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12月篇

12月篇第7話: こんな展開になってもよかったのかわからなくて困ってます

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 適当に選んだ出店で飲み物を選び少しだけ休憩すると、どことなく疲れたような顔をしていたルミも幾分か元通りになったみたいだ。何かに気疲れするようなことがあったか、あるいはしばらく立ちっぱなしだったせいか。――そこまでヤワな娘でも無かった気はするが。

 シュウスケは、この時期には若干合っていない気もするアイスレモネードを飲み干す。広い校内を歩き回れば喉も渇く。結局こういうときは冷たい飲み物がいい。そういう自分もアイスカフェラテなので、あまりシュウスケのことを突っ込めなかったりする。

「とりあえず、……どうすっか」

「何かアイディアでもあるのかと思ったのに」

「最低の前振りだな」

「……だったらお前らは何かあるのかよ」

 エリカちゃんと僕のツッコミに対して、シュウスケは口を尖らせた。アイディアがないのは、残念ながらこっちも同じだった。

「だったら、適当にぶらつこうよ。ユウイチが見たいらしいのは結構遅い時間帯だし」

「ん? ユウくん何見たいの?」

「吹奏楽部の定期演奏会」

「へー。そういうの興味あり?」

 意外そうな返しだったらしく、エリカちゃんはいつも以上に目をまんまるにしている。

「ほら。この前サツキにチケットもらったじゃない?」

「あ、そういえば」

 さっきふたりには言いそびれていた内容の話を振ってみると、シュウスケもそこそこの反応を見せたので学祭の締めとして定期演奏会に行くことが無事決定。友達にもらったというチケットも無駄にならずに済んで、これならばオールオーケーな展開だろう。

「そうなると、そこまでの時間の潰し方が問題だけど……」

「まー、その辺をゆっくり歩いて回ればいいんじゃないかな。ふたりとも店番的なヤツはないの?」

「なしっ!」

「私も無いよ」

 訊けば、学級ごとの模擬店は昨日だけ。展示がある部活に所属している生徒は今日も拘束されるそうだが、ふたりは何もないとのことだった。

「だったら、ふたりのオススメ的なところを見て回るのはどう?」

「オススメねえ……。友達のとこに押しかけるくらいしかないかもだけど」

 ウチとは違って来場者による人気投票みたいなものはとくにないらしいが、来場人数の計算は行われていて、集客が良かった展示の主催にはそれなりのボーナス的なモノ――ただし、活動費とか直接的な金品ではないモノ――があるらしい。

「だったら、むしろイイんじゃないか? 俺らで4人分の点数をプレゼントってことにもなるだろ?」

「それもそうね。じゃあ……」

 と、ルミが一歩踏み出そうとしたときだった。

 ――ぐぎゅううううう……。

「ん?」「え?」「んん?」

 雑踏の効果音に負けず劣らずの、異音。

 そして、その音に反応しない男がひとり。

「……すまん、先に腹ごしらえしたい」

 時計を見ればお昼を回ったあたり。シュウスケが身体を小さくして提案した。



     ○



 驚くべきなのは、おううん女子高の部活動の豊富さか。

 むしろ、ふたりの友人のバラエティさ加減か。

 和装レストラン――和食レストランではない――的なところで昼食をとると、ルミとエリカちゃんの案内で部活動訪問のターンが始まった。

 一応テーマは『和』ということで、できる限りその展示や発表の方向性はそのテーマに合わせたものにはなっていた。料理系、手芸系、音楽系。どの部活もしっかりと和のモチーフだ。――ワールドミュージック研究部が日本古来の音楽の発表になっていたのは、少しかわいそうな気もしたが、仕方ないのかもしれない。来年は違うテーマだったらいいね。

「ここは……、写真部か」

「あ、うん……」

「そう、ね」

「ん?」

 何故か歯切れが悪いふたりはとりあえず放っておくべきなのか。少し迷ったが、ずんずん進んでいくシュウスケにつられてそのまま入室。飾られている写真のクオリティが高くて、完全に目を奪われる。

 後から知ったが、ここも強豪。写真甲子園の出場歴もある。

 普段からそこまで写真は撮らないし、心得もない。けれど、やっぱりイイものはイイのだろう。心に訴えかけているのだけはわかった。

「これ、高校生が撮ったんだよなぁ……」

「すごいな……。ん?」

 シュウスケのつぶやきに何となく応えていたが、視線がある写真に繋ぎ止められた。

 これ、見覚えがあるんだけど。

 というか、見覚えがあるとかいうレベルじゃないんだけど?

 思わず振り向くと。

 ――ルミとエリカちゃんが揃って目をそらした。

 シュウスケは、気付いていない。

 どうしようかと思ったが、そこまで考え込むことでもない。ルミたちのところへ向かう。視線どころか、顔も向けてもらえない。

「……あれってさ、ふ」

「めっ!!」

「むぐっ」

 ふたりだよねと訊く前に、ルミに指で言葉を封じられる。

「……じゃあ、私も」

「んむ」

 その上からさらにエリカちゃんにも封じられる。バツ印を作られてしまった。

 ふたりとも顔が真っ赤。

 それもそのはず。被写体がルミとエリカちゃんで、その恰好が昨日見たアレだった。

 そんなに恥ずかしがるなら断れば良かったのに、とも思ったが、きっとこのふたりのことだ。断るわけにもいかなかったに違いない。そういうところあるからね、このふたりは。

「……ヒミツにしておいたほうがイイの?」

 小声で訊けば、うんと大きく頷かれた。

 だったら、ここで意地悪をする必要もないだろう。

 ――でも、その写真、もらえたりしないのかな。



     ○



 3時を回ったあたりから、いよいよ校内が混み始めてきた。階段のステップから廊下を見下ろして、シュウスケは思わず『うげ』と呻いたほどだ。

「人がゴミの」

「ストップ、シュウスケ。この状況じゃシャレにならねえ」

「いや、でもマジでスゴい人じゃねえ? 去年ってこんなだったか?」

「さっきパンフ見たけど、タレントのトークショーやらいろんな発表やらが被ってるみたいだ」

 今朝方聞いていたプログラムなどはだいたいこの時間から始まるモノばかり。そりゃあ、廊下も大混雑になる。何とか階段を降りきったものの、ルミとエリカちゃんはようやく踊り場部分に差し掛かったところだった。

「シュウスケ、ちょっと待ってくれー」

「ん? ああ、悪い。ちょっと早かったな」

 心底申し訳なさそうな顔でこちらに引き返してくるシュウスケ。高身長にそのスタイルの良さ。歩幅は一般人よりもだいぶ広い証拠でもあった。――うらやましいなぁ。

 と、今はそういう問題じゃなくて。

「ごめーん」

「慌てなくていいよー」

 エリカちゃんにそう応えたのと、同時くらいだろうか。

 隣を歩いていたルミの身体が、ブレた。

 あ、と思う間もなく。

 足が動いていた。

 混雑の中、荷物か何かがぶつかったのか。

 それとも、さっきから体調が悪そうだったのが原因か。

 まぁ、でも、そんなことはどうでもいいか。

 とっに動いた結果。

 階段の下で、ルミと抱き合っていた。

 誰かが手前に居なくよかった、とか。滑る直前に足首とか捻ってないだろうか、とか。身体、ちょっと熱くないか、とか。

 いろいろと考えはぐるぐると巡るけど。

 身体は全然動かなかった。

 ルミも何故か無言で、腕の中に納まったまま。せめて何か言ってくれれば僕の言語機能も元に戻りそうなのに。ただ黙って、抱き合っている。

 ――公衆の面前で。

 ルミのことも見られないし、もちろん周りを見るなんて以ての外。

「あ、また会えたー! ……んぇ? わ、ジュンイチ! アレ見て、アレ!」

「おぉ、マジかよ」

「やるねえ、最近の若い子たちは」

「……ハヤトってどうくんに対して妙におじいちゃんぶるよね」

 だからこそ――。

「ちょ、ちょっとエリカ! あのふたりどうしたの!?」

「いやー……」

 ――聞き慣れた声がする方向さえ、見ることなんてできないわけで。

 僕が強引にルミを引き剥がそうとすると、ルミも同時に僕から離れた。

 だけどなぜか、互いに目を離せない。

「目と目で通じ合うー」

「……え。先生、なんですかそれ」

「うわ、こんなタイミングでジェネレーションギャップ感じたくなかったわー」

 何かの準備をしていた先生とその教え子が、僕らをチラチラと見つつ何か言いながら通り過ぎていった。危ない。これがもし抱き合ったようなままだったら、僕は今頃どこかへ連行されていたかもしれない。

 しかし、だ。端から見れば見つめ合っているように見えるのだろうけど、当事者としては身体が硬直して身動きが取れていないだけだ。ルミの顔がどんどん赤くなっていくのがわかる。こっちも何だか耳が熱い。

 えーっと。

 僕は、一体どうすればいいのでしょうか――?


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