嘘つきフェイク

水城ひさぎ

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恋が始まる

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***


 閉店準備に追われる紀子を呼び止めて、「怜司さんと別れたの」と言うのは、勇気がいった。

 彼にもらったネックレスをブラウスの上から押さえて、驚いて振り返る紀子にちょっと笑いかける。全然長続きしなかったよって恥じるように。

「石神さんと別れた? いつー?」
「一週間前、かな」
「え、だって石神さん、先週和美に会いにここに来たのよ? 休みだって知ったら、やけに残念そうにしてたのに。何があったのよ」

 紀子は心底信じられない様子でまばたきを繰り返す。無理もない。私も怜司さんも別れるなんて考えてもなかったことだ。

「何って……いうか、怜司さんを怒らせちゃったのが原因かな。たぶんもう連絡はくれないから、別れたんだって思ってる」
「けんか?」
「ちょっと違うかな。だからもう無理だと思って」
「石神さんに別の恋人がいるとかって話でもめたの?」

 紀子は覚えてたみたいだ。私以外に大切な人がいるって、みのりさんの存在を気にしてたことを。

「違うの。紀子の言う通り、愛人でもかまわないって気持ちでいられたら、もしかしたらうまくいってたかもしれないけど」
「石神さんは本命の彼女なんていらないって聞こえる」
「うん、……そう。私の気持ちが重たかったみたい」
「和美ー……」
「いいの。あんまりショックじゃないの。わかってたからかな。きっとこうなるって、頭のどこかで理解してたから、思ったより傷ついてないみたい」

 まだ信じられないだけかもしれないけれど。

「ほんと?」
「うん、大丈夫」
「和美が良ければ、知り合い紹介するよ? そんな気持ちになったら言ってよ」

 本心ではないよという目をして、励ますように紀子はそう言って、泣き出しそうな私の肩をそっと撫でてくれる。

「ありがとう。でも私、ちゃんと話さなきゃいけない人がまだいるから」
「山野くん?」
「うん。週末に会う約束したの。怜司さんとのこと、なんだかんだいって心配してくれたから、話だけでもと思って」
「そっか。話して、スッキリできるといいね」
「そうなるように話してくるね」

 そう言って笑顔を見せたら、心配げな紀子もうなずいて微笑んでくれた。
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