嘘つきフェイク

水城ひさぎ

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本当に守るべきもの

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***


 和美は不安そうだ。俺が彼女の家庭を壊すかもしれない恐怖におびえているのかもしれない。

 それはない、と何度も伝えているのに、表情は浮かなくて。せっかく二人で過ごせる時間も大切にできないなんて悔しい。
 なのに俺は、彼女にキスをして、抱きしめることしかできないのだ。

「何かあった?」
「ううん……」

 俺の胸に額をこすり付けるようにして彼女は首をふる。

「ご主人が戻ってくる予定でも?」

 なるべく和美の夫に関しては聞きたくないと思っているが、避けて通れないことなら聞くしかない。

「そうじゃないの。ちょっと不安になって」
「そうか。君を誘ったのは俺なのに、不安にさせてたらいけないな。これは約束できないが、君のために時間を作るよ。いつかデートしよう」

 軽はずみな言葉だ。叶える気もない約束なのに、彼女の笑顔を取り戻したくて、俺は嘘でもそう言うしかない。

「怜司さん……」

 和美は俺を見上げて、少しばかり嬉しそうに口元をほころばせる。

 その結果、和美の家庭が壊れても俺は責任が取れない。
 そう言っても、彼女は「いいの」と小さくつぶやいて、俺の作ったパスタにようやく手を伸ばした。

「怜司さんって本当に料理しないの? すごく美味しい」

 和美は美味しいものには目がないらしい。さっきまで落ち込んでいたようだったのに、今は俺よりも皿の上のパスタに夢中だ。

「そうか? 材料が良かったんだよ」

 そう言うと、和美はハッとして、みるみるうちに赤くなる。こういう素直な反応は好きだ。彼女はあまり苦労を知らないお嬢様のようでもある。彼女の夫はきっと、彼女が浮気をするだなんて想像もしていないだろう。

 いったいどんな男だろう。和美は俺を好きだと言いながら、その実、最終的に帰る場所を夫と決めている。それほど彼女に安心感を与えている夫とは。

「君を悦ばせるのは、きっと俺の方がうまいな」
「え……?」
「いや、なんでもない。また時々作るよ」

 彼女の夫に嫉妬するのはバカげているし、意味もない。

「そんなこと言ったら、楽しみが増えます」
「いいんだよ。君の楽しみは出来るだけ多い方がいい」
「おかしいわ……」

 困惑する和美に缶チューハイを差し出す。

 彼女の心をつなぎとめている夫への嫉妬が、俺を意地悪にする。俺と過ごす時間の方が、比べものにならないぐらい幸せだと思わせたいのだ。

「次はワインを用意するよ」
「じゃあ、ワインに合うお料理を考えなきゃ」
「簡単なものでね」
「難しいわ……」

 困り顔の彼女が可愛らしくて、俺は声を漏らして笑った。
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