あしたの恋

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風薫る

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「それって、告白?」

 昨日朝陽さんに小道で会った話を麻那香にすると、彼女はきょとんとしてそう言った。

「告白? 告白ってなんの?」

 きょとんとするのは私の方だ。

「ほら、口実うんぬんのくだり」
「朝陽さんはなんでもないって」
「はあー、日菜詩って鈍感だねー。それだけじゃ確信は持てないけどさ、朝陽先輩が日菜詩に興味を持ってるのは間違いない気がするよ」
「そうかな……」
「そうだって。絶対そう」
「ちょっと変わった女の子とは思われてそうだけど……」

 変わってるから興味があって、というのなら理解できる気もする。

「ああ、なんかわかる。日菜詩って変わってるもん。何がって聞かれたら困るけど、私も初めて日菜詩に会った時、なんか惹かれたんだよね」
「え、そう? そんなに変わって見えた?」
「雰囲気ね、雰囲気。いい意味で不思議な子だなって思ったよ」
「自分じゃ、結構普通だと思ってるんだけど」
「みんなそう思ってるよね。でも意外と普通の人っていないし、普通じゃないから惹かれ合うのかも。で、今日は先輩との約束守るの?」
「朝陽さんが来るなら行かなきゃ」
「日菜詩って真面目。興味がないなら無視でもいいんだよ?」
「でも朝陽さんはいい人だし」

 邪険にしなきゃいけないような人ではない。むしろ友人になれるなら光栄だろう。

「まあそうだよね。朝陽先輩の彼女になりたい女の子なんて、サークルにうじゃうじゃいるんだから」
「うじゃうじゃ?」
「紅先輩がいるから遠慮してるだけ。でも二人は恋人って感じじゃないし、いまいちはっきりしないから、やきもきしてるのよ」
「紅さん、他に好きな人がいるのかも」

 明日嘉くんの顔が浮かぶ。いるかも、というより、それは確信に近い思いだった。

「そうかもねー。あ、そうだっ。夏休みに夏合宿があるの。って言っても旅行みたいなもん。紅先輩や朝陽先輩のこと、ちゃんと調査してきてあげるね」
「調査って……」
「だって、好きになった人には実は本命の恋人がいましたー、なんてことになったらショックでしょ。朝陽先輩のこと、いろいろ聞いてきてあげるから、それまでは簡単にうなずいたりしたらダメだよ?」
「よくわからないけど……、きっと大丈夫だよ」

 麻那香は先走りすぎだ。朝陽さんが私に好意がある、なんて前提の話をしている。

「私も大丈夫だと思う。朝陽先輩、すごくいい人だもん。絶対幸せになれそう」

 いまいちかみ合ってないけど、私はそっと笑う。

 麻那香はこういう話が好きだ。女の子はみんなそうなのかもしれないけれど。だからこそ余計に明日嘉くんへの気持ちは話せないでいる。

 明日嘉くんの恋人になりたいなんて願望、口に出したら分不相応すぎて笑われてしまうだろう。

「じゃあしばらくは裏庭デートだね。せっかく日菜詩と一緒に帰れると思ってたけど残念」
「毎日じゃないよ。今日は行ってみるけど……、明日は一緒に帰ろうね」
「オッケー。今日のこと、しっかり報告してもらうからね」
「なんにもないよ、きっと」
「そう思ってるのは日菜詩だけかもよー」

 麻那香はそう言って、何かを期待してるように楽しげに笑った。
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