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永遠の条件
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「よー、夏凪。たった2週間で馴染んでるやつが大型新人つかまえたってうわさになってるけど、おまえのことだよな?」
同僚の成田蒼介は、オフィスに戻ってくるなり、デスクに座る俺の肩を叩く。
トップアートオークション日本支社に赴任して2週間が経つ。
コンテンポラリーアート部門に配属された俺は、同僚の蒼介とともに、日本人作家の作品を海外へ紹介する仕事に就いていた。
先日の会議では、新人アーティストに関するプレゼンテーションを行ったが、白山和風の作品は狙い通り、社内で話題になったようだ。
「海外に有名な桜コレクターがいてね、白山和風の作品に興味があると連絡をもらったよ。その件でうわさになってるのかもな」
「あー、それそれ。あの深山四季に弟子がいたとはね。トップが知らなかったなんて恥もいいところな上に、深山四季を超えるかもしれない逸材とあっては、色めき立つに決まってるよな」
母である深山四季の作品が、死後14年経った今も人気が高いのは、その希少性にある。
約40年前、細部にまでこだわり抜いた繊細な油絵を発表した母は、これまでにない技法だと大絶賛され、この世を去るまで第一線を駆け抜けてきた。
白山和風の画風も同じだ。
俺が彼女の作品を見て、懐かしい、還りたい、と感じるのは、母の絵画に通じるものがあったからかもしれない。
和風が四季に技法を学んだのは小学生の頃だが、その後も四季の教えを忠実に作品を作り続けてきた。
最近知ったのだが、四季は和風を育てるべく、彼女のためだけに資料を残していた。美術大学へ進んだ和風は、その資料をもとに腕を磨いてきたのだ。
生で絵画を見たものは、四季の繊細さを受け継ぎながら、決して美しいだけではない陰陽の世界を見事に描き切る彼女の精神力に圧倒されるだろう。
母が生きていたら、佐那子はもっと……。いや、この世にいないからこそ、和風は生まれたのかもしれない。
「彼女はまだまだ伸びるよ。ほんの少ししか才能を見せてないんだから」
「あれで、ほんの少しか。空恐ろしい新人だね」
だろ? と俺はにんまり笑うと、パソコンに目を戻す。
この2週間というもの、ニューヨークで縁のあったコレクターに、白山和風の作品を紹介し続けてきた。
かなりある問い合わせメールに目を通していく。
今夜も残業になりそうだ。佐那子とゆっくり過ごす時間がなくなるのは惜しいが、俺たちにとって、これからががんばり時だ。手を抜くわけにはいかない。
「あ、そうだ、夏凪」
立ち去りかけた蒼介が、俺を振り返る。
「なんだ?」
「例の件、調べさせたよ。なかなか問題ありだな」
蒼介はあきれ顔でそう言い、デスクの横にかがみ込む。
「何か出てきたか?」
「出てくるなんてもんじゃないぜ。前からうわさにはなってたみたいだけどな、いくら弱小ギャラリーとはいえ、野放しになってたのが信じられないよ」
彼はポケットから取り出した名刺を、俺の手に握らせる。
「弁護士の連絡先。夏凪と直接話したいらしい」
「悪いな」
「いいさ。クリーンな世界の発展は大賛成だからな」
ふたたび、俺の肩をたたいた蒼介は、「俺もやってやるか」とライバル心を見せて、デスクに戻っていった。
早速、手のひらを開く。
そこにある名刺には、『三条法律事務所 弁護士 三条都子』とある。
すぐに、名刺に載る番号へ電話をかける。すぐにつながった電話口で、俺は言った。
「トップアートオークションの神林夏凪と申しますが、三条都子弁護士にお繋ぎいただきたい。ギャラリー鈴に関する件で、と伝えていただければ、すぐにおわかりになるかと。よろしくお願いします」
「よー、夏凪。たった2週間で馴染んでるやつが大型新人つかまえたってうわさになってるけど、おまえのことだよな?」
同僚の成田蒼介は、オフィスに戻ってくるなり、デスクに座る俺の肩を叩く。
トップアートオークション日本支社に赴任して2週間が経つ。
コンテンポラリーアート部門に配属された俺は、同僚の蒼介とともに、日本人作家の作品を海外へ紹介する仕事に就いていた。
先日の会議では、新人アーティストに関するプレゼンテーションを行ったが、白山和風の作品は狙い通り、社内で話題になったようだ。
「海外に有名な桜コレクターがいてね、白山和風の作品に興味があると連絡をもらったよ。その件でうわさになってるのかもな」
「あー、それそれ。あの深山四季に弟子がいたとはね。トップが知らなかったなんて恥もいいところな上に、深山四季を超えるかもしれない逸材とあっては、色めき立つに決まってるよな」
母である深山四季の作品が、死後14年経った今も人気が高いのは、その希少性にある。
約40年前、細部にまでこだわり抜いた繊細な油絵を発表した母は、これまでにない技法だと大絶賛され、この世を去るまで第一線を駆け抜けてきた。
白山和風の画風も同じだ。
俺が彼女の作品を見て、懐かしい、還りたい、と感じるのは、母の絵画に通じるものがあったからかもしれない。
和風が四季に技法を学んだのは小学生の頃だが、その後も四季の教えを忠実に作品を作り続けてきた。
最近知ったのだが、四季は和風を育てるべく、彼女のためだけに資料を残していた。美術大学へ進んだ和風は、その資料をもとに腕を磨いてきたのだ。
生で絵画を見たものは、四季の繊細さを受け継ぎながら、決して美しいだけではない陰陽の世界を見事に描き切る彼女の精神力に圧倒されるだろう。
母が生きていたら、佐那子はもっと……。いや、この世にいないからこそ、和風は生まれたのかもしれない。
「彼女はまだまだ伸びるよ。ほんの少ししか才能を見せてないんだから」
「あれで、ほんの少しか。空恐ろしい新人だね」
だろ? と俺はにんまり笑うと、パソコンに目を戻す。
この2週間というもの、ニューヨークで縁のあったコレクターに、白山和風の作品を紹介し続けてきた。
かなりある問い合わせメールに目を通していく。
今夜も残業になりそうだ。佐那子とゆっくり過ごす時間がなくなるのは惜しいが、俺たちにとって、これからががんばり時だ。手を抜くわけにはいかない。
「あ、そうだ、夏凪」
立ち去りかけた蒼介が、俺を振り返る。
「なんだ?」
「例の件、調べさせたよ。なかなか問題ありだな」
蒼介はあきれ顔でそう言い、デスクの横にかがみ込む。
「何か出てきたか?」
「出てくるなんてもんじゃないぜ。前からうわさにはなってたみたいだけどな、いくら弱小ギャラリーとはいえ、野放しになってたのが信じられないよ」
彼はポケットから取り出した名刺を、俺の手に握らせる。
「弁護士の連絡先。夏凪と直接話したいらしい」
「悪いな」
「いいさ。クリーンな世界の発展は大賛成だからな」
ふたたび、俺の肩をたたいた蒼介は、「俺もやってやるか」とライバル心を見せて、デスクに戻っていった。
早速、手のひらを開く。
そこにある名刺には、『三条法律事務所 弁護士 三条都子』とある。
すぐに、名刺に載る番号へ電話をかける。すぐにつながった電話口で、俺は言った。
「トップアートオークションの神林夏凪と申しますが、三条都子弁護士にお繋ぎいただきたい。ギャラリー鈴に関する件で、と伝えていただければ、すぐにおわかりになるかと。よろしくお願いします」
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