境との境界を死守しているからこそ我等がこうしていられる事を忘れるな」
声こそ荒げないものの、その力強い口調におし黙る大臣。
「ヴァンパイア達の事は一先ず置いておきましょう。
進軍する魔王軍をどう止めるのか。
それが我々が集まった本題なのでしょう?」
半透明の光る羽を背から生やした小柄な幼女、妖精フェアリーが問いかける。
幼い身体つきではあるが、純白のドレスをその身に纏い、その佇まいは凛としている。
「その通りだ。
どうするんだ、ザハルド。
ワシらドワーフの傑作となる武具を揃えられるだけ揃えてみるが、それにしたって魔王軍とこっちの寄せ集めの軍とじゃ数が違いすぎる」
溜息混じりにそう話すのはドワーフ族の王、ドガリア。
モジャモジャの黒髭は長く癖のある髪の毛と繋がり、顔が埋もれそうである。
背は低く、しかし手足は太い。
清潔さに欠ける種族のドワーフだが、場所が場所だけに身なりはそれなりに整えている。
「数だけ揃えても仕方あるまい。
掻き集めた新兵では自殺しに行くようなもの。
必要なのは精鋭だ。
それも類い稀な才気を持つ英雄と呼べる存在。
つまり、ここにいる我々のような存在がいなければ、魔将達は止められんぞ」
そう話すのはエルフ族の王、キルシュ・ファルベリオン。
切れ長の瞳でザハルドを見つめる。
「セシリア。
魔将との戦闘経験を持つお前から見て、魔将と戦える者は魔導騎士団に何人いる」
ザハルドにそう問いかけられたのは桜色の髪を長く伸ばした女性。
白の生地に金の刺繍が縫われた外套を羽織り、身体のラインがわかるような黒革の衣服と長いブーツを身に付けている。
その腰には長い鞘に収まった刀が一つ。
彼女こそ、現魔導騎士団を取りまとめる団長、セシリア・シャミナードである。
セシリアはタレ目の瞳を細め、しばし思案してから口を開く。
「申し上げにくいのですが、単独で戦えるのは私と副団長のリオネルだけでしょう。
それも足止めとして戦えるだけで、討ち倒す事は至難かと。
他の団員では精鋭を十人集めても、魔将相手では足止めすら出来ないでしょう」
絶望的な事実を淡々と告げるセシリア。
大臣はそれを聞いて額に手を置く。
「ならば、やはり滅ぶまで夜の眷属等に出来うる限り時間を稼いでもらい、我等はとにかく戦力を集めるしか……」
頭を抱えつつそう呟く大臣。
その直後、部屋の扉が勢いよく開かれる。
「妾達が死に絶えるまで時間稼ぎの為に戦え、だと?
今発言したのは……貴様か」
入ってきたのは真紅のドレスをその身に纏った美しい女性。
長く揺れる髪は金色に輝き、スラリと細く長い手足がドレスから伸びている。
そして大きな胸をその真紅のドレスが際どく隠していた。
妖艶な姿とは裏腹に、その表情は険しく鋭い眼光で大臣を睨みつけている。
蛇に睨まれた蛙のように固まる大臣。
「どうなんだ、貴様。
先程宣った妄言をもう一度妾の前で言ってみろ」
その瞳から殺意を飛ばしながら近付くドレスの美女。
「止めろ、ルナ。
家臣の非礼は謝罪する。
だからここで荒事は起こさないで欲しい」
ザハルドの言葉にドレスの美女、ルナマリアはフン、と鼻を鳴らして睨むのを止める。
「……貴様ら雁首揃えて何を話し合っているかは知らんが、妾の要求はどうなった?
ジノの姿が見えんが……」
ルナマリアはテーブルをグルリと見回して首を傾げる。
「ルナマリア様。
その件なのですが、ジノ・オルディール殿への協力は長年仰いでいるのです。
しかし、未だ彼はエルフの里を離れられないと拒まれ続けておりまして……」
冷や汗をかきながらオドオドと話すザハルドの隣に立つ宰相。
「……ジノがいない?
お前ら……まさかジノ無しで戦うつもりか?」
その問いかけに全員が口をつぐむ。
それを見てルナマリアの美しい顔が鬼の形相に変わる。
「おいっ!ザハルドっ!!
貴様今がどれほどの窮地かわかっているのか!?
妾が率いるナイトメアクルセイドが全滅したらお前ら人間共が皆殺しになるのだぞ!
もはや猶予は無いっ!
ジノ・オルディールを今、すぐに連れてこいっ!!」
その気迫にその場にいる衛兵達の数人が腰を抜かしそうになり、ザハルドに詰め寄るルナマリアを止めるのが数人遅れる。
それでも奮い立ち王の前に立ちはだかる衛兵をルナマリアが一睨みするとその身体がピクリとも動かなくなる。
「貴様、まさか未だに昔の事を引きずっているのではあるまいな!?」
固まった衛兵を退かして更に前に進むルナマリア。
その直後、ザハルド国王の前に魔法陣が出来上がりセシリアが立ちはだかる。
「……ルナマリア様。
陛下の指示で以前私も彼に協力を仰いだのです。
しかし、未だに頷いてはもらえず……」
「そこをどけ、小娘。
死にたいか」
ギロリと睨むルナマリア。
その真紅の瞳が妖しい光を放ち、その眼光がセシリアへと向けられる。
「退きません。
どうか落ち着いて下さい、ルナマリア様」
譲らないセシリア。
片手は腰に差してある刀に手を添えている。
しばし睨み合う両者。
ほんの数刻の沈黙の後、舌打ちをするルナマリア。
「小娘と言えど、魔導騎士団の団長を務めているだけはある。
魔眼の耐性も持っているとはな」
そう言ってルナマリアは瞳を一度閉じ、睨むのを止める。
「……断られた理由は何だ」
「彼奴はエルフの里で聖樹ユルダを守らなければならんそうだ。
あそこが落ちれば結界に綻びが出来る。
そうなれば至る所から魔族が湧いて出てくるぞ。
誰かが守らなければなるまい」
ザハルドがセシリアの代わりに答える。
「それはジノでなければならん訳でないだろう。
お前のお抱えの魔導騎士団で守らせれば良いではないか」
「あそこはエルフの里だ、ルナ。
人族が軽々しく踏み荒らしていい場所ではない」
ザハルドのかわりに横から口を出すキルシュ。
それをギロリと睨むルナマリア。
「ならば貴様のお抱えである鳥に乗った長耳の精鋭達で守らせたらどうだ?
いけ好かん貴様の息子も手練れなのだろう?」
「火の粉がこちらにまで飛んできたか……。
アイツは確かに腕は立つが、性格に難ありでな。
任せるのは難しいな。
それに鳥ではない。
グリフォンだ」
呆れたように言うキルシュ。
それを聞いて再度舌打ちをして腕組みをするルナマリア。
「どいつもこいつも、今は一刻を争う事態なのだと理解しているのか!?
……もういい。
ジノがいないのなら話にならん」
一頻りがなり立てると背を向けるルナマリア。
「おいおい、ルナマリア。
戦況報告くらいはせんか!」
そうドガリアがその背に声をかけるが足を止めないルナマリア。
「キルシュ。
貴様はエルフの里を護衛する精鋭を用意しておけ。
今日中にだ。
反対などさせんし許しもしない」
ルナマリアが背を向けたままそう言い放つ。
「まったく、相変わらず無茶を言う……。
彼等を動かすのには時間もかかる上にエルフの里に着くまでは数日はいる。
それに、誰がジノを説得するのだ?」
その問いかけに足を止めて振り返るルナマリア。
「妾があの引きこもりを森から引きずり出してやる。
英傑揃いの我々が束になってもジノ一人には及ばない。
その強大な力は他でもない我々が一番わかっているはずだろう」
そう言い残し、再び歩き出してルナマリアは部屋から足早に去っていく。
扉が閉まると残された者達は深々と溜息をつく。
セシリアも一呼吸おき、席へと今度は歩いて戻る。
「結局……彼奴に頼る事になってしまうのか。
いつの時代も、戦は彼奴を巻き込まずにはいられんらしい……」
そう小さくザハルドは呟き、物悲しそうに目を細める。
しかし、すぐに顔を引き締めセシリアへと顔を向ける。
「セシリア。
お前に頼みがある。
あの堅物のジノの事だ。
ルナマリアでは恐らく説得出来ん。
だが、彼奴以外にジノを動かせるかもしれん者に心当たりがある」
「ここにいる私達以外に誰かいるの?」
セシリアへと声をかけるザハルドにフェアリーの少女が問いかける。
「確信はない。
我も会った事はないのでな。
だが、可能性を秘めている者は其奴くらいなものだ。
セシリア、水の都ジーナスへ向かえ」
セシリアはその言葉だけで誰と会うべきかを理解する。
「畏まりました、陛下」
一礼したセシリアの足元に魔法陣が構築され、その姿が瞬時に消える。
彼女が目指すはレイクサイド・ジーナス。
そこにいる、王国最強の男の唯一の息子。
シン・オルディールである。
その巨大な一室に装飾の施された長テーブルを険しい顔つきをした者達が囲んでいた。
一際強い存在感を放つ者が幾人かテーブルを囲んでいた。
その佇まいやその身なりからは気品すら感じさせる。
「ルナマリア様率いる夜の眷属達だけではもはや魔王軍を止めることは不可能です。
それほどまでに大規模な進軍が確認されております。
全魔導騎士団、魔導師団、聖騎士団を招集し、その進軍を食い止めねばなりません」
強面の銀の鎧を身に付けた壮年の男、ギーゼル・ゴルボーン将軍が前のめりでその場にいる全員に告げる。
「その当のルナマリアが来ておらんな」
モジャモジャと生やした髭を触りながら尋ねる背の低い老年に見える男。
その頭には金と銀で出来た王冠が輝いていた。
「魔王軍を止めるので必死なのでしょう。
何より彼の王女は三度の飯より戦好きの狂人。
ヴァラジオンに来る間もないのでは?」
眼鏡をかけた王国の大臣が忌々しげにそう言う。
「彼女は長年魔族と戦い続けているのだ。
それに元魔族側とは言え身分は王妃。
その物言いはあまりに失礼だろう」
清々しい顔でそう鋭く言い放つのはプラチナブロンドの髪を短く切り揃え、整えた髭をした長耳のエルフの男。
金のサークレットを被り、輝くエメラルドの宝石が額の上で輝いていた。
「我等人族は奴等に多く殺されたのだ。
その事を我々は絶対に忘れたりはしない。
いつあの吸血鬼共が魔族側へと戻るともわからない。
国王、何故彼女を信頼しているのか私には理解しかねますっ」
大臣が荒げるような声を向ける先に座るのは人族の王。
そして、多種族をも統べる王国の王でもある。
短めの茶髪に王冠を被り、口周りに髭を生やした厳しい顔付きの男。
その人物こそ、王国と連合国の王ザハルド・ヴァラギウス国王である。
閉じた目を開くと鋭い眼光が大臣へと向けられる。
「ルナへの侮辱は許さん。
彼奴は我と共に戦地を駆けた仲。
夜の眷属達は我々人族の多くの命を奪ったのは事実。
しかし、その責任を感じているからこそ王女である彼奴が矢面に立ち、魔族と長年戦い続けているのだ。
彼等が死力を尽くして魔境との境界を死守しているからこそ我等がこうしていられる事を忘れるな」
声こそ荒げないものの、その力強い口調におし黙る大臣。
「ヴァンパイア達の事は一先ず置いておきましょう。
進軍する魔王軍をどう止めるのか。
それが我々が集まった本題なのでしょう?」
半透明の光る羽を背から生やした小柄な幼女、妖精フェアリーが問いかける。
幼い身体つきではあるが、純白のドレスをその身に纏い、その佇まいは凛としている。
「その通りだ。
どうするんだ、ザハルド。
ワシらドワーフの傑作となる武具を揃えられるだけ揃えてみるが、それにしたって魔王軍とこっちの寄せ集めの軍とじゃ数が違いすぎる」
溜息混じりにそう話すのはドワーフ族の王、ドガリア。
モジャモジャの黒髭は長く癖のある髪の毛と繋がり、顔が埋もれそうである。
背は低く、しかし手足は太い。
清潔さに欠ける種族のドワーフだが、場所が場所だけに身なりはそれなりに整えている。
「数だけ揃えても仕方あるまい。
掻き集めた新兵では自殺しに行くようなもの。
必要なのは精鋭だ。
それも類い稀な才気を持つ英雄と呼べる存在。
つまり、ここにいる我々のような存在がいなければ、魔将達は止められんぞ」
そう話すのはエルフ族の王、キルシュ・ファルベリオン。
切れ長の瞳でザハルドを見つめる。
「セシリア。
魔将との戦闘経験を持つお前から見て、魔将と戦える者は魔導騎士団に何人いる」
ザハルドにそう問いかけられたのは桜色の髪を長く伸ばした女性。
白の生地に金の刺繍が縫われた外套を羽織り、身体のラインがわかるような黒革の衣服と長いブーツを身に付けている。
その腰には長い鞘に収まった刀が一つ。
彼女こそ、現魔導騎士団を取りまとめる団長、セシリア・シャミナードである。
セシリアはタレ目の瞳を細め、しばし思案してから口を開く。
「申し上げにくいのですが、単独で戦えるのは私と副団長のリオネルだけでしょう。
それも足止めとして戦えるだけで、討ち倒す事は至難かと。
他の団員では精鋭を十人集めても、魔将相手では足止めすら出来ないでしょう」
絶望的な事実を淡々と告げるセシリア。
大臣はそれを聞いて額に手を置く。
「ならば、やはり滅ぶまで夜の眷属等に出来うる限り時間を稼いでもらい、我等はとにかく戦力を集めるしか……」
頭を抱えつつそう呟く大臣。
その直後、部屋の扉が勢いよく開かれる。
「妾達が死に絶えるまで時間稼ぎの為に戦え、だと?
今発言したのは……貴様か」
入ってきたのは真紅のドレスをその身に纏った美しい女性。
長く揺れる髪は金色に輝き、スラリと細く長い手足がドレスから伸びている。
そして大きな胸をその真紅のドレスが際どく隠していた。
妖艶な姿とは裏腹に、その表情は険しく鋭い眼光で大臣を睨みつけている。
蛇に睨まれた蛙のように固まる大臣。
「どうなんだ、貴様。
先程宣った妄言をもう一度妾の前で言ってみろ」
その瞳から殺意を飛ばしながら近付くドレスの美女。
「止めろ、ルナ。
家臣の非礼は謝罪する。
だからここで荒事は起こさないで欲しい」
ザハルドの言葉にドレスの美女、ルナマリアはフン、と鼻を鳴らして睨むのを止める。
「……貴様ら雁首揃えて何を話し合っているかは知らんが、妾の要求はどうなった?
ジノの姿が見えんが……」
ルナマリアはテーブルをグルリと見回して首を傾げる。
「ルナマリア様。
その件なのですが、ジノ・オルディール殿への協力は長年仰いでいるのです。
しかし、未だ彼はエルフの里を離れられないと拒まれ続けておりまして……」
冷や汗をかきながらオドオドと話すザハルドの隣に立つ宰相。
「……ジノがいない?
お前ら……まさかジノ無しで戦うつもりか?」
その問いかけに全員が口をつぐむ。
それを見てルナマリアの美しい顔が鬼の形相に変わる。
「おいっ!ザハルドっ!!
貴様今がどれほどの窮地かわかっているのか!?
妾が率いるナイトメアクルセイドが全滅したらお前ら人間共が皆殺しになるのだぞ!
もはや猶予は無いっ!
ジノ・オルディールを今、すぐに連れてこいっ!!」
その気迫にその場にいる衛兵達の数人が腰を抜かしそうになり、ザハルドに詰め寄るルナマリアを止めるのが数人遅れる。
それでも奮い立ち王の前に立ちはだかる衛兵をルナマリアが一睨みするとその身体がピクリとも動かなくなる。
「貴様、まさか未だに昔の事を引きずっているのではあるまいな!?」
固まった衛兵を退かして更に前に進むルナマリア。
その直後、ザハルド国王の前に魔法陣が出来上がりセシリアが立ちはだかる。
「……ルナマリア様。
陛下の指示で以前私も彼に協力を仰いだのです。
しかし、未だに頷いてはもらえず……」
「そこをどけ、小娘。
死にたいか」
ギロリと睨むルナマリア。
その真紅の瞳が妖しい光を放ち、その眼光がセシリアへと向けられる。
「退きません。
どうか落ち着いて下さい、ルナマリア様」
譲らないセシリア。
片手は腰に差してある刀に手を添えている。
しばし睨み合う両者。
ほんの数刻の沈黙の後、舌打ちをするルナマリア。
「小娘と言えど、魔導騎士団の団長を務めているだけはある。
魔眼の耐性も持っているとはな」
そう言ってルナマリアは瞳を一度閉じ、睨むのを止める。
「……断られた理由は何だ」
「彼奴はエルフの里で聖樹ユルダを守らなければならんそうだ。
あそこが落ちれば結界に綻びが出来る。
そうなれば至る所から魔族が湧いて出てくるぞ。
誰かが守らなければなるまい」
ザハルドがセシリアの代わりに答える。
「それはジノでなければならん訳でないだろう。
お前のお抱えの魔導騎士団で守らせれば良いではないか」
「あそこはエルフの里だ、ルナ。
人族が軽々しく踏み荒らしていい場所ではない」
ザハルドのかわりに横から口を出すキルシュ。
それをギロリと睨むルナマリア。
「ならば貴様のお抱えである鳥に乗った長耳の精鋭達で守らせたらどうだ?
いけ好かん貴様の息子も手練れなのだろう?」
「火の粉がこちらにまで飛んできたか……。
アイツは確かに腕は立つが、性格に難ありでな。
任せるのは難しいな。
それに鳥ではない。
グリフォンだ」
呆れたように言うキルシュ。
それを聞いて再度舌打ちをして腕組みをするルナマリア。
「どいつもこいつも、今は一刻を争う事態なのだと理解しているのか!?
……もういい。
ジノがいないのなら話にならん」
一頻りがなり立てると背を向けるルナマリア。
「おいおい、ルナマリア。
戦況報告くらいはせんか!」
そうドガリアがその背に声をかけるが足を止めないルナマリア。
「キルシュ。
貴様はエルフの里を護衛する精鋭を用意しておけ。
今日中にだ。
反対などさせんし許しもしない」
ルナマリアが背を向けたままそう言い放つ。
「まったく、相変わらず無茶を言う……。
彼等を動かすのには時間もかかる上にエルフの里に着くまでは数日はいる。
それに、誰がジノを説得するのだ?」
その問いかけに足を止めて振り返るルナマリア。
「妾があの引きこもりを森から引きずり出してやる。
英傑揃いの我々が束になってもジノ一人には及ばない。
その強大な力は他でもない我々が一番わかっているはずだろう」
そう言い残し、再び歩き出してルナマリアは部屋から足早に去っていく。
扉が閉まると残された者達は深々と溜息をつく。
セシリアも一呼吸おき、席へと今度は歩いて戻る。
「結局……彼奴に頼る事になってしまうのか。
いつの時代も、戦は彼奴を巻き込まずにはいられんらしい……」
そう小さくザハルドは呟き、物悲しそうに目を細める。
しかし、すぐに顔を引き締めセシリアへと顔を向ける。
「セシリア。
お前に頼みがある。
あの堅物のジノの事だ。
ルナマリアでは恐らく説得出来ん。
だが、彼奴以外にジノを動かせるかもしれん者に心当たりがある」
「ここにいる私達以外に誰かいるの?」
セシリアへと声をかけるザハルドにフェアリーの少女が問いかける。
「確信はない。
我も会った事はないのでな。
だが、可能性を秘めている者は其奴くらいなものだ。
セシリア、水の都ジーナスへ向かえ」
セシリアはその言葉だけで誰と会うべきかを理解する。
「畏まりました、陛下」
一礼したセシリアの足元に魔法陣が構築され、その姿が瞬時に消える。
彼女が目指すはレイクサイド・ジーナス。
そこにいる、王国最強の男の唯一の息子。
シン・オルディールである。
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