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(元)イキリ魔王の逃亡計画/転生物・総受け

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……その男は、生を受けたその時から全てを兼ね備えていた。

彫刻のような美貌、魔物をも従わせる覇気、天変地異すらも操る魔力。

やがて『この世に自分に勝る存在はない』と確信した男は、それら全てをもって世界の征服を試みる。


これが『魔王』と呼ばれた男の始まりだった。


(……そうだ…俺…は…)


記憶の大河に流されながら、オスカーの意識はその男…『魔王』と混ざり合う。

……彼の魂は魔王と混ざり合い、『オスカー』の意識はこのまま消滅するはずだった。

しかし…


『さて、我に相応しい新たな2つ名を考えるか…うむ…漆黒の堕天使…いや、宵闇の皇帝…ふふふ……』

『クハハハハ!愚かな弱者共め!この我に歯向かうならば、我が力の片鱗たる地獄の業火で魂まで焼かれるといい!!』

『これは…我に相応しい武器だな。では、その銘を死神の指先ファントム・リーパーとしよう』


流れ込んでくる記憶の要所要所で見られる男の言動に、オスカーは思わず強い拒絶反応を示した。


(………はっっっっっず!!!なに!?なんだこれ!?馬鹿か?馬鹿なのか?)


その拒絶反応は凄まじく、一時は混ざりあっていた魂は再び分離し、オスカーは辛くも意識の消滅を免れる。

しかし当の本人はそれ所ではなく、目を背けたくなる程恥ずかしい『前世の記憶』に困惑していて……


(う、嘘だ…俺が、こんな……くっそ恥ずかしい、だったなんて……!!)



「…………う、うそだぁああぁああ!!!!」


ーーガバッ!


意識の浮上と共に反射的に飛び起きたオスカー。

まるで悪夢から覚めた時のように荒らげた息を整えながら周囲を見渡せば、そこは見慣れた実家の自室だった。

「はぁ…はぁ…あ、れ…?俺……」

ズキズキと痛む頭を抑え、オスカーは暗くなりかけた空を窓から見つめながら記憶を整理する。

(…確か、魔法屋で掃除してて…手鏡を……っ)

その瞬間フラッシュバックのように流れ込んできた魔王の記憶の断片。
その恥ずかしい言動の数々に、オスカーは思わずベッドの上でゴロゴロと転がった。

「っ~~!!…そ、そうだ…俺…前世は…あの、700年前の、魔王で……」

全てを兼ね備えていた魔王が、なんの取り柄もない平凡な少年に生まれ変わったなんて何処の与太話だろう。

オスカーは自虐のようにそう思いながらフラフラとベッドを出る。

すると……


バタバタバタ… バンッ!

「オスカー!!」
「っ、あ…にき………!?」

忙しない足音と乱暴に扉を開ける音。
そして危機迫った声とともに、先程の悲鳴を聞きつけた兄のノエルが部屋へと飛び込んでくる。

頭痛に苛まれながらも顔面蒼白な兄の姿に目を向けたオスカーだが……見慣れたはずのその姿に、の姿が重なった。


(っ…兄貴…?いや、これは……)

『魔王さま。何時いかなる時も、私めをお傍に置いてくださいね』


……それは魔王の次に強い力を持ちながら、実戦部隊ではなく使用人として傍に仕え続けた1人の

魔王と共に勇者に打ち滅ぼされたその執事と兄ノエルが同じ魂を持っている…すなわち『生まれ変わり』であることを、オスカーの中の魔王の記憶が告げていた。

(…嘘、だろ…まさか、兄貴も…)
「オスカー?大丈夫かい?…魔法屋で倒れたこと、覚えてる?」

いつもの様に体を屈め、視線を合わせて心配してくる兄に困惑するオスカー。

思い出したばかりの自分の前世の事だけでなく、本能的に気付いてしまった目の前の兄の前世の事に整理がつかなくなっていた。

「あ…そ、その……」
「…まだ顔色が悪いね。直ぐに飲み物と果物を用意しよう。…ああ、それと今夜はお兄ちゃんが添い寝してあげようね」
「いや、添い寝それはマジで要らない」

咄嗟に冷たい言葉で添い寝を拒絶したオスカーだが、その胸中は穏やかではない。

『兄貴が俺にここまで過保護なのは前世の…執事の記憶を持っているからでは?』
『実はそれだけじゃなくて俺の前世が魔王だってことも知ってての言動なのでは?』

そんな疑念にオスカーの顔色は更に悪くなってしまう。

(も、もしも…兄貴に前世の記憶があったとして、俺の前世のことも何もかも知ってるんだとしたら……)

『おはようオスカー。…それとも、魔王様と呼んだ方が良かったかい?』

『…オスカーは…その…魔王様程の力は持ってないんだな…』

『オスカー。ほら、この武器、死神の指先ファントム・リーパーに似てないかい?』

(………い、嫌すぎる!!)

魔王と比べられることも魔王の恥ずかしい言動について言及されることも、例えそれが実の兄からの物だとしても平凡・普通を愛するオスカーには到底耐えられなかった。

「……本当に?遠慮はいらないんだよ?…あ、先に飲み物と果物を持ってこよう。少し待っててくれ」
「あ、兄貴…待っ……」

ーーパタン

オスカーは咄嗟に手を伸ばしたものの、ノエルはそのまま飲み物と果物を用意するため部屋を出てしまう。

そして閉じたドアを呆然と見つめながらオスカーは行き場のない手を下ろす。

「……行っちまった…」

(…兄貴は…俺の前世のこと、知ってるのか?いや、そもそも兄貴自身も前世に気付いてない可能性も…)

オスカーが記憶を取り戻したキッカケは魔法屋で見た手鏡だ。
仮にあれが前世の記憶を取り戻すような道具だとすれば、ホコリを被っていた具合からして過去にノエルがそれを使ったことは無いだろう。

「…仮に兄貴が現時点で記憶を持ってないとしても、この先思い出さない保証はないよな……」

元々は成人しても街に残り細々と生活していくだろうと考えていたオスカーだが、自身と兄の前世のことを鑑みてその人生設計を改める。

「……よし決めた。やっぱり、15歳になったら独り立ちしよう」

魔王の記憶とは無縁な、平穏な生活を送るため。

オスカーは強い意志でそう決断すると、早速頭の中で将来設計を建て始めた。

(とはいえあの過保護な兄貴の事だ。俺が街を出ると知ったら絶対仕事を辞めてでも着いてくるとか言い出すはず。…となると秘密裏に……)

しかしここでネックになるのが例の煩い幼なじみ・アレスの存在だ。

兼ねてよりオスカーに『一緒に冒険者になって街を出よう』と誘いをかけているだけに、オスカーが街を出るつもりだと知れば確実に仲間に引き込もうとするだろう。

(アレスか…アイツの事も警戒しておかないとな……)


オスカーが15歳の誕生日を迎えるまであと数ヶ月。

真の平穏を手に入れるため、この日からオスカーの挑戦が始まった。


 
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