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星月夜
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もしかしたら、あしたになったら俺は日菜詩ちゃんを好きになっているかもしれない。
もしかしたら、あしたになったら日菜詩ちゃんは俺を好きじゃなくなっているかもしれない。
せめぎ合う感情が生み出す答えはすぐそこにある。あとは俺が手を伸ばすだけだ。
離れていかないでくれと、彼女の手を握ればいい。
だが、今はその時ではないと、俺は情けない言い訳で感情を抑える。そんな風に消極的になるのはきっと、俺が思う以上に彼女を大切に思うからだ。
彼女より劣るものしか持ち合わせていない俺が、俺でなくても幸せになれる彼女に、どんな面を下げて幸せにするだなんて言えるだろう。
「たまごトースト、美味しいよ。たまごの味付けがとっても美味しい」
日菜詩ちゃんの声が俺を現実に引き戻す。彼女は素直な笑顔が魅力的な子で、見落としてしまいそうなぐらい素朴に喜びをあらわにする普通の子だ。
もし俺が事故に遭っていなかったら、彼女と出会うこともなかったし、出会っていたとしても気にも留めなかったかもしれない。
「サンドイッチも食べてみる? 食べていいよ、たくさんあるから」
「うん、食べてみたい。明日嘉くんが本命っていうぐらいだから、すっごく美味しいんだよね?」
「まあ、好みは人それぞれだから」
くすりと笑いながら、サンドイッチをぱくりと食べる日菜詩ちゃんを頬杖をついて眺める。
「どう?」
「うん、美味しい。たまごトーストと同じぐらい美味しいね」
「きっとそうだろうね。なんか、日菜詩ちゃん見てると癒されるよ」
「え……、ほ、本当?」
嬉しそうだけれど、複雑そうに彼女ははにかむ。
「ああ、でも恋人にしたいって感じじゃないんだよな」
「……あ、そうだよね。可愛い女の子はいっぱいいるから……」
羞恥心からか真っ赤になる日菜詩ちゃんは可愛らしい。
「まあ、なんていうか、さ。すごく魅力的だったら、昨日の夜はキスぐらいじゃすまなかったと思うんだけど」
「そ、そういうのは、期待できないと思うの……」
喉を詰まらせながら日菜詩ちゃんは言う。胸元に手を当てて耳まで赤くする彼女の動悸はなかなかおさまらないらしい。昨夜の出来事を思い出したのか、呼吸するのも一苦労のようだ。
「寝顔は可愛かったし、体のラインも悪くはなかったし、何が足りないんだろうなぁって考えてたんだけどさ……」
「えっ、あ、や、やだ……、明日嘉くん、そんなこと考えてたの?」
「そりゃあね、俺も一応男だし。でもやっと今わかった気がするよ」
「わかったって……。私、色気とか全然ないから、当然だよ……」
「まあ、否定はしないけどさ、日菜詩ちゃんは恋人っていうよりお嫁さんにしたいタイプなんだよな」
「え……」
「毎日一緒にいたら、楽しいことばっかりじゃないだろ? でも日菜詩ちゃんは全部癒してくれそうだね」
「そんなことないよ……」
「あるよ。昨日あんなにしっかり眠れたのは久しぶりな気がする。日菜詩ちゃんが望まないときっと手は出せないな、俺」
「あ、あの、どういう意味……?」
「日菜詩ちゃんが望んだら、俺も何をするかわからない男だって話だよ。だからもう俺のアパートには泊めてあげれないけどさ、たまにはこうして食事をするのも悪くないね」
「明日嘉くん……」
日菜詩ちゃんはこくりとうなずく。
「ずっとこういう関係でいることが、お互いのためかもしれないね」
「……また大学以外でも会えるの?」
「いつか、ね。いつか出かけようか。済ませたいことがあるから、その後でも」
「済ませたいこと?」
日菜詩ちゃんは不安そうだ。何をする気だろうなんて俺を案じてくれているのだ。
「ああ、朝陽はまだ納得してないだろうからさ」
「明日嘉くんの問題じゃないでしょ?」
「そうでもないさ。朝陽は紅が俺を好きだなんて誤解してるんだろ? 誤解させたなら俺の責任だ」
「どうするの?」
「朝陽と話すよ。あいつが聞く耳を持ってくれるならさ」
そう答えると、日菜詩ちゃんは心なしか嬉しそうに頬をほころばせる。
俺と朝陽が昔のような友人関係に戻れる日を願ってくれているのかもしれない。
不思議だ。こんな気持ちになるなんて。朝陽や紅のことなんて、少し前の俺には関心事ではなかったのに。
それもきっと日菜詩ちゃんの影響だろう。俺の心を揺さぶり、奮い立たせてくれる女性は、この先彼女以外に現れないだろう。そう思える。
「きっと聞いてくれるよ。うまく行くといいね」
「ああ、そうだな。遅くないことを祈るよ」
もしかしたら、あしたになったら俺は日菜詩ちゃんを好きになっているかもしれない。
もしかしたら、あしたになったら日菜詩ちゃんは俺を好きじゃなくなっているかもしれない。
せめぎ合う感情が生み出す答えはすぐそこにある。あとは俺が手を伸ばすだけだ。
離れていかないでくれと、彼女の手を握ればいい。
だが、今はその時ではないと、俺は情けない言い訳で感情を抑える。そんな風に消極的になるのはきっと、俺が思う以上に彼女を大切に思うからだ。
彼女より劣るものしか持ち合わせていない俺が、俺でなくても幸せになれる彼女に、どんな面を下げて幸せにするだなんて言えるだろう。
「たまごトースト、美味しいよ。たまごの味付けがとっても美味しい」
日菜詩ちゃんの声が俺を現実に引き戻す。彼女は素直な笑顔が魅力的な子で、見落としてしまいそうなぐらい素朴に喜びをあらわにする普通の子だ。
もし俺が事故に遭っていなかったら、彼女と出会うこともなかったし、出会っていたとしても気にも留めなかったかもしれない。
「サンドイッチも食べてみる? 食べていいよ、たくさんあるから」
「うん、食べてみたい。明日嘉くんが本命っていうぐらいだから、すっごく美味しいんだよね?」
「まあ、好みは人それぞれだから」
くすりと笑いながら、サンドイッチをぱくりと食べる日菜詩ちゃんを頬杖をついて眺める。
「どう?」
「うん、美味しい。たまごトーストと同じぐらい美味しいね」
「きっとそうだろうね。なんか、日菜詩ちゃん見てると癒されるよ」
「え……、ほ、本当?」
嬉しそうだけれど、複雑そうに彼女ははにかむ。
「ああ、でも恋人にしたいって感じじゃないんだよな」
「……あ、そうだよね。可愛い女の子はいっぱいいるから……」
羞恥心からか真っ赤になる日菜詩ちゃんは可愛らしい。
「まあ、なんていうか、さ。すごく魅力的だったら、昨日の夜はキスぐらいじゃすまなかったと思うんだけど」
「そ、そういうのは、期待できないと思うの……」
喉を詰まらせながら日菜詩ちゃんは言う。胸元に手を当てて耳まで赤くする彼女の動悸はなかなかおさまらないらしい。昨夜の出来事を思い出したのか、呼吸するのも一苦労のようだ。
「寝顔は可愛かったし、体のラインも悪くはなかったし、何が足りないんだろうなぁって考えてたんだけどさ……」
「えっ、あ、や、やだ……、明日嘉くん、そんなこと考えてたの?」
「そりゃあね、俺も一応男だし。でもやっと今わかった気がするよ」
「わかったって……。私、色気とか全然ないから、当然だよ……」
「まあ、否定はしないけどさ、日菜詩ちゃんは恋人っていうよりお嫁さんにしたいタイプなんだよな」
「え……」
「毎日一緒にいたら、楽しいことばっかりじゃないだろ? でも日菜詩ちゃんは全部癒してくれそうだね」
「そんなことないよ……」
「あるよ。昨日あんなにしっかり眠れたのは久しぶりな気がする。日菜詩ちゃんが望まないときっと手は出せないな、俺」
「あ、あの、どういう意味……?」
「日菜詩ちゃんが望んだら、俺も何をするかわからない男だって話だよ。だからもう俺のアパートには泊めてあげれないけどさ、たまにはこうして食事をするのも悪くないね」
「明日嘉くん……」
日菜詩ちゃんはこくりとうなずく。
「ずっとこういう関係でいることが、お互いのためかもしれないね」
「……また大学以外でも会えるの?」
「いつか、ね。いつか出かけようか。済ませたいことがあるから、その後でも」
「済ませたいこと?」
日菜詩ちゃんは不安そうだ。何をする気だろうなんて俺を案じてくれているのだ。
「ああ、朝陽はまだ納得してないだろうからさ」
「明日嘉くんの問題じゃないでしょ?」
「そうでもないさ。朝陽は紅が俺を好きだなんて誤解してるんだろ? 誤解させたなら俺の責任だ」
「どうするの?」
「朝陽と話すよ。あいつが聞く耳を持ってくれるならさ」
そう答えると、日菜詩ちゃんは心なしか嬉しそうに頬をほころばせる。
俺と朝陽が昔のような友人関係に戻れる日を願ってくれているのかもしれない。
不思議だ。こんな気持ちになるなんて。朝陽や紅のことなんて、少し前の俺には関心事ではなかったのに。
それもきっと日菜詩ちゃんの影響だろう。俺の心を揺さぶり、奮い立たせてくれる女性は、この先彼女以外に現れないだろう。そう思える。
「きっと聞いてくれるよ。うまく行くといいね」
「ああ、そうだな。遅くないことを祈るよ」
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