嘘つきフェイク

水城ひさぎ

文字の大きさ
41 / 54
あなたか私か

4

しおりを挟む
***


 憂鬱な気分が続いている。

 石神みのりが私の前に現れた理由を、このところずっと考えていた。
 怜司さんとのことを知って探りに来たのだろうか。そうだったとしても、もう別れたのだから関係のないことだ。

 そう思う反面、彼にまだ未練がある私にとって、彼への思いを否定する言葉は虚偽のものでしかない。
 もう一度彼女に会ったら、私は何を言えばいいだろう。そう考えると、憂鬱になってしまうのだ。

「まだ悩んでるの?」
「だって……」
「大丈夫よ、和美。彼女が来たのは偶然よ、偶然」

 閉店準備を終えた紀子が、落ち込む私を励ます。

「そうだといいけど」
「また来たって、知らんぷりしてればいいんだって。親切に彼とのこと話す必要はないわよ」
「それはそうだけど……、もし偶然じゃないなら、何をしに来たのかは気になるの」
「和美……」
「やっぱりまだ怜司さんと付き合ってるんじゃないかなんて、疑ってるのかもしれない」
「和美は彼女の存在は知らなかったんだし、いろいろ言われたって、知らないって言ってやればいいの」
「う……ん」

 本当にそうだろうか。私はみのりさんという女性が怜司さんにとって大切な人だと知っていたのに、彼から離れられなかったのだ。
 出来ることなら、みのりさんへの思いを断ち切ってほしいだなんて彼に望んでいた。

 浮かない表情のままでいると、紀子に背中を押される。

「もう帰ろう。わからないことをいつまでも悩んでたって仕方ないの」
「そうだね……」

 ちょっと笑顔を見せてシャッターをくぐり出る。地下鉄の駅がある方へ向かおうとした私たちは、店先に立つ一人の女性に気づいて足を止めた。

「和美……」
「うん、……大丈夫。紀子は先に帰って」

 小声で紀子にそう言った時、女性もまた私に気づく。歩み寄ってくる。

「こんばんは。突然ごめんなさい。今、お仕事終わられたの?」

 女性は私にそう言う。私を待っていたのは明らかだ。少し固い表情が気になる。
 それでもまだ何もわからないのに逃げ出すわけにはいかず、私も口を開く。

「はい……、私に何か?」
「私、石神みのりって言います。少しお話ができたらと思って」

 みのりさんは紀子の視線を気にしながらも、私の目をまっすぐ見つめてそう言った。
 彼女の凜としたその眼差しに、この数日感じていた不安が、恐怖となって一気に押し寄せてくるのを感じていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...