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第1章 運命の出会いと運命の旅立ち
1-10 神の武器、と四十人の盗賊
しおりを挟むその男はイラついていた。
理由は一生懸命働いて貯めていたお金を奪われたからだ。
ちょっとした油断だった。
やり過ぎない事を条件に、見て見ぬ振りと情報を回してもらっていた。
(くそ!あの豚野郎!)
懐に豚の餌を収める事は欠かさなかった。
踏ん反り返った豚に揉み手から、煙が出る思いで媚を売った。
うまく調教できていると思っていた。
豚は強欲だった。
うまい餌を嗅ぎ分ける嗅覚に自信があった。
その豚は男の後ろにある、芳醇な餌を狙っていた。
男が独自に情報を掴んだ時には、喉元にナイフを突きつけられているような状況になっていた。
そんな状況で旅支度など整えられるわけがない。
手に持てるものだけ引っ掴んで、分散して予め決めておいた避難ルートで逃走した。
男には逃げ切れる自信があった。
ただ一つその為の条件があった。
餌を置いていく事だ。
(あれは餌じゃねぇ!俺の金だ!)
今男の頭の中には一つのビジョンがある。
豚のフルコースだ。
一滴残さずキレイに血抜きして、耳や鼻も削ぎ落とし、上質な脂の乗った肉をソテーにして、骨でしっかり出汁を取ってやる、と。
夜の森の中パチパチと赤い炎が揺れ、それを男達が囲んでいた。
少し離れた所の炎を囲む男達に声を荒げる。
「おい!あいつらはまだ戻らねぇのか!」
「は、はい!まだっす!」
チッと舌打ちをする。
あの三人には襲撃予定の村に衛兵や冒険者の一団が万が一にも寄らないか見張らせていた。
馬鹿だが腕の立つ奴らだ、問題はなかったはずだ。
(逃げやがったか、返り討ちにあったか)
そう思案して他の奴に声をかけた。
「村の様子は変わりねぇか?」
聞かれた男は手をかざし待ってくれ、と遮る。
地面に小さな魔法陣を描き、人差し指でコツコツと不定期に叩く。
暫くすると、同じように不定期に数度揺れる。
その揺れを見つめ男が言う。
「馬、西」
「村、平常」
チッと又舌を打つ。
馬鹿どもが何かやらかして、村にバレた。
村が平常って事は、冒険者や衛兵が逗留してる事もない。
馬やらでごった返すからな。
馬鹿が捕まっていたら、当然見張りもいる。
動きもないなら・・・逃げやがったか。
と推察した。
(俺達の存在に気がついて街に護衛の手配を頼んだか?)
「街道の封鎖は問題ないな?」
「馬と三人手配してやす!」
「よし、早い方がいい!明日だ!陽が落ちるのに合わせて突っ込むぞ!」
失敗は許されない。
あの村はフルコースを作る為の料理の火だ。
男は復讐を目に宿し笑みを浮かべた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
朝食も涙ながらに頂き村長には賊の警戒はせずに、いつも通りの営みをするよう促した。
昼前より二人と一匹の葬いをすると言われたが、参加は見送らせてもらった。
オリハは客室にいた。
小さなロバをハルの周りでクルクル回していた。
窓の外では葬送の儀が行われていた。
「ふー、やはり届くな」
と苦々しい顏をしている。
この村に来るまでに出会ったのは四人。
ハルと野盗の三人だ。
この村で複数の人達の感情を感じて、精神感応能力の幅の確認の必要性を感じていた。
ハッキリと感じられるのは大体十メートル内。
そこからは一メートル毎に感度が鈍る。
ただ、強く漏れ出した感情に関しては距離に関係なく匂う、のだ。
おそらく精神感応の能力が肉体に及ぼした効果として、触覚の近距離、嗅覚の中距離、といったところだろうか。
では、味覚はどうなのだろう?
という知的好奇心から、指をワキワキさせながらハルを舐めようとしていたらドアがコンコンと鳴った。
朝食の後に村長の奥方から「興味がおありでしたら」と料理の仕方を教えてもらうことになっていた。
抱っこ紐、なるものを用意してもらった。
前にも後ろにもハルを括り付けられるとの事。
オリハはいざとなれば宙に浮かせていられるが、人前では控えた方が良いと思っていたので有り難く使わせてもらった。
今日は味見役、というのを賜った。
料理の手順や調味料の使い方を口頭で教えてもらった。
オリハは複数の調味料を合わせて、味を整えていく作業を繁々と眺めていた。
塩、辛い調味料で甘みを引き立たせる、などまるで錬金術のようだ、と感心していた。
考える事しか出来なかった幾数千年の神鉄の時代、その時を経たオリハの思考は研究者や哲学者のそれであった。
目の前の料理という学問を前に目を輝かせないはずがない。
惜しむらくは、目の輝きの半分は知的好奇心で残り半分は食欲なところだ。
昼食を頂きオリハはハルの世話をしながら外の気配に気を配り時を待った。
時折北の森の方で魔力の行使の気配を感じる。
強者たる自覚のあるオリハは盗賊の目に触れるべきではない、と考えている。
舐めてもらわねば困る、と。
これは良い意味での勘違いとなった。
もし、斥候がオリハの姿を見ても戦力的な不利を感じるわけはない。
ただ、盗賊団のお頭がダークエルフの存在を知ったとしたら、より綿密な計画を充てていたに違いない。
それこそ、置いてきたお宝の価値と比べても見劣るどころではないのだから。
下手に策をろうじられて、二手に別れられでもされれば面倒な事になる。
あくまで面倒なだけで問題はない、が村人達にオリハは心労を与えたくはなかった。
(良い村だ、住む人達も良い者ばかりだ)
美味い食事を提供してくれた。
寝床も用意してくれた。
触れる感情も良いものばかりだ。
そして何より美味い食事を提供してくれた。
その村人達に幾許かの刻とはいえ辛酸を舐めさせた。
・・・大事な事なので二回思った。
神の力の全てを扱うわけにはいかない。
僅かな欠片の行使で充分だ。
それを見咎めるなら主より咎めがあるはずだ。
それが無いということは許された。
我が心の赴くままに行う制裁を。
受肉をし初めて感情の赴くまま力を振るえる事に、喜びと感謝を禁じえないでいた。
(フフフ、許さぬ、許さぬぞ)
(この地の誰が許そうとも我が許さぬ)
そうしてオリハは静かに時を待つ。
~~~~~~~~~~~~~~~~
昨日の晩の事を思い出す。
その日の夕方は騒がしかった。
何かあったのかと気になったけど、お父さんが家に居なさいって言うから二階で待ってた。
しばらくして子供を抱いたエルフの女性の人を連れて家に帰ってきた。
すごく綺麗な人だ。
その人はお客さんだと言う。
・・・うちのお父さんにそんな甲斐性あるわけないか。
その後話し合いが始まった。
参加は出来ないけどこれも社会勉強だと思ってお母さんと聞いていた。
「うむ、早ければ明晩にでも襲撃があると思う」
住んでいる私が言うのもなんだけど、この村は何もない。
魔物が出る事もあるけど大きな被害が出た事はなかった。
お父さんがいつも率先して指示をしていた。
立派に村長してると思う。
ハゲてるけど。
そんなお父さんが肩を震わせていた。
少ない髪もフルフルしていた。
この村はもうダメなのかもしれない。
襲われたら被害もでる。
私やお母さんやハ・・・お父さんも・・・
そう思うと私も怖くなった。
でも、あの人はこう言った。
「盗賊の四、五十人切り捨てるだけであろうが」
何を言ってるのかよくわからなかった。
だってこの村の人数と変わらない人が襲ってくるんだよ?そんなの無理だよ。
怖かった、すごく怖かった、死んじゃうかもって。
でもその人の声には力があった。
不思議と助かる気しかしなくなった。
なんだかおかしくなって気がついたらみんな笑ってた。
少なくてもうちのハゲが信頼して任せたんだから、娘としてしっかり頑張らないとね。
そんな事を思い返していたら、もう夕方になっていた。
ドアが開く音がして、オリハさんが降りてきた。
ハルちゃんを背負って。
やっぱり・・・盗賊がくるんだ。
と少し怖くなったけど村長の娘として、出来る事をやるんだ、とエクスカリバー(棍棒)を見た。
そんな私を見てオリハさんは「安心しろ、村には一歩たりとも踏み入らせぬ」って頭を撫でてくれた。
子供じゃないのにって思ったけどなんだか嬉しかった。
すごく安心した。
「神の使徒たる者の力をとくと見せてやろう」
悪戯っ子のような、満遍の笑みを浮かべて夕焼けの中、外へと歩みを進めた。
私はエクスカリバー(棍棒)を手に持ち追いかけていった。
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