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第2章 王都編
2-3 神の武器、旅は道連れ世は情け
しおりを挟むオリハは崖っぷちに立たされていた。
飴を舐めながら遠い目をしている少女がいる。
そして左手にはハルを抱いている。
ハルを両手で抱え顔を見据える。
(わかっておる、ハルは良い子だ、まだ幼子ながら人の心がわかる良い子だ、あんな事やこんな事があっても泣かなかった良い子だ、母は知っておる、知っておるぞ)
「おんぎゃぁぁぁああぉあああ」
誰も悪くなかった。
ハルはお腹が空いたのだ。
母乳が欲しくて泣くのは仕事だった。
色々と諦めて母乳をあげる。
しかしこの服は便利だ。
肩のフックと脇の下のフックともう一つ外せば上半身がペロンと出せる。
そんな現実逃避的な事を考えているオリハの横には、指を咥えジト目でこちらを見やるシャルがいた。
「そういえば名乗ってなかったな、オリハという」
「シャルロッテです・・・シャルと呼んでください」
「そうか、シャルはいくつだ?」
「・・・二十になります」
「我はハルと旅をしておる、旅の目的の一つに世捨て人の様に人の世を離れた我が、知らない事を知りたい、というのがある」
「シャルが先程教えてくれた事は、ハルの未来にも関わる話だった、感謝する」
「・・・いえ」
そしてオリハは過去の所有者の話していたことを思い出す。
「ダークエルフが山エルフと呼ばれていた事は知っておるか?」
「・・・蔑称だと聞きました」
「これはあくまでも可能性の話だ、シャルに対しての礼にすらならぬかもしぬ」
これは贖罪だ、巨乳である我の贖罪だ、そう思い言葉を綴る。
「山エルフは狩りを山で行うだけじゃない、子供の頃から遊び場も山なのだ」
なんの話だろう、とシャルは首を傾げる。
「幼い頃から自然と身体が鍛えられた分、山エルフの方が筋肉がついている、ここまではよいか?」
コクリと頷く。
「とある研究でな、筋肉がつきやすい身体の方が脂肪がつきやすいそうだ」
ここまで聞いてシャルは一つの可能性という光明を見つけた。
「も、もしかして筋肉をつければっ!?」
「可能性だ、シャルはまだエルフ族としては成人もしていない、そうだな?」
「はいっ、はいっ!」
「ならば可能性の芽を捨てる事はない、諦めず頑張るのだ」
「はいっ!頑張ります!」
オリハの贖罪は終わった。
その胸には母乳飲み続けるハルの姿があった。
ティダはこの光景を忘れる事はないだろう。
そしてついてきた衛兵達も。
死屍累々の男共の中、頭を地面に突き刺し土下座の体を成しピクピクと震えている二名の男性。
胸筋を重点的に鍛える為の腕立てをしている少女。
その傍で赤子を抱き母乳を与える女性の姿を。
「え、えーっとシャル?」
「あっお帰りティダ」
そう答えるシャルの目には過去はない。
あるのは未来だけだ。
なので当たり前の様に腕立てを続ける。
収拾がつきそうもない状況に壮年の衛兵が腰を上げた。
「ゴホン」と咳払いを一つした。
マントを外し若者には目の毒ですから、とオリハに渡す。
「大まかな話はこの青年から伺いましたが、流石に事情を直接伺わないわけにもいきませんので少々よろしいですかな?」
状況を理解できずにいたティダを始め、衛兵達は壮年の衛兵に敬意を表するのであった。
ピクピクと地面に頭を埋めている者達は回復次第事情を聞くことになった。
死んだ者もその処置も衛兵達の方でしてくれるらしい。
オリハ達は一旦詰所に来てもらって話をする事になった。
詰所に向かう間にティダとも自己紹介をし合う。
書面に起こす為三人別々に事情を聞かれた。
漸く解放されたのは夕刻前だった。
壮年の衛兵からは「街中でするよりはいいがあまり釣りはしないように」と小言をいわれた。
表に出た後オリハは二人に詫びを伝え「酒でも奢らせてくれぬか?」と聞いた。
二人は快く了承する。
お勧めの店があると言うので場所を聞いてそこで待ち合わせることになった。
酒場に行きたいが、ハルと二人でという訳にもいかなかった。
御礼も兼ねたオリハの策であった。
一旦宿に戻りハルのオムツだけ交換して、待ち合わせ場所に向かう。
お店の前で二人とも待っていたようで、オリハに気がつき手を振る。
「待たせたか?」「いえいえ」の社交辞令を済ませて店に入った。
オリハとティダはエールを、シャルは果実酒を頼んだ。
オリハは後で果実酒も頼もうと思った。
酒が届き食事を注文、ティダが乾杯をオリハに催促する。
「ここはやっぱり年長者が」「ほうティダは女性に歳を聞くのか?」のやり取りでティダが乾杯の音頭をとった。
オリハの肉体年齢は0歳なので結果、間違いはない。
エールを飲み干しオリハは思った。
酒は人と飲む方が美味い気がすると。
御食事を頂きながら設定の出自の話をした。
ハルの母親が死んでいた事はまだシャルにも言っていなかった。
シャルは苦々しい顔をしてハルを撫でる。
「まだそんな事あるんですねー」
「エルフはないのか?」
「もう珍しくないから、ですかね?」
そう聞いてハルが望むなら何処かのエルフの里に住むのもいいのかもしれない、そう思った。
しかしシャルの話には驚嘆を禁じえなかった。
近交退化にしても趣味嗜好の問題にしても、オリハルコンとして解決できる問題ではない。
(・・・よりにもよって美柱と酒柱が手を差し伸べられるとはな)
オリハルコンとして神の間に座している時に、その二柱が何かを成している所を視た記憶がなかった。
そんな事を考えているとティダに声をかけられた。
「王都には何しにいくの?」
「今の所は旅のついでとギルド登録だな」
「わざわざ王都で?」
「旅のついでだ」
「あ~王都のギルドなら一芸試験あったよな?」
「月に一度のやつ?そうだ!オリハさんならそれの方がいいよ」
「そうなのか?」
「例えばこの町で登録すると、最低級のFからだけど、一芸試験なら技能によってはCから始められるの」
「ふむ、ちょうど良いかもしれぬな」
二人は見合わせて頷く。
「じゃあ王都に一緒に行きません?!」
「明日から護衛任務で王都に戻るんだよ、護衛としてだったら入都税も払わなくていいし」
ここに来る前に雇い主に南の林にオークが出た事、追加で腕利きの護衛を一人紹介出来る、と既に交渉を済ませていた。
「馬車の護衛であろう?ハルを連れては迷惑にならぬか?」
馬二頭引きの大型馬車で外を歩く訳じゃない、夜営も一日だけだから大丈夫と言われた。
オリハとしても渡りに船であった。
一緒に酒も交わしている仲だ。
そして己がいれば魔物に襲われる心配もない。
何せオリハに魔物が近寄ろうとしないからだ。
何の問題もない、だからこそ一つ気になった。
「有難い話だが、どうしてそこまでしてくれる?」
今日あったばかりだ。
しかも巻き込んだ側だ。
そういう意味では申し訳なさすらある。
「う~あの~」
ティダが肘を突きニヤニヤしている。
「怒りません?」
「何がだ?」
「いや、あの、うちのお婆ちゃんみたいだなって」
・・・知識は数千年分あるが・・・
「み、見た目はオリハさんの方が若いし綺麗ですよ?ただよく飴玉をくれた所とか・・・」
・・・0歳だしな、我・・・
「好きな服に拘りがある所とか・・・お婆ちゃんは豹柄でしたけど」
「その・・・私、十の時に里を出て魔法学校に入学して院にも行ってそのまま冒険者になったんです」
「で、今日色々話してて思い出したっていうか懐かしくなったっていうか・・・ダメですか?」
感情に偽りはない。
むしろくすぐったさを感じる。
オリハには断る理由はなかった。
「・・・ひとつだけ条件がある」
「は、はひ」
「せめて、姉か、母にしてくれ」
ニヤッとしてそう答えた。
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