赤子に拾われた神の武器

ウサギ卿

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第2章 王都編

2-6 神の武器、狸から豚への狂詩曲

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これはオリハがあの村を出た翌日のとある子爵領のとある館でのとあるお話。

執務室と呼ばれる部屋の大きな机の上でその男は書類の山と格闘をしていた。
こなせど減らない書類に辟易し休憩をするかと椅子を立ち、伸びをしていた。
「失礼します」と声がしてドアが鳴った。

「入れ」

「失礼いたします、アーダ様がお見えです」

「そうか通してくれ、後茶を頼む」

「畏まりました」とドアが閉まる。
そういえば昨日緊急案件で報告書があがっていたな、と承認済みの束の中きら一枚の紙を手に取った。

盗賊団の斥候の捕縛依頼。

その日の内に街の東側で三名の野盗が捕縛された。
衛兵隊に北と東の町にも警護に向かわせた。
そしてこいつの村にも。
何かあったのか?と慮る間にドアがまた鳴った。

侍女が紅茶を淹れ退席する。
それを見計らい声をかける。

「・・・座れ」

「はっ子爵様におかれ「そういうのいいから!とっとと座れ」

アーダはニィっと笑みを浮かべソファに座る。

「その割に着座を勧めるのが遅くないか?」

「侍女がいたらその口上全て聞かなきゃいけなかっただろうが」

と苦々しく思いつつ紅茶を啜る。
アーダは子爵にとって竹馬の友とも云える存在だった。
学生時代の同級生であった彼は、歴代優秀な成績を収め平民ながらも国の要職に就くだろうと期待された。
だが彼は事も無くこう言い放った。

「俺は村長になる!」

卒業後もその交友は続きアーダは自領の村長に、その男も院を卒業し領主の座を継いだ。
立場は違うが村長としてこの領の発展に尽力を尽くしてくれた。

「で?用件はなんだ?」

「ああ、うちの村が盗賊団に襲われた」

「ぶっ!被害は!どうなんだ?!」

「あったらここで茶を啜れるか?」

と紅茶を啜りケタケタと笑う。
こいつはこういう奴だ、と苦々しく思う。
領主である自分に端的に村が襲われたと言えば慌てるのは目に見えている。
その様子を見たくてあえてこう言ったのだ。

「で?」

「ん?」

「報告だ!」

「ああその件でお前に動いてもらいたくてな、出来れば早い方がいい」

そう言うとようやく説明を始めた。

まず、北の村との販路を担当していた行商人のハンスと旅の修道女が野盗に襲われ亡くなった事。
二人の遺体を村まで一人の修行者が運んでくれた事。
野盗が所属したであろう盗賊団は東の伯爵領から逃げてきた一味である事。
その女性が村の防衛と討伐をかって出てくれた事。
そして村に被害もなく盗賊団は壊滅した事。
昨日村からその女性を見送ってここに早馬で向かいすれ違った衛兵に「問題は解決した」「残党がいてはいけない、念の為村に寄って欲しい」それと報告書の作成を依頼した事を告げた。

盗賊団が壊滅したと聞いて子爵は胸をなでおろす。
だがそれと同時に沸々と疑問が湧いてくる。

「伯爵領から流れてきたあの盗賊団だと言うのは間違い無いのか?」

「衣服や所持品が人相書とも一致した、そらに念の為斥候の討伐じゃなく捕縛依頼にしてあるだろ?」

と、アーダは肩を竦めた。
ああそれでか、と納得する。
証人の確保の為だ。
討伐よりも捕縛の方が手間がかかる。
子爵は疑問に思ったがアーダの村からの依頼だったので意図があるのだろうと承認していた。

「それで一人で女性が?それは何者だ?」

「ああ女神だ」

「はあ?女神?」

「うちの村にとってもこの領にとっても、だ」

と半月のような笑みを浮かべた。
ああこの顔をする時はロクでもない。
ロクでもなく面白い事を考えている顔だ、と。
子爵も思わず含み笑いをする。

「で、本題は?」

「その女神様は報奨金も盗賊の持っていたお宝にも興味ないと辞退された」

「な?!おいおい被害総額で言えば白金貨一枚にも登る盗賊団だぞ?」

「そこはいい、でそれは依頼元である村のものだと仰せられ、私から全額被害者家族へ回す旨を伝え了承してもらった」

「ふむ」と顎髭に手を添える。
通りすがりの女性が村を救い金はいらないと立ち去った。
・・・ただの美談だ。
確かにうちの領の商人も被害にあった。
多額の金が被害者に回るのなら領主として有難い話ではある。
ただ被害の多くは伯爵領でもある東側で別段旨味もない話だ。

アーダが深くため息をつき肩を竦める。
え?まだわかんないの?と言わんばかりに。

「ぐぬぅっ」

「盗賊団の裏にあの豚伯爵がいるという噂は?」

「あ、ああ聞いたことはある、だが被害が一番多いのは自分の領土だ、不問に付されたと聞く」

その噂を聞いた時は心が踊った。
何せ伯爵、あの豚が捕まる可能性があったからだ。

父親からこの子爵領を継いだ時はこの街と周辺の農村だけという辺境伯の名に相応しい状態だった。
自分が後を継いで街道を整え、只の小さな農村を王都へ向かう為の町にして少しずつ豊かにしていったのだ。
アーダも子爵領内だけじゃなく他領への輸出分も含め農作物を多めに生産してくれた。

だがあの豚伯爵は知らぬ間にこちらの整備した街道と自領の街道を繋ぎ町の所有権を要求してきた。

辺境伯如きが、と。

理不尽な要求だ。
認められる筈もないが、事あるごとに嫌がらせを受けてきた。

尚、要求にアーダのいる村は含まれていない。
アーダは村を町に拡大する事は望まなかった。
結果として食糧自給や輸出の面で領の財政確保に一躍を買っていた。

どちらにせよ噂は噂として豚伯爵の関与は認められる事はなかった。

「もしその盗賊団が蓄えた金だけ領庫に入って、捕まる事なく姿を消したらどうなる?」

「ん?そりゃ討伐者の報酬になるもんだ、責任を持って領庫に・・・って裏金か!?」

「・・・領境付近で豚伯爵の私兵がウロウロしていた」

「・・・自作か」

これは討伐後オリハに村への滞在を頼んだ後、アーダ自身が調べて確認していた。

つまり豚伯爵が自分の領土も含め税以上の金を搔き集めるのに盗賊団を利用した。
その金を掻っ攫った上で盗賊に逃げられる。
逃げた盗賊共を秘密裏に始末する。
領庫に入った金は支払われることのない金として管理という名の懐に仕舞われる。
豚伯爵による自作自演だった。

豚伯爵の誤算はオリハにより盗賊団が壊滅した事。
そして一介の村長に過ぎないこの狸親父に全て見透かされていた事だ。

「・・・最近元第二皇子派の貴族達がお茶会や夜会と騒がしくしているんだろ?」

「ああ豚伯爵の旗の下でな」

全てのピースが埋まった。

積年の恨みが晴らされると思うと自然と笑みが湧いてくる。
もしかしたら私も目の前にいる狸親父みたいに醜く笑っているのだろうか?

クックック・・・構うものか。

「この話を持って取り急ぎ南の公爵家へ行け、という事だな?」

「あの公爵様は本当に良い方だ、しっかりと美談を上乗せして語ってくれよ」

「得意だろ?そういうの」と言いアーダは茶を啜る。

「よし、私自身が出向いた方が御目通りも早いな、直ぐに出る!」

「じゃあ私も村に戻る」というアーダを制する。

「早くても戻るまでに五日はかかる」

「ん?」

「ちょっとそこの書類片しておいてくれ」

と机の上の山のような書類を指差す。

「・・・なっ?!」

「決済はある程度アーダに任せる、判断のつかないものは置いておいて構わない」

「自分の仕事だろっ!?」

「領主命令だ」

「ぐぬぬっ」

そうして子爵は準備に取り掛かる。
「職権乱用だ」と息巻く狸を無視して。

許してもらおう、大事の前の小事だ。
そうだな全て思い通りに行ったら久し振りに二人で酒でも飲もう。
良いワインが手に入ったんだ。

一晩中語り明かそう。
昔みたいに笑いあって。



こうして狸親父と子爵はこの劇から姿を消すことになる。

五日後、屋敷に戻ってきた子爵の目には机に突っ伏してピクピクとしているアーダと分類された書類。

書類は決済済み、決済不可、検討、私は知らない、の四つに分かれていた。
可決の理由と不可の理由、内容の問題点、軍備に関わるものと詳細をつけて。


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