何万回囁いても

水城ひさぎ

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苦しくて

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「杉田さんと一緒?」

 芳人さんはちょっと驚いたように尋ねてきた。

 芳人さんからの電話の内容は、ちゃんとアパートに帰ったかどうかの確認と、来週の土曜日は飲み会だったから、木曜日に一緒に和食料理店で夕食を食べないかというお誘いだった。

 それを佑樹は誤解したのかもしれない。いきなり抱きしめてきて、意味のないことを囁いた。

「また電話するよ」

 芳人さんは察して電話を切った。

 申し訳ない気持ちになる。と同時に、新しい恋をすることも許されないのだと知った。

「結衣、帰ってきて」

 私を抱きしめる佑樹の腕は居心地がいい。

 体の向きをかえて胸に顔をうずめると、懐かしいタバコのにおいと、変わらない温かみが私を包む。

 佑樹と別れたくない。その思いは強くなる。

「結衣、返事して」

 佑樹を見上げる。せつなそうにする彼と見つめ合う。

 私は本当にだめな女だと思う。佑樹の幸せを壊したくなるなんて。

「佑樹……」
「帰ってきて」
「私だって……」
「結衣?」
「私だって帰りたいよ、佑樹」

 かがみこむ佑樹の唇が唇に重なって、目を閉じる。

 ばかだ。私は本当にばかだ。
 佑樹と別れるチャンスを自分の手で握りつぶしてしまった。

 二番目でもいい。
 必要な時だけ求められる女でもいい。
 苦しいだけの毎日なら、愛されてると錯覚しながら佑樹と一緒にいた方がいい。

 いつの間にか流れていた涙を、佑樹はぬぐってくれる。

「苦しくて……仕方ないの」

 胸にたまっていた思いを吐き出した。

「もう苦しまなくていいから」

 もう何度、あなたの言葉に騙されたら気が済むのだろう。
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