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苦しくて
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重たい旅行バッグを抱えて、公園のベンチに座っていた。
もしかしたら、目を覚ました佑樹が追いかけてきてくれるかもしれない。淡い期待を抱いてる私がいる。
来てくれるはずはない。来てくれたとしても、それは私を愛してるからじゃない。どっちにしたって、この苦しい気持ちは救われない。誰でもいいから、ここから救い出してほしい。
そう思っていたら、辺りが薄暗くなってきて、苦笑いする。
私を助けてくれる人なんていないんだ。
引っ越しはしたものの、佑樹のアパートから歩いていける距離に私のアパートはある。
もしかしたら近くのコンビニで会えるかもとか考えた私は、本当に未練がましい。
公園からアパートに向かう途中で、自動販売機を見つけた。ひどく喉がかわいていることに気づいた。
お茶でも買おうと財布から小銭を出していると、横から手が伸びてきた。投入口に500円玉が吸い込まれていく。
私がもたもたしてるから待てなかったのだろう。身を引こうとすると、肩にそっと手が触れた。
「好きなの、選んでいいよ」
顔をあげると、穏やかな笑みを浮かべた青年が私を見下ろしていた。茶色い優しい瞳を、私は知っている。
「芳人さん……」
「お茶にする?」
「あ、はい」
芳人さんはお茶とコーヒーを購入すると、お茶を私にもたせて、旅行バッグを持ち上げてくれた。
「今から旅行?」
沈みかけてる夕日を見る芳人さんは不思議そうにする。
「違うんです」
「なんかわけあり?」
「……まあ」
言葉を濁す。芳人さんも何かを察したのか、あまり詳しくは尋ねてこなかった。
「お腹、空かない?」
「ちょっと空いてます」
お昼ごはんは食べてない。喫茶店で紅茶を飲んだだけだった。
「俺、今から食べに行くところだったから、一緒に行こうか」
気づいてしまうと空腹が気になり出す。アパートに戻ってごはんを作る気力はない。私は迷った挙句、芳人さんの誘いに乗ることにした。
近くの和食料理店に入った私たちは、それぞれ定食を注文して向かい合って座った。
「芳人さんは近くに住んでるんですか?」
「すぐそこだよ」
芳人さんは店の窓から見えるマンションを指さす。
「ほんとに近いんですね」
驚くぐらい近いから、ちょっとおかしくて笑うと、芳人さんもにこっとした。
「やっと笑った」
「……あ」
「笑ってた方がかわいいよ」
さりげなく私をほめてくれる芳人さんは、私の注文した定食が先に運ばれてきたのを見ると、先に食べていいよと促してくれた。
言葉に甘えて、お味噌汁を飲む。それだけでほっとする。
「おいしい……」
ちょっと元気が出る。芳人さんに会えて良かった。一人でいたら、朝まで泣いてたかもしれない。
「ここ、安いわりに結構おいしいんだよ」
「よく来るんですか?」
「週に二、三回かな」
「常連ですね」
「ただ自炊しないだけ」
芳人さんはクスッと笑うと、ようやく運ばれてきた定食を受け取った。
私たちは黙々と食事をした。ただ一緒に食事をするだけの時間は、やけに穏やかだった。
すっかり満腹になった私は、そのまま会話を弾ませることもなく、芳人さんと店を出た。
「何かあったらさ、またおいでよ。相談ぐらい乗るからさ」
「あ、ありがとうございます」
ぺこっと頭をさげると、芳人さんは唐突に顔を寄せてきて、小さな声でささやく。
「このことは雅也には内緒だよ。あいつのことだから、杉田さんにすぐ報告するだろ。たまには彼氏に干渉されたくない時もあるよね?」
その気遣いがうれしくて、私は小さくうなずいた。
「だいたい火、木と土日あたりに来るからさ」
芳人さんはそう言うと、私の姿が見えなくなるまで手を振って見送ってくれた。
彼は気遣いが出来てとても優しい。彼になら、佑樹のことを相談してもかまわないかもしれない。そう思うだけで心が軽くなった。
重たい旅行バッグを抱えて、公園のベンチに座っていた。
もしかしたら、目を覚ました佑樹が追いかけてきてくれるかもしれない。淡い期待を抱いてる私がいる。
来てくれるはずはない。来てくれたとしても、それは私を愛してるからじゃない。どっちにしたって、この苦しい気持ちは救われない。誰でもいいから、ここから救い出してほしい。
そう思っていたら、辺りが薄暗くなってきて、苦笑いする。
私を助けてくれる人なんていないんだ。
引っ越しはしたものの、佑樹のアパートから歩いていける距離に私のアパートはある。
もしかしたら近くのコンビニで会えるかもとか考えた私は、本当に未練がましい。
公園からアパートに向かう途中で、自動販売機を見つけた。ひどく喉がかわいていることに気づいた。
お茶でも買おうと財布から小銭を出していると、横から手が伸びてきた。投入口に500円玉が吸い込まれていく。
私がもたもたしてるから待てなかったのだろう。身を引こうとすると、肩にそっと手が触れた。
「好きなの、選んでいいよ」
顔をあげると、穏やかな笑みを浮かべた青年が私を見下ろしていた。茶色い優しい瞳を、私は知っている。
「芳人さん……」
「お茶にする?」
「あ、はい」
芳人さんはお茶とコーヒーを購入すると、お茶を私にもたせて、旅行バッグを持ち上げてくれた。
「今から旅行?」
沈みかけてる夕日を見る芳人さんは不思議そうにする。
「違うんです」
「なんかわけあり?」
「……まあ」
言葉を濁す。芳人さんも何かを察したのか、あまり詳しくは尋ねてこなかった。
「お腹、空かない?」
「ちょっと空いてます」
お昼ごはんは食べてない。喫茶店で紅茶を飲んだだけだった。
「俺、今から食べに行くところだったから、一緒に行こうか」
気づいてしまうと空腹が気になり出す。アパートに戻ってごはんを作る気力はない。私は迷った挙句、芳人さんの誘いに乗ることにした。
近くの和食料理店に入った私たちは、それぞれ定食を注文して向かい合って座った。
「芳人さんは近くに住んでるんですか?」
「すぐそこだよ」
芳人さんは店の窓から見えるマンションを指さす。
「ほんとに近いんですね」
驚くぐらい近いから、ちょっとおかしくて笑うと、芳人さんもにこっとした。
「やっと笑った」
「……あ」
「笑ってた方がかわいいよ」
さりげなく私をほめてくれる芳人さんは、私の注文した定食が先に運ばれてきたのを見ると、先に食べていいよと促してくれた。
言葉に甘えて、お味噌汁を飲む。それだけでほっとする。
「おいしい……」
ちょっと元気が出る。芳人さんに会えて良かった。一人でいたら、朝まで泣いてたかもしれない。
「ここ、安いわりに結構おいしいんだよ」
「よく来るんですか?」
「週に二、三回かな」
「常連ですね」
「ただ自炊しないだけ」
芳人さんはクスッと笑うと、ようやく運ばれてきた定食を受け取った。
私たちは黙々と食事をした。ただ一緒に食事をするだけの時間は、やけに穏やかだった。
すっかり満腹になった私は、そのまま会話を弾ませることもなく、芳人さんと店を出た。
「何かあったらさ、またおいでよ。相談ぐらい乗るからさ」
「あ、ありがとうございます」
ぺこっと頭をさげると、芳人さんは唐突に顔を寄せてきて、小さな声でささやく。
「このことは雅也には内緒だよ。あいつのことだから、杉田さんにすぐ報告するだろ。たまには彼氏に干渉されたくない時もあるよね?」
その気遣いがうれしくて、私は小さくうなずいた。
「だいたい火、木と土日あたりに来るからさ」
芳人さんはそう言うと、私の姿が見えなくなるまで手を振って見送ってくれた。
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