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第2章 王都編
2-5 神の武器、訓練場へ
しおりを挟む悪意の視線を感じる。
妬みの言葉が聞こえる。
しかしこれらはオリハには向いていない。
ティダに向けられていた。
ここは王都の冒険者ギルド。
二階建ての大きな建物で中に入ると、打ち上げやPTの呼び掛けがしやすいように酒場が併設してある。
壁にはAからFまで級に分けて依頼票が貼られている。
オリハ、ティダ、シャルの3人は王都に馬車が到着して依頼票にサインをもらい、ギルドに報告と報酬の受け取りに来ていた。
オリハの分の報酬は直接支払われた。
魔物すら出なかったから遠慮するつもりだったが、朝食の御礼と差し出されて受け取った。
他愛ない食事だったが「美味しかったので」と言われてオリハが照れているうちに握らされた。
まずギルドにシャルが入った。
男達が手を振ったり「お帰り」とか言われる。
その後ティダが入った。
「けっ」とか「ちっ」とか聞こえてきた。
続いてオリハが入った。
その瞬間「あ、あの野郎」とか「やっぱり!」とか「ハーレム野郎が!」とか聞こえてきた。
「ち、ちげえって!オリハさんもそんなんじゃねえから!」
男達に「ちげえ」とか「話を聞け」とか一生懸命に声をかけるティダにオリハは助け舟を出そうと思った。
「我はティダの女ではないぞ?」
「オリハさん!」
「母だ!」
「オリハさん?!」
言葉とは不思議なものだ。
発音が違えば同じ単語でも意味が変わるのだ。
「そんなマニアックなプレイまで!」とか「シャルちゃんの胸じゃ足りなかったのか!」とか色々言われながら胴上げされて連行された。
それをオリハは手を振り見送った。
シャルは手馴れたもので我関せずと報告を終わらせていた。
空いていた受付で一芸試験の事を聞いた。
三日後の午後から行われるらしい。
どの程度の事をすればC級の目処があるのかと聞いたが、それも含めて試験なのでと言われた。
念の為どこでやるのか場所を聞いたら、王都のはずれに国立の訓練場があり、ここで受付をしてからそちらに行ってもらう、との事。
「場所わかりますよ?見に行きます?」とシャルに言われて食後に寄る事にした。
昼下がりだったので「軽めにしよう」「パンケーキの美味しいお店があるんですよ」と連れて行ってもらった。
「ほう、これは面白いふわふわしておる!」
「生クリームにつけて食べてください」
な、なんだ、これは何を口にしているのだ、そ、そうか幸せだ、幸せを口にしているのだな、とオリハは涙した。
「自分でも作ってみたいんですけど上手くいかないんですよね」
「フフフ、我に任せよ」
「オリハさん!」
と話しをしていたらいつの間にか目の前に「・・・ありえねー」と呟くティダがいた。
ティダはふわふわではないパンケーキを食べた。
ハムや野菜が乗っていた。
アレもいつか食べようと思った。
御食事が終わり訓練場に向かった。
基本的には自己責任、譲り合って使いましょう、事前予約有り、という感じで使えるらしい。
「空いてたら剣の稽古つけてよ」とティダが言う。
「うむ母が手解きをしてやろう」と言うと真っ赤な顔で否定した。
訓練場は四角いコロッセオのような形状をしていた。
周りを魔法障壁で囲んでいたが、オリハには頼りなく感じた。
(獄級・・・いや極級魔法にも耐えれんな、どうしたものか)
「シャルよ魔法学校と学院で使った教本はあるか?」
「あー家に学院のならあったと思いますよ」
「そうか、よかったら見せてもらえぬか?」とそんな話をしながら訓練場に入ると先客が一組見えた。
三人の少年が火や風や雷等の魔法を放っていた。
「あれ?あいつら何やってんだ?」
先頭を歩くティダの視線の先に的があった。
一人の少年が魔法障壁を張るという的が。
「ちっ」と舌打ちをして駆けるティダ。
「てめえら何してんだ!」
オリハの目からも魔法障壁が限界を迎える間際だった。
(はぁ・・・つまらぬ事をする)
深い溜息をつき、飛んでいるもの発動直前のもの全てを反属性魔法付与をしてレジストした。
魔法が急に消え驚き逃げ出す少年達。
ティダは追いかけようとしたが、障壁を張っていた子がフラフラとしたので追う事を諦め少年を支えた。
オリハは少年に「口を開けれるか?」と聞き、疑問符を浮かべ開けた口に飴を放り込んだ。
ティダがジト目でこちらを見た。
「魔力は心の力だから甘い物を食べた方が回復に良いのだ」と慌てて伝えた。
解せぬ。
解せぬのでティダとシャルにも飴玉をあげた。
落ち着いてきたであろう少年にシャルが問う。
「アレは何をしてたの?」
「あ、あの、僕が魔法下手だから修行してやるって」
話を聞くと魔法学校の二年生で成績は下の方。
何処かの貴族の息子と取巻きらしい。
「あんなんで上手くなんの?」「なれるわけないじゃない!ただのイジメよ」とシャルが憤慨している。
それを見て少年は「でも」「だって」を繰り返している。
イジメる側が悪いのは言うまでもない。
でもこの少年には狙われる理由を自分で作ってしまっている。
勉強しても練習しても成果がでない、上手くいかない、自信がないからやり返す事も出来ない。
オリハは膝を屈め左手を差し出した。
「右手を出して魔力を込めろ」
あえて少し強めの語気でそう言った。
少年はビクッとしてオロオロし出す。
「右手を出せと言っておる!」
これにはシャルとティダもビクついた。
オリハが強く言うのを見るのが初めてだったからだ。
人攫いに襲われても笑っていたのに、イジメを受けている少年に語気を荒げたのだ。
ただそれは怒気ではない、厳しさだと思ったので様子を見守った。
オロオロと少年が右手をオリハの手に乗せる。
「うむ魔力を込めてみろ」
「は、はい・・・」
「名は?」
「ま、マインです」
「ふむ、マインは土弄りが好きだろう?」
「え?・・・は、はい」
「属性魔法なら土属性が向いておる、一番才がありそうなのは・・・付与魔法だな、魔力は確かに多くはないが少なくもない、人並みだ」
「へ?!な、なんですかそれ」
とシャルが喰いつく。
「ぬ?魔力を解析しただけだ」
「すげえ俺もやって」「わ、私も」と腰を折られて眉をしかめるが話の収拾がつかないので諦めて両手を出す。
「シャルは風だ」
「ティダはさっき見た通りの火だ」
とオリハはニヤッとした。
シャルは「やっぱりねー」と言い、ティダは「な、何がだよ」と照れている。
マインは自分の手を眺めている。
この少年に必要なのは優しい言葉ではない。
慰めの言葉ではない。
両の脚を地面につけるための事実が必要なのだと思ったからこそ、オリハは語気を荒げたのだった。
「マイン・・・取引せぬか?」
「え?取引、ですか?」
「うむ故あって近々人の前で魔法を使うのでな、学園でどんな魔法を教わってるのか教本を見せてもらいたいのだ」
「代わりに数日だが魔法の修行をつけてやろう、当然マインにあったものだ、どうだ?」
マインは息を呑んだ。
目の前の女性は言った。
褒めるのでもなく貶すのでもなく人並みなのだと。
本当に?僕が?今でもそう思っている。
半ば諦めていた、才能もないんだって。
でも光が射した。
その光に手を伸ばさないくらいなら、最初から魔法学校になんて通っていない!
「はい!お願いします!」
「よし、ただ今日はかなり魔力を消耗しておる、明日同じ時間にここへ来れそうか?」
「はい!大丈夫です!」
オリハは頭を撫でもう一つ飴玉を渡した。
そして足取り軽くその場を去る少年を見送った。
「オリハさん俺の稽古も明日でもいい?なんか興が削がれちゃった」
そう微笑むティダの頭を撫でられずにはいられなかった。
「や、やめろよ!」と言い手を払うティダの顔は真っ赤だった。
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