異世界転生した俺は最強の魔導騎士になる

ひとつめ帽子

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第5章 遥か遠いあの日を目指して

第104話 森の暴君

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 昼間ですら薄暗かった大森林は陽が沈むと深い暗闇に包み込まれた。
曇り空なのも相まって僅かな月明かりでさえその光は届かない。
俺はミーシャさんから教わった事を思い出し、まずは木の棒に布を巻きつける。
篝火を焚いた付近にある樹木から樹脂を探し出し、それを塗りたくって簡易的な松明を作った。
これで光源は確保できたな、と頷く顔を見て何故かリリーはクスクス笑っていた。
何やら小言を言っていたようなのでリアナに聞いてみると、少し困った顔をしながらリアナが通訳してくれた。

「『何を作るのかと思ったら、人族ヒュームってのはホント物に頼らないと生きていけないのね』、だってさ」

 リアナが通訳し終えるや否や、リリーは宙を舞い踊り腰に手を当てて決めポーズをする。
その直後、リリーの身体が発光してLEDライトのような眩い輝きで辺りを照らし出した。
ドヤァ、という顔をしているリリーだが、むしろその存在が眩しすぎてやや迷惑なくらいだ。

「懐中電灯みたいだな」

「カイチュウ……なにそれ?」

 リアナとリリーが合わせて首を傾げる。

「今のリリーみたいな奴の事だ」

 適当にあしらう俺に対し、褒め言葉だと勘違いしたリリーはご満悦そうに俺達の前を先導して暗い森の中を案内していく。
俺達は眩い光を追うようにその後ろを追従していった。
しばらく進み、俺はふと思い出す。

 虫って、光のある所に集まる習性があったような——。

 その時、背後からバタバタと何かの羽音が重なって近付いてきているのに気付く。
リアナがまるで錆び付いた人形が振り返るようにゆっくり背後を向き、俺もまた後ろを振り返る。
背後からは羽音をバタバタと響かせながら、一メートル近い白い蛾の群れがこちらに向かって飛んできたのだ。

「いやァァああッ!!」

「そこの懐中電灯擬きの馬鹿妖精ッ!早くその光を消せッ!!」

 リアナを悲鳴を、俺は怒声を上げて一目散に駆け出した。
先行くリリーが何事かと振り返るとギョッと目を見開いて誰よりも早く飛び始めやがった。

 コイツ無駄に逃げ足が早いッ。
ていうか俺達の事なんざ気にせずに逃げてやがる!

 俺は仕方なく松明を投げ捨てると喚き散らすリアナを再び担ぎ上げ、キラキラ光ったままのリリーを追う。
蛾の他にデカいクワガタやカミキリムシのような虫といった様々な大型昆虫が集まりだし、百鬼夜行ならぬ百虫夜行のような状態となる。

 担いでいるリアナが静かになったと思ってふと見てみれば、いつの間にか気絶してグッタリとしていた。
どうやら彼女の精神が保たなかったらしい。
そりゃあ奇怪で多種多様な鳴き声をする大型の虫達に追い回されてりゃ無理もない。
それはそれとして——。

「リリーッ!こんだけ喚き散らす虫達の大行列でまた走り回ってるが、神獣の方は大丈夫なんだろうな!?」

 頭を抱えたくなる状況の中、それだけは心配だったのに森の中を疾走しながらリリーに問いかける。
すると振り返ったリリーは「あ、ヤベ」みたいな顔をした。
それはもう、通訳など必要ない程明らかなやっちまった感に溢れた表情であった。

 突如、この広い森中に響き渡らん程の耳をつんざく雄叫びが鳴り響く。

 耳を塞げない俺はその雄叫び一つでよろめきそうになったが、辛うじて踏み止まる。
クラクラした頭で背後を見ると、昆虫達も地面に倒れん込んだり逃げ出したりもしていた。
雄叫びに続き、今度は地面を揺らさんばかりの地鳴りが次第に近付き、木々が薙ぎ倒される音が響き渡る。

 既に機能を失いかけてる魔力感知や生体感知だけでなく、生物としての危険信号が激しく警報を鳴らしていた。
目の前のリリーもまた、慌てた様子で前を指差し手を振って「早く走ってッ」とジェスチャーする。
俺が再び地面を蹴り付け走り出したと同時に、〝ソイツ〟は大木を薙ぎ倒しながら現れた。

 それは体長十メートルはありそうな巨大な赤い体毛の熊。
真っ赤な体毛は剣山ように鋭く尖り、針鼠のよう。
そして全身から真っ赤な蒸気のようなオーラ放っていた。
その巨体がただ突進してきただけで地面が抉れ、その身体に当たった大木は粉々に粉砕する。
砕け散った木片や飛び散る土塊が散弾のように飛び散り俺達に襲い掛かる。
慌ててリアナを庇うと様々なモノが背中に突き刺さり激痛が走る。
その激痛に耐えながら、あの蒸気にも似た赤いオーラを以前どこかで気がしたのを思い出す。
そうだ、あれは間違いなく、〝狂乱の闘気バーサーク〟である。

 〝憤怒の暴君〟。
目の前の存在はまさに怒りの感情を体現したかのよう。
巨大な体躯に似合わない俊敏な動きで次々と背後の昆虫達に襲い掛かる。
狂乱の闘気バーサーク〟の力によりもともと高い身体能力が一層引き上げられ、まさに暴君と化したその動きはまさに圧倒的。
たった一振りの爪撃は衝撃波を生み出し前方にあるものを纏めて吹き飛ばし粉々に引き裂いていく。
それが縦横無尽に繰り出され暴れ回っているのだ。
虫達は相手が敵わない存在だとわかっていても、その猛威に立ち向かいそして文字通り命も身体も散らしていく。

 俺はその暴虐を背に、一目散に駆け出した。
リリーも俺が走り出したのを見てもう振り返らず全速力で飛び抜ける。

 たった数秒しかあの神獣の動きを見ていないが、これだけは確信出来る。
アレは戦ったら間違いなく殺される。
フェンリルのように、結晶の槍や大剣を作り出してはいないものの単純な身体能力が高過ぎる。
あくまで推測だが、フェンリルの特性が〝絶魔の結晶〟ならばあの熊の特性は〝狂乱の闘気バーサーク〟で間違いなさそうだ。
それは飛躍的な身体能力の向上を意味しており、単純であるが故に恐ろしい。
相手に恐怖を植え付けるという意味では、俺があの日敗れた魔族にも近いものを感じる。
遠ざかる激しい衝撃音と響き渡る雄叫びを背に、あんな存在をどう森から追い出せばいいのかと俺は頭を抱えたくなった。
ていうか、仮に森から追い出せたとしてあんな存在を野に放ったらダメだろ……。



 俺の全速力で森を駆け抜けたお陰で陽が昇る頃には森の出口に辿り着いた。
そこには満身創痍の俺に、未だ意識を失ってる……というより眠っているリアナと、疲れ果てて羽がへたり地面に倒れ伏すリリーがそこにいた。

「……あのな……あんな存在を俺達だけでどうこう出来ると本気でお前は思ってんのか?」

 呼吸も荒いままに俺はリリーに尋ねる。
無論答えは聞き取れる筈もないが、リリーは答えずにズリズリと地面を這ってリアナにタッチする。
するとリアナの身体がまだまた淡く輝き瞳を開く。

「お前、勝手にリアナの身体を乗っとるなよ」

「だって、こうしなきゃアンタとは会話出来ないでしょ」

 パチっと開いた瞳を深緑の色に変えたリアナ——の身体を使ったリリーはフンッと鼻息荒くそう言い放つ。
そっと〝本体〟を拾い上げて頭に乗せてた。

「危うく俺達まで殺されかけたぞ。お前はあの神獣の気配を察知出来るんじゃなかったのか?」

「だってサー、思ったよりもアイツ移動してたみたいだもん。それに寝てるとアイツの気配もよくわかんないんだもん!」

 仕方ないじゃん?仕方ないよね!と一人で問答してるリリー。
リアナの身体を使ってなければ張り倒していたところだ。

「取り敢えず、アタシはちゃーんとあんた達を無事に森の外に案内しました!だからアンタ達もアタシに協力してよね!約束したかんね!ヨロシク!」

「ヨロシクッ!じゃねぇよ馬鹿野郎ッ!俺の背中見てみろ、全然無事じゃねぇぞ!」

 あー、クソッ、今になってめっちゃ痛ぇ。
昨日からの連戦で俺の服はズタボロな上に血塗れになっていた。
見た目的には完全に猟奇殺人者のソレである。
血痕は全部自前ですが。

 俺の姿を改めて見回して「うわァ、引くわァ」とボヤいたリリーの本体だけにデコピンをかまして吹っ飛ばすと、暖かな朝日を浴びながら俺は項垂れるのであった。
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