嘘つきフェイク

水城ひさぎ

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言ってはいけない言葉

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 シーツにくるまって、怜司さんが出ていったドアをぼんやりと眺めていた。

 彼に会ったら、抑えていた気持ちが溢れてきてしまった。この瞬間も、彼に触れてほしくて、彼に触れていたくて。もう何も考えたくない。何も悩みたくない。ただお互いを求めあって、彼を取り巻く環境から目をそらしたくてたまらない。

 怜司さんはほどなくして戻ってくると、華やかにラッピングされた細長い箱を差し出してきた。

「和美は困るかもしれないが、受け取ってくれないか」

 これはきっとネックレスだ。そのことにすぐ気づき、受け取りを躊躇する。
 しかし、彼はベッドの端に腰を下ろすと、私の体を引き起こし、手の上にその箱をそっと乗せてくる。

「これは俺の気持ちだよ。君には迷惑なもので、俺は気持ちを押し付けたい、その程度のものかもしれない。それでも少しは気持ちが伝わるならと思ってるよ」
「もしかして……」
「ああ、君は良すぎると言ったけど、俺はふさわしいと思うよ」
「……あの、なんて言ったらいいのか」
「和美が喜んでくれたらそれでいいよ」

 嬉しくないわけがない。また泣いてしまいそうだ。そう思いながら、小箱を大切に抱きしめる。

「あけても……?」
「もちろん」
「あ、でもなんだか嬉しくて。ちょっと指が震えちゃって……」
「貸して、俺が開けるから」

 いつまでも開けそうにないね、なんて言って笑う怜司さんは、小箱のリボンをほどく。そして中からネックレスを取り出すと、私の首にそっとかけてくれた。

「似合うね、やっぱり」

 私の鎖骨をスッと撫でながら、首筋に顔をうずめてくる怜司さんの背中に腕を回す。

「あとでゆっくり見るといいよ」

 そう言って、彼は私をベッドに押し倒す。

「こんな風にしてくれるのは、私が好きだからですか?」

 彼の胸に手のひらを当てる。

「そうだ。当たり前のことを聞いたらいけないよ」
「私も、好きです」
「ああ、わかってる」

 何をどうわかってるの?と思いながら、体を重ねてくる彼を受け止めた。

 彼の指が私に触れるたび、頭の中をかすめていく不安が消えていく。彼は私だけを愛してくれている。そう錯覚する自分に陶酔したい。彼を満足させることができるのは私だけだなんて、うぬぼれたいのだ。

 怜司さんはいつもより激しかった。
 うっすら彼の唇に浮かぶ笑みは、私を痛めつけるためか、それとも私でなければならないという思いからかわからない。
 それでも私は必死に彼を受け止めた。

「怜司さん……」
「ん? なに?」

 息の整わない私を抱きあげた彼と向かい合う。彼の胸に抱かれた安心感が、私にそれを言わせる。

「怜司さんを愛してる……」
「わかってるよ」

 乱れた私の髪を撫でつけた後、ネックレスにキスをする彼の手を握る。

「わかってない。わかってないわ、怜司さん。あなたが好きでたまらないの。……結婚したいぐらい、好き……そういうことなのよ」

 そう言ったら、私を愛でようとしていた彼の手が止まる。

「お互いにしがらみから離れられたら、って」
「しがらみか……」
「みのりさんを愛してるのはわかってるの。でもどうしても私、あなたを独り占めしたい……」
「和美……」
「怜司さんも愛してるって言って。そうじゃないと不安で不安で……」

 一度口にしたらもう止められなかった。だだをこねる子供みたいに彼にしがみついたら、押し返されてしまう。

「怜司さん……」

 怜司さんは悲しげに眉を下げて、私から離れていく。

「無理だよ、和美。自分の言った言葉の意味がわかってるのか」
「わかってる……」
「君はそれを言わない女だからいい、そう思ったから抱いたんだ。それを勘違いしたらいけない」
「もう、無理?」
「その言葉まで俺に言わせないでくれよ。ただ俺に抱かれて満足してれば良かったのに。バカだな、君は」

 怜司さんはため息をひとつ吐き出すと、私を優しく優しく抱きしめて、「バカだな……」ともう一度息をついた。
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