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番外編
前日談 遠い日の出会い
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色とりどりの花が咲き誇る庭園には、いくつものテーブルと椅子が並んでいる。そして綺麗な装飾がほどこされた椅子には、これまた綺麗なドレスをまとった令嬢たちが座り、まだかまだかと期待に満ちた目をしていた。
私もその中の一人で、ぴかぴかに磨かれた汚れ一つないテーブルと、庭園を飾る花や彫刻の数々にきょろきょろとあたりを見回している。
我が家にある彫刻や装飾品のたぐいはどれも年季の入ったものばかり。仕えてくれている人たちが頑張って磨いてくれてはいるけど、それでも限度がある。
お父様は古いものには古いもののよさがあると言っていたけど、こうしてお城のぴかぴかきらきらしているものを見ていると、新しいものが欲しいと言っていたお母様の気持ちもわかるような気がした。
「えーと……いいかな?」
不意に声をかけられ、体がぴくりと震える。
慌てて声のしたほうを見ると、困ったように苦笑しているハロルド殿下が立っていた。
ふわふわの金の髪が陽に透けて、きらきらと光っているように見える。綺麗な庭園に負けないほどの綺麗な髪に、思わず呆けてしまう。
だけどすぐに、自分の失態と呆けている場合ではないことに気づく。
今は、王城のお茶会に招かれてハロルド殿下とのお茶会を楽しむ時間だ。だから他の子たちは皆、ハロルド殿下が周ってくるのを心待ちにしていた。
私もハロルド殿下と仲良くするようにと言われていたからそのはずだった。綺麗な庭園に目を奪われるまでは。
「あ、ご、申し訳ございません!」
落ちついて行動するようにと言われていたのに。
そんな思いでいっぱいで、頭を下げようと勢いよく立ち上がると、その反動でテーブルが揺れ、上に置いてあったカップが倒れた。
白いクロスに広がる茶色い染みに、一瞬で頭の中が真っ白になる。
「ご、ごめんなさい! すぐに片付けますので……!」
まずは倒れたカップをどかすべきなのだろうか。それとも、これ以上染みが広がる前にクロスを引き抜くべきなのだろうか。
混乱しきった頭に、少し前にお父様が弟のためにと呼んだ道化師のことがよぎる。
あの道化師は机の上のものを倒すことなくクロスを引き抜いていた。あの技術が今すぐ欲しい。
「あ、いや、大丈夫だよ。気にしないで」
だけど諦めるにはまだ早い。もしかしたら新たな才能に目覚めるかもしれない、とクロスに手をかけて挑戦しようとしていた私に、待ったの声がかかる。
「片付けるのは侍女がやるから、君は座っていて大丈夫だよ」
促されるまま椅子に座り直すと、ハロルド殿下の背後に控えていた侍女が倒れたカップと汚れたクロスを手早く片付けた。そしてすぐに、新しいカップとクロスが机の上にセットされる。
その手際のよさに、思わず見惚れてしまう。我が家だったら、私と侍女でクロスの染みをどうやって落とせば話し合っていただろう。
「ドレスにはかかってない? 大丈夫?」
王子様の言葉に、ドレスが汚れてないか慌てて確認する。古いものが多い我が家だけど、この日のためにと新しく用意してくれたドレスだ。それをすぐに汚したとなれば、間違いなく怒られる。
幸い、汚れは見つからなかった。
「あ、はい、大丈夫です。……でも、クロスを駄目にして、ごめんなさい」
「君にかかってないならよかった。クロスは……大丈夫だから気にしなくていいよ」
大丈夫だと言って優しく笑うハロルド殿下。なんていい人なのだろう。
「ハロルド殿下が優しい方でよかったです」
我が家だったら、お母様によるクロスが一枚いくらなのかの講義ははじまっていたはずだ。
私もその中の一人で、ぴかぴかに磨かれた汚れ一つないテーブルと、庭園を飾る花や彫刻の数々にきょろきょろとあたりを見回している。
我が家にある彫刻や装飾品のたぐいはどれも年季の入ったものばかり。仕えてくれている人たちが頑張って磨いてくれてはいるけど、それでも限度がある。
お父様は古いものには古いもののよさがあると言っていたけど、こうしてお城のぴかぴかきらきらしているものを見ていると、新しいものが欲しいと言っていたお母様の気持ちもわかるような気がした。
「えーと……いいかな?」
不意に声をかけられ、体がぴくりと震える。
慌てて声のしたほうを見ると、困ったように苦笑しているハロルド殿下が立っていた。
ふわふわの金の髪が陽に透けて、きらきらと光っているように見える。綺麗な庭園に負けないほどの綺麗な髪に、思わず呆けてしまう。
だけどすぐに、自分の失態と呆けている場合ではないことに気づく。
今は、王城のお茶会に招かれてハロルド殿下とのお茶会を楽しむ時間だ。だから他の子たちは皆、ハロルド殿下が周ってくるのを心待ちにしていた。
私もハロルド殿下と仲良くするようにと言われていたからそのはずだった。綺麗な庭園に目を奪われるまでは。
「あ、ご、申し訳ございません!」
落ちついて行動するようにと言われていたのに。
そんな思いでいっぱいで、頭を下げようと勢いよく立ち上がると、その反動でテーブルが揺れ、上に置いてあったカップが倒れた。
白いクロスに広がる茶色い染みに、一瞬で頭の中が真っ白になる。
「ご、ごめんなさい! すぐに片付けますので……!」
まずは倒れたカップをどかすべきなのだろうか。それとも、これ以上染みが広がる前にクロスを引き抜くべきなのだろうか。
混乱しきった頭に、少し前にお父様が弟のためにと呼んだ道化師のことがよぎる。
あの道化師は机の上のものを倒すことなくクロスを引き抜いていた。あの技術が今すぐ欲しい。
「あ、いや、大丈夫だよ。気にしないで」
だけど諦めるにはまだ早い。もしかしたら新たな才能に目覚めるかもしれない、とクロスに手をかけて挑戦しようとしていた私に、待ったの声がかかる。
「片付けるのは侍女がやるから、君は座っていて大丈夫だよ」
促されるまま椅子に座り直すと、ハロルド殿下の背後に控えていた侍女が倒れたカップと汚れたクロスを手早く片付けた。そしてすぐに、新しいカップとクロスが机の上にセットされる。
その手際のよさに、思わず見惚れてしまう。我が家だったら、私と侍女でクロスの染みをどうやって落とせば話し合っていただろう。
「ドレスにはかかってない? 大丈夫?」
王子様の言葉に、ドレスが汚れてないか慌てて確認する。古いものが多い我が家だけど、この日のためにと新しく用意してくれたドレスだ。それをすぐに汚したとなれば、間違いなく怒られる。
幸い、汚れは見つからなかった。
「あ、はい、大丈夫です。……でも、クロスを駄目にして、ごめんなさい」
「君にかかってないならよかった。クロスは……大丈夫だから気にしなくていいよ」
大丈夫だと言って優しく笑うハロルド殿下。なんていい人なのだろう。
「ハロルド殿下が優しい方でよかったです」
我が家だったら、お母様によるクロスが一枚いくらなのかの講義ははじまっていたはずだ。
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