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第四話 霊媒師は死してのち真実を語る

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 相変わらずの金縁メガネと着物姿で現れた佐久間剛は、ライトを当てられ、まぶしそうに顔をしかめた。
 白髪でなければ、若々しく見える中年男。顔立ちは整っている。若い頃はモテただろう。いや、今だって、と思えるほどにくたびれた雰囲気の全くない男。

 私は佐久間と菜月さんを交互に見やった。ふたりはどんな関係なのだろう。
 いや、違うか。関係があるのは、達也とだ。菜月さんは復讐するため、ここへ来ているのだ。

「どうして俺だと思った?」

 不遜な態度で、佐久間はすごんだ。
 しかし、誠さんは落ち着き払った様子で、彼を冷静に見返している。

「清華さんから聞きました」
「清華から?」

 佐久間が達也の元妻である清華を呼び捨てしたことに違和感があった。
 菜月さんが唇をかんで前に出ようとするのを、誠さんは腕を伸ばして止めた。

「あの日、なぜ堤先輩がここへ来たのか。その理由を清華さんが話してくれました」
「え……、奥さまはご存知だったんですか……」

 驚く菜月さんにうなずきかけた誠さんは、何も答えない佐久間に向かってさらに言う。

「あの日、八戸城さんは堤達也を呼び出した。それを知ったあなたは、ご丁寧に清華さんに報告したんですよね。そう言ってましたよ、清華さんは。なぜ佐久間さんが知ってるんだろうと思いながらも、頭に血がのぼってしまって、何も考えられなかったと」
「頭に血がのぼる、か」

 佐久間は苦笑する。

「呼び出した理由を察したあなたたちは、計画したんですよね。堤先輩と八戸城さんを会わせないようにしようと」
「計画とは穏やかじゃない。俺はただ、清華に八戸城くんと堤くんが待ち合わせしてるようだと話しただけだ。それ以上でもそれ以下でもない」
「そうですか。他意はなかったと? では、質問を変えます。なぜ、ふたりがここで会う約束をしてると知ったんです?」

 佐久間はうっすら笑むだけで、答えようとしない。

「あなたは堤達也を見張っていましたね。離婚してもまだ先輩を忘れられない清華さんの味方するふりをして、あの家へたびたび侵入していましたね?」
「侵入か。君はさっきから失礼なものの言い方をするね」
「事実を申し上げているだけですよ。あなたは清華さんがほしかった。ですから、堤先輩の動向を見張った。清華さんにとって不利益になるようなことがあれば報告し、彼女の味方のふりをした。そうやって、清華さんに近づいてきたんですよね」

 清華は佐久間の腕の中で泣くほどまでに心を許している。長い時間をかけて、佐久間が彼女から信頼を勝ち得てきた証拠だろう。

「あなたはあの日、清華さんに言いましたね。寛也くんとふたりでレストランで堤達也を待つようにと」
「清華がそう話したのか」
「ええ。今になって思えば、変な話だと。佐久間さんがまるでアリバイを作るようにと言ったみたいだと」

 佐久間は鼻を鳴らしてせせら笑う。

「都合のいい解釈だな。彼女が言い出したんだ。八戸城くんと堤くんを会わせたくない。何か理由をつけて、堤くんを呼び出して欲しいってね」
「それで、呼び出したのが八戸城さんだったのは、なぜです?」

 佐久間の視線が菜月さんに注がれるのをさえぎるように、誠さんは彼女を背に隠す。守られる菜月さんの目は鋭く、佐久間をただ凝視している。

「堤くんは警戒心が強いからね。俺が呼び出したところで、素直に従うはずはない」
「本当にそうでしょうか。堤先輩は寛也くんのことであれば、簡単に動きますよ。いくらでも手はあったはずです。あなたはただ、菜月さんが約束の時間より遅れてここへ来るように仕向けたかっただけです。それはなぜか。その理由はあなたが一番よく知っているでしょう」

 誠さんがそう言うと、菜月さんは緊張か、怒りか、悲しみか、震える声で言う。

「奥さまが話があるからアパートに来てほしいって言ってるって、佐久間さんはそうおっしゃったじゃないですか。だから私、アパートに行きました。奥さまがいらっしゃらないことは知っていたのに、なんであんな嘘を……っ」
「人を殺すつもりにしては、浅はかな嘘をつきましたね」

 佐久間はふっと息をもらして笑う。

「殺すつもりもなかったからね。というより、俺は殺してない。堤くんは自殺だろう」
「堤家から盗んだナイフで、ちょっと堤先輩を脅すつもりなだけでしたか。清華さんは諦めてほしい。それを言うためだけに? 違いますよね。本当に諦めて欲しかったのは、清華さんの方にです。清華さんが堤先輩を諦めないから、あなたは殺すしかないと思ったんです。あわよくば、その罪を八戸城さんにかぶせようとした」
「ひどい……っ」
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