恋の音色は星空と輝く

御子柴 流歌

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第1章: 恋することのプロローグ

1-7. アクシデント=……?

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「あの……」

 言いかけたところでブレーキがかかった。窓の外は見慣れた景色、駅前の交差点だった。もうすぐ到着というところで、何人かの生徒が後ろの席から立って降り口の方へとやってきた。

「うん?」

「ううん。……あの、もちょっと後で話すね」

「ん、わかった」

 さすがにこんな状況で話せる内容じゃないことくらいは解っている。もう少し人がいなくなってから、この話を切り出すことにしようと思った。

 信号が青になり、ようやくバス停へと到着する。後部側の座席から殺到する生徒を眺めつつ、同時に自分の荷物を整えるふりをしながら、大丈夫そうなタイミングを窺う。

「……もしかしてさ」

「え?」

 耳元で囁かれる。普段よりも低い声に聞こえて、ちょっと驚く。

「言おうとしてた事って、ナミたちのこと?」

「……ぅえ? あ、うん。そう……だけど」

 まさか当てられるとは思ってなかった。

「アスト、もしかして知ってたの?」

「うん、まぁ。フウマから聞いて」

 アイツは、アストにどういう伝え方をしたのだろう。ちょっとばかり気になったが、タイミングが良いのか悪いのか、降りていく生徒たちの流れが途絶えた。アストがすっと立ち上がったので、アタシも慌てて彼の後ろにつく。

「付き合うことにしたらしいよ」

「…………えっ」

 事も無げに言い放たれたアストの言葉に、アタシの心臓が跳ね上がった。返事もツーテンポくらい遅れる。

「部活行く直前に言われたんだけど、あのふたり付き合うことにしたらしい、って話」

 言葉が重ねられる。容赦なく。

「……『らしい』って何よ」

「フウマがイマイチはっきり言ってくれなかったんだけど、何となくナミの雰囲気的に」

「そう、なんだ」

 ものすごく心臓がドキドキしている。何でだろう。どうしてアタシの心臓はそんなに焦るような動き方をするんだろう。

 大好きなナミに彼氏ができたのに、どうして――?

「セナ? 行くよ?」

 気付けばアストはもうバスから降りるところ。アタシも慌てて出口を目指す。ラケットケースにくくりつけたスクールバスの乗車証を運転手さんに見せて、ステップを降りようとして――――。

「あっ……!」

 ラケットケースのベルトが降り口の手すりに一瞬引っかかったせいで、身体のバランスが崩れた。あと一段のところでステップを踏み外してしまう――そんなことに気付く間もなく、アタシの身体は前方へと投げ出されて――。

「!?」

 身体に痛みは無い。そういうタイプの『事故』は無い。

 あるのは全身を包む暖かさと、そして――。

「セナ? だいじょうぶだった?」

「え……?」

「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」

 心配そうなアストの声と運転手さんの声で、現実に戻される。

「あ、は、ハイ! 大丈夫でした!」

「気をつけて帰るんだよー」

 苦笑いをアタシたちにくれつつ扉を閉める運転手さん。大きなエンジン音を響かせて、バスは再び学校の方へと戻っていった。

 何となくそのバスの姿が見えなくなるまで見送ってから、並んで立っている彼を見上げる。

「疲れてるんじゃない? 足下覚束ないんだもの」

「そ、そんなこと……」

 上から降ってきたいつも通りの優しい眼差しに、アタシはいつも通りになれなかった。

 それは、フウマとナミが付き合い始めたことを聞かされたせいだろうか。

 それとも――。

 ――アストがアタシを抱きとめてくれたときに、アタシの唇が偶然に触れてしまった、彼の頬の感触のせいだろうか。

 目が離せなくなる。自分が自分じゃなくなっていくみたいな感覚になる。

「行こう。そろそろ電車来るよ」

「……ん」

 アタシだけが動揺しているのだろうか。でも、アタシはいったいどれに対して動揺しているのだろうか。

 また静かに歩き始めたアストの横には、どうしても並べなかった。
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