嘘つきフェイク

水城ひさぎ

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欲しいものは手に入れる

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「それで、ハンバーグを美味しい美味しいってもぐもぐ食べて、また一緒に食べましょうねって約束して帰ってきたの? あきれた。結婚してない証拠を見せないともう二度と会いません、ぐらいのこと言ってこなきゃ」

 お客様のいない束の間の時間、ホコリ取りを持ちながら、シューズスタンドの周りを掃除する紀子は、あきれ顔で手を止めた。

「そんなこと言っても……。石神さん、本当のこと話してくれてる感じするから」
「またー、そうやって丸め込まれちゃうんだから。そんなに石神さんっていい男? どんな顔して和美に会いに来るのか見てみたいわ」

 ホコリ取りを振り上げた紀子の顔が私に向けられた途端、何かに気づいた彼女が驚きの表情をする。

 店の入り口に背を向けてディスプレイを直していた私は、何事かと紀子の視線を追って振り返った。

「あっ、石神さんっ」

 紀子の話を聞いていただろうか。それすら推し量ることのできない笑顔を浮かべながら、石神さんが店内へと入ってくる。

「朝霧さん、来たよ。休憩中だからあんまり時間はないけどね、少し見せてもらえるかな」
「もちろんです。本当に来てくださったんですね」
「約束したからね」
「すぐにご用意しますね。お仕事用でよろしかったですか?」

 嬉々として接客する私を見て、紀子はあきれ顔だが、私の耳元で「たかーいの、売りなさいよ」と囁くと離れていった。

「彼女と仲良さそうだね」

 椅子に腰を下ろした石神さんの前にしゃがみ、早速選んだ靴をいくつか並べると、彼はちらりと紀子を見て言う。

「紀子も……、あ、熊井も大学の同期なんです。親友っていうのか、なんでも話せる相手で」
「そう、なんでもね」
「あ、違うんです。なんでもって言っても、話さないこともありますから」

 意味ありげに言うから慌ててしまう。

「罪悪感がある?」
「それは石神さん次第ですから……」
「俺は君次第だと思ってるけどね」

 途方に暮れて石神さんを見上げた。
 店内に紀子しかいないとはいえ、あまりに不用心なことを口にする。もちろん、誰に聞かれても困る話ではないけど、積極的とも受け取れる発言に戸惑いは隠せない。

「あの、石神さん、このお話はまた今度」
「今度っていつ?」

 やけに急かす。それほど私に会いたいと思ってくれてるなら嬉しいけど、今日とも言えなくて、次の出勤日を口にする。

「じゃあ、金曜日でしたら」
「わかった」
「ではまた和音で」
「そう。たまには違う場所でもいいとは思うが。まあ、それも君次第だ」

 私の目を探るように見つめてくる石神さんにどきりとする。

 一緒に食事するだけなんて、子供みたいなデートがいつまでも続くとは思ってない。
 私たちは人目をはばからずに会える関係ではないと、彼も思っているはず。和音以外で会うとしたら、いったい彼は何を求めているのだろう。

「ご期待には添えないかもしれません」

 消え入る声しか出ない。私たちが行き着く先は目に見えてるのに。

「期待はしてる。しないはずはないよ」

 石神さんはそう言って、愉快げに柔らかな笑顔を見せて笑った。
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