嘘つきフェイク

水城ひさぎ

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本当に守るべきもの

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 店の目の前を素通りしていく人々は、忙しい足取りで、確かな目的を持って歩くサラリーマンが多い。
 ウィンドウショッピングを楽しむ若者が多かった昨日とは違う光景を目にすると、今日は月曜日なんだと改めて思う。

 昨日片付けられなかった伝票の整理をしている横で、受付後ろの棚を開けた紀子が「あ!」と声を上げた。

「どうかした?」

 首をひねらせて紀子を見上げると、彼女は棚の中を指差す。そこには取り寄せしたお客様の靴が並んでいる。

「前から言おう言おうと思ってたんだけど、これ、石神さんの靴でしょ? お取り寄せしたやつ。全然取りに来ないけど、忘れてない? 連絡した方がいいんじゃない?」
「あ、まだ取りに来てなかったね。忘れてないと思うけど」
「和美に会う口実で買ったりするから忘れてるんだよ。どうする? 私が電話しようか?」

 気を遣ってそう紀子は言うのだろう。怜司さんと恋人になってから、彼とのことは話していない。もしかしたら私たちは気まずい仲になっているとでも思っているかもしれない。

「大丈夫だよ、紀子。私が今日持っていくね」
「持ってく? そこの店まで? 来てもらえばいいんだって」
「違うの。今日ね、石神さんに会う約束してるから、ついで」
「会うの? デート?」
「あ、……うん。デートっていうのかな。月曜日はいつも彼の家に行くことになってて」
「なにそれ?」

 紀子はぽかんと口を開ける。いつの間にそんな仲になっていたのかと、顔に書いてあるようだ。

「石神さんね、仕事がお休みの日はなかなか会えないみたいで。確実に会えるのが月曜日なの」

 月曜日は店長が休むため、怜司さんはよほどのことがない限り出勤なのだそうだ。

「休みの日はデートできないってこと? 仕事帰りに彼の部屋に行くだけ?」
「だけ、っていうか。結果的にそうなるかなって話かな」
「はあ? なにがそうなるかな、よ。都合良すぎでしょ?」
「そんなことないよ。石神さんにもいろいろ事情があるだろうし、私も休みの日は自分の時間が持てるから、意外と自由な時間もあっていいかなって……」

 紀子の目はどんどん開いていく。

「本気で言ってる?」
「あ、うん。そう思ってるのは嘘じゃないよ」

 怜司さんを独占しようとして彼を失うのは怖いと思っている。みのりさんの存在が気にならないとは言わないけど、知ろうとは思わないようにしている。それはなかなか紀子に話せない。
 だから何も知らない紀子は、当たり前のように理解しがたい顔つきをして、私を叱咤する。

「それって愛人でもかまわないって心理じゃないの? ダメだよ、和美。休みの日に会えないなら、なんで会えないのか聞かなきゃ。納得できることじゃないなら別れなよ」

 まだ付き合いだしたばかり。休みの日に会えない理由を聞くのは怖くて、聞けていないのは事実。だから別れるという選択は私の中では極論だ。
 しかし、紀子の言うこともわかるだけに、声が小さくなってしまう。

「別れるとかって、考えられなくて」
「本当に石神さん、結婚してないんだよね?」
「うん。それは間違いないと思うの。でも……、私以外の恋人がいるかどうかはわからないの」

 彼は彼女を〝みのりさん〟と呼んでいた。恋人のようには思えなかった。ただ、お互いを想いあっているようには会話から感じられた。

 私をどれだけ愛してくれても、怜司さんが最後に帰る場所が私ではないことだけはハッキリしている。

「ちゃんと調べた方がいいよ」
「調べるって言っても……」
「石神さんと同じ日の休みがあったら、彼の部屋まで行ってみたら? 突然来て怒るようなら、彼との付き合い考え直した方がいいよ」
「……考えておくね」
「和美のためだよ」
「ありがとう、紀子。とりあえず靴は私が持っていくね」

 もうこの話は終わり、という風に笑顔を見せると紀子は眉を寄せたが、それ以上は言わずに棚の戸を静かに閉めた。
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