嘘つきフェイク

水城ひさぎ

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欲しいものは手に入れる

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 入荷したばかりのハイヒールを試着する。惹かれる靴に出会えるのはたまのことで、この時間がミゾタ靴店に入社してからの一番の楽しみ。

 黒にするか、それとも赤か。いや、ここはベージュにするべきか。

 鏡の前に立っていろんな角度で確認していると、受付前の椅子に腰かけている紀子があきれ顔で頬杖をついた。

「そんなに悩む? お昼休憩、もう終わるよ?」
「あー、でも、うん、もうちょっと悩む。帰りには買うから。紀子はどう思う? 今日着てきたワンピースに合わせようと思うの」
「だったら迷いなくベージュでしょ。でも和美には赤が似合ってるかなぁ」

 紀子も鏡の中をのぞき込んでそう言う。

「やっぱり? どうしようかなぁ。帰りに履いて帰ろうかなって思ってるんだけど」
「今日? もしかして石神さんに会うの?」
「べ、別に約束してるわけじゃないよ。もしかしたら会えるかなって」
「ふーん、すっかりその気?」

 気色ばむ紀子の視線が気まずい。逃げ腰になる私は、いそいそと棚の上に靴を戻す。

「じゃあ、もう少しバックルームにいるね」

 そう言って、紀子の前を横切ろうとしたが、彼女の冷静な言葉に足が止まる。

「本当に彼の言葉、信じるつもり?」
「それは……」

 うつむく私の前に回り込む紀子は、バックルームへの道を塞いでいる。

「だまされる時って、後になってなんであんなにわかりやすい嘘に気づかなかったんだろうって思うものだよ」
「石神さんと付き合うとか、そういうつもりはまだなくて」
「まだ?」

 紀子の視線が鋭くて、たじたじになってしまう。

「まだっていうか……、彼の話が本当かどうかも、これから知っていけばいいかなって。それからでも遅くないかなって」
「和美って、もう石神さんのこと疑ってないよね。信じる気でわかろうとしてるって感じ」
「そうかな」
「そうだよ。それで大丈夫なの? 結婚指輪までして、結婚してない? フェイクだって言われて、信じちゃうのはどうかと思うよ」

 紀子の心配はもっともで、黙るしかない私はふがいない。

 本当は、石神さんにだまされてもいいって思ってる自分もいるのだ。彼が結婚してないって言うから、気兼ねなく会えることを喜んでる。

「和美、私は和美を信じて待ってるから、ダメだと思ったら引き返すんだよ」
「紀子……」

 紀子の優しい言葉に涙が溢れそうになる。心の底ではそれほど本気になっていないつもりでも、そう言われて胸が熱くなるのは、私がやっぱり不安に思っているからで。

「石神さんとの恋はきっとつらいよ」
「うん……、わかってる」

 眉を下げる紀子に、私は小さくうなずいた。

 彼との恋が充実した未来につながらないとわかってて、彼を選ぼうとしてる。それでも私は、彼に選ばれたことを嬉しく思ってしまうのだ。
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