あしたの恋

つづき綴

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風薫る

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***


 小道を歩きながら、レースの日傘が作る綺麗な影を見つめながら歩く。

 ベンチをいくつか通り過ぎ、歩く速度をゆるめる。

 この辺りだ。この辺りで見上げてみようか。そこには彼のいる窓があるはずだから。窓が開いているかわからないけれど、もし開いていたら彼に会うことができる。

 迷いながらも足は前に出る。

 やめておこうか。彼は過去を取り戻す人生に希望を見出したのだから、新しい人生に現れた私は不要だろう。

 彼は私の世界に興味がなく、彼の世界に私を入れてくれることもないと知ってしまった。

「ああ、いたいた。日菜詩ちゃん」
「……朝陽さん」

 明日嘉くんへの思いに悩む私を現実に引き戻したのは朝陽さんだった。

「ゼミ室に行ったらさ、吹雪がもう帰ったって言ったから。会えてよかった」

 朝陽さんは私を追いかけてきて、肩を弾ませながらそう言う。

「ゼミのこと話しましたっけ? あ、もしかして吹雪さんから? お知り合いですか?」
「同じ学部だからね。それにあいつ……、それはいいか……」

 朝陽さんは言葉を意味深に濁すと、にこっと作り笑顔を浮かべて私の気をそらす。

「吹雪は口数少ないから噂したりはしないけどさ、他のやつが、二年生の可愛い子がゼミに入ったんだって結構騒いでるから」
「……そんな」
「麻那香ちゃんからも少し話は聞いてたし、もしかしてって思って吹雪に聞いたら、やっぱり日菜詩ちゃんのことだった。今日はもう帰る予定?」
「あ、はい」
「四つ葉のクローバー探しはもうやめたの?」
「やめたっていうか、もうすぐ夏休みだし、どうしようかなって悩んでて」

 クローバーを集めるのも、明日嘉くんをゼミに誘うのも、もう無意味に思えてくる。

「何かのレポート? 必要なら一緒に探すよ」

 私の不純な動機を知らない朝陽さんは親切に申し出てくれる。なんだか申し訳ない。

「今日はもう行かなきゃいけなくて」
「今日じゃなくても大丈夫だよ。サークル活動、実は今日でとりあえず終わってさ。次は夏合宿だけど、準備は女子におまかせ。時間が出来たから、日菜詩ちゃんの役に立てたらって思ってさ」
「朝陽さん、忙しいのに……」
「日菜詩ちゃんに会う口実だから気にしないで」
「口実?」

 首を傾げる。すると朝陽さんは「なんでもない」とくすりと笑う。

「明日もこのぐらいの時間に来たら会えるかな? 一緒にクローバー探そうか。なんならレポートも手伝うから」
「……たぶん、います。でも……」
「じゃあ決まり。また明日来るよ。楽しみにしてる」

 そう言って、朝陽さんは強引に決めてしまうと、「北門から帰るなら送るよ」と私の前を歩き始めた。
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