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第4章: 危険なカオリ
4-4. 病み上がりにレモンティー
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「星凪、アンタほんとに大丈夫? 病み上がりなんだろうけどさぁ」
「ん……。うん、たぶん、だいじょうぶ」
部活終わり。さようならの挨拶を済ますと同時に、ユミがアタシに話しかけてくれる。
正直、あの日は体育館のステージから降りた後の記憶がほとんどない。それに加えて帰宅直後から熱を出したアタシは、そのまま学校を三日ほど休む羽目になった。熱を出して休むなんていつ以来だろう。小学校の低学年ぐらいに一回くらいあったとは思うけれど、それっきりのはずだ。わりと健康優良児でやってきたはずだったのに、まさかの展開だった。
「そんな答え方されて、『ああそうですか』って言えるほど私も薄情じゃないんだわ」
「うん、……ありがとね」
「なんかちょっとマズそうな感じだしね、星凪のクラスって」
「そうなのよぉー……、アタシが休んでる間に何があったのよ、ってマジでさぁ。一応ナミからふんわりとした話は聞いてるんだけど……」
体調を崩したアタシに余計なことを考えさせないように、とかいう配慮なのかもしれないけれど。もう少し心の準備みたいなのをさせてほしかったのも事実。ナミの口ぶりより、三倍くらいは深刻そうな雰囲気だった。
復帰して早々アタシを出迎えたのは、教室内の険悪ムードだった。きっかけは本当に小さな言い合いだったらしいけれど、積もりに積もっていたモノがあったのかそれがちょっとはじけてしまったようだ。正直言って、教室のあの空気を放置して部活に出なくちゃいけないこの状態で、まともな思考なんてできるはずもない。ラリーで相手を崩すような戦法とかそんなモノを考えられる余裕なんて、アタシの脳細胞に残っているわけがなかった。
しかもそれに加えてもうひとつ、問題があった。もちろんそれはナミとフウマのこと。
この前までのイイ感じはどこへやら、付き合い始めた直後よりもふたりの間には緊張感のようなものがあるように見えた。原因の一端はもちろんアタシで、あの日のアレ以来あの雰囲気なんだろうけれど。――もちろんこれはユミにはヒミツだった。
そんな感じでユミには一部分を伏せた情報をちょっとだけ渡すと、彼女はほんの少し悩んで。
「ま、なるようになるでしょ」
こざっぱりとした感じで言い放されて、思わずコケそうになった。
「ユミってさぁ、すっごい良いところまで話聞いといていきなりぶん投げるよね」
「いやまぁ、私だって良いアイディアあったら教えたいけどさぁ。さすがにこれはテキトーなこと言えないわよ」
「たしかにそうなんだけど」
これもきっとユミなりの誠意の見せ方なのだろう。中途半端なことはしないタチだということは、この数ヶ月でよくわかってきたことだった。話を聞いてくれるだけありがたいのは確かだし、それ以上彼女に文句を言うのも違う気がして、アタシは止まっていた片付けの手をもう一度動かし始めた。
〇
でも。
だからと言って、アタシの気持ちが無条件に久方の夏の太陽光のようには晴れてくれることはないわけで。
「……はぁ」
久しぶりに校舎内の売店によって飲み物を買う。久しぶりだねえ、なんて言ってくれた売店のお姉さま――そう呼べ、と言われたことがある――に空元気風の笑顔を返しながら品定めをしてみる。
お水でいいかな。それとも、たまにはちょっとジャンクに炭酸飲料もいいかも。
そんなことを思いつつ、ふと目に入ってきたのはレモンティー。アストのお気に入りのレモンティー。妙に視線を外せなくなって、気が変わってしまう前にそのままの勢いでレモンティーを指差した。
そのままベンチへ移動して開封。
「ふぅ」
さわやかな酸味に疲れが溶けていくような気がした。疲れているときにはこういうモノがいいんだとは聞いているし知っているけれど、それをここまで実感したのは初めてかもしれなかった。
「……ふぅ」
周囲に人がいないのを良いことに、すでに何度目かわからないため息のようなものを吐き出す。疲れが口から出て行っているのか、それとも巷でよくきく幸せを逃がしているのか。どっちなのかは全く見当が付かなかった。
「あれ? セナだ」
「えっ」
中身が少なくなってきたボトルをイジっていたアタシに声をかけてきたのは、アストだった。アストはアタシを覗き込むようにしゃがみつつ笑っている。口では『あれ?』なんて言っておきながら、もしかしたらちょっとの間こっそりとアタシを観察していたりするのだろうか。ちょっと悪趣味だな、なんて思ってみる。アタシなんか見てたって、何もおもしろいことなんて無いのに。
「お、レモンティーだ」
「あ、うん。何となく飲んでみたくなって」
「じゃあボクも買ってこよう」
颯爽と売店へ向かって、人好きのする笑顔を見せながらお気に入りの一本を入手して、再び戻ってくる。――ぐびっ、と喉を鳴らしながら。
「いや、もー、喉渇いちゃって」
「おつかれさま」
「セナもね」
お互いに労いの言葉を掛け合ってみたりなんかする。少しだけ気持ちが軽くなったような気がした。実際のところ、アストも今は大変なタイミングだ。煌星祭では吹奏楽部の演奏会もある。これは一般のお客さんもたくさん来る日曜日の午後に開催予定だ。そのためかなり長時間の練習が毎日行われているという話だった。
「っていうか、セナの方が大変か」
「う、ん。そうね」
たぶんだけれど、アストは委員のことを言っているのだろう。互いに相手のことを妙に心配してしまっているらしい。
「……まぁ、ねえ。あれはそんなにセナが気に病む必要なんて無いと思うんだけど」
「そうなのかな」
「そうでしょ。第一、揉めてたときはセナ居なかったんだから」
そう言いながらアストはアタシに向かって笑う。その瞬間、アタシの中でスッと納得感のあるようなモノがおなかの中に落ちたような感覚があった。
「……もしかして、そのせいなのかな」
「ん? 何が」
「何かさ、部外者っぽい感じがして」
今の仲間割れというか、喧嘩というか――どう言ったら正しいのかわからないけど、一騒動起きてしまったときに、アタシはその場にいなかった。もしかしたらその段階で何か打つ手があったのかもしれないけれど、それをすることができなかった。そのことが罪悪感のようなモノになって、アタシの中で引っかかっていたみたいだった。
ぼんやりと思ったことをどうにか自分の言葉にして、途中かなり突っかかりながらもアストにぶつけてみる。はじめはかなり深刻そうな顔をしていたアストだったが、だんだんといつものような頬の緩み方になってきた。
「いやいや、何をおっしゃいますやら」
アタシのへたっぴな話を最後まで聞いてくれたアストは、ハハハと朗らかに笑った。日頃の静かな笑い方とは違う、ちょっと豪快というか、とにかくあまり見せないタイプの笑い方だった。
「ん……。うん、たぶん、だいじょうぶ」
部活終わり。さようならの挨拶を済ますと同時に、ユミがアタシに話しかけてくれる。
正直、あの日は体育館のステージから降りた後の記憶がほとんどない。それに加えて帰宅直後から熱を出したアタシは、そのまま学校を三日ほど休む羽目になった。熱を出して休むなんていつ以来だろう。小学校の低学年ぐらいに一回くらいあったとは思うけれど、それっきりのはずだ。わりと健康優良児でやってきたはずだったのに、まさかの展開だった。
「そんな答え方されて、『ああそうですか』って言えるほど私も薄情じゃないんだわ」
「うん、……ありがとね」
「なんかちょっとマズそうな感じだしね、星凪のクラスって」
「そうなのよぉー……、アタシが休んでる間に何があったのよ、ってマジでさぁ。一応ナミからふんわりとした話は聞いてるんだけど……」
体調を崩したアタシに余計なことを考えさせないように、とかいう配慮なのかもしれないけれど。もう少し心の準備みたいなのをさせてほしかったのも事実。ナミの口ぶりより、三倍くらいは深刻そうな雰囲気だった。
復帰して早々アタシを出迎えたのは、教室内の険悪ムードだった。きっかけは本当に小さな言い合いだったらしいけれど、積もりに積もっていたモノがあったのかそれがちょっとはじけてしまったようだ。正直言って、教室のあの空気を放置して部活に出なくちゃいけないこの状態で、まともな思考なんてできるはずもない。ラリーで相手を崩すような戦法とかそんなモノを考えられる余裕なんて、アタシの脳細胞に残っているわけがなかった。
しかもそれに加えてもうひとつ、問題があった。もちろんそれはナミとフウマのこと。
この前までのイイ感じはどこへやら、付き合い始めた直後よりもふたりの間には緊張感のようなものがあるように見えた。原因の一端はもちろんアタシで、あの日のアレ以来あの雰囲気なんだろうけれど。――もちろんこれはユミにはヒミツだった。
そんな感じでユミには一部分を伏せた情報をちょっとだけ渡すと、彼女はほんの少し悩んで。
「ま、なるようになるでしょ」
こざっぱりとした感じで言い放されて、思わずコケそうになった。
「ユミってさぁ、すっごい良いところまで話聞いといていきなりぶん投げるよね」
「いやまぁ、私だって良いアイディアあったら教えたいけどさぁ。さすがにこれはテキトーなこと言えないわよ」
「たしかにそうなんだけど」
これもきっとユミなりの誠意の見せ方なのだろう。中途半端なことはしないタチだということは、この数ヶ月でよくわかってきたことだった。話を聞いてくれるだけありがたいのは確かだし、それ以上彼女に文句を言うのも違う気がして、アタシは止まっていた片付けの手をもう一度動かし始めた。
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でも。
だからと言って、アタシの気持ちが無条件に久方の夏の太陽光のようには晴れてくれることはないわけで。
「……はぁ」
久しぶりに校舎内の売店によって飲み物を買う。久しぶりだねえ、なんて言ってくれた売店のお姉さま――そう呼べ、と言われたことがある――に空元気風の笑顔を返しながら品定めをしてみる。
お水でいいかな。それとも、たまにはちょっとジャンクに炭酸飲料もいいかも。
そんなことを思いつつ、ふと目に入ってきたのはレモンティー。アストのお気に入りのレモンティー。妙に視線を外せなくなって、気が変わってしまう前にそのままの勢いでレモンティーを指差した。
そのままベンチへ移動して開封。
「ふぅ」
さわやかな酸味に疲れが溶けていくような気がした。疲れているときにはこういうモノがいいんだとは聞いているし知っているけれど、それをここまで実感したのは初めてかもしれなかった。
「……ふぅ」
周囲に人がいないのを良いことに、すでに何度目かわからないため息のようなものを吐き出す。疲れが口から出て行っているのか、それとも巷でよくきく幸せを逃がしているのか。どっちなのかは全く見当が付かなかった。
「あれ? セナだ」
「えっ」
中身が少なくなってきたボトルをイジっていたアタシに声をかけてきたのは、アストだった。アストはアタシを覗き込むようにしゃがみつつ笑っている。口では『あれ?』なんて言っておきながら、もしかしたらちょっとの間こっそりとアタシを観察していたりするのだろうか。ちょっと悪趣味だな、なんて思ってみる。アタシなんか見てたって、何もおもしろいことなんて無いのに。
「お、レモンティーだ」
「あ、うん。何となく飲んでみたくなって」
「じゃあボクも買ってこよう」
颯爽と売店へ向かって、人好きのする笑顔を見せながらお気に入りの一本を入手して、再び戻ってくる。――ぐびっ、と喉を鳴らしながら。
「いや、もー、喉渇いちゃって」
「おつかれさま」
「セナもね」
お互いに労いの言葉を掛け合ってみたりなんかする。少しだけ気持ちが軽くなったような気がした。実際のところ、アストも今は大変なタイミングだ。煌星祭では吹奏楽部の演奏会もある。これは一般のお客さんもたくさん来る日曜日の午後に開催予定だ。そのためかなり長時間の練習が毎日行われているという話だった。
「っていうか、セナの方が大変か」
「う、ん。そうね」
たぶんだけれど、アストは委員のことを言っているのだろう。互いに相手のことを妙に心配してしまっているらしい。
「……まぁ、ねえ。あれはそんなにセナが気に病む必要なんて無いと思うんだけど」
「そうなのかな」
「そうでしょ。第一、揉めてたときはセナ居なかったんだから」
そう言いながらアストはアタシに向かって笑う。その瞬間、アタシの中でスッと納得感のあるようなモノがおなかの中に落ちたような感覚があった。
「……もしかして、そのせいなのかな」
「ん? 何が」
「何かさ、部外者っぽい感じがして」
今の仲間割れというか、喧嘩というか――どう言ったら正しいのかわからないけど、一騒動起きてしまったときに、アタシはその場にいなかった。もしかしたらその段階で何か打つ手があったのかもしれないけれど、それをすることができなかった。そのことが罪悪感のようなモノになって、アタシの中で引っかかっていたみたいだった。
ぼんやりと思ったことをどうにか自分の言葉にして、途中かなり突っかかりながらもアストにぶつけてみる。はじめはかなり深刻そうな顔をしていたアストだったが、だんだんといつものような頬の緩み方になってきた。
「いやいや、何をおっしゃいますやら」
アタシのへたっぴな話を最後まで聞いてくれたアストは、ハハハと朗らかに笑った。日頃の静かな笑い方とは違う、ちょっと豪快というか、とにかくあまり見せないタイプの笑い方だった。
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