佐藤くんは覗きたい

喜多朱里

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初体験を覗きたい(6)

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 テーブルの上でずっと出番を待っていた黒い小箱が常夜灯を反射して輝いた。
 箱を開けると個包装された薄い袋が五枚入っていた。小箱と同じように黒色の袋に金色で商品名が印字されており高級感があった。
 有村さんは興味深そうに箱の説明文を読んでいた。

「まるで素肌のよう、よく伸びて破けにくい……色々とあるんだね」
「初めて使うから、どれが良いのか分からなくて、とりあえず高いのを買ってみたけど、コンビニの棚にたくさん並んでたよ」
「Mサイズ……?」

 僕と有村さんの視線が同時に僕の股間に向けられた。

「……いろいろと、あるんだね」

 恥ずかしそうに呟く。俯いているけど、興味があるのかちらちらと見てきていた。
 コンビニにはMサイズしかなかったので選択の余地はなかったけど、これまでにコンドームを付けたこともいので、サイズが合っているかどうか分からない。でもMサイズしか置いてないということは、大体の人はそれで事足りる筈なので自分のモノが標準サイズであることを祈るばかりだ。

「わたしが付けてみてもいい?」
「えっ、いいの?」
「佐藤くんが大丈夫なら」
「それじゃあお願いしようかな」
「うん、やってみるね! 正しい付け方みたいなのあるのかな……?」
「文明の利器に頼ろうか」

 スマホで付け方を検索して、有村さんはよく確認してから小箱から薄い袋を一つ取り出した。

「ええと、中身を片方に寄せてから開ける」

 有村さんが個包装を開くと、中からおしゃぶりのような形をした薄いゴムの輪っかが出てきた。
 実物を見るのは初めてで、二人でまじまじと観察していた。

「ぬるぬるしてるんだね」
「潤滑液が塗られているんだって」
「なるほど、怪我しないようにかな」

 真面目に性教育を受けているみたいで、初体験前が可笑しな雰囲気になって思わず笑ってしまう。

「自分のペースが一番か」
「どうしたの、佐藤くん?」
「ううん、続けて大丈夫」
「わかった。ええと、膨らんだ部分から空気を抜いて……これで、よし」

 装着してもらうために、ベッドの上に座る有村さんと向かい合う形でベッド脇に立った。

「えっと、次は……余った皮を……皮をっ!?」

 目の前に突き出された男根に、有村さんは及び腰になった。
 雁首の辺りを恐る恐る掴んで優しい手付きで、陰茎を覆う皮を根本まで手繰り寄せようとするが、間を置いて萎んでいた陰茎は有村さんの手に触れられただけで血管が浮き出るぐらいばきばきに硬くなった。

「ふぁあ……すごい、また大きくなった。見慣れてくると、なんだか面白いね」
「面白がってもらえたら、こいつも本望だと思う」
「うふふ、頭から被せ物しますよー」

 子どもをあやすように口にするので、思わず股間に力が入って陰茎を跳ね上げてしまう。

「ひゃっ!? もう暴れちゃだめだよ」
「素直な奴なんて許してほしい」
「言うこと聞かないと、お仕置きしちゃうぞ……きゃっ!? なんでもっと暴れちゃうの!?」
「いや、うん、これは有村さんが悪い」
「えーー……」

 不服そうにジト目を向けてくるが、お仕置きと書いてご褒美と読む流れで言葉を口にするのが悪いと思うんだ。無知は罪なり。

「付けるから、今度こそ大人しくしててね」
「善処する」
「ちょっと不安だなぁ」

 有村さんは膝立ちになって、コンドームを亀頭に宛てがった。
 輪っかの部分を指の腹で転がして、ゆっくりと巻き下ろしていく。
 コンドームの薄い膜が亀頭を呑み込み、雁首の段差を越えて、陰茎を包み込んでいく。

「ここできゅっとして、んっしょ」

 ぎちぎちと陰茎全体を締め上げられる未知の感覚に腰がむず痒くなる。

「んしょ、うんっ、できたー!」
「ありがと……へー、こんな感じになるんだ」

 無邪気に喜ぶ姿に思わずまた股間が跳ねそうになるのを堪えて、コンドームを装着された息子を見下ろした。
 薄い肌色を重ねられた男根は、どこか異物感があり作り物めいていた。

「触ってみても良い?」
「ど、どうぞ」
「やった……つんつん、わわっ、びくんで動いた……表面は滑々で、わぁぁ、ゴムだね」
「ゴムだねぇ」
「あはは、変なリアクションしちゃった」

「これで準備完了だよ」
「……これから私の腟内ナカに……こんなに大きいの……入るかな?」
「Mサイズでそこまで窮屈な感じがしないから大丈夫じゃないかな」
「まだまだ上のサイズがあるんだね」
「他の男子の見たことないけど、上には上がいるってことだね」
「佐藤くんのこんなに大きいのにね」
「うっ……」

 ネットで『逸物の肥大化! 彼女もメロメロだぜ!』みたいなギラギラと輝く怪しい広告を見るけど、それに縋りたくなる人の気持ちが分かった気がする。
 大きいと有村さんに言われるだけで自尊心が満たされた。普段は所構わず勃起して迷惑を掛けるダメ息子でも、伊達に雄の象徴を気取っているわけではないらしい。
 呻く僕に何を勘違いしたのか、有村さんが見当外れの弁解を口にした。

「あっ、違うよ!? 比較できるみたいに言ったけど他の人のは見たことないよ! 佐藤くんのが初めてだからねっ!」
「……有村さんこそ、そういう可愛いの禁止して」
「えぇぇ、可愛いことなんて言ってないよ?」
「やっぱり有村さんはそのままが一番だよ」
「うーん、もやもやするけど、佐藤くんがそれでいいなら」
「安心して、自覚してない方が可愛いこともある」

 無知は功なり。手の平返しまで僅か数分の出来事だった。

「可愛い可愛いって……佐藤くん、そうやってすぐに褒めるけど、わたしのこと知ってそんなに可愛くないところもたくさんあったでしょ?」

 抱えている闇の深さは可愛いでは済まされないけど、知れば知るほど可愛いが発掘されるのに本人がこういう認知では一生擦れ違いだ。

「全部を引っくるめて、僕は有村さんが好きなんだよ」
「あう……ズルい、一言でわたしを安心させてくれるんだもん」
「それってズルなの」
「わたしの説明書を持ってるみたい」
「有村さんこそ、僕の説明書を持ってないか疑ってるけど」

 有村さんは悪戯笑みを浮かべた。

「もし見付けたら佐藤くんには教えないで、こっそり覗いちゃうもん」
「何に悪用するつもり」
「わたしのことしか見れないようにしちゃう」
「…………」
「ええ、どうしたの佐藤くん? 急に黙って――きゃっ!」

 僕は有村さんをベッドの上に押し倒した。
 不安そうに瞳を揺らす有村さんにキスをして落ち着かせる。
 前言撤回だ。有村さんに僕の説明書なんて必要ない。もうとっくに無自覚のまま僕の心を自由に弄ぶだけの可愛さで満ちている。

「ふぅっ、ん、ちゅ……さとーくん?」
「もう我慢できないや。有村さんが欲しい」
「うんっ、わたしのぜんぶ、佐藤くんのものにして」

 有村さんの頭の下に枕を敷いて仰向けで寝転がらせる。
 立てた膝の間に身体を押し込んで、大きく足を広げさせた。
 ぱっくりと開いた陰裂の中で、とろとろに熟れた膣口が男根を欲して愛蜜で濡れていた。
 太腿を抱え上げて突き出た秘部に逸物の先端がちょこんと触れる。

「あっ……」

 いよいよ挿入の時が来た。
 陰裂を分け入りパンパンに膨れ上がった亀頭が膣口に押し込まれた。
 ぎゅうぎゅうに締め付けられて、それ以上は進めなかった。

「うくぅ、いたぁっ……!」
「ごめんっ」

 僕が腰を引こうとすると、有村さんが首を横に振った。

「止めないでっ! 奥まで……佐藤くんの挿れて、お願いっ」
「わかった、本当にだめな時は言ってね」
「だめにならないもんっ……あくぅ、んぐぅ……いぅ……んん、んーっ」

 有村さんは破瓜の痛みに歯を食い縛って耐えていた。

「あとちょっとだよ」
「うん、うんっ、来てぇ……んく、んんッ……はぁはぁ……」

 本当は辛いのだろう、脂汗が額に噴き出していた。
 瞼をぎゅっと閉じて僕のすべてを受け入れようとしてくれている。

「――ああ、入ったよ。有村さんの中に僕のが奥まで全部……」
「やったぁ、初めて……佐藤くんにあげられたっ……」
「うん、僕も有村さんの初めてをもらえた」

 有村さんの目尻から涙が零れ落ちる。
 痛みには負けなかった瞳は、喜びの涙をぽろぽろと流れ落とした。
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