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番外編
前日談 とある少女の話4
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「俺はハロルド……お前の名は?」
「私は、リア……じゃなくて、セシリア。セシリア・ウォーレンです」
偉い人には丁寧な言葉で話す、ということは知っている。だけど、村長よりも偉い人に対して、どんな口調で話せばいいのかわからない。
村で育ち、村から出てこない私にとって、丁寧な話し方というのは慣れないものだった。
「ウォーレン家の娘か……。お前くらいの年の頃の娘がいるのは、初めて聞いたな」
ふむ、と考える素振りのハロルドと名乗った男性に、私はわたわたと言葉を返す。
「あ、えーと、私、ウォーレン子爵の庶子、というのらしくて……それで、つい先日引き取られたばかり、なのです」
「ああ、そうか。……なるほど」
そう言うと、ハロルドさまはぐるりと周囲を見回してから合点がいったとばかりに小さく頷いた。その仕草に、私は首を傾げる。
ウォーレン子爵の庶子、にいったいどんな意味があるのだろう。庶子が隠し子とか、そういう意味があるのは知っているけど、納得するほどの何かがあるのだろうか。
「……一曲お願いしてもいいだろうか」
悩んでいると、私の前に手が差し伸べられた。
会場に響く音楽に合わせての提案、だということはわかる。
だけど、困った。盛大に困った。
「あああ、あの、私……踊れません」
踊りなんて、村で豊作だった時に焚火を囲んで皆で踊るくらいしかしたことがない。多分、あの踊りはこの場には適していない。いや、多分じゃない。絶対に。
「そ、そうか……それは、すまなかった」
「い、いえ! 誘ってくれてありがとうございます。嬉しかったです」
ぐっと眉間に皺を寄せて神妙な顔つきで謝るハロルドに、大慌てて首をぶんぶん振る。
「……なら、少し……話でもするか」
差し出していた手を引っこめると、ハロルドさまは私の隣に並び、これまでどういう生活をしていたのかとか、村はどんなところだったのか、などを聞いてきた。
豊作の宴でどんな踊りを踊るのかを詳しく話した時は「なるほど、市井ではそういうのが流行っているのか」と真面目な顔で言われて、流行りとは少し違うと思って思わず吹き出しそうになった。
「あの、どうしてハロルドさまは私に声をかけようと、思ってくれた、のですか?」
そうしてたわいもない話をしていると、ハロルドさまをちらちらと見ている人が多いことに気がついた。
色々な人が彼と話したがっているのい、彼は私の隣に立ったまま動こうとはしていない。
だからそれが不思議で問いかけると、ハロルドさまの眉間に皺が刻まれた。
「……俺は、優しい人でありたいと……そう思っているんだ」
低く呟くように言われた言葉に首を傾げる。
自分の信条を語るには、どこか苦しそうで、悲しそうだったから。
「ハロルドさまは、優しいと思いますよ」
「……いや、まだ駄目なんだ」
優しいに駄目とかもういいとかあるのだろうか、と疑問が積み重なっていく。
だけど険しくなっている顔に、これ以上追及してはいけないような気がして、村で起きた珍事件――薬草畑を囲うように黄色い花が植えられていた時の話をすることにした。
このほうが綺麗だと思った、という子供の悪戯の話でしかないけど、それでも気を紛らわすには十分だろうと思ったのだ。
それから少しして、意を決したかのような顔で話しかけてきた人によって、私はハロルドさまが王太子――とてつもなく偉い人なのだと知ることになった。
「私は、リア……じゃなくて、セシリア。セシリア・ウォーレンです」
偉い人には丁寧な言葉で話す、ということは知っている。だけど、村長よりも偉い人に対して、どんな口調で話せばいいのかわからない。
村で育ち、村から出てこない私にとって、丁寧な話し方というのは慣れないものだった。
「ウォーレン家の娘か……。お前くらいの年の頃の娘がいるのは、初めて聞いたな」
ふむ、と考える素振りのハロルドと名乗った男性に、私はわたわたと言葉を返す。
「あ、えーと、私、ウォーレン子爵の庶子、というのらしくて……それで、つい先日引き取られたばかり、なのです」
「ああ、そうか。……なるほど」
そう言うと、ハロルドさまはぐるりと周囲を見回してから合点がいったとばかりに小さく頷いた。その仕草に、私は首を傾げる。
ウォーレン子爵の庶子、にいったいどんな意味があるのだろう。庶子が隠し子とか、そういう意味があるのは知っているけど、納得するほどの何かがあるのだろうか。
「……一曲お願いしてもいいだろうか」
悩んでいると、私の前に手が差し伸べられた。
会場に響く音楽に合わせての提案、だということはわかる。
だけど、困った。盛大に困った。
「あああ、あの、私……踊れません」
踊りなんて、村で豊作だった時に焚火を囲んで皆で踊るくらいしかしたことがない。多分、あの踊りはこの場には適していない。いや、多分じゃない。絶対に。
「そ、そうか……それは、すまなかった」
「い、いえ! 誘ってくれてありがとうございます。嬉しかったです」
ぐっと眉間に皺を寄せて神妙な顔つきで謝るハロルドに、大慌てて首をぶんぶん振る。
「……なら、少し……話でもするか」
差し出していた手を引っこめると、ハロルドさまは私の隣に並び、これまでどういう生活をしていたのかとか、村はどんなところだったのか、などを聞いてきた。
豊作の宴でどんな踊りを踊るのかを詳しく話した時は「なるほど、市井ではそういうのが流行っているのか」と真面目な顔で言われて、流行りとは少し違うと思って思わず吹き出しそうになった。
「あの、どうしてハロルドさまは私に声をかけようと、思ってくれた、のですか?」
そうしてたわいもない話をしていると、ハロルドさまをちらちらと見ている人が多いことに気がついた。
色々な人が彼と話したがっているのい、彼は私の隣に立ったまま動こうとはしていない。
だからそれが不思議で問いかけると、ハロルドさまの眉間に皺が刻まれた。
「……俺は、優しい人でありたいと……そう思っているんだ」
低く呟くように言われた言葉に首を傾げる。
自分の信条を語るには、どこか苦しそうで、悲しそうだったから。
「ハロルドさまは、優しいと思いますよ」
「……いや、まだ駄目なんだ」
優しいに駄目とかもういいとかあるのだろうか、と疑問が積み重なっていく。
だけど険しくなっている顔に、これ以上追及してはいけないような気がして、村で起きた珍事件――薬草畑を囲うように黄色い花が植えられていた時の話をすることにした。
このほうが綺麗だと思った、という子供の悪戯の話でしかないけど、それでも気を紛らわすには十分だろうと思ったのだ。
それから少しして、意を決したかのような顔で話しかけてきた人によって、私はハロルドさまが王太子――とてつもなく偉い人なのだと知ることになった。
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