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星月夜
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「明日嘉くん、もう図書館には行かないの?」
明日嘉くんに追いついた私は、無表情で正面を向いたままの彼を見上げて尋ねる。
「ああ、時間潰す理由もなくなったからさ」
「ひま潰しに図書館にいたの? 勉強がはかどるからかと思ってた」
そう言うと、彼はうっすらと口元に笑みを浮かべる。いつもの明日嘉くんだ、と嬉しくなる。
「誰かさんが邪魔しに来るから、はかどるものもはかどらないよね」
「あ……、ごめんね」
恥ずかしさで赤くなる。私はいつも自分のことしか考えてない。
「駅は通り道だし、毎日一緒に帰ろう」
「いいの……?」
前はゼミのある日だけ一緒に帰ろうと言っていたけれど、どういう心境の変化だろう。
「いいから誘ってるんだよ」
「でも……明日嘉くんのこと好きな人は嫌じゃないかな?」
「日菜詩ちゃんは嫌なの? 俺が他の女の子と一緒にいたら」
「……えっと、ちょっとは気になるよ……」
明日嘉くんみたいにもてる男の子は女の子と一緒にいるなんて特別なことではないかもしれないけれど、彼を好きな女の子にとっては不安しかないだろうと思うのだ。
「ちょっと? ふーん、だから紅と一緒にいただけで誤解したんだ? ま、朝陽が余計なこと吹き込んだせいもあるか」
明日嘉くんは勝手に納得すると、校舎を出て、「ちょっと借りたい本があるから図書館に寄っていこう」と図書館へと続くレンガ調の小道を歩き出す。
「朝陽さんとは話せたの?」
「いや、まだ。あんまり大学にも来ないしな。改めて呼び出すほどのことでもないしね」
「そうなの? 大事な話じゃないの?」
「あいつには大事なことかもしれないけどさ、俺にとってはほとんどどうでもいい話だよ」
「どうでもいいの?」
「あー、いや、日菜詩ちゃんが困ってるならどうでもいいことなんてないか」
「私のことはいいの。それより、朝陽さんとのいろんな誤解、解けるといいね」
「いろんな誤解ね」
「朝陽さん、すごく後悔してるって。明日嘉くんから離れたこと後悔して、きっとすごく傷ついてるよ」
「俺たち、そんなに仲良かったかなって、今更だけど思うよ。まあでも、大学の友人なんてあいつぐらいだけだからな」
明日嘉くんはしみじみとつぶやく。同じ学部で、同じテニスサークルに所属し、気の合う仲間だった。それだけの関係だったのに、と明日嘉くんは言うのだろうか。だけど私には強い結びつきがあるように見える。
「離れてる間に育む友情もあるのかもしれないね。ねぇ、明日嘉くん、今から朝陽さんのところに行く? 麻那香が今日は来てるようなこと言ってたから」
テニスサークルのメンバーはどこで集まっているのだろう。そこまで麻那香に聞いたことはない。
何気に辺りを見回した私は、ふと立ち止まる。
「今からか……ん? 日菜詩ちゃん?」
面倒そうに躊躇を見せる明日嘉くんも立ち止まる。私は彼の腕に触れ、図書館の方を指差した。
「朝陽さんだよ、明日嘉くん」
明日嘉くんに追いついた私は、無表情で正面を向いたままの彼を見上げて尋ねる。
「ああ、時間潰す理由もなくなったからさ」
「ひま潰しに図書館にいたの? 勉強がはかどるからかと思ってた」
そう言うと、彼はうっすらと口元に笑みを浮かべる。いつもの明日嘉くんだ、と嬉しくなる。
「誰かさんが邪魔しに来るから、はかどるものもはかどらないよね」
「あ……、ごめんね」
恥ずかしさで赤くなる。私はいつも自分のことしか考えてない。
「駅は通り道だし、毎日一緒に帰ろう」
「いいの……?」
前はゼミのある日だけ一緒に帰ろうと言っていたけれど、どういう心境の変化だろう。
「いいから誘ってるんだよ」
「でも……明日嘉くんのこと好きな人は嫌じゃないかな?」
「日菜詩ちゃんは嫌なの? 俺が他の女の子と一緒にいたら」
「……えっと、ちょっとは気になるよ……」
明日嘉くんみたいにもてる男の子は女の子と一緒にいるなんて特別なことではないかもしれないけれど、彼を好きな女の子にとっては不安しかないだろうと思うのだ。
「ちょっと? ふーん、だから紅と一緒にいただけで誤解したんだ? ま、朝陽が余計なこと吹き込んだせいもあるか」
明日嘉くんは勝手に納得すると、校舎を出て、「ちょっと借りたい本があるから図書館に寄っていこう」と図書館へと続くレンガ調の小道を歩き出す。
「朝陽さんとは話せたの?」
「いや、まだ。あんまり大学にも来ないしな。改めて呼び出すほどのことでもないしね」
「そうなの? 大事な話じゃないの?」
「あいつには大事なことかもしれないけどさ、俺にとってはほとんどどうでもいい話だよ」
「どうでもいいの?」
「あー、いや、日菜詩ちゃんが困ってるならどうでもいいことなんてないか」
「私のことはいいの。それより、朝陽さんとのいろんな誤解、解けるといいね」
「いろんな誤解ね」
「朝陽さん、すごく後悔してるって。明日嘉くんから離れたこと後悔して、きっとすごく傷ついてるよ」
「俺たち、そんなに仲良かったかなって、今更だけど思うよ。まあでも、大学の友人なんてあいつぐらいだけだからな」
明日嘉くんはしみじみとつぶやく。同じ学部で、同じテニスサークルに所属し、気の合う仲間だった。それだけの関係だったのに、と明日嘉くんは言うのだろうか。だけど私には強い結びつきがあるように見える。
「離れてる間に育む友情もあるのかもしれないね。ねぇ、明日嘉くん、今から朝陽さんのところに行く? 麻那香が今日は来てるようなこと言ってたから」
テニスサークルのメンバーはどこで集まっているのだろう。そこまで麻那香に聞いたことはない。
何気に辺りを見回した私は、ふと立ち止まる。
「今からか……ん? 日菜詩ちゃん?」
面倒そうに躊躇を見せる明日嘉くんも立ち止まる。私は彼の腕に触れ、図書館の方を指差した。
「朝陽さんだよ、明日嘉くん」
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