赤子に拾われた神の武器

ウサギ卿

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第1章 運命の出会いと運命の旅立ち

1-11 神の武器、討伐戦

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「オリハさん!」

薪を組み村の中央で篝火の準備をしていた村長がオリハに声をかけてきた。
手に握る槍の変わりの鋤に力が入っている。

「どうやりますか?」

オリハは目を丸くした。
北の森に確かにいる。
村の人達が警戒せずにいてくれたからだろうが、東西に分かれる様子もなく、隠しているつもりであろうが気配を感じる。

とはいえ海千山千の盗賊団だ。
素人がわかるレベルではない。

それを、しますか?ではなく、やりますか?
と言ったからだ。
つまりしっかりと敵を把握していた。

(ふむ、一角の戦士であったか)

オリハは村長の評価を改めた。
改めはしたがやる事に変わりはない。

・・・アレは我の獲物だ。

「すまぬが譲る気はないぞ?」

といたずらに笑みを浮かべる。
この者にならこれで伝わるだろう、と。

この一言に村長は心を躍らせた。
ただの庇護される存在ではない。
戦力として評価されたのだ。
譲る気はないと。
その上で暗の意味として手出し無用。
そしてこの状況で敢えて微笑んだ。
つまり問題はない、と。

「わかりました、では?」

「ああ、お陰で仕事が楽になった、皆に感謝する」

オリハはもう深くは説明しなかった。
襲撃の恐れがある中で村人達にいつも通りの生活を強いたのだ。
心身ともに苦労をかけた事に謝辞を述べた。

「折角の畑が荒らされても面白くあるまい」

油断に油断を重ね策を弄さずに一団として向かってくる盗賊団を村の外で迎え撃つ、と。

「はい・・・ですが」

と火を点ける合図を出しながら、オリハの背中でドラミングが如く猛るハルを見つめる。

「あー・・・これは我の事情でな」

と、恥ずかしげに頬をかく。

「この子の気配が遠くなると・・・何故か落ち着かんのだ」

実際森の中で野営をしていた時、夜泣きに慣れずうたた寝をしてしまった事がある。
ここぞとばかりに華麗に四足歩行で逃走を図るハル。
十メートル、感情が最大に感じられるその距離を超えた瞬間、心がざわつき寒くなり慌てて目覚めてオロオロとハルを探した。

その後何度か試したのだが、意識しながらでも十メートル以上は落ち着かなくて離れられなかった。
オリハが産まれたての赤子のような存在である事が理由なのかも知れない。

気恥ずかしくなり背を向ける。
村の北側へ歩みながら。

本来なら戦いの場に赤子を連れて行くなど諌めるべきだろうが、命をかけて守ると誓った赤子を敢えて背負っているのだから、何かしらの事情があるのだろう、と思い直し村長はオリハに追随した。

後ろに続くのは村長含め二十二人。
残りの村人達は教会に避難する人とその護衛。

村の中を雑踏が響く。


北の畑にさしかかった辺りで異臭を感じた。
その臭いにオリハは顔をしかめた。

(嫌な臭いだ)

森までまだ一キロはある。
それでも臭うのだ、これで近付いたら・・・
そう思うと辟易した。
後ろを振り向き駄目元で聞いてみた。

「あーそのー・・・魔法を使ってもよいか?」

オリハからしたら契約の際にドヤ顔で「切り捨てる」と言った手前「あいつら臭いから近寄りたくないので魔法で終わらせる」とは言いにくかった。

まぁ駄目なら我慢しよう、そう思いつつ。

だが村長含め、村人達は真意は掴めなかった。
むしろ使わないんですか!?である。

きっと魔法の撃ち合いで畑に影響を与える事を心配してくれてるのだろう。
そう解釈して村長は答えた。

「構いません、後の事は気にしないで下さい」

その答えに他の村人達も頷く。
村が無事なら人が無事ならなんとでもなる。
これから魔法による牽制が始まる。
村人達の中で唯一杖を携えた中年の男性の手に力が篭る。

オリハは村人達に笑みを浮かべ手をかざした。
歩みを止めさせ体を前に向き直った。

それに合わせて森の中より一団が姿を現わす。
武器を構え雄叫びを上げ臭いの元を撒き散らす。

(助かった、これで臭いのを我慢せずとも良い)

この笑みの意味を理解できた者は誰もいなかった。


顎に手を当て歩みながらオリハは思案する。

(さて、何でいくかな?)

折角観客がいるのだ、派手にいこう。
まずこれは第一条件になっていた。

頭の中で候補が上がり、消え、また上がり、消え、を繰り返していた。
そのどれもこれもが圧倒的破壊力だからだ。
畑以前に森まで消し飛ぶ魔法ばかりだった。
環境への配慮も当然憂慮すべき項目だ。

(かつての勇者が唱えた雷撃の魔法。
・・・大地に大穴が開く、却下だ。
極大炎獄魔法・・・森がなくなるな、却下。
氷獄の方も死の森と化すか・・・)

参考資料がいわゆる救世の英雄なのだから、オーバーキルは仕方ない話である。

(大地を溶岩に変える・・・いやだから環境が・・・!!)

唐突の閃き、所有者が使っていた魔法ではなかったので思い出される順位が遅かったのは仕方ない。

(ふむ、あのままでは威力もない、あの式を一部変えて、圧縮して・・・無詠唱では面白味もないな、完全詠唱で、どうせなら式を編む所から魔力を可視化するか!)

オリハははっちゃけた。

脚を止め全身に魔力を練り始めた。
右手を上に掲げ指先に青白き魔力の火を灯す。


[]


腕を左下、上、右下と大きな四角形の点を成した。


[ ]


右手を正面に突き出し掌を上に向ける。
掌より四つの玉が浮かび上がる。
一つは薄い桃色
一つは焔のような紅色
一つは大地のような茶色
一つは雪のような白色


[使  調]


四つの青白き点を中心に浮かび上がった玉が大きく揺蕩うが如く円を描く。


[  ]


揺蕩う玉の速度が徐々に速くなり玉が青白き円環を成した。


[ ]


掌を正面に向ける。
青白き円が四つの点ごと収縮。
収縮された魔力は一つの玉となり、激しい光と共に六芒を中心とする巨大な魔法陣を展開させた。

その大きさはオリハの掌を中心に幅百メートルに渡った。
魔法陣の半分は地面に埋まるほどである。
魔法陣より異様な程の魔力が溢れ出す。
この事態に陥り漸く正面の野盗共が慌ただしくなる。


[ ]


「Freezing Tear!!!!!」


魔法陣よりゴウッ!という音を伴い陣風が空気を切り裂き吹き荒んだ。
その傷痕より凍てつく世界が顕現する。

その世界では動く事は許されない。
全ての物質、魔素、分子、例え原子でさえも自由は許されない。

極寒の地ではない。
顕現せしは絶対零度の地。

ピキピキッという音を立て、無情の世界が全てを呑み込んでいく。
大地も草も木々や悲鳴、怒号、幾層にも張り巡らされた魔法障壁、そして盗賊達も。

陣風が勢いを失う頃には追随するものは何もなかった。
そこには白く美しく無慈悲な世界だけがあった。


発動が止まった事を確認してオリハは後ろを振り返る。
村人達は目の前の現象にただ口を開くしかなかった。
終わってしまったのだ。
胸に秘めた決意も覚悟も全て。

オリハは微笑を浮かべ両手で修道服の裾を摘み、恭しくカーテシーを行う。
後方に拡がる世界が音も立てず風化する。
元盗賊達も風化した。
身につけていた物だけを遺して。

気がつけば何時もの見慣れた風景だけがあった。

「え?・・・お、え?」

「ん?どうした?」

「お、終わったんですか?」

「ああ、全部、な」

歓声が湧き起こる。
助かったんだと声を上げる。
抱き合い喜びを分かち合う。
腰を抜かした者もいた。

「大丈夫か?村長よ」

「い、いや、腰を抜かしました、ハハ」

乾いた笑いを上げる村長に手を伸ばす。

「賊に腰を抜かしたのか?」

とやらしい笑みを浮かべる。

「まさか、貴女にですよ」

そうして差し出された手を握り返し立ち上がり村長は感謝の辞を述べる。
そうしてオリハは答える。

「調味料頼むぞ」と。


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