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第2章 王都編
2-4 神の武器、馬車の旅
しおりを挟むあの後シャルが頭をフラフラさせ始めたのを頃合いと解散した。
早朝に南口で集合、とティダがシャルを抱えて宿へ向かった。
その後店へ戻り、気に入ったメニューのレシピを問題の無い範囲で教えてもらった。
まだ日の出まで刻はあるが頃合いかと身体を起こし支度をする。
宿の主人に朝食も含めての精算をしてもらう。
買い出しがあったからだ。
太陽は姿を見せないが少し明るくなっている。
お店も開いているのは冒険者向けの数店舗のみだ。
日持ちのする食材だけ買い宿に戻り朝食を頂く。
その後少し早い気もするが気になる事もあるので早めに町の南門へ向かった。
依頼人であろう商人と従業員と思われる二人が、馬車に荷を詰めている。
様子を伺いながら馬車に近寄る。
そして気にしていた事が現実であると判断して足を止めた。
馬がオリハを見て口を開いたまま膝を笑わせている。
届く感情は恐怖、畏怖。
オリハは溜息をつく。
この世界に降り立ってオリハは一度も魔物に遭遇はしていない。
山の中を全裸で歩いていた時でさえ遭遇しなかった。
否
近寄ってこなかったのだ。
気配探査魔法で100~200メートル向こうにいるのは知っていたが、近寄ろうとはしなかった。
オリハから近寄ると寧ろ逃げ出すのだ。
獣や動物にしてもそうだ。
街中で犬や猫を見かけようものなら大変だ。
人の身近にいる為、本能が薄いのかもしれない。
正面から楽しそうに尻尾を振り飼い主の横を歩く犬が、こちらを見てビクッと目を見開き動きを止める。
そして吠えたり逃げたりはしない。
その場で尻尾をしまいブルブルと震えだすのだ。
オリハはモフモフというのをしたかった。
召喚された女性の所有者が、獣人の子や犬や猫、家畜、果ては魔物にも気持ち良さげに撫でまわっていた。
一度、野良犬に近寄ってみた。
近寄るのは逃げないので簡単だ。
ある程度近づいだ時その犬の震えが止まった。
伝わる感情は死への恭順、生を諦めたのだ。
流石に申し訳なくなり干し肉を置いてその場を去った。
それからモフモフを諦めた。
そんなオリハが馬は賢いらしい大丈夫かも?
と期待を持つのは罪なのだろうか?
罪かどうかは少し先にいる馬達が物語っていた。
どうしたものか?と先ずは指先に回復魔法の際に生じる白い魔力を灯す。
回復魔法が白いのは炎が赤いのと同じ意味だ。
それを右へ左へ揺らす。
馬もそれを見る。
そして魔力を飛ばす。
当たった瞬間ビクッとしたが暫くして脚の震えが止まった。
暖かさを感じているはずだ、常時回復型の魔法だ。
殺す気はない害意はない、と伝わった筈だ。
そしてゆっくりと笑顔を浮かべる。
敵ではない我は敵ではない、と呟きつつ近寄る。
なんとか手の届く所まで近寄った。
震えてはいない、だがオリハのやや上に視線がある。
感情を感じるまでもない、馬達の目はすっごい怖い鬼上官の前で敬礼している青年兵士のようだ。
ハルが手を伸ばそうとする。
隣の馬が触られそうになった馬を見る目は、そのお子様に何かあったら俺達は明日、食卓に並ぶぞ!と言っているようだ。
そしてオリハは色々諦めた。
何もしない、何もしないから!と言わんばかりに後退りしていると声をかけられた。
「ティダさんの御紹介の方ですか?」
と手を差し出された。
赤子を連れ帯剣しているとはいえ性別は女性だ。
素直に問いかける、そうだよくわかったな、と手を握り返す。
「噂を早く仕入れるのも商人の仕事ですから」
ああ昨日の事か、と笑顔で返した。
もうすぐ荷も積み終わりますので、と言い準備に戻る飼い主を見る馬達の目は、うちの旦那すげぇ、と輝いていた。
その後ティダ達が合流して出発となった。
馬車の前の御者席にティダ、従業員の御者、商人と並び、後方と左右の護衛にシャルとオリハがつく。
といっても馬車の後ろに座っているだけだ。
そしてオリハは少し感心していた。
シャルも無駄口なくしっかり周りを警戒していた。
ティダは御者や商人と会話はするものの警戒は解いていない。
C級冒険者というだけあるな、と。
そしてオリハも気配探査魔法で周りをしっかり確認している。
魔物は来ないが野盗や人攫いなどは寄ってくるからだ。
途中休憩を挟み予定よりも早く夜営地へ着く。
商人は一度も魔物に遭遇しなかったので驚いていたが、ティダがチラッとオリハを見て親指を向け多分ビビって近寄らないんだよ、と言い出したので苦笑いしておいた。
食事は薪から全て商人側で用意していた。
やる事もないので警戒がてら、ハルを地面に降ろしてロバ三頭で籠絡した。
ロバを見てシャルが驚いていた。
「オリハさん色持ちなの?!」
「これか?これは付与だ、色を付与しておる」
実際の話、オリハの純粋な魔力は金色だ。
そして普段は色をあえて消している。
魔力はある程度の強さを超えると色を帯びて視覚化される。
その色は個人によって異なる。
神鉄であった古代といわれる時はチラホラと色持ちは存在していた。
そして色持ち同士の戦いでは、あえて色を消して魔法を使ったり、消さずに見せるのが戦略の基本だった。
シャルが「そんな付与魔法聞いた事もない」と言うので詠唱付きで唱えてみせた。
花咲け 路傍の影 「Color」
と、ハルの追いかけるロバの色を変えてみせた。
魔力に付与する色なので物質の色自体を変えるわけではない。
薄い魔力の布を貼っている感じだ。
常時魔力を放出しているなら永続的に色も変えられるが、手元にない魔力は数分程度で残滓と化す。
数日放置しても効果が続くのは魔法ではなく呪いだ。
新しい玩具を手にしてぺったんぺったん周りの色を変えているシャルに、落ち着けと言わんばかりに口の中へ飴玉を放り込んだ。
魔法院卒のシャルが知らないとなるとどれ程の魔法が失伝しているのか気になったが、時間はあるのでおいおいと調べる事にした。
食事はまあ必要最低限といった所だった。
何もせず食べさせてもらってるので無理は言えまい、と舌が肥え贅沢になっていると反省する。
片付けくらいさせてくれ、と魔法で食器を洗い温風で乾燥させ元の位置に戻した。
男性陣は、お~っと拍手をしていたがシャルは、え~っと口を開けていたので食後のデザートとして飴玉を放り込んだ。
夜営はオリハとシャルがして、ティダが先に休み交代していく事になった。
雇い主を含めないのは当然だ。
ハルがちょうど眠りについた所でティダが起きてきたので交代した。
一眠りしていたが、ハルがぐずりかけて目を覚まし母乳をあげる。
そしてオムツを替えてシャルと変わった。
まだ日の出まで数刻ある。
ティダとシャルが出会った頃の話を聞く中で生い立ちを聞いた。
ティダは孤児院で育った。
親の顔は知らない。
十五歳で冒険家登録をして、一年下積みをし終えた時にシャルと出会った。
口煩いとか世話焼きだとか手間がかかるとか色々言っていたが、二つ歳上のシャルを姉がいたらこんな感じなのかなぁって染み染みと言った。
そんなティダをみてオリハは言う。
「ふむ、なら我は今日からティダの母だな」
「・・・え?い、いや違う、そういう意味じゃないって!」
と、羞恥と恐怖、半々の感情で否定する。
「そうだな、まずは母の味から知ってもらうか」
と、慌てるティダをスルーする。
どちらにしても、残っていたテールスープに手を加える事は必須事項だった。
前にメモした薬草は近くに生えていた。
少し水を足して洗った薬草を適度に切り、鍋に入れ火をかける。
煮立つ前に調味料を加え味見をし、納得して火から遠ざける。
日も少し昇ってきたのでちょうど良いな、とリュックから野菜を出しカットして鍋にお湯を貼り茹でる、塩と油を混ぜ温野菜と混ぜた。
フライパンに火をかけベーコンを焼こうとする頃にはシャルや商人達も起きてきた。
商人がこちらを見ていたのでやりたかったのだ、と笑顔で告げる。
昨日の晩の食事は物足りなかったのだ。
ベーコンに塩胡椒と味をつけ皿に盛り、その横にナムル風温野菜を置き、スープを添える。
主菜は手抜きだが本命はスープだ、と勝手に納得する。
パンは商人持ちだ。
料理の評判はなかなかだった。
スープは特によかった。
「これが母の味だ」
とサムズアップするオリハ。
シャルと商人達がおーっと拍手する中、ティダは俯き顔を赤く染めていた。
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