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(元)イキリ魔王の逃亡計画/転生物・総受け
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しおりを挟む神秘の力に溢れた神に愛されし世界・ゼフィルス。
美しく平和なこの世界に突如として現れた『魔王』は、配下となる魔物たちを使役し、穏やかに暮らしていた人間達を絶滅の危機にまで追いやった。
しかし、この世界を生み出した神はそれを許さなかった。
やがて神に選ばれし人間の勇者が勇敢な仲間たちを引き連れ、聖なる剣を携え凶悪な魔王へと立ち向かう。
長い戦いの末魔王は配下と共に打ち滅ぼされ、この世界は再び平穏を取り戻したのであった。
……これが、およそ700年前の出来事である。
……………………
………………………………
人間が多く暮らす王都…からは少し離れた小さな街。
その中の住宅街の一角で、ごくごく普通の少年が家族4人で平和に暮らしていた。
「ふぁ…ねむ……」
大きな欠伸をしながらリビングへと顔を出した少年の名はオスカー。
今年で齢14になる平凡な少年である。
そんなオスカーを見つけ、にこやかに歩み寄ってきたのは年若く背の高い男性。
オスカーに歩み寄るや、目線を合わせるように屈み、その髪に優しく触れる。
「おはようオスカー。…寝癖が着いているよ。せっかくの可愛い顔が台無しだ」
優しい声色で囁きながら穏やかな笑みを浮かべた彼の名前はノエル。
一応オスカーの実の兄ではあるのだが…その顔は何処かの王子様かと疑う程に整っており、平凡なオスカーとの共通点は髪と目の色ぐらいしかない。
(相変わらず過保護だな……)
そんな兄にも長年の経験で慣れてしまったのか、髪を直されながら無言でスルーを貫くオスカー。
それでもノエルはニコニコと嬉しそうにオスカーの髪を整え、更には椅子を引いて食卓へとエスコートまでしていた。
「はっはっは、ノエルは相変わらずオスカーの事が大好きなんだな」
「ええ、本当に…オスカーが生まれた時なんて、ベビーベッドから離れようとしないで……」
「はぁ…父さんも母さんも、その話何回も聞いてるから…」
既に食卓についている父親とキッチンに立つ母親は仲睦まじい(?)子供たちの姿にのほほんと微笑むだけでノエルを止めようともしない。
オスカーも何度か兄に『子供扱いするな』と抗議したものの、その度に酷く落ち込んだ様子を見せ罪悪感を刺激するのでやがてオスカーは深く考えるのをやめた。
(まったく、めんどくさい兄を持つと大変だな……でも、この感覚…何処かで…?)
「オスカー、今朝はベーコンのスープとロールパンだよ。…ベーコン、多めに入れてあげたからね」
「あ、あぁ…」
胸騒ぎのような感覚に苛まれながらも、オスカーは平静を装いながらスープの皿を受け取る。
そして家族全員が食卓につくのを待ってから、温かなパンを手でちぎった。
「オスカー。そろそろお前も大人として認められる15歳だ。仕事は何にするか決めたのか?」
「はむっ、もごもご…んー…まだ検討中」
平和になって700年あまり。
この世界では子供たちへの教育と社会勉強が義務として根付いている。
6歳から各町や村に設営された学校に6年間通い、その後3年間は町や村の中で様々な仕事を体験して社会勉強を行う。
そうして学業6年、社会勉強3年まで終えた子供たちは、15歳で一人前の『大人』として正式な就職や独り立ちが許されるという仕組みだ。
「もちろん街の中で仕事に就くだろう?外は魔物がいて危ないからね」
(…ま、普通に考えたらそうだよな……)
兄からの熱い視線をスルーし、オスカーはぼんやりと考える。
顔は平凡。学力も運動神経も人並み。
唯一魔法の扱いだけは人よりも若干優れていたが、特別才能があるとは言い難いレベルのオスカーに、『街を出る』という理由は無かった。
(そういや、アイツは俺を冒険者に仕立てあげたいみたいな事言ってたが……何で苦手な奴と旅に出なきゃ行けねぇんだよ)
そんな中、ふと『とある人物』の顔を思い出し、顔を顰めるオスカー。
同時に呼び起こされた苦々しい感情に思わず手にしたパンをくしゃりと握りつぶしそうになったが………
「オスカー!!起きてるか!起きてるだろ!?」
「うげっ…」
突然食卓に響いた底抜けに明るい声。
恐る恐る振り向けば、そこには家の窓から顔を覗かせる元気な少年の姿があった。
「おやアレスくん、おはよう。いつも元気いっぱいだね」
「おじさん、おはよう!オスカーは…あ、まだメシ食ってるのか……」
アレスと呼ばれた彼はオスカーと同じ14歳で、現在は社会勉強として街の武器屋で働いている明るい少年だ。
幼い頃からの幼なじみでありご近所さんでもあるアレスとオスカーだが、当のオスカー本人は隠すことも無く至極迷惑そうな顔をする。
(……放っておいてくれて構わないのに、なんでコイツは俺にばかり構ってくるんだ?)
常に明るく元気で誰からも好かれ、更には剣や魔法の才能に溢れるアレスに昔から苦手意識を抱いていたオスカー。
その思いを正直にハッキリと伝えたのは1度や2度ではないが、それでもオスカーを追いかけ続けるアレスに辟易していた。
だが…それよりも酷い顔をしていたのは、弟を溺愛する兄のノエルだ。
「……まったく、君は相変わらず常識というものがなっていないようだね。ウチの可愛いオスカーが迷惑してるって分からないのかい?」
それはまさに絶対零度。
先程まで弟をデロデロに甘やかしていた人物とは思えないほど冷たい声色と表情はある種の殺気の様なものを感じさせる。
しかし当のアレスはノエルに一瞬だけ視線を向けるも、特になにか言葉を発することなくすぐにまたオスカーの方へと向き直った。
「オスカー!早くメシ食えよ。どうせ職場も近いんだし、今日も一緒に行こうぜ!」
「っ、この…!」
(あの兄貴を完全スルーだと…正気か、コイツ…)
そして喧しい幼なじみと苛立つ兄に挟まれながら、オスカーは苦痛の朝を過ごしたのであった。
……そして約30分後。
朝食を終えて出掛ける支度を終えたオスカーは、嫌々ながらもアレスに手を引かれて何とか職場にたどり着いた。
オスカーが社会勉強に選んだ職場は…『魔法屋』。
魔法が苦手な冒険者向けの即席の呪文書(スクロール)や魔法使い向けの触媒を販売している店で、オスカーはここで店番をしながら時折魔法の勉強もしていた。
(……社会勉強って言っても、お客なんてほとんど来ないし暇なんだよな……)
一介の冒険者が購入するには比較的割高な呪文書や触媒。
必然的にそれを買いに来る客も少なく、店には閑古鳥が鳴く日も多い。
さらにこの日は店主の老女も所用で留守にしており、オスカーは1人での店番にややうんざりしていた。
(……誰も来ないし、掃除でもするか)
気まぐれにそう思い立ったオスカーは古びたハタキを手に店の中を歩く。
羊皮紙で作られた呪文書、魔法の触媒となる鉱石や植物、そしてその他用途も分からないような雑貨があれこれ。
売り物に積もったホコリを地道に取り除く作業に、オスカーは何処か心の安寧のようなものを感じていた。
「はぁ…過保護な兄も煩い幼なじみも居ない、落ち着いた時間……」
誰にも干渉されず、自らを誇示することも無く、ただただ静かで平穏な時を過ごす。
これこそが平凡な自分の理想の暮らしであり、将来の夢であるとオスカーは信じて疑わなかった。
だが…そんな『平凡な自分』は突然幕を下ろすこととなる。
「……ん?なんだこれ」
掃除をしていたオスカーが見つけたのは1枚の手鏡。
かなり長い時間放置されていたのか、鏡面や凝った装飾は汚らしく黒ずんでいて素手で触れるのもはばかれるほど汚れていた。
(汚ったないなぁ…これも何かしらの魔法の道具っぽいけど、あの婆さん店の品物を把握しきれてないのか?)
ため息をつき、手鏡を手に取るオスカー。
掃除用の雑巾で鏡面を軽く磨き、その中を覗き込む。
しかし、そこに映っていたのは……オスカーではない何者かの姿だった。
「えっ…な、これは…?」
鏡に映るのは20代後半ぐらいと思われる男性。
彫刻のように整った顔と黒く艶やかな長髪は、オスカーとは似ても似つかない。
しかしオスカーは…『それが誰か』を本能で理解していた。
「これは……いや、我は……」
おもむろに視界にノイズが走り意識が混濁する。
走馬灯のように流れる『誰かの記憶』を追いながら、オスカーはそのまま意識を失った。
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